強すぎる力
「さあ魔獣狩りを継続だ。どんどん行くぞ」
「はい。森の奥に強力な魔獣がいるようです。行きましょう」
<数刻後>
海人の前には大量の魔獣の死体が転がっていた。目につく魔獣を片っ端から切り捨てていったが、途中から襲われなくなってきた。魔獣が俺に恐れをなして近寄ってこなくなったのである。
「ち・・・魔獣が襲ってこなくなった。もっと奥へ行かないと駄目か」
「そうですね。氣を抑える訓練もした方が良いかもしれません。今の垂れ流しの状態では生活にも支障が出ます。
「そうだな・・・もっとこの力を試してみたいが氣だけが高くなっても持て余すだけだ。修行も必要だな」
「それが良いかと」
「よーし。最後にこの氣を全力で放出してみるか。どのくらいの力が出るか試してやる」
海人は全身全霊の氣を刀に込め始めた。その凄まじい氣の力に大地が揺れ大気が荒れ始める。その溜めた氣を森の中央に向けて一気に解き放つととてつもない大爆発が起こった。
ズドォォオォォォォォオォ!!!!!
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
その爆発によって、森の一部が跡形もなく吹き飛んでいた。
以前の自分であれば、あの衝撃波だけで地面に叩きつけられていたはずだ。だが今は――一歩も退いていない。
「……まさか、ここまでの威力が出るとはな。我ながら驚きだ」
「森が消えましたね。眺めが良くなって結構です」
ゼロが平然と口にするが、さすがに今はツッコミを入れる余裕すらなかった。
まさか、あそこまで大きな爆発になるとは思っていなかったのだ。
――力の制御が必要だ。急がなければ。
できれば焔木の剣術を学びたいが、自分一人の知識では限界がある。
「どうするか……」と海人が考え込んだ、そのとき。
「おーーーい!」
聞き覚えのある声が霧の向こうから響いた。
「……あれは、桐生か?おい、無事か!」
姿を現したのは、かつて命を救ってくれた男――焔木桐生だった。
焔木の技にも通じている彼に教えを請うには絶好の人物だ。……なぜ、すぐに思い出せなかったのか。
「さっきの爆発、なんだありゃ!?死ぬかと思ったぞ!」
どうやら爆風に巻き込まれかけていたらしい。
危うく命の恩人を吹き飛ばすところだった。
「悪い。心氣の力を全開にしたら……ああなった」
「おいおい、もう身につけたのか?にしても、あの威力は反則だろ……。それと、お前の横の……そのメイドは一体?」
「私はマスターの忠実なるメイドです。どこの誰ですか?危害を加えるつもりなら殺しますが?」
「こ、怖っ!?な、なんだその物騒な態度は!?」
「話すと長くなるんだが……彼女のおかげで“心氣顕現”を会得できた」
「そ、そうか。……なんだかよくわからんが、おめでとう?」
「ゼロ。彼は俺の命の恩人、焔木桐生だ。仲良くしてくれ」
「了解しました。ご挨拶が遅れました。桐生さん、よろしくお願いします」
「お、おう……」
あの桐生でさえ、さっきまで毒舌だったゼロが急に礼儀正しくなる様子には面食らっている。
まぁ無理もない。この魔獣だらけの島で、あんなメイドが出てくるとは思わないだろう。
「桐生、こんなに早く再会できるとは思わなかった。さっそくだが頼みがある。俺に“焔木の剣術”と“術”を教えてくれ。今の力を、正しく扱えるようになりたいんだ」
「……え、面倒――って、おい!なんでそっちのメイドが無言で拳を振り上げてんだ!?」
「マスターの命令です。さっさと教えてください。殴ります。教えるまで殴り続けます」
「怖ぇよ!敬語なのに圧がヤバすぎる……!」
「まぁまぁ。話したいことも山ほどあるし、とりあえず俺の拠点まで移動しよう。滝の裏だ。そこでゆっくり説明する」
「……頼む。それが一番ありがたい」
ゼロの機嫌を何とか宥めつつ、三人は滝裏の拠点へと歩を進めた。
この二人との旅が、思った以上に長く、深いものになるとは――このときの海人には、まだ想像もついていなかった。




