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苛烈なる修行

「心氣顕現が使える、だと?……本当にか?」


海人の問いに、ゼロは当然のように頷いた。


「はい、当然です。……まさか、マスターは使えないのですか? 無能ですね」


「……ッ!」


ピキ、と海人の額に青筋が浮かぶ。


“無能”――幾度も浴びせられてきたその言葉。

慣れたはずの侮辱も、初対面の機械仕掛けの女に言われると妙に腹立たしい。


「悪かったな。俺は氣のコントロールができないんだ」


「ええ、でしょうね。あなたの氣量は異常ですから。通常の術者に比べて、遥かに制御が難しいでしょうね」


「氣量の……数値? お前、そんなもん測れるのか?」


「はい。私はとっても優秀ですので、その程度は朝飯前です」


澄ました顔で言い切るゼロに、海人はため息をついた。


(こいつ、毒舌すぎる……)




「では、さっそくですが――“基礎能力測定”を開始します」


「えっ……何を……」


ゼロが淡々とそう言った瞬間、海人の足元が爆ぜた。


「うわっ!?」


ドン、と突風のような衝撃が広がり、気づけばゼロの姿がかき消えていた。


(どこだ!? 今の動き……っ!)


次の瞬間、背後から鋭い声が響く。


「反応速度、1.3秒。戦闘訓練未経験の対人ではまず回避不可能。

 では次――“近接格闘基礎強度”、確認」


「お、おいちょっ――」


ガンッ!


回避する間もなく、ゼロの掌底が海人の腹部に突き刺さった。

しかし、直撃寸前にゼロが力を緩めてくれていたのか、致命的なダメージには至らなかった。


「……反射神経は上等。体幹のブレも少ない。戦闘経験による積み重ねが見られます。 だが、氣の出力制御は未熟。

 現状のあなたは、例えるなら“超高圧の水鉄砲”。出せるが、狙えない」


「例えが雑すぎるだろ……!」


海人は腹をさすりながら地面に膝をつく。


「言葉より、体で覚えていただきます。

 本日より、心氣顕現――戦闘実技を交えた“実戦式制御修行”に入ります」


「……お前、手加減は?」


「はい。しません」


「だよなあ!!!」



ゼロの訓練は、苛烈だった。


彼女は戦闘用に設計されているだけあり、技のひとつひとつが無駄なく洗練されていた。重力制御、衝撃分散、瞬間加速――

すべてが人間離れしていた。


「氣の放出は“流す”ではなく“収束させて放つ”ものです。

 あなたはそれを“暴発”として使っているにすぎません」


「ぐっ……言い返せないのが悔しいな……!」


「では再度、顕現訓練に移ります。

 イメージは“斬る”ではなく“形を得て、初めて斬れる”。順番を間違えないことです」


ゼロの指導は明確だった。

単なる感覚や気合ではなく、構築と論理――そして“制御”。


海人は、初めて自分の氣が“技術”として扱えることを感じはじめていた。


(――わかる。氣の流れが……以前とは違う)


数日後。


海人の手に、刀の形をした氣が再び宿る。

前回とは違い、氣の震えはほとんどない。


「……できた」


「いえ、“半顕現”です。まだ、氣の中核が安定していません」


「そこまでわかるのか……お前のセンサー、すごいな……」


「はい、最新型ですので」


サラッととんでもない発言をしてくる彼女に、海人はついていくのに必死だった。


だが確かに――修行の密度が、今までとはまるで違っていた。


(この女、めちゃくちゃだけど……間違いなく本物だ)



夜。洞窟の奥に小さな焚き火が灯る。


「……にしてもさ。なんであんなところに閉じ込められてたんだ?」


「記録は一部破損していますが、私が“封印対象”になったのは200年前のようです」


「……は?」


「前大戦期、焔木家が“危険存在”として封印した、という記録が一部に残っています」


「おい待て、それヤバくない!?」


「ご安心を。現在は修復済み」


(いや安心できねぇ……!)


とはいえ、彼女おかげで心氣顕現の完成に近づいているのも――ゼロのおかげだった。


「ゼロ」


「はい?」


「ありがとな。お前がいてくれて……助かってる」


ゼロは一瞬だけ表情を変えた気がした。


「……その言葉、記録しておきます。マスター」


微かな笑みが、青白い焔に照らされて――夜が、静かに更けていった。

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