19話:魂に生きる伝説(1)
煌星はまだ、アルカのようにオドの練度が高いわけではなかった。だから、アルカのように動けたらなと思っていた。
しかし──。
⋯⋯よぎってしまった。
魂に刻まれた記憶なのか、それとも脳みそにある記憶なのか。白髪に髪を靡かせる一人の男がどうしても頭から離れなかった。
その男の顔はぼやけて⋯⋯よく見えなかった。
だが、抱く感情は様々だった。
それは自分の思っていた感情なのかは定かじゃないが、少なくとも溢れ出るこの気持ちは本物だと信じたい。
憧れ?
恐怖?
優美?
焦り?
分からない。名前が分からないのだ。
⋯⋯この感情の名前が分からない。
ドクン。
「ゴホッ!」
次に鼓動した時、全身の血液が不整脈を起こし、口からその気持ち悪さを催す。床を汚すわけにはいかないと手のひらに頑張って吐く。
はは、なんだよ──しっかりデメリット満載じゃん。
そんな事をほざいている暇もなく。
全身が激痛に襲われる。
叫ぶ。叫ぶ。
頭がおかしくなりそうになるほど。
何度も、何度も。
「あああああああ!!!!」
叫びたい訳じゃない。そうしないと頭がおかしくなりそうだったんだ。
のたうち回る。何もしていないのに⋯⋯火あぶりにでもあったのかと言いたいほどに。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
死──。自分の頭の中で初めて浮かんだ単語だった。死を目の前にすると、正気でいられない。
誰の声も、誰の姿も見えない。
ただただ真っ暗闇だ。
痛覚が麻痺しすぎて、遂に何も見えなくなったのか?
「はぁぁぁぁ⋯⋯いたい」
なんだよ。コレのどこが普通に出来るだよ。
全然そんなことねぇじゃん!!ふざけんな!
全力でそう暗闇の中で叫んでいると、ポン⋯⋯と──。
振り向くとそこには⋯⋯。
◇◆
マックスとエレバはかつてない恐怖に苛まれていた。今までない感覚。
⋯⋯そう。目の前で突然倒れて、その場でのたうち回る意味不明な人間に。
のたうち回る光景なら、今まで沢山見てきた。
拷問している時、喧嘩している時、戦争している時、ダンジョン攻略している時。
何度も何度も目にしてきた光景。
どうしようもない痛みに耐えれず、地面に崩れ落ちて必死に痛みに対抗すべく叫び散らかす人間達を。
しかし違う。二人は本能的に理解していた。
"この現象の先には別の何かがあると"
ドクン、ドクン。
二人にも聞こえるほど大きな鼓動が二回。
「オイオイ⋯⋯」
「何よそれ」
二人のこめかみから冷や汗がツーと頬を伝う。
目の前にいた女は死んだように動きが停止。かと思っていたんだが、その数秒後──重力を完全に無視した動きをみせた。
完全に意識を失い、倒れている人間がまるで逆再生したかのように浮き上がる。先に上半身が起き上がり、その後ろを手足が付いてくる。
周囲の空気は震え、ほんの一瞬静寂が降り注いだ。見えないナニカが鼓動を打ち、本能的な恐怖を二人に植え付けた。
光景だけ見れば、それはホラー映画の演出そのものだ。
二人の視点から見た紅里の瞳は、完全に白目を向いていて、とても正気ではない。
「エレバ、あれは⋯⋯なんだと思うか一応尋ねておいていいか?」
「私のスキルが効かない。この戦いで全く役に立たないかもしれない」
ん?
マックスは全身に触れて感じるそよ風に意識が向いた。
いつもは全く気にならないただの風。だが、その上──空が見たこともないような景色をしていた。
とてもこの光景に名前など付けようがない。
なんだ? この鳥肌が止まらない嫌な感じは。
何かしていないと落ち着かない昔のスラムを思い出すようなこの懐かしい感じ。
⋯⋯弱かった昔を思い出すような。そうか、俺は今、ビビってるのか。この女に。
マックスは目の前の奇怪な現象に恐れていた。
誰でも恐れるだろうが、SS級冒険者は強い。そんなもの⋯⋯恐れる必要はない。
だが、連続して起こるあり得ない現象の数々に細胞の一つ一つが悲鳴を起こしているようなそんな感覚が、マックスの脳へと危険信号を発している。
ゴロゴロ⋯⋯。
その次は、天候が変わり、雷鳴の雄叫びが響きわたった事だった。
それはただの雷ではなく、目の前の女に向かって落ちた。二人からすれば大したことではない。
何故なら、現代には魔法があるからだ。
科学などなくても、今は魔力さえあればどうにでもなる。
⋯⋯しかし。
「「つっ⋯⋯」」
落雷のせいで視界が悪く、二人の目には紅里の姿が見えない。煙が立ち込め、二人は両腕で吹く風を守る。
雷筋が咆哮を上げて、周囲を迸る。
二人の耳には迸る音が聞こえ、すぐにただ事ではないことに気付く。まだ舞う煙の中、走る雷電は雷雲のよう。
次の瞬間、見えなかった煙の中のシルエットが顕わになっていく。だがそれと同時。
──二人の身体が思うように動かなくったのが同時に顔を見合わせて気付いたときだった。
ゲームで言うならば、絶対に勝てない負けイベにでも遭遇したかのようなものだ。
細胞が『動くな』と言っているんだ。
二人が動けるはずもないだろう。
見えるシルエットに変化があるとすれば、まず体格が変わった。紅里ならば、女ならばモデル級の身長の高さであったが、この見えるシルエットはマックスと同じ2mは優にあるように思える。
次に髪の長さだ。
少し短い。鎖骨に触れるくらいにまで短くなった。
そして──顔の横に、2つの揺れる物と、大きいロングコートを着込んでいるようなところまで二人の目には映っていた。
この時点では、まだ二人は何が起こっていないのかわかってはいない。しかし次の瞬間、二人は予想外の現象に遭遇する。
「あぁ⋯⋯何処だ? ここは」
聞こえたのは女の声ではなく、男の声だった。
強風は煙を徐々に掻き消していく。
ただのシルエットしか見えなかった姿が、実物に変わっていく。
揺れる2つのピアスと靡く白髪。
ラウンドタイプの黒塗りのサングラス。だが、それでも顔面偏差値は上限に近いというのがわかる人相だった。
黒いタンクトップに、黒のロングコートとも、軍服ともとれる大きいアウターを羽織るだけの着こなしスタイル。
もちろん下は黒スキニー。
靴はミリタリーブーツ。
そんな男が発しながら出てきたのが⋯⋯晴れた二人の視界に入ってきたものだった。
「「⋯⋯⋯⋯ごくっ」」
エレバは顔を紅潮させ生唾を飲み込み、マックスは恐怖で固唾を飲みながら動かない体を動かそうと意識だけは働かす。
さっきまで紅里だった⋯⋯この謎の男は、キョロキョロと周りを見つめる。
「んー!」
男は突然そう言って軽く猫のように伸びを始めた。終わったかと思えば、次はアクビ。
登場の仕方とはうって代わり、まるで場を和ませる空気すら漂い始めた。
──だが。
◆◇
変わりゆく途中、システムウインドウは絶えず表示されていた。
[魂写術、検索完了。対象者──現在生存を確認]
[出身、第十宇宙──惑星地球,並びに、日本人である事を確認]
[魂検索結果、個体名:神城仁]
、、、[存在しない名前です]
[再度該当人物を検索]
[検索結果、該当人物の名前偽名であることが確認されました]
[該当人物の本名である※※※一の魂を◇◆◇[】◇◇》《・]
[どれも召喚するのに相応しくない能力値です]
[召喚に必要な要件を宿主の体を再構成します]
[召喚対象者:※※※一の所持スキルを反映]
[顕現できるレベルは中層36層時点での対象者を召喚します]
[それ以上は──この世界が崩壊します]
[対象者スキル,『換骨奪胎』『人骨脱退』『修羅禅刹九天』『神代字』『始元』『天魔神功』『冷徹』『混元功』『※※流極真空手』『精霊術』を始めとした当時所有していた100以上あるスキルから優先して取得させ召喚します]
[ステータス値,並びにその他の状態は当時のまま召喚します]




