17話:SS級冒険者(1)
いやー、遂に来てしまいましたか
マックス。この名を聞いたあなたはどう思う?
⋯⋯おそらく何も思わないだろう。
エネルギーマックス、神っ!!
マックスー!マックスー!
⋯⋯クソどうでもいいことしか思いつかないだろう。しかし彼の住むエリアで、彼の名を聞くと皆一様にして表情が怯える。
そう。彼は超一流冒険者であり、アメリカ最大規模のギルドである『フロンティア』筆頭冒険者の一人である。
"暗闇のマックス"という二つ名から、彼はその名を世界に轟かせるSS級冒険者として世界の一柱として君臨しているわけだが──
「オラァッ!!」
「ハズレね」
カラーバットを持っているかのように軽々と横薙ぎに払うマックスの連撃を、紅里は完全に避け続けている。
コイツ、どうなってる!?
困惑するマックス。
それもそうだ。彼のレベルは56であり、それは世界的に見ても最高レベル冒険者と言われてもおかしくないものである。
内心、マックスは荒々しい口調で攻め立てる中、恐ろしいとまで思っていた。
現代で存在する人類で最も強いとされている人間のレベルは68。
つまり、ほぼ最上位にいると言ってもおかしくない自分の攻撃を、軽快なステップで避けているこの30にも満たないこの女は一体何なんだ⋯⋯と。
「ふんッ!」
もう既に五分以上経過している。覚醒者でも上位でなければ絶対に避けられない速度で迫る大剣を、紅里は当たり前のように鼻先ギリギリで避け、バックステップで距離を取っている。
二人の距離が、かなり空く。
マックスは自慢の大剣を肩に担ぎ直し、言った。
「お前、レベルは?」
「教えると思う?」
「ハッ!そうかよ」
チクショウ。
鑑定持ちを来させるべきだった。
そう悪態をつくマックスだが、その心中は全く穏やかではない。
どうする?
自分の後方にいるエレバへと視線をチラッとだけ向ける。
ヤツにお世話になるのだけは勘弁だ、どうにかしねぇと⋯⋯こっちが返りうちに遭うぞこりゃ。
ここで8割くらい出しても構わねぇが、『下手に面倒を起こすな』とアイツに言われているからな⋯⋯チッ、中々もって国家間ってのは面倒だぜクソッタレが。
様子見だけはしておくか。
「なぁ? どうだ?」
「⋯⋯何が?」
「アメリカに永住権でも持たねぇか?」
「はぁ?」
「こんなどいつもこいつも叩けば死にそうな奴らしかいねぇのもつまんねぇだろ? こっちに住みゃ⋯⋯男もカネもぜーんぶ手に入るぞ? それも、桁違いのな!」
大剣を地面に突き刺し、両手を大きく広げて演説じみた事を始めるマックス。
「アメリカはそんなに凄いのかしら? 私は日本にしかいないから、全くそんなこと分からないわ?」
「たかだか日本で出せる金額なんて大したことないだろ? もしこっちでポーションなんかのアイテムを優先して流すんなら──お前たちの思う2倍以上のカネが速攻で入るぞ? ⋯⋯こんな話滅多にねぇぞ?」
意気揚々と語るマックスが、畳み掛けるように言葉を続ける。
「なぁどうだ? 俺達がお前を潰そうと思ったら、何時だって出来るんだぜ?」
⋯⋯そう。俺の能力と、アイツの力で戦えば──何時だって倒せる。だがあくまで様子見。今お前さんは手加減している俺の攻撃で予測しているに過ぎねぇんだよ。
「あら? まだ本気を出していないということね?」
「あぁ? 勿論じゃねぇかよ! こんな所で俺達が力を出せば最後だと思うけどなぁ?」
挑発するように言ってはいるが、マックスは紅里の手元を注視している。
ていうかあの女、剣が中心じゃねぇのか?
突然さっきガントレットに装備を変えたな。あっちが本命なのか?
それに、あのガントレット⋯⋯あの帰還者と一緒の物だ。何かあるぞ。
日本に来る前から、収集は怠らなかった。色々発注して監視カメラのハッキングから、色々手に入ったぜ。その中で奴がダンジョン攻略前に購入していたガントレットにそっくりだ。
「お前さん、黄河煌星って帰還者は知ってるか?」
「⋯⋯え?な、なんの事かしら?」
ん? なんでそんな声が裏返っているんだ? もしかして何か人脈があるのか? それとも⋯⋯既に繋がっているか。
「黄河煌星、椎那紅里、お前たちに用があるんだ⋯⋯どうだ?この辺でお開きして、こっちで話そう」
俺らしくはねぇが、これでも俺はSS級冒険者だ。知名度はあるし、少しは言う事を──
うんうんと一人頷いているところ、突然殺気が天井知らずに上がっていく。
オイオイオイオイ⋯⋯。
大剣をマジックバックにしまい、すぐに本命である短剣と直剣の丁度間の小剣を取り出し、下半身の重心を少し浮かせながら逆手持ちで構えた。
マックスが見ると、完全に青筋を浮かべ、殺気がビンビンの状態で睨みつけてきているのが分かる。
なんか怒らせちまったようだ。まずいな⋯⋯俺よりも短気な奴がいるとは。
**
──ぶっ殺す。
俺は確実に今、人生で一番イライラしている。
もはやそれは、殺意と言ってもいい。
なんなんだよ。
「やってみろよ──」
「あぁ?」
お前らは強いSS級冒険者なんだろ?
「あんたら、SS級冒険者なんだろ?」
「あぁもちろん! 世界の頂点の近くにいる人間だ!」
「なら──」
「ん?」
綺麗事を言ってるのはわかるし、事実俺もカネ欲しさに始めた。
⋯⋯だけど、ちげぇだろ?
強いからって人を馬鹿にしたり、人種を差別の対象で見たり、国を馬鹿にするなんて。
所詮たかが能力を持っていただけに過ぎないんだから、俺達は。『たまたま』ってやつだろ?
ふざけんなよ。
最低限の人間性くらいは持ち合わせろよ。
そんな分際で俺と友梨さんのデートの邪魔なんかしやがって。
自分の指が勝手に動くのを止めることはなかった。指先にはウインドウ。
[スキルブック:獣人の体幹を購入しました]
[スキルブック:[思考加速]、[投擲術]、[魔力感知]、[魔力回路]、[魔導の心得]、[魔導術基礎,応用]、[身体強化]を購入しました]
「コインで身体能力を強化しろ」
この間、ステータス画面を発見した。
その時は、まぁまだ良いかなと思っていたが。
「お前らは殺す。絶対に」
[体力を0→32まで強化しました]
[筋力を0→46まで強化しました]
[素早さを0→36まで強化しました]
[知能を0→50まで強化しました]
[感覚を0→64まで強化しました]
残りコイン残高:106
強者に酔いしれて、人を蔑む糞どもが。
「じゃあ──」
ドゴッ。
地面を踏む力を少しだけ強くしたら、地面が足跡が付いている。
「今からお前たちは、"俺"の実験相手になってもらう」
感情のコントロールが上手く行かないせいか、全身から白炎が渦巻き、俺は獣のように手をぶらぶらさせ、目の前にいるあのくそったれ野郎に向かって全速力で飛び出した。
「なぁ? SS級冒険者さん、コレは防げるか?」




