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16話:遭遇

明けましておめでとうございます!

のんびり投稿していきますので、今年もどうぞよろしくお願いします!

 唐突だが、暇を持て余す金持ちは暇だ。

 カネを得てからというもの、友梨さんと一日中キャッキャしながら生活しているわけだが、世間はオークション情報が流れ始めたようだ。


 前情報として、明確な名称は出すことはないが、世界初のアイテムとして世に解き放たれる事は確定しているという大雑把な情報だけは出ている。


 しかし、俺は不安でいっぱいだ。

 出品した張本人が言うのもなんだが、広場を見てからというもの、非常に嫌な予感がする。

 貧困がどうのとか、冒険者同士のいざこざだとか。


 しかも⋯⋯プラス五香さんも他国がどうのこうのと言っていたし、これから大変なのだろうか。


 そんな大変な時期に、俺は呑気に友梨さんとビリヤード勝負をして、ソシャゲをやって、たまにオイゲンとパーティーゲームをしての繰り返し。


 別にシステムを使わないってこともなかったが、特別頻繁に見る事はなくなっていた。


 俺が求めていたのはカネ持ちになって悠々自適に生活をすることなのだから、強くなることばかり考えていては──本末転倒ってやつだ。

 夜の夜景を見ながらダラダラ独り言を呟いている。お食事会から約二週間、そんな感じで時が過ぎていった。



 夏真っ盛りの八月。

 俺と友梨さんは広いベランダで、バーベキューをしている。展望デッキの方を借りてやろうという話も出たのだが、わざわざ二人なのだからそんないらないでしょという話になり、結局ベランダで七輪で焼いてタワーを見ながらキャッキャしているところだ。


 ⋯⋯羨ましいだろ?


 「煌星」

 「んー?」


 勿論焼き係は主に俺。

 流石にこんな作業を女の人にやらせるほど引き篭もる俺ではない。顔を上げて友梨を見ると、微笑みを浮かべてこっちを見ていた。


 「ん〜? どうしたの?」

 「ありがと」

 

 眩しいー! ちょ〜可愛い!


 まるで夏の海で熱すぎる後光が友梨さんを照らし、眩しすぎる笑みを浮かべている。


 あぁ、可愛い。


 「急にどうしたのー、なんか変じゃん」

 「ん? いや、もう一ヶ月近く⋯⋯というか、もう2ヶ月はいるじゃない? なんかこんな楽に生活が出来たのは煌星が居たからだなって思ってさー」


 夜景を見上げながらそう儚げに呟く友梨さん。

 まぁ、職務時間もほぼ自由みたいなものだし、ある意味水を得た魚のようにやりたいことができたなんて少し前も言っていたしな。


 「いいじゃん。このまま楽して人生を生きればいいと思う」


 そうそう。別に忙しくする必要はない。

 

 このまま⋯⋯⋯⋯


 このまま⋯⋯⋯⋯


 その時、突如自分の脳天から足元に至るまでに激しい電流が走った気がした。


 「⋯⋯ッ!!」

 「煌星?」


 不思議な事に、のたうち回る程ではないが、酩酊感がずっと前からあるような錯覚を覚え、視界がぐにゃぐにゃしている。


 「大丈夫!? 煌星? これなん⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 ヤバイ。何言ってるか聞こえない。


 


 走った激しい落雷が一周した直後、今度は聴覚に支障をきたす。耳にはノイズ音がこれでもかというほど鼓膜を破きかねない爆音が支配し、意識を失いそうになる。


 落ちていいのか? 

 でも、耐えなきゃいけない(・・・・・・・・・)気がする。


 そんな事を浮かべたと同時に、ノイズが怖いくらい止んだ。まるで、豪雨が突然止んだかのような、そんな感覚。


 僅か数秒。正確にはどれくらい経ったのか分からないが、声が頭に響く。


 まず聞こえたのは、低く、満ち溢れる自信を感じ取れる傲慢を彷彿とさせる男の声だった。



 『余は何故負けた』


 そう発した直後、その声色には悔しさがこもっていたように感じる。悲愴感に近い語尾だったからだ。


 『※※※※※様は負けておりません!』


 次に聞こえたのは、女の声だった。

 男の言葉を聞いてすぐに、悔しそうに腹の底から絞り出した声が発される。


 『言うな※※※※※』

 『しかし!』

 『余は負けたのだ。あの人間に』


 負けた。しかし何処か胸のつっかえが取れたような⋯⋯そんな爽やかな声に、男の口調は変化していた。それはスッキリなのか、今までに無かったからなのかはわからない。


 『どうするおつもりですか?※※※※の民に示しが⋯⋯』

 『問題ない。私が居なくとも、どうにでもなろう』

 『そんなわけにはいきません! "塔"の最有力候補として我々※※※※の軍勢が君臨しています! ※※※※※様が居なくなるなど、あってはなりません!』


 なんなんだ、この会話は。

 俺はそう思ったが、ふと今の流れを思い出すと、『塔』という単語があったことに気付く。


 ん? 塔? ちょっと前に言ってたよね?この人たち何か知っているのか?


 『※※※※※よ』

 『⋯⋯はい』

 『余に、足りないものなんだと思う?』

 

 それは執念にも似た体から捻り出したような声。数秒の沈黙を破って女は答える。


 『ありません』

 『私は、※※※※※よ。不変ということが無いということが分かったのだ。これがどういう事かわかるか?』

 『わ、わかりません』

 『アビロニアの民達に、そして、この塔で私の傘下に入った新しい民たちに──私の自身の力をまだ伸ばすことができるという喜びを。お前たちが信じたこの"黄金の王"である*********************が、お前たちの主が先頭を歩くに相応しい王となる為、私は変わらねばならない』


 『そう。変わらないモノなのはない。それはただの願いであり、我儘というもの。傲慢の王とまで言われた、私のように』


 『私はあの人間に負けて思い知った。あの人間の恐ろしいまでの成長を。あの人間にとってはまさしく死線。私の一撃一撃が、六腑を掠めただけでも即死級の一撃にもかかわらず──あの人間は凌ぎ切り、私を打ち負かせた』


 『ならぬ。何も変わらないなど──あってはならない』


 『私がこの塔に来てから、5000年は経った。君臨し続けた⋯⋯人間からしてみれば、悠久にも似たこの時間で、私は不変だと思い続けた。どの者も変わらないと。しかし奴だけは違った。だから※※※※※、私は[\]】◇:◆◇[※◆〈・*※』


 















 「煌星!?」

 「⋯⋯はっ!!」


 爆睡中に起こされたように、俺は突然友梨さんに起こされ、焼肉が焦げている元の夜景に戻った。


 「大丈夫!?」

 「⋯⋯ちょ、ちょっと目眩が」

 「びっくりしたぁー! 急に頭が痛そうにしているから、心配になったじゃない」

 

 周りを見ると、そこまで時間が経っていないように見える。今のは何だったんだ? 誰だったんだろうか。


 「本当に大丈夫?」

 「もう大丈夫! ちょっとたまに起きる現象なんだ」


 多分もう大丈夫だろうと俺はそのまま食事を進める。そこからはしばらく何もなかったが、俺は男の声を聞いてから⋯⋯まるで自分の言葉を否定されたように思った。


 布団に入っても、男の発したあの言葉が消える事はなく、珍しく不満足なまま今日を終えた。




 

 「煌星! 今日さ、折角だから○タバ行かない!?」

 「ん? 珍しいじゃん」

 

 次の日。いつものように二人でテレビを見ていると、突然そんなことを言い出す友梨さん。


 「いやぁ⋯⋯」


 恥ずかしげに後ろ髪をかく友梨さんが可愛いのは後にして。

 とりあえず聞いてみると、元々週2くらいで○タバにはよく行くようで、そろそろ行きたくて仕方なかったそうだ。


 そうだよな。俺が興味なさ過ぎて、そういうのも女の子達ではあるよな? ごめんね?友梨さん。


 「気が付かなかったよ。ごめんごめん」

 「いや、いいの!いいの!」


 そうは言っているが、顔は間違いなく誕生日前の子供だ。明らかに行きたそうだ。


 「まぁ男の方で行ったらアレだし、紅里の方で合流しようか」

 「うん!ありがと!」


 うん。可愛いね、友梨さん。



◇◆



 それから準備を終え、俺達は八王子ギルド近くの駅前で集合する。


 ⋯⋯やはり待ち合わせというものはいい。いつも一緒に住んでいてドキドキがないかと思えば、こうして少し遠くからスーパー美女が満面の笑みで手を振りながら迫ってくる姿は、※球史が始まって以来、永遠に変わることのない本能というものだろう。

 

 そんな美少女⋯⋯じゃなくて美女が走ってくるだけど⋯⋯。


 うん。何でミニスカ?似合ってるけど。他の男がガン見してるよ? 友梨さん、凄い気合いが入ってるね。俺とのデート楽しみにしてくれてたんだね。


 無限に脳内から羅列される欲求という煌星構文が浮かぶ中、俺と友梨さんは合流を果たし、お店へと足を踏み出した。


 「なんだかんだでほとんどなかったよね? こうして二人で外に出るって!」

 「そうなんだよね、一度もなかったから凄い楽しみ」


 うん、なんで腕を組んでるの?俺達。

 傍から見たら女二人なんよ。


 「あっ、見て! 最近これ流行ってるのー!」

 「これ確かウィンリーウィンストンだったけ?」

 「そう!」


 たまたま見た広告にある写真を見つめ、何でもない日常を過ごしながら進んでいく。


 「着いたね」

 「うん、匂いでもう我慢の限界よ」


 ベルが鳴って店員からの声が聞こえる。二人でどれにしようかなと上段にあるメニューを眺めていると、何やら揉めているような会話が聞こえる。


 チラッと視線を動かすと、おそらく外国人のカップルが何やら文句を言っているようだった。

 あまり聞き取れはしないが、男側の声量が大きいせいで、店内にいる全員のテンションがだだ下がりなのはなんとなくわかる。


 いるんだよなぁ。声量抑えて文句を言えばいいのに、無駄にデカい声で威圧して萎縮させようとするうざったい輩。

 

 あれ、クソほど苦手なんだよなぁと思って隣を見ると、やはり友梨さんも嫌そうに俺の背後に回っている。

 ちゃっかり隠れているのが早すぎて思わず内心笑ってしまったが、冒険者である俺を壁にするのは当然と言えば当然だな話だ。


 しかしかと言ってツッコムかと言えばそうでもという日本人の面倒くささが分かるだろうか。


 『も、申し訳ありません!』

 『だから、これでVentiサイズなのがオカシイって! 責任者を呼べよ!』

 『たっ、ただいまお呼びします』


 慌てて店員の一人が裏へと駆け足で向かっていく。男が持っている容器には、確かにVentiサイズとは書かれている。特に間違ったように感じはしないが⋯⋯何かご本人に違いがあったのだろう。


 俺は店員の胃痛を想う。

 可哀想に。アンタからしたらそれは小さいだろうよ。

 男のガタイはとてつもなく、多分2m以上はある。しかもそれに、ゴリラと思うくらいの筋肉量。そりゃ足りんわな。


 「とりあえず別の場所へ行こうか」

 「そうね」


 仕方ないが、友梨さんとのデート中の手前、俺は暗い空気になるのは御免だと思い、扉を開けて外に向かおうとしたその時。


 「⋯⋯ん?」

 

 肩に重い石が乗っかるような感覚。振り返ると、そこにはクレームを言っていた男が俺の肩を豆でも摘むように掴んで上から睨みつけていた。

 

 どう考えていても、許可なく女の身体に触るなんて男の風上にもおけん。


 「⋯⋯何か?」

 「お前、名前は?」

 「勘違いもいいところよ。いきなり女の身体に触って。やめてくれる?」

 

 尋常じゃない嫌悪感が身体に走り、俺は勢い良く掴まれていた手をパシンと振り払う。


 「⋯⋯⋯⋯」

 「隣にいるのは彼女さん? 白昼堂々と浮気なんていい度胸ね。さっさと謝罪でもしてクレームなんて恥ずかしい真似をやめなさい」


 そう言って扉をもう一度開けて友梨さんを連れて出ていく。


 「うざいやつだったね」

 「何あの男! いきなり紅里を掴んで」

 「まぁまぁいいでしょ、とりあえず別店舗にでも行こう」

 「そうね」

 

 それからショッピングモールへと入ってフードコートで順番待ちをしていた。


 「ん?」

 「紅里?」

 

 何だこの殺気? 


 周囲を見回しても特に気配は無い。

 一人ならそれで十分だが、今は友梨さんがいる。すぐに俺はオドで探知を始め、周囲の色が暗くなり、GPSの発信源を探すように殺気の元を辿る。


 ⋯⋯いた。

 場所はショッピングモールから少し離れたビルの頂上から。発信源の正体は、さっきの男と女。

 遮蔽物がある中でここまで正確に場所を把握しているなんて驚きだ。


 「ごめん、友梨さん」

 「どうしたの?」

 「ちょっとまずいことになったから、一人で食べられる?」

 「どういうこと?」

 

 上級冒険者から狙われているかもしれないということを話すと、友梨さんも表情が一変する。


 「感知したってこと?」

 「まぁそうなる」

 「わかったわ、早く終わらせてよ? 折角楽しみにしてきたんだから」


 友梨さんの笑顔に背を向け、軽く手を振って返事をした後、急いで発信源へ向かった。


 

 

 「Heyジャパニーズ、さっきぶりだな」

 「貴方達ねぇ、こっちは久しぶりのお出かけなの。その時間奪う事が万死に値することは分かっているかしら?」


 ビルの頂上に到着し、正体の確認をすると⋯⋯やはりさっきの二人だ。


 「なかなか言うじゃねぇか日本人」

 「そちらこそ、日本語を喋るなんて、ルールを守らない外国人が⋯⋯そこを守るなんて驚き」


 軽く口に当ててそう言うと、明らかに男の方は苛立っている表情をしている。

 クソッタレめ。俺と友梨さんのデートを邪魔するからこんな目に遭うんだ。


 「それで? さっきの文句の報復でもしたいの? それとも、何か別の話題があるのかしら?」

 

 問いかけると、向こうはだんまり。

 

 決まりだ。こいつら、とりあえず暴力で解決しようとしている。というか、目がそう言ってる。


 「おい日本人。お前、名前は⋯⋯紅里だよな?」

 「よく知っているじゃない、記憶力なさそうなあなたが覚えられているのだから、間違いなさそうね」


 と、俺が言い終わる前に突然男の姿は消え去り、それと同時に、嫌な予感が全身の細胞が俺に訴えかけている。


 既に──オドは使ってる。

 俺の背後に、奴はいる。


 そう発したコンマ数秒。

 予測した大剣の横薙ぎに払う男の一撃を、宙返りをしながら避け、懐から取り出した直剣で反撃をすかさずぶち込む。


 キィンッ──!


 「うっ⋯⋯と!」

 

 ⋯⋯ん? おかしい。

 一撃入れてすぐの事。空中で体勢を直す俺の目にははっきりと映った。


 今まで目の前にいた相手が、一瞬で何か吸い込まれたように地面に消え、一秒もかからぬ内に元いた場所まで戻っている。


 体勢を直し終わって着地し、直剣を二人へと向けて正眼に構え直す。


 「中々やりそうだな。あっちとは違って、こっちは武術の心得でもありそうだ」


 ⋯⋯なんの話だ? アッチ?


 「まぁそんなこたぁ構わねぇ、一旦は戦わなきゃな。クソザコ日本人と戦うなんて久しぶりだしな」


 口の端を歪め、嘲笑を向ける男。

 友梨さんとのお出かけを邪魔しただけではなく、人種差別まで?


 オイオイ──ぶっ飛ばすぞアホが。


 俺は一気にイライラが頂点に達し、直剣を止めてガントレットに装備を切り替えた。

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