表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/91

12話:初対面

 書き終えたあと、広場へ行った。


 ビビるくらい男たちの下劣な視線と冒険者としての将来的な強さを目的に近寄ってくる奴らを相手にするのは大変だったが、視界の端で一人の少年が肘打ちを食らって壁に激突している姿が見えた。

 

 あれ、大丈夫か? 

 間違いなく首損傷してるんじゃね?


 貧民街は危ない地区だというのは承知なのだが、さすがに少年が死にそうになっているのは違うだろう。

 

 ⋯⋯と俺は少年の元に向かって歩く。


 「ねぇ、大丈夫?」

 

 優しくペチペチと頬を叩くが、首がプラプラとしていることから──完全に気絶していることが素人目にも分かった。


 「まずいわね」


 俺の言葉に周りは「そんな子供より」と⋯⋯自分たちの方が優先だろうと、全く人が倒れている状況にもかかわらず凄い価値観をしている。

 

 鈴木さんが常識がないなんて結構な事を言うもんだから、さすがになとは思っていたが、まさかこれ程とは。


 「今はこの少年の方が大事です」

 

 そう言ってこの少年を抱きかかえて少し離れたところへと移動した。




 「紅里さん」

 「ん?」

 「この子、どうするつもりですか?」


 鈴木さんが心配そうに俺の姿を隠しつつ、少年の顔を覗き込んで、問いかけた。


 「鈴木さん、さすがに家はあるよね?」

 「あるん⋯⋯じゃないでしょうか?」


 アンタ貧民街何回も行っているんじゃなかったのかい? なんでそっちまで首を傾げるんじゃい!


 内心、笑いながらそんな言葉が浮かぶが、とりあえずどうしようか。

 そう思っていると、通りすがりの大人らしき風貌の一人が、少年の顔を覗き見て何かを思い出した表情で話し掛けてきた。


 「どうかされましたか?冒険者様」

 「ええ。彼、壁にぶつかって倒れていたのよ。それでさすがに倒れているを見逃すほど落ちぶれてもいないから、誰かこの少年の家とか分かる人がいないか探そうか迷っていたところよ」

 「あ、なら案内します!」


 おー。こんな場所で爽やかな大人に出会うなんて。


 「頼むわ」

 

 

◇◆


 

 「ここです」

 「⋯⋯ここ?」

 

 俺はもう三回くらいは聞き返しそうになったところだ。これが⋯⋯家、だと?


 こんなのネズミの集会所の間違いではないだろうか?


 昔あった、地震の際に簡易的に体育館の中に仕切りだけ作っただけみたいな場所で、数千人以上は群がって寝ている。

 全員の服装はビリビリに破れた白いシャツ一枚にボロボロの半ズボン。


 時代を間違えたか? なんて一瞬思ったが、そんな事はないらしい。


 今ので20秒以上は絶句していた俺だが、ハッとし扉代わりの新聞紙を案内してくれた男がどかして中を覗き、声を掛けた。


 「おーい」

 「どうしたのー?」


 出てきたのはまだ一桁歳の少年と少女。

 とんでもない臭いと格好で本来なら突っ込みたいところだが、それよりも──痩せこけすぎだ。


 正直そっちの情報で思考が固まる。


 何日食べていないだろうか? 

 蹴ったら死にそうな程だ。


 「あれ? ゆうまお兄ちゃん?」


 弟がこの少年に気付いて名前を呼んだ。

 ⋯⋯ゆうまと言うのか。


 「この子が倒れていたから連れてきたの」

 「ありが──」


 純粋な子供達からの礼を聞こうと思った俺だったが、案内した男は頭を下げさせる。


 「ありがとうございます! 冒険者様! まだ子供で、あまり外について知らない為、このような失礼な言動については改めさせますので!」

 

 とゆうまの家族の数人が頭を下げる。

 正直、気分はある意味よくなかった。

 そんな事をさせるために助けたわけではないからだ。

 しかし、こうしないといけない自分たちの側の人間もいるのだと、この時初めて理解出来た気がした。


 「礼はいいわ。それじゃ──」

 

 踵を返し、鈴木さんと共に帰ろうとしたところで、背後にいる一人の存在が声を荒げながら登場した。


 「おい姉ちゃん⋯⋯なんだぁ? 声がするから来てみれば」


 少年たちの家から出てきた男は、何故か着替え途中の状態で出てきた。


 「貴方は?」

 「んぁ? 何だこの女? どの身分で話しかけてきてるんだ?」

 

 そう男が発した瞬間、案内した男は急いで頭を引っぱたいた。


 「なにすんだ!」

 「何って⋯⋯相手は冒険者様ですよ!!」

 「⋯⋯えっ?」


 ギギギと固まりながら俺を見上げ、すぐ様土下座の姿勢を取る。


 「も、申し訳ありませんでした!!」


 ⋯⋯なんだこの出オチ感半端ない感は。

 

 「用はないわね?」

 「勿論でございます!」

 

 用はなくなったからとそのまま背を向けかかった俺だが、痩せこけた姿がどうにも離れない。


 「⋯⋯?」

 「これ、食べなさい」

 

 高速手つきでインベントリからおむすびを一つ取り出して、子供の手に乗せる。


 「味は大したことないけど、お腹は膨れるはずだから」

 「あ、ありがとうございます!!」


 善意かもしれないが、こんな姿見せられたらどうしようもないだろう。


 俺は最終的に兄弟分のおむすびを渡して、その場を後にした。その後のことは分からないが、まさか再会するのがそんな早いとは、この時の俺は予想だにしていなかった。

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ