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11話:サポーターを雇うことにした

 「おめでとう! 紅里さん」


 パチパチと顔の前で満面の笑みを浮かべて拍手をする五香さんが俺の目に映る。


 今は攻略が終わってはや2日。 

 攻略後、すぐに椎那紅里という冒険者の情報は瞬く間に広がった。

 

 まぁ当たり前といえば当たり前なのだが、鏡で見た椎那紅里は、自分で見てもとんでもなく美女だ。


 様々な要素は前提として、黒い髪、黒曜石のような黒い目。ハッキリとした目鼻立ち。

 氷の女王と言われたら満場一致さえ思う美貌は、速攻で囲まれた。


 囲まれるレベル⋯⋯というよりは、逃さない猛獣たちの檻の中へぶち込まれた気分のほうが正しいと思う。

 五香さんたちがもし助けてくれなかったと思うと、今でもどうすればいいかわからなかったほどだ。

 

 情報が広まった直後、なんとしてでも俺を捕まえようとストーキング行動を始めるものも現れて外に出るのさえ危ない状況になった。

 ⋯⋯そんでこの2日間は一旦時間を空けて今日、特別待遇ギルド専用車お迎えのおかげで⋯⋯五香さんの元でこうして話しているというわけだ。


 「勘弁してくださいよ。男共の視線が凄まじくて言葉も出なかったんですから」

 「大変だね」

 「被害者側になると、こうもだるいとは」

 「ま、やられないとわからないことの方が世の中多いからねぇ」


 遊び人が言うと⋯⋯なんか迫力が違うな。

 言葉に重みができる。うん。


 「それで?どう? D級ダンジョンは。簡単だった?」

 「まぁ、普通にこなせるくらいには」


 あんまり自信満々に言う必要はないよな。相手は一世を風靡したS級冒険者なんだし。


 「へぇ、もっと余裕かと思ったのに」

 「まさか。自分はつい最近冒険者になったばっかりの新参者ですよ?」

 「⋯⋯そう」


 一瞬五香さんから鋭い視線を食らった。ビビったぁ⋯⋯俺、なんかしたっけ?


 「それでなんですけど」


 鈴木さんと話したサポーターの件。ここで話しておいた方がいいかな?


 「うん?」

 「サポーターを雇うという話を鈴木さんとしていたんですが」

 「あぁ、あのババァのところ?鈴木くん」

 

 ソファの後ろで事務作業をしている鈴木さんの方へ振り向いて尋ねると「そうです」と一言シンプルな返事が返ってくる。


 「そう。あのババァ、口は悪いんだけど、仕事はできるタイプだから⋯⋯安心して良いよ」


 鈴木さんと同じことを言ってるし。 

 よっぽど口が悪いんだろうな。


 「アポ取っておくよ。いつが良いとかある?」

 「あ、その前に、ダンジョン攻略の方って⋯⋯」


 そう。とりあえずD級ダンジョンはクリアしているし、今後も等級を上げるという方向にした。

 

 とりあえずポーションの件もあるし、カネ自体に問題はないんだけど、やっぱりこのクソほどチートシステムを円滑に使う為には、ダンジョン攻略はかなり必須になってくるんだよね⋯⋯検証という意味でも、実力の確認という意味でも。


 正直、今すぐにでも強くなる方法はある。

 この間のオーディンのように、様々な分野の本がある訳だし、やろうと思えばすぐに強くなる。

 けど実際、そこまでやる必要があるのかと言いたいくらいにはこの世界のパワーバランスから逸脱しかけている気もするんだよね。


 ⋯⋯オドもそう。これを使ってしまうと、呪い系のダンジョンを筆頭に、浄化の炎が効力を発揮し過ぎちゃう気もしてる。


 「ダンジョン攻略難易度の昇格か⋯⋯まぁ現段階は、Cが限界ってところかな?」

 「あ、Cまで行けるんですね?」

 「勿論。だけど危険も孕んでいるからあえて口にしなかった。まだ新人だからよく陥りがちだ。力を手にした途端ガンガン前に進んで突然死の連絡だけが返ってくることがね」


 なるほど、五香さんなりの気遣いってやつか。


 「それはありがとうございます」

 「Cね、どこへ行く予定とかあるの?」

 「今すぐというわけではないですが、ダンジョンの集まる──都心の方へ」

 「なるほど、あそこは大量に高難易度のダンジョンが溢れかえっているほどだからね。ただ気をつけてよ?」

 「⋯⋯? 何がですか?」

 「あそこには、高ランク冒険者もゴロゴロいる。一人でいると、当たり前のようにスキルを連発する紛争地域みたいな場所すらあるからね」

 「肝に銘じておきます」


 まぁ、最悪鍵使って強制離脱すればいいから、大丈夫だと思うけど。


 「じゃ、サポーターの話に移ろうか」


 それからサポーター関連の話を始めた。

 サポーターに支払うカネは拾った魔石の端数は切って2割程。ランクによって色々分かれていくが、普通のサポーターでそのくらいらしい。

  

 その中でも所謂使えるサポーターは三割くらい持っていく人間もいるが、体力がかなりあって連日潜るのにも軽々ついてくるというスキル無しの人間とは思えないくらいの無尽蔵な体力がある為だという。


 他にも長々と話したが、ざっくり要約するこんな感じだと思う。


 

 俺はそれからアポを取って数日後に待ち合わせ場所である貧民街と普通の街の境目である神奈川のとある場所にやってきた。


 車から降りると中々の光景が広がっている。

 

 生物が腐った臭いが何処までも広がっていて、とてもここを歩いていくのには少々キツイと感じるほどの酷い空気。崩壊した街の悲惨な光景と言ったほうが早いと思う。

 それなりに結構我慢したが、それでも我慢の限界が5分と持ちそうになく、早くも帰宅が頭をよぎりながらも一つの建物の2階へと鈴木さんと入っていった。


 「失礼します」

 

 先頭にいる鈴木さんに続いて中へ入る。

 本当は鈴木さん同様、挨拶をしたかったのは山々だが⋯⋯それらを含め、移動中の車内で俺は注意事項を聞いていた。


 その時の話を、主にまとめるとこうだ。


 ・絶対にへりくだるな(舐められる)

 ・敬語はなし(何故なら普通の街に住んでる側が神様のようなものだから)

 ・間違っても挨拶はしない(貧民街の住人が普通の街人たちにするものであって、こちらからするものではない)

 ・金目のものは絶対に持つな(マジックバック、特殊スキル持ちは例外。持っているとほとんど100%の確率で盗られる)


 主な注意事項だ。

 まぁまじかよと心に秘めながらもちゃんと注意事項を守って鈴木さんに続き、ソファに腰掛けた。


 1分程待っていると、目の前には40代前半くらいの美魔女がこちらに一礼してソファに腰掛ける。先に口を開いたのは、鈴木さんからだった。


 「お久しぶりです」

 「あぁ、アンタね。随分久しぶりじゃないの。金持ち連れてきた?」


 ⋯⋯うん。確かに口が悪いな。

 これが初対面だとは到底思えないぞ。

 

 「一応本人の前ですから、初対面ですし」

 「それもそうだね。そっちのお客さん、お名前は? 私は相原静」

 「あぁ、椎那紅里よ」

 「椎那、椎那⋯⋯紅里⋯⋯あ、最近活躍しだしてるD級冒険者じゃないの。鈴木〜!イイお客さん連れてきてイイやつじゃん!」


 先程までの空気から一変。突然テンションが上がったのか、鈴木さんの肩をパシンと結構な力で叩く。


 「まぁ上客を連れてくる必要がありますから」

 「それが条件だしね〜」


 すると相原さんが立ち上がって一冊の分厚い本を俺の前に差し出した。


 「見て、プロフィールがたんまりとあるから」

 「では遠慮なく」


 ありがとうございますと言いたかったけど、そうもいかない。⋯⋯っと、見てみるか。


 とりあえずパラパラめくってみる。

 この本を説明するなら、卒業写真に得意な事が加筆されてるくらいかな。


 一人一人の顔と名前、できる事と俺達に向けて一言が添えられた一覧。


 「鈴木さん」


 小声で鈴木さんに耳打ちする。

 

 「どうしたの?」

 「これって食事とかどうなってるんですか?」

 「⋯⋯これね、彼らは別」

 「マジですか?」

 「大マジ。彼らは飯も食わずに喜んで魔石を拾う。こうして契約が一件でも成功すれば、上手く行くと数ヶ月分の食費と生活できるお金が手に入るからね。食事なんて言ってられないんだよ」


 ⋯⋯つら。どうしよう。滅茶苦茶疲れるだろうから、無理させたくないんだけどなぁ。

 頭の中で色々考えていると、俺の考えを読み取ったのか


 「紅里さんの気持ちも十分分かるけど、ここは常識の外だと思って話し、接した方がいい。全員がルールなんてない場所にいるに等しいから」


 ⋯⋯だよなぁ。

 一旦の話のあと、ペラペラ見ていた際に一人の男の子を発見した。


 「この子はなぜこんなに安いのかしら?」

 

 相原さんは俺が指差した男の子を覗き込む。


 「あぁ、この子は制限サポーターさ」

 「制限サポーター?」

 「あぁ。あんまり言うのは良くないけど、本来ダンジョンは長時間潜るのを前提としてるのは分かるね?」

 「ええ」

 「だけど、コイツの家族はこの辺りじゃかなり多い10人兄弟。長時間潜ったら兄弟達を出汁に何が起こるかわかんないってもんさ。お客さんのような美人で優しそうなアンタには縁遠い話さね」

 「定時で帰ってしまうって事ね?」

 「そういう事さ」


 ⋯⋯りゅう。16歳。

 体力なら一番っす!!誰よりも早くも拾って、荷物をしっかり持っていくっす!

 冒険者の皆さんの役に立てるように頑張ります!! サポーターを始めてもう6年っすから、新しく入った冒険者の方も大歓迎っす!


 本当は手書きで書く必要があるようだが、彼らは生まれてから勉強なんて何もしていない。なので文字の読み書きなんて特別なケースを除いてほとんど出来ない。


 しかも、これでもかなり直された方らしい。

 本人が一生懸命その文字に沿って上から書いたという。


 「あの、このりゅうくんを二ヶ月借りられますか?」

 「⋯⋯二ヶ月?」


 目を細める相原。

 

 「何を言ってるか分かっているのかい?」

 「はい」


 ちょっとした善意。

 自分とは違う環境、生き方、全てが同情から来たものだったが、どうしてもこの男の子以外を選ぶという選択肢はなぜ起こらなかった。


 「わかりません。シンパシーを感じた気がします」

 「いくらか分かってるのかい?」

 「いくらですか?」

 「勿論、本人たちへの成果報酬として2割。この子は質よりも数を受けることが大事だと言っていてね。そして仲介料。まぁ上客になってるわけだから、まぁまとめると──一回でお客が稼いだ大体半分近くは無くなるけど、平気なのかい?」

 「問題ありません、カネならあります」

 「よっしゃ!そうこなくっちゃ!」


 相原さんが机の上に置いた契約書を読み、俺はサインをする。


 「いやぁ、こりゃかなりの儲けだねぇ」

 「こちらとしても助かるので全然」


 そうして契約書を書き終えたあと、ついでのつもりで広場という実際に勧誘されている所へと向かったのだが、まさかあんなに囲まれるとは思わなかった。


 

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