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★ある一人の少年の話

 連続別視点で申し訳ありません(泣)

 そして割とダークな話になります。




 僕は生まれてから使い物にならない屑。 

 

 ⋯⋯そうみんなが僕にそう言う。

 生まれたのは貧民街三番地にある団地の一区画。

 天井の蓋はなく、四角い空間に10人の兄弟と薬で頭がおかしいお母さんがいる。


 お金持ちの人たちが来たとき、まるでネカフェの糞劣化版と言っていたのが分かりやすいんじゃないんかと思いました。


 ここに来る凄い豪華な格好の頭の良い人たちが発していた言葉だったので、なんとなく凄い言葉なんだろう。


 今日も元気に⋯⋯って、周りの兄弟たちは起きません。もう朝なんですけどね。


 ──お腹が空いちゃってそれどころじゃないみたいです。


 「うっ⋯⋯」


 そんな声と共に僕は起き上がります。 

 寝床は満足なものではなく、硬い床の上で葉っぱを敷き詰めて寝ているので、起きる時に体が痛くて呻き声を上げて起きるのが習慣です。


 「りゅうー、すみー」


 僕は兄弟の中では2番目で、上のりゅう、3番目の妹であるすみを起こす。

 

 「いてててて、おはよう⋯⋯ゆうま」

 「ゆうま、ギリギリで起こすなんて流石だぞ」


 りゅうは16歳、すみは14。僕は15歳ですみの他に2人14歳の男女の層があるんだけど、二人とも⋯⋯僕と同様、呻き声を上げながらよろよろ起き上がる。

 

 そしてりゅうが周りを見渡しながら僕の方を見た。その目つきは決していいものではなく、鋭く、睨みつけるに近いものだった。


 「今日はアイツ来てないの?」

 「あ、オジサンのこと?」

 「そうだ、アイツ⋯⋯カネの代わりに、堂々とすみや母さんとヤりまくってるじゃん。いくらカネのためだって言ってもよ⋯⋯」


 苦しそうに隣にいるすみを見やって、りゅうは着替え始めた。


 そう。僕達は貧民街の生まれで、魔力も才能もない最下層の人間だ。冒険者として活動するためには初期資金がいる。30万円前後だけど、それが通らなければライセンスが貰えない。ライセンスがなければダンジョンに入ることができない。


 だから僕達は、必死にお金を稼ぐことに命を懸けている。だけど、15歳程度の体でできることは少ないみたいで、住民⋯⋯なんとかだったり、身分がないから信用がないみたい。

 誰も雇ってくれないし、こちらから行っても、誰も見向きもしない。だから、兄弟、そしてお母さんも含め、女性はカネになるから⋯⋯身売りをして過ごしている。


 僕を含めた他の男たちは、毎日"広場"っていうところに出向いて、冒険者の後ろについて回る『さぽーたー』っていう拾う仕事があるんだけど、そこで冒険者様たちが来るのを待って、なんとかついて行く事を許してもらうために頭を下げて毎日頑張っています!


 今日もこれから⋯⋯なるべくキレイにした服を着て、広場に向かいます。


 「準備出来たかー? ゆうま」

 「うん!」

 「すみ、悪いが、もしオジサンが来たら下に行かせないように頼む。──悪い」


 冷静に呟いて広場へと向かうりゅうお兄ちゃんも、本当はすみにそんな事をさせたくないんだけど、必死に現実と向き合って毎日頭を下げてついて行く為に体を鍛えてやれる事をやっています。


 ⋯⋯僕は、そんなお兄ちゃんを尊敬している。


 「ゆうま、今日のご飯」


 そう言って腐りかけのパンをこっちに投げた。

 僕らが口に出来るのは貧民街と普通の街ギリギリにあるゴミ箱から漁って出てくる青いパン。

 最近知ったんだけど、あの青い部分は危ないんだって。これは凄い発見だよね。


 っと、僕も行かないと!


 「行ってきまーす!」



***


 「俺は割と広場で人気のさぽーたーだから多分すぐにいなくなっちゃうけど、お前、また殴られないようにヘマするなよ?」


 りゅうお兄ちゃんが僕の両肩を掴んで、心配そうな表情で覗き込む。

 

 「大丈夫だよ! 僕、笑う事が得意なんだから!」

 「⋯⋯あんまり目立つなよ? もし、契約取れたら、すぐにすみや近くの家族に聞くんだぞ?変な奴らについて行かないように!」


 僕は笑ってりゅうお兄ちゃんに微笑み返す。

 

 でも、しょうがないだもん。

 僕は使えないゴミなんだから。

 何やってもドジを踏んでしまう子供。


 毎日走って、必死に頭を下げる。

 僕にはそんな事しか出来ない。


 「りゅうお兄ちゃん、気をつけてね!」

 

 僕の言葉にりゅうお兄ちゃんは振り返らずに手を上げて人混みに紛れて消えていく。

 さて、僕も冒険者様のお手伝いの日です!



◆◇


 「なんて、すぐに見つかるわけないよね」


 一時間ほど歩き回って困っている冒険者様を探したけど、特に余っている冒険者様は見当たらない。冒険者様たちが現れたのを僕を含めて、みんな横目で絶対に逃さない。


 何処を行っても⋯⋯すぐに他の狙っている人たちが奪っていく。どうしよう、全然見当たらない。


 広場は結構広いはずなんだけどなぁ。


 まるで都心部。ゆうまが歩く広場は大きさにして1キロ以上は余裕である貧民街屈指の広場なはずだが、あまりに人が多すぎて、ゆうまの身長では周りを見渡せず、時間だけが消費されていく事になっていく。


 「⋯⋯おい!」

 「っ、ごめんなさい!」

 

 デカイ大男とぶつかり、平謝り。

 このままでは意味が無いと、すぐにこの広場から少しだけ離れた場所へ移動し、小休憩。


 「⋯⋯はぁ」


 全然声掛けられないや。やっぱり何をやっても駄目だな⋯⋯僕は。


 この間は確か、ついて行ったはいいものの、お金を受け取れずに逃げられたっけ。

 その前は⋯⋯使えないと殴られたっけ。

 更にその前は⋯⋯。


 考える度に涙が出てきそう。

 さぽーたーが嫌なわけじゃない。

 実際に冒険者の人たちは来てくれているのに、何も役立たないままこうして活動していることに不安しかないのが怖い。

 明日があるかもわからないこの生活が怖い。

 ⋯⋯りゅうお兄ちゃんは大丈夫かな? 僕みたいに変な人に危ない目に遭ってないといいけど。


 「いけないいけない、笑わなくちゃ!」


 頬を叩く。こっちが笑っていなくちゃ、冒険者の方々が安心して来てくれないから。


 今日も頑張ろう! お金を稼ぐんだ!

 みんなが困らないように!


 そう自分の心を熱くして立ち上がって周りを見つめる。僕にできることをやるんだ!

 

 と、その時──。


 『え?あの人──』

 『おいっ、声掛ける?』


 あれだけ盛り上がっていた広場の空気が一変した。どよめきが伝播していく。


 何処かで何かあったのかな?

 僕は少し高いところに登って声の方を見た。


 『あのっ!』

 『何かしら?』

 『さ、最近異例のスピードでDランク冒険者になった《氷姫》、椎那紅里さんでは!?』

 

 誰その人? 情報伝達の仲間がいないせいで何もわからない。


 『あの!わざわざ広場に何か用があるんでしょうか?お手伝いすることがあれば⋯⋯!』


 一人の青年の言葉を機として、次々と一人のキレイな女性に群がり始めた。


 うわぁ⋯⋯凄いなぁ。

 聞いてた情報だと、彼処にみえるキレイな女性はD級冒険者っと。


 石を頑張って研いで作った書くもので木板に刻んで記憶する。


 『椎那紅里さん!是非私達とパーティーを組みませんか!?』


 『この間Dランクダンジョンをソロクリアしたって情報が出ていますが本当ですか?』


 次々と聞こえてくる情報に僕は一生懸命聞き耳を立てて木板に力一杯刻む。


 椎那紅里様。

 D級冒険者で、ソロでダンジョンを攻略できるほどの凄い冒険者様。


 って、板に書いても、僕なんか相手にされるわけないし⋯⋯


 ゆうまから見た光景は、沢山の男たちが一斉に求愛行動をしている動物のようだった。

 ⋯⋯見方によってはもはや奴隷だ。女の美貌に当てられた男は容易に頭を下げ、媚を売り、プライドすら崩れさってしまう。


 ゆうまはその光景を見て、こう思った。


 "さぽーたーや冒険者様は、そんな事をするためではないはずなのに"。


 だが遠くに映る氷のような黒髪の女性は、キョロキョロとその者たちを見るわけでもなく、移動を始めた。まるで自分に興味が無い人を見つけるかのように。


 一人が移動すればみんな金魚のフンみたいについていく。


 『椎那さん!是非自分と!』

 『こっちはC級パーティーです!』

 『おい! こっちへB級なんだからC級は黙ってろよ』


 もはや本人は気にしないで歩いているのにもかかわらず、その周囲は喧嘩が始まっている。

 

 ⋯⋯あれ、もう椎那様が可哀想では?


 そして。


 「ドンドンこっちに移動してる」


 周囲をよく観察しながら、ドンドンこちら側へと近づいて行っている。何をしているんだ?僕は。使えなくたっていいじゃないか!

 姿じゃなくて、お金を稼ぐ為に声を上げるんだ!!


 「お願いしまーす!!! 何でもします!!」


 既にいっぱいの方向から声が聞こえる中、僕も懸命に叫んだ。

 ──お願いします。明日を生きる為に、貴女のほんの少しのおこぼれでいいのです⋯⋯って。


 縋る⋯⋯いや、祈るように声にそんな気持ちを込めて、僕は叫んだ。何度も何度も。


 「おい!お前は無能のガキなんだからおこぼれなんてもらえるわけねぇだろうが!!」

 「うっ⋯⋯!」


 周りにいる大男数人に肘で後ろへ吹き飛ばされ、思い切り壁にズルズル落ちながらともたれる。


 「くっ⋯⋯そ⋯⋯」


 思い切り首をぶつけたせいで、目がボヤける。

 なんでこんなに僕は駄目な人間なんだろう。

 何もできない一人の人間。生きている意味も感じない悲しき子供。

 

 コツ。


 次があったとしたら⋯⋯どうか。


 コツ。


 家族のみんなを救えるように。


 コツ、コツ。


 高い革靴の歩く音。それがどんどん自分の方へと近付くのが聞こえる。だけど、そんな事を浮かべた時には──既に意識はなかった。


 

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