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☆7話:噂はすぐに広まる

──アメリカ、サンフランシスコ。


 その中でもビジネスの心臓部とも言えるファイナンシャルディストリクト。

 ここは、高層ビル群が空に向かって突き刺さるようにそびえ立ち、街のパルスが感じられる場所だ。煌びやかなガラスのファサードが日光を反射し、忙しく行き交うスーツ姿の人々が何処も広がっている。


 銀行、大企業、高級レストランが立ち並ぶビジネスの世界の中心である。

 

 ⋯⋯そこの特に広い場所を陣取る一つの高層ビルの中を1台のリムジンが入っていき、扉に最も近い場所でリムジンは止まり中から男女が降りてくる。


「ッたくよ、日本行き確定なんだろ? 誰だよそんな人騒がせな日本人は」

「知らないよ、私だって早朝に起こされて機嫌悪いんだけど」


 二人ともブロンドの金髪で、ベリーショートと肩まで伸びている二人組。


「ケニー、多分10分くらいで降りてくるから、車は近くの場所で止めておいてくれ」

「了解だ、鍵はもっているな?」

「勿論」


 運転手のケニーは確認を終え、近くの場所まで車で進むのを、二人は背にしながら会社の中へと進む。

 

 エレベーターで21階。

 すぐに右に曲がって、突き当りまで行った角部屋の扉を数回ノックする一人の男。


「⋯⋯誰だ?」

「俺だ、お前の待ち望んでるマックスとエレバ」

「入れ」


 投げやりな口調の返事に二人は見合わせて首を傾げ、中に入る。


 入ると黒を基調とした正方形の部屋。

 インテリアと書類の揃い具合は、その部屋の男の性格を間違いなく表すものだった。


「それで? ノレド」

「まだ朝の10時だぞ? 俺は金を稼ぎたくてここまで登りつめたってのに」

「あんたが呼んだんでしょ? ノレド」

「⋯⋯そうだな、エレバ。とりあえずそこに座れ、書類を」


 ノレドは隣にいる秘書を見やって配るよう指示し、自分も引き出しの中から分厚い書類の束を見つめた。


「どうぞ」

「あぁ、どうも」

「おいノレド、俺は書類なんか見てもなんも理解できん」

「知っている。だが不格好でも日本でそれができるようにする為の事前練習だと思え」

「なんだよ、今更日本になんの用だ? あそこはもう落ちぶれたろ?」


 片膝の上に組むもう片方の足で貧乏ゆすりをしながらノレドを見つめるマックス。

 隣で聞いているエレバもマックスと同じ目つきでノレドを見つめている。


「そんなこと分かってる。なんの為にお前たちを呼んだと思ってる」

「早く説明しろよ」

「わかったから。とりあえず聞け」

「チッ」

「マックス、そこまで行きたくないんなら帰れば? 私は日本のらーめんを食べてみたいから来ただけだから」

「⋯⋯今更断ったらダセェだろ?」


 それからしばらくマックスとエレバのゴネが続いたが、そんな二人をたしなめた後、ノレドが本題に入った。

 聞き終わったあと、頭を掻きながらマックスはボソボソと確認をしだした。


「とりあえずその、コウセイ・コウガっていう日本人がユニークダンジョン帰還者ってことでいいんだよな?」

「そうだ」

「それで、あん時のオークションの元はその日本人だと?」

「そうだ」

「それでまた今回は、別の日本人からとんでもない物が出るって?」

「そうだ」

「だったら最初からそう言えよ、まどろっこしいなー」

「今度は何が出るって聞いているの?」


 怠そうにイライラオーラ全開のマックスの隣で、エレバが冷静に書類を見ながらノレドに質問を投げかける。


「ポーションだって言うのは聞いてるけど、問題はそこじゃない」

「⋯⋯?」

「効果がまずい」


 深刻な表情で発するノレドを二人が殺気混じりの眼差しで続きを待つ。


「マナの最大容量の増加」

「そりゃ殺してでも奪う必要があるだろ」

「マックスの意見に賛成」

「待て待て、そんな事をしたら国際問題だろうが」

「ハッ! んな事知るかよ。そんなのは弱者共の専売特許だろ?」

「マックス」

「⋯⋯冗談だ」


 ノレドがマジな口調でたしなめるとすぐに察したマックスがお遊びをやめる。


「具体的な容量は聞いてないのか?」

「5だと聞いている」

「十分だろ、いくらで落札する予定なんだ?」

「他がどれだけ入ってくるかにもよる。ウチとしては、10くらいで話を済ませたいが、実際は50近くまで上がるとうちの職員たちは予想している」


 ヒェーと二人は負けだと言わんばかりに両手を上げる。


「んじゃ⋯⋯俺達が呼ばれた理由は?」


 マックスが問う。


「あくまで参加者しか知らないが、オークションの日程はまだ先だ。具体的には一ヶ月。そして、その間は別に制限なんかはされていない」


 そこまで言うとマックスは「はいはい」と頷いた。


「懐柔しろってことね?」

「そうだ、それと実力も見てきて欲しいんだ。帰還者は何か特別な能力を得て帰ってくると恒例の話だからな」


 鼻で笑いながらそう言い放つノレド。

 

「向こうの奴らはこっちで冒険者の立場でいられるだけで一つのステータスになる。男ならむしろ、永住権でも与えてやれば頷くんじゃないの?」

「国際問題になりかねん」

「はいよ」


 マックスとエレバは立ち上がって書類を乱雑に机に投げ捨て扉へと向かう。


「すぐに発つのか?」

「勿論。早い方がいいだろ?」

「いいか? 相手は帰還者だってことを忘れるな? 機嫌を損なって急にあなたの国にはあげませんなんて言われたら⋯⋯それこそ他国との関係がまずい」

「だったら尚更、俺に任せちゃまずいんじゃないのか?」


 振り向きざまにそう皮肉げに言い放つと、ノレドは肩をすくめ


「理由は胸に当ててみろよ、君の立場とステータスは?」

「⋯⋯まぁだろうな」


 少し誇らしげに微笑んでから、二人は部屋から立ち去った。

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