19話:ういー!熟練度を上げるぜぇ〜?
俺の中では中々の激闘を繰り広げたあの時から一時間後。
「これ美味っ、新作のピーナッツバター味ね? お前の顔を忘れない」
最初に狩ったキラーラビットの場所を一望できる丘を発見し、俺はそこで周囲を警戒しながら敷物を敷いて飯を堪能していた。
昼飯はデイリーパックという小さい食パンサイズが2枚入ったモノで、種類も多くてかなりの人気を誇っている。
そして汁物は俺お手製のインスタント味噌汁。
後はブロッコリーと鶏肉のカットが⋯⋯いや、筋トレマンじゃないからね? 決してトレーニングがというわけじゃないよ?
「あー、まじでさっきは死ぬかと思ったわ。どうしてくれるんだよ俺が死んだら」
ふざけんなよ。なんだよ初心者に優しいダンジョンって。ここの何処が初心者ダンジョンなんだよ。
別にある程度の難易度だったら理解できるけど、これはイカれてるって。
「しっかしあのライオン、めちゃくちゃカイハンのオウガカイエンにそっくりやったな」
⋯⋯ライオンなのに。
「というかキラーラビットはいつ湧くんだろうか」
かれこれ待ち続けてもう一時間くらいは経過しているはず。そろそろ湧いて来るはずなんだがな。
「⋯⋯ん?」
愚痴りながらそう言っていると、湧いた⋯⋯キラーラビットが。
「ちょちょ!」
ご飯を中断して荷物をまとめて現場へと急ぐ。
「お前のせいで俺は変なライオンと戦わされる羽目になったんだぞ!」
「キュ?」
そこから1時間掛けて湧き始めたキラーラビットを無事狩り続けた。
結果として角は二本落ち、極小魔石もかなり集まった。
しかし、俺は任務終えて帰ろうとする前、オイゲンに言われた事を思い出した。
「監視されている⋯⋯か」
可能性としては大いにあるのはわかるんだが、俺の実力で何故?
もっと強いやつなんていくらでもいるんじゃないのか?
「今も⋯⋯誰かが俺を見ていたりするのか?」
気配察知には引っかからないし、周囲に人間がいるとも思えない。
「まぁ、気にしたってしょうがないか。でも」
実は自分でも気になっていたことがある。
俺は黄金のスキルにあった黄金操作の熟練度を家で上げていたが、あまりに進行が遅い。
原因は分からないが、形状を変えるくらいでは大した能力向上にはならないらしい。
つまり⋯⋯
「実戦で使用する事で進行度も上がるんじゃないのか?」
⋯⋯これが俺の結論だった。
必要事項だ。やるしかないな。
帰る自分の足を止め、俺はリュックをおろして小さく笑う。
「よし、将来の為、明日の我が身のため──兎さんを使って熟練度上昇させるぞ」
みんな聞いてくれ。
恐ろしいことに、レベル5なって黄金操作が増えたものの、俺は肝心なことを忘れていたのだ。
そう、レベルアップの道中──生成量も一緒に増えているのだ。
今、ここで確かめる必要がある。
「どんくらい増えたんだろう」
1ヶ月前は3gだった訳だが、今じゃどんくらい増えているのか想像もつかない。
無言でも生成できるが、ここはカッコよくいかないと⋯⋯。
「来い──」
この時、本当の意味で誰も彼を監視などしていなかったが、この発動を機に──後に歴史に名を残す男、黄金の冒険者⋯⋯黄河煌星と言われる始まりの瞬間だった。
実際に握っているわけではないが、剣を握るように掌は少し空間を空ける。
その空間に黄金の光が灯る。
黄金の粒子が煌星の掌の中に集まり、無から小さくまだ迫力には欠けるが、果物ナイフより少し見劣りするくらいのナイフが生まれた。
「ん? こりゃ⋯⋯カッコイイな」
台詞といい、この剣の構える体勢といい、全ての環境が良かったな。
黄金の短剣はまだ分厚いとは程遠いレベルであったが、それでも十分な殺傷能力を有していた。
煌星は試しに数回素振りをしてから⋯⋯鞄の中にポイッとナイフを放り入れ、再度掌にナイフを出す。
「これなら通用するぞ」
目の前には兎が数匹。
なら、戦いながら形状を常に変化させたらどうなる?
「ッし!」
その場から一気にキラーラビットを走り出し、先程まで使用していた短剣ではなく、"黄金のナイフ"を使って兎の首元を狙って仕留める。
「キャンッ!」
「ふぅ、まぁまぁ上手く行ったな」
にしても、ナイフくらいまで使えるようになったはいいものの、殺傷能力もここまで上がると色々危惧する事が増えそうだな。
「幸いキラーラビットを倒せているから──このままフルスロットルで行くぞ」
**
それから更に一時間が経過した。
『キャンッ!』
『ピァ』
「こんな所か」
そろそろやめておいた方がいいだろう。
依頼自体は達成しているし、前の注意もあった事だしな。
片付けを終えた俺は、ダンジョン攻略を中断して外へと向かった。
「あっ、黄河さん!」
「あ、入る前にいた⋯⋯」
名前をすっかり忘れた。
「新山といいます。お疲れ様でした」
「あ、わざわざありがとうございます」
新山さんが水を差し入れしてくれた。
ラベルにはただの水というだけでなく、魔力が通っている体にいい影響をもたらしてくれる特殊な成分が入っているという謳い文句の人気ブランド水。
「これ美味いですね」
飲んだ事なかったが、かなり美味いな。
「これはステータスが適応された方たちが飲むと、美味いと感じるようなんですよね」
「通していない子どもたちが飲むと微妙ということですか?」
新山さんは黙って縦に頷いた。
「これから飲んでみようかな」
俺、これ初めて飲んだけど、かなり美味いぞ。
エナドリを飲んでる気分だ。
「あ、ありがとうございました。では」
「あのっ!」
「はい?」
「何処かクランに属していたりしますか?」
「クラン⋯⋯ですか?」
「もしよかったら考えてみてもらえませんか?」
まぁ色々あるよな。ソロがいいけど、今日みたいに一人じゃ危ない事態もあるわけだし。
「こ、これ名刺です!」
「あ、ありがとうございます」
新山さんからお洒落な名刺を受け取る。
「今すぐに決める事はできませんが、考えてみようと思います」
「はい! ありがとうございます!」
そのまま俺は家に帰ろうとしたが、帰る途中で色々思い出してギルドへと寄り道するべく、俺はそのままギルドに向かった。