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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

日常と非日常の狭間と俺たちと

作者: 荻原



―――…死ななくちゃいけない。



「翔君おはようっ!」

「あぁおはよう」

…俺は家を出る時間がいつもと違うから会うはずがないと思ったんだけど。

大体なんでこいつは朝からこんなにハイテンションなんだろうか。疲れないのか?

いや、こいつにそれを問うのは愚の骨頂と言うものだろう、きっと。

幼稚園のときは嫌がる俺を無理矢理連れ出し疲労困憊で倒れる寸前まで近くの林の中を引き摺り回し挙句に帰り道が分からなくなったなんぞと言い出してあわや家の近くで遭難しかけ、小学校の低学年の頃にはこれまた嫌がる俺を連れ出して公園で鬼ごっこをしてそれで終わるかと思ったらとんでもない間違いで当時子供たちから恐れられていた野良犬の頭にたまたまこいつの蹴った石があたってとばっちりで追い掛け回され一昔前のマンガよろしく木の上に非難する羽目になったり…あぁ、考えれば考えるほどろくなことが無い。

そして必ずこいつは俺より遥かに元気そうに楽しかったというのだ。

考えるまでもなくハイテンションなんて今更のことだった。そしてハイテンションな上に流されやすい。面白そうなことや流行っていることなんかをしたがる。行きたがる。

そのおかげで毎回毎回その底無しかと疑いたくなる体力に俺は降りまわされていたんだから。

「じゃあね、翔君」

どうやら考え事をしているうちについてしまったらしい。

ちなみに家から学校までは歩いて十分以内という近距離だ。

クラスは違うので下駄箱の前で別れた。

思えば、このときから変だったのかもしれない。

いつも以上に、何か空回りしている感じには気付いていたのに。



『今日のニュースです。●●市の市営アパートで今日、遺体が発見されました。自殺したものと思われ、警察では先日から続く自殺騒動との類似点が多いことから関連を…』



放課後、下駄箱まえでちょうどばったり鉢合わせした。

…こいつと下校強制決定。

べつに嫌ってるわけじゃないから嫌ってほどでもないんだけど。一人で帰りたかった時もあるけど向こうが気にしてないのにこっちが気にするのもアホらしいという結論に落ち着いて以来大して気にしないことにしている。

「…お前最近なんか変じゃねぇ?」

「なにが?いつもどおりだよ」

いや、確かにいつもこんなんだけど。そうじゃなくてなんだろう。

妙な違和感がする。

隣を歩くこいつの顔はいつもと変わらない。

「ん?何?」

「いや、何でもねぇ」

見ていることに気付いたのかこっちを向いて首をかしげる。

「そういえば最近物騒だよなぁ」

「何が?」

「なんか自殺した奴等が同じ様な死に方してるってニュース」

「…あぁ、そんなのもあったなぁ」

「そんなのって…ニュース見てないのかよ」

「いや見てるけど…」

「なんなんだろうな」

「そう、だね」

なんだか返事の仕方が少しおかしい気がする。

その話しはそこで終わりになって、明日の授業や間近に迫った試験、そんなことを話した。



―――…怖くなんか、ないんだ。



「翔、これ。渡しに行ってくれる?」

疑問系でありながら完全に拒否権は与えられていなかった。笑顔でそう言う母親の手には数冊の本。

家が隣り同士で、あいつと俺は幼馴染という奴で。当然のごとく、親同士も仲が良い。本はあいつの母親から借りたらしい。自分で行くのは面倒くさいからという理由で疲れて帰ってきた子供をこき使うとは。

どうせ拒否権は存在しないので何も言わずに本を受け取り家を出た。



―――…抜け出すために。



一応インターホンを押す。

「…れ?っかしいなぁ」

いつもならすぐに誰か出るのに。

首をひねりつつ勝手に玄関に入る。十数年もお隣さんをしていればこんなもんである。鍵はかかっていない。

そりゃそうか。つい数十分前に分かれたばかりだし、絶対に人はいるはずである。なら、なんで出てこない?

靴を見ればおばさんは出かけているらしく、靴がない。

とりあえずお邪魔します、と小さく呟いて家にあがる。

居間のテーブルの上に本を置くと、二階のあいつの部屋へ向かった。

もしかすると寝ている可能性がないでもないが。なんとなく、行ってみようという気になった。

「おい、いるか?入るぞ?」

ふと嫌な予感がした。大抵こういうときは碌な事がないし、当たる事も多い。

返事が無かったので勝手に開けることにした。

「あぁ、翔君。どうしたの?」

やっぱり、いた。がしかし。

「どうしたはお前だろ 」

あまりの事態に現状も忘れて思わず突っ込む。

こいつは。夕日で紅く染まった部屋の中で、片手に折りたたみ式のナイフを持って笑っていた。手首から、血が流れていた。

「何やってんだよ!」

そうじゃなくて。早く電話しなくちゃとか。誰かいないのかとか。なんでこんな事してるんだとか。色々な事が頭に浮かんで散っていく。

「えーと。自殺?」

そんな普通にさらりと言うことじゃないだろ!しかも疑問系かよ!

早く、救急車を呼ぶべきだろう。こんなことを聞いている場合じゃない。でもこいつをこのままにして行って良いわけが…。

「翔君が来ちゃったから失敗、かな」

ぽん、とまるで教科書でも置くみたいに机の上にナイフを置いた。

「失敗って…っ」

とりあえず、救急車が先だ。この様子だともうその気はない様だし。

そう判断すると、下の階まで駆け下りて電話をかけた。



―――…さぁ、一緒に。



もちろん大騒ぎになった。

そりゃまぁそうだろう。いきなり自分の娘が救急車で運ばれたなんて聞かされりゃ。

「それにしても馬鹿ねぇ。超がつくほど不器用なのに…」

はぁ、と溜め息をつきながらおばさんは言う。

「確か、自分で修理しようとして切ったんですって?」

まさか自殺しようとしてました、なんて言えるはずもなく。適当に話していたらそう

いう事になっていた。

「マヌケにもほどがあるって言うのに…」

「まぁ、そんなに深い傷じゃなかったんだから良いじゃない。痕もちゃんと消えるん

でしょう?」

「そうだけど…」

そう言ってまた溜め息をついた。



「あ、翔君。驚かしちゃったねぇ」

大事を取ってと言うか。傷跡を縫い、場所が場所だったので輸血やらなんやらでさして大きな病院でもなく部屋にも開きがあったためそれじゃぁと二、三日入院することになったこいつに事情を聞くため来たのだが。

「あれ?えっと…最近さ、前翔君が言ってたあの事件あるじゃない?」

「自殺の?」

「そうそう。あれね、繋がり知ってるかもしれない」

「……はぁ 」

それは確か警察が捜しているのではないだろうか。なんでこいつが。

「翔君、その人たちの共通した死に方わかる?」

「……っと。失血死…っておい?」

「ネットでね~。なんだかそれを進める危ないサイトがあってさぁ」

なんでそんなところに行くんだよ。

「そこねぇ、なんだかニュアンス的にみんなで死ねば怖くない?穢れた世界を捨てるために?そんな内容。多分、その人たちそこ見てたんじゃないかなー…」

内容は絶対違うと思う。こいつのことだから絶対に妙な省略と訳をしてるはずだ。

「そこの内容がとにかくぶっ飛んでてねー」

先を聞きたくない。とてつもなく。

「最初はそうでもなかったんだけどさ、読んでるうちにだんだんあぁ、そうなのかなーって思って」

あぁ、聞きたくなかった。つまり流されたのだ、こいつは。そのサイトとやらの雰囲気に。

本当に、馬鹿にもほどがある。確かに流されやすくはあったけれど。流されるにもほどがある。

これは親には言えるはずもない。

あいつもそのつもりはないらしいので、絶対に言わないと約束をした。

「そういえばさ、いいかげん翔君ってのやめねぇ?」

「だって小さい頃からこれだから直しようがないし、直すつもり無いし。それに今更だよね」



「ただいま」

軽く溜め息をついて居間にはいる。

「あら、お帰りなさい」

「いつも迷惑かけてごめんなさいねぇ」

それならもう少しあの性格をどうにかしてくれというのは間違ってはいないと思う。

状況に流されて死のうとするなんてただのアホだ。

「いえ、べつに…。じゃ、部屋戻ってるから」

さすがに目の前にして本当のことなんて言えないが。

閉めたドアの向こうでまだ話しは続いている。

「お兄ちゃん達にそっくりねぇ」

「えぇ。でも、話し方まで似なくても…」

「でも翔ちゃんはしっかりしてるからうらやましいわ。うちの子ったら…」






随分昔の文章ですが、せっかくなので投稿しました。

ジャンル、何が正しかったのか何もわからない…。

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