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ルカは救いのヒーロー?

 不思議な男の子、ザシキワラシの瑠夏(るか)

 彼の話を信じるなら、わたしの「夏休みループ」の原因は『ユガミ』さまということになる。

 妖怪か怪異か、もののけか。正体不明のモヤモヤしたアレがループを引き起こしているってことか……。

 聞きたいことは山ほどある。でも、いちばん聞きたいことはひとつ、


「あ、あのさ……。それで『ユガミ』さまに狙われたらどうすれば」

「だんだん時間と居場所を失って、最後は文字通りアイツに喰われちまうんだぜ! やべぇな怖いぜ」

 あははっと笑う。

 なんでそんなお気楽なのよ。

「もうっ! 真剣に聞いてるのに!」

「アオ、ごめん」

「いいけどさ……。だからその、助かる方法っていうか、繰り返すループから逃げるにはどうすればいいの?」

 期待をこめてもういちど聞く。

 ちょっと頼りないし不安だけど。彼は味方だと信じたい。

 この状況で頼れるのは、目の前に現れてくれたザシキワラシのルカしかいないんだから。


「んー、難しいなぁ」

 ルカは腕組みをして、あぐらをかいて、天井を見上げている。

「むずかしいの?」

「『ユガミ』ってヤツはこのへんだけじゃなくて、日本中どこにでもいて、いろんな悪さをする怪異なんだ。人間の元気を奪ったり、存在感を削ったり。妖怪でもあやかしでもない、そういう『モノ』であり存在なんだ。世界の歪みから生じるから『ユガミ』って呼ばれてて……。だから倒したりやっつけたりもできない」

 説明がむずかしい。けど、すごく怖いヤツなんだってのはわかった。そんなのがウロウロしているなんていままでぜんぜん知らなかった。

「どうして、急にわたしの周りに来たのかな」

「そりゃ、アオが暗い顔してっからだろ」

「え……? 暗い顔って」

 たしかにずっと笑っていない気がする。

 ループして悩んでて、考えてばかり。

 どんどん暗い気持ちになっていた。


「そ。アイツらは人間の陰気、暗い気持ちやマイナスの感情が大好きなのさ。一人でいる子供が大好物。孤独な人間は喰いやすいからな」

「孤独な……」

「思い当たるだろ? だから見えるようになったんだろ」

「そ、そっか」

 なんだかショック。

 夏休みになってからずっと一人だった。

 友達ともおしゃべりしていない。

 おばあちゃんはいたけど「一人でいる子供」って言われると確かにそう。

 チャンスはあったのに話しかけることも、勇気をもって遊ぼうって言ってみることもしなかった。


「そんな暗い顔すんな」

「だ、だって」

「泣きべそかいて部屋に閉じこもったら終わりだぜ? それこそ再起不能、アイツに心も喰われちまう」

 怖い。

 そんな……。

 わたしが『ユガミ』様を呼んだ……ってこと?

 でも、そんな。

 じゃぁ、どうすればいいの?


「あの……よくわからないけど、ルカなら……やっつけてくれるとか、できないの?」

「はぁ!? オレはただのザシキワラシだぜ? 勝てるわけねぇじゃん、あんなヤツに」

 自信満々で言いきった。

「えぇ……!?」

 実はルカは強くて、悪いオバケを退治してくれる……って、一瞬期待したわたしがバカだった。

 ヒーローみたいな活躍を期待していたんだけどなぁ。助けにきてくれたと思ったのに。


「言っとくけど、戦うとか無理だからな」

「普通の子供と変わらないじゃん……」

 がっかり。

「あぁ! オレらザシキワラシは子供の精霊。家にいるだけで幸せが舞い込む……らしいぜ?」

 らしい……って何よ。

 幸せが舞い込むって聞いたことはあるけれど。

 え? 「オレら」ってことは他にもいるの?


「いいか? こうしてアオの前に出てきて、話すのだってスゲーパワー使うんだよ。姿を保てるのは三分ぐらいだし。特別な力も妖術も使えないんだぜ?」

 無いぜ? ってカッコつけないでよ。

 しかも三分って、そろそろ消えちゃうってこと!?


 そんなことより、大事なことか知りたい。


「えっ、あのさ、じゃぁどうすればいい!? わたし……これから、それだけおしえて!」

 すがるような気持ち。


「時間のループか? そこからの脱出方法は自分で考えるしかないぜ。でもヒントならあるかも……」


「なに!? なんでもいい、おしえて!」

 わたしは身を乗り出す。


「さっきも言っただろ。アイツが嫌いなことをするのさ」

「『ユガミ』さまが……嫌いなこと?」

「そっ! 笑って元気に生きる。これがいちばんの対抗策だぜ!」

 親指を立ててニッと笑うルカ。


「え……ぇ? それがヒント? 対抗さく?」

「暗い顔して、一人で悩んで、部屋に引きこもってるとダメさ。どんどん時間も存在も削られちまう。だから誰かと話して、友達になって、遊んで。元気をもらうんだ」


「元気を……もらう?」

 わたしは、はっとした。

 すごく簡単そうで難しい。

 でもいちばん、効きそうな気もする。


 なぜそう思ったかって?

 だっていま、わたしはルカとこうしておしゃべりをして、すこし笑ったり、ガッカリしたりして、元気になれたもの。


「な? まぁがんばれよ、アオ」

 ルカは立ち上がった。まるで何処かへ行くみたいに。

「ちょっとまっ……」

「アオや、おるけぇ? 誰かお客さんかぇ?」

 玄関先からおばあちゃんの声がした。

 一瞬、ルカから視線を外した次の瞬間。

 ――ルカ!?

「消え……」

 彼はこつぜんと消えてしまった。

 まるで煙のように、居間にはわたし以外誰もいなかった。

「声がしたもんでの……?」

 おばあちゃんが野菜を抱えて居間にやってきた。


「あ……ううん、誰もいないよ。ゲーム……してただけ」

「そうけぇ」

 おばあちゃんは何事もなかったかのように、台所へ向かう。


 その背中を視線で追いながら、もういちど居間と、隣の台所、そして奥の暗い廊下を確かめる。

 でもルカの姿は見えなかった。

 今までずっとおしゃべりしていたのに。

 怖いというより不思議な気持ち。

 夢でも見ていたのかな……?

 でも、つけっぱなしのテレビの画面。そこに映ったゲームの画面を見たとき、わたしは息を飲んだ。

『キャラクター名/ ルカ 』

 キャラメイク画面で男の子のアバターがいて、ネームに『ルカ』と表示されていた。

 キツネみたいな耳を生やした男の子のキャラクターがいる。

「ルカ……!?」

 わたしはコントローラをつかんで操作する。

 自分はこんなの登録していない。でも『あつまれアニマルの森』の住人として『ルカ』はわたしの作った家のなかに勝手に住んでいた。


『……がんばれ、アオ』


 メッセージが表示される。

 コンピュータが自動応答するキャラみたいに、勝手に動いていた。


「あ……はは……! うん、がんばってみる」


 わたしは小さく独り言のように返事をした。


 そして四回目の8月8日は過ぎていった。


 家で作戦をいろいろ考える。

 自分にできること。

 それはオバケみたいな『ユガミ』様を退治することでも、逃げたり、隠れたりすることでもない。

 ルカが教えてくれたヒント。

 元気でいること。

 笑顔でいること。

 できることから変えてみよう。

 それしか……ない。

 ルカはきっと、わたしに勇気をくれたんだ。すこし前向きに進める「勇気」を。


 その夜は、ルカの声と姿を忘れませんように……と祈りながら眠りについた。

 

 翌朝、まぶしくて目が覚めた。

 眠い目をこすりながら枕元の電子時計の表示を確かめる。


 ――8月8日 AM 5時50分


「……」

 また同じ日がやってきた。

 テレビをつける。

『8月8日月曜日! 今日のニュースです……』


 やっぱり。わたしは一日だけのループのなかにいる。

 五回目のループ。

 五回目の8月8日。

 永遠につづく夏休みにわたしは閉じ込められている。


 でも、なぜだろう?

 もう怖いなんて思わなかった。

 まっすぐ窓の外を見る。

「良い天気……」


 ルカ、わたしがんばってみるね!


<つづく>





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― 新着の感想 ―
[一言] 3分…… ウ○トラマンですね! そしてこの励ましは嬉しい! やっぱ座敷わらしは優しい子なんですねえ……
[良い点] アオの敵は単なる蜃気楼と思われた『ユガミ』様。 そして救世主と思えた座敷童の瑠夏は、姿を見せていられるのがたった3分であるという。 3分でできるといったら『インスタントラーメンの湯戻し』『…
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