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攻略開始

部屋に戻り、これからの行動を整理する。

普通なら王子から攻略して行くが、今回はできるだけ早くバグの修正を要求するために1番難易度の低いルイを攻略していくことに決めた。

そうと決まれば実行あるのみ。

水を持ってきた侍女のミナにはお礼を軽くすませ、後できちんとした謝罪をすることにする。

王子のために作っていたのであろうブランケットを羽織り、今、ルイが住んでいる宿屋へ私は早足で向かった。


着いたそこは、騎士が住んでいると思えないほど豪華で気品がある屋敷のような建物。

(一応、公爵なんだしこれくらいは普通なのかな…)

そんな考えは一旦やめて早速、ルイを呼ぶ。

近衛騎士に任命したら確実に着くだろうけれどそんなことでは絶対に好感度は上がることはない。

このゲームの目指すは結婚。地位だけでの関係は結婚なんてそんな関係、絶対に無理だ。

だからこうして、直接来て少しでも心を開いてもらおうとする試みである。

奥の方からルイが出てくるのが見えた。

「ルイ、話したいことがあるの、時間を貰ってもいいかしら?」

もちろん断ることなく彼は黙って私の3歩後ろを歩くのだった。



美しい庭園を歩くと東屋が見えてくる。

「長くなるから座って」

本当は手短に話すつもりだが、自分だけ座っているのは主従関係が出ていて嫌だった。

少し躊躇っていたルイだったが、私が2枚のハンカチをひこうとするのを見ると、ハンカチを持つ私の手をとめ、隣に腰掛けた。

「ジャネット様にそんなことさせるわけには…」

「いいのよ、私はそれをしなければならないくらいの罪を犯したのだもの…」

この世界ではハンカチを敷くということはその人に好意・敬意・服従心のどれかを意味する。

彼は敬意と受け取ったのだろうがはっきり言ってどれでもいい。

私が上からルイを見ていないことさえ彼に伝わってくれるなら。

「そうですか…」

沈黙が辺りを包む。

この、嫌な空気を破るために私は息を深く吸い込み、考えてきた言葉を声に出した。

「5年前、本当にごめんなさい。こんな言葉で許されないのはわかってる。許してもらおうなんて思ってない。でも、もし良かったらもう一度、私の近衛騎士になって欲しい。我儘だけどあなたがいいの。今、答えを出さなくてもいいわ。私が地位が高いからという理由じゃなくて、あなたがいいと思えるかどうかで決めて欲しいの。時間を取らせてごめんなさいね。」

私は早足に東屋を去った。

告白同然のことをして一緒にいることは私にはハードすぎる。乙女ゲームを何度もやってもやっぱり慣れないものはなれない。

だが、雲ひとつない青い空は私の不安を少し晴れさせてくるのだった。


次にやることは王子との婚約破棄だ。

王子と婚約なんてしてたら恋愛なんて出来ない。

悪役令嬢が婚約破棄するのは簡単だ。私を嫌っている彼ならすぐに婚約破棄はできるだろう。

私は時間を取れるかという簡潔な内容の手紙をアルフォンス宛にミナに渡した。


2日後、私は王宮にあるテラスに向かい、馬車に乗っていた。

物語の登場人物が同行する場合は外へ行けるらしい。

途中、懐かしい感じがするのは多分あの時流れてきたジャネットの記憶のせいだろう。それと怯えの感情が少しあるような気がしたが一瞬の事だったためそんなに気には止めなかった。


「皇太子殿下、お久しぶりです」

口調の変わった私を見て戸惑いを少し見せたもののすぐに表情を戻し、咳払いをする。

「ジャネット、君が何の用だ?こっちも長い間君の相手をするほど暇ではないんだけど。」

相当嫌ってるぽいのか不機嫌なオーラが丸出しだ。

さっさと終わらせるべく、要件だけ伝える。

「そんなに長い話ではありません。婚約破棄をしていただきたいのです。今回の高熱で私がどれほどの罪を犯してきたのか実感しました。こんな私には皇太后など務まるはずもありません。」一息で自分の意志が伝わるように言う。今までの経験上この言い方が1番効果的だ。

「私以外にも良い方は沢山いらっしゃいます。ですので婚約破棄をして頂きたいのです。どうかご決断よろしくお願いします。」

ふぅ…王になるものなだけあって圧がすごい、出来ればもう会いたくないや

これで今週のノルマは達成、あとはルイの返事を聞くだけだ。


私は帰りの馬車で今までにないくらい深い眠りに落ちた。


…め…だめ……おね…い…しあ…せな……エンド…に…


誰かが私に訴えかけるような夢を見た気がする。でも思い出そうとすると、初めの時みたいな酷い頭痛が襲ってくる。

今は考えるのやめよ…

馬車が止まり、ドアが開く。

降りようとすると右でルイが手を差し出している。

その手を取り、私はできるだけ優しく見えるように口角を少しあげ微笑んだ。

「ありがとう、またよろしくね、」

彼は軽く会釈をする。前にあった時よりも少し柔らかな顔になっていた。


《perspectiveルイ》

俺の家系は代々公爵家に仕えることが決まっていた。

もちろん、俺も将来は公爵家の若奥様に仕えるのだと信じて疑わなかった。

しかし、配属されたのは我儘なお嬢様。毎日、騎士がやるべき事じゃないような雑用をやらされ、精神的に疲れ果てていた。

そんな日々を続けていたがある時、事件が起こる。

ジャネットの10歳の生誕祭。

数時間が経った時、どこからか1匹の魔物が入り込んできた。そこから、どんどん魔犬は仲間を増やし賑やかなパーティーは一変し戦場へと変わり果てる。

何が起こったのか分からなかった俺はただ立ちつくしているだけ。目の前に敵が来ても体は動かず、右腕を失う事で正気を戻し、それでも逃げることしができなかった。


その時、俺は自分の弱さを改めて実感したが、それを全部ジャネットのせいにした。

俺が弱くなったのはあいつのせいだ。練習の時間も十分に取らせず、雑用ばかりやらせたあいつの。

あいつに仕えなければ右腕を失うことなんてなかっただろうに。

ジャネットの騎士を降りさせてもらい、俺は休養という形で剣を握らない道を選んだ。


そんな俺の右腕を奪った彼女がハンカチを敷こうとし、隣に座っている。

右腕を失った俺に敬意を払っている貴族の女性など今までに見たこと無かった。

「あなたがいいと思えるかどうかできめてほしいの」

彼女はあの頃と変わっていた。

こんな俺にも選択肢を与え、命令という手段を取らなかった。

こんなに優しい方になっていたのか…

いや、違う。

その時気づいた。

俺が右腕を失ったのは彼女のせいでは無い。練習時間などは沢山あったはずなのに、雑用を言い訳に擦り付けていたんだ。

彼女は、強制的にやらせることはあまり好まなかった。

ただ、地位だけで俺たちが従っていただけ。ずっと勘違いしていただけなのかもしれない。

このお嬢様の力になりたい。

あの時、彼女に理由を擦り付けてしまったことを償いたい。

もう一度、この方の騎士になりたい。

そう思うのだった。


ルイを近衛騎士につけることが出来たら、次は義手だ。

右手がなかったら剣さえ持てない。


ヒロインとルイが仲良くなるきっかけは、右腕を使えなかったルイにヒロインが義手をあげることからだ。

その義手は城下町のおじいちゃんが作ってくれるのだが、そのおじいちゃんの攻略がなかなか難しい。アイテムを集めるハンターゲームや材料を加工するためのリズムゲームがあり、1番技術的な面が必要な攻略だ。それでも、ルイを攻略することを選んだのは義手をつければ結婚まっしぐらで行けるから。

ここさえクリアすればあとは何とかなる。

「とにかく頑張るぞ!」

誰もいない部屋の中、私は大きな声を上げて気持ちを高めた。


「ルイ、行くわよ。」

「どこにですか!?」

次の日、朝早くにルイを誘いに行った。

義手装具士のおじいちゃんの居場所は大体わかるから直ぐに行きたい。

「ここまでお願い。」

私は予め作っておいた地図を御者に渡し、ルイと馬車に乗るのだった。


ついたそこは画面の中にあるまんまの建物。

大通りから1本奥の位置にあるその店はどんよりと暗い雰囲気を漂わせるている。それでもここの店の技術力は確かだ。

「すみません、義手を作って頂きたいのですが…」

中から顔を出した義手装具士のジェームズは右腕が義手になっている。しかし、その腕は本物のようになめらかに動いている。

私を上から下まで見定めるような目で見てから彼は眉間に皺を寄せた。

「貴族にやる義手なんかない。お貴族様はお貴族様らしく専属でも雇ったらどうかね。」

案の定、冷たい反応だ。貴族関係で昔なにかあったらしく今でも毛嫌いしているという設定があったはずだ。こういう細かいことも作ってくれていてマニュアルに載せてくれている運営には感謝しかない。

でもこんなところで引き下がる訳にはいかない。

「ジェームズさんの義手を見て、魅力を感じたんです!あれほどまでに身体と融合できる義手を私は見たことありません。どうか、私の騎士に作っていただけませんか…何でもしますので」

彼は私の勢いに押されたのか少し悩み始めた。

数秒の沈黙が過ぎた後、口から出てきた言葉は私の予想通りであった。

「わかった、なんでもやってくれるんだな。なら、スムース山の頂上に生えている花を取ってこい。それが無ければ、いい義手は作れん。ちょうど今切らしてるところだから、助かったわい。」

スムース山と言ったらこの国でいちばん高い山であり、頂上まで登るとなると初心者で7時間はかかる。

普通のお嬢様なら途中でバテてしまうだろう。でもこの私は何十回も悪役令嬢を演じてきたのだ。肉体も精神もほかのお嬢様より強い自信がある。

「分かりました。1週間後にまたこちらに伺います。」

私は店を出て馬車に戻った。


「ジャネット様、こんな私なんかにそこまで無理なさらなくても良いですよ、普通の義手で十分です。こんなに細い足と腕で何が出来るというのですか」

ルイは馬車に入った途端、私を叱咤した。

怒るのは分かる。私が怪我などしたら責任は近衛騎士のルイだ。それも「自分のために」だなんてなったらプライドが傷つけられるだろう。でも、これは譲れない。早くここから出るには、彼を攻略するしかないんだから。

「ごめんなさいね…」

私は、ルイの言うことを聞けないことと彼を利用していることの罪悪感を言葉に乗せた。


次の日、早速山へと向かった。

「お嬢、お手をどうぞ」

ワンコ系なルイに様をつけて呼ばれるのはなんか違うなと思い、お嬢と呼んでもらうことにしたのだがなかなかの破壊力。心臓がやばい。やめといた方が良かったかもしれないなんて思ったがなんか勿体ない気もしたためそのままにすることにした。

「お嬢がやることじゃありませんって。そこまでしていただく訳には行きません。今からでも戻りましょう。」

馬車に乗ってる間、ルイはひたすら私を説得しようとする。

だが、事情をうまく説明できない私は、「ごめんなさい…」とまた同じ一言だけ口にし、沈黙を貫く。本当はきちんと言った方が楽になるかもしれない。しかし、ただの頭がおかしい人と思われてしまったら、攻略対象どころではなくなるのではないか。攻略できる可能性がゼロに等しくなってしまうかもしれない。

それはやだ…

胸がチクリとしたような気がしたが、ジャネットに持病がある設定はなかったためその時の私は気にしなかった。



「はぁー、すずしぃ!」

王都から離れたところにあるスムース山は空気が綺麗なことで有名だ。

日本で言うところの富士山並みの高さを誇るスムース山だが、1合目から歩かなければならなく道がせまい山である。

悪役令嬢をやってる私、実は趣味は登山であり、富士山は何回か登ったことがある。

「じゃあ行きましょうか!」

1合目から5合目までは順調。

途中で見たこともない植物を見て驚いた私を見て普段笑わないルイが笑ったり、私が急にピクニックしようと言い出したのにわかっていたかのようにすぐに用意してくれたり。

その度、胸にチクリと痛みが走る。

(帰ったらお医者様にみてもらおう…重い病気じゃないといいんだけど…)

六合目から雰囲気が変わりどんよりとしてきた。

「ここからが本番よ!着いてきなさい」

最近ずっと仕事ばかりだった私はウキウキで山を昇って行った。ルイも苦笑しながら着いてきてくれる。いつも1人で登っていたけれど、こういうのも楽しいかも。

六合目も半分来た時、不吉な予感がした。空気が先程よりも重く、前にに進んでは行けないと言っているかのようだった。

「お嬢、これ大丈夫です?」

1回引き返そうか迷っていた時、

グルルルルル…

犬にしては野太い鳴き声が鳴り響いた。

「え…ルイ、これって…」

ジャネットの記憶からだろうか。一瞬で分かってしまった。

これは魔犬の鳴き声だ。

「お嬢、今すぐ逃げてください、全速力でふもとまで走るんです、俺はあとから着いてくんで」

乙女ゲームの攻略対象のルイだ。必ず生き残ってくれるはず。

「ありがとう!絶対に無事でいなさいよ!」

振り返って大声で気持ちを伝える。

そして、私は前に向き直り走り出した。


「はぁ、はぁ」

五合目の半分の所まで降りてきただろうか。私の周りには魔犬は1匹もいなかった。

ルイは大丈夫だろうか。

この国、最強の剣士だ。そう簡単には死なないだろう。

何か忘れてしまっている気がする。

だが、思い出すことは出来ないため諦めて私はゆっくり下山することに決めたのだった。

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