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「今日は疲れたからもう休もう」


ライオネルが言うと、ソフィーも頷いた。


「メアリーが遠くに行くのは寂しいけれど仕方ないわね」


(私が北の大地に行くのは決定済みなのね)


絶望的な気分になりながらメアリーはソフィーと部屋に帰るために部屋隅へと移動しようとするとデュークに腕を掴まれた。


「ひぃぃ」


思わず悲鳴を上げてしまうメアリーにデュークは無表情に言う。


「どこへ行く?」


「どこって、ソフィー様の侍女ですので準備をしに」


メアリーが言うと、デュークは首を振った。


「ソフィー妃の部屋は距離が離れすぎている。俺が死んでしまう」


「あっ」


(そうだった!デューク様と離れたら死んでしまうぐらいの呼吸苦になるのだったわ!)


すっかり忘れていたが、ソフィーの部屋行くことができないのならどうしたらいいのだろうか。

困惑しているとデュークが当たり前のように言う。


「これからは俺と同じ部屋になる」


「えっ!」


驚くメアリーよりも大きな声でソフィーが声を上げた。


「ダメよ!無理やり手籠めにするようなエロ親父じゃあるまいし!もっと紳士的に振る舞うって言っていなかった?!部屋は隣同士!これは譲れません」


代わりに怒ってくれるソフィーにメアリーは何度も頷いた。

同じ部屋などありえないと言うメアリーにデュークは残念そうに頷く。


「仕方ない。部屋は隣同士で、それぐらい離れていても問題ないだろう」


「でも、それだと仕事はどうすれば」


「侍女の補充なんてすぐできるよ」


ライオネルが言うとソフィーが腕を叩いた。


「メアリーの代わりなんてそうそう居ないわよ。私の癒しだったんだから!でもそれ以上にデューク様の代わりは居ないから仕方なく許しているのよ。私の侍女だったのに」


「わかっているよ。ということで、メアリーは侍女の仕事はしばらくお休みしてデュークが仕事できるようにしてあげて」


「わかりました」


上司の命令は絶対だ。

メアリーは素直にうなずいた。





翌日、メアリーは住み慣れた寮ではなくデュークが休んでいる隣の部屋で目が覚めた。

昨日から続くありえない出来事に疲れが取れた気がしないが、今日は北の大地へ行く準備をしないといけないのだ。

早く帰らなければいけないデュークに合わせてメアリーも行くことになったが正直気が重い。


「行きたくない……」


優しい人に囲まれた住み慣れた環境を離れ寒い地へ行きたくもない。

それもピリピリした空気を出す恐ろしいデュークとだ。

重い気持ちのまま軽く身支度を済ませて荷物を取りに寮に戻った。

北の大地に行ったらどれぐらいで帰ってこられるのだろうか。


女子寮の自室へと行き住み慣れた部屋へと入る。


「ここにもしばらく帰ってこられないのね」


ある日突然家を追い出されてから約6年間寝起きした部屋はもう自分の家のようになっていた。

与えられていた寮の部屋は一部屋。


広くは無いが住み慣れた部屋は6年間の思い出が詰まっている。


鞄を取り出して着替えを鞄に詰めているとドアが乱暴に開かれた。


何事かと驚いて振り返ると、青い顔をして息を切らしているデュークが立っていた。

デュークを支えるようにライオネルが肩を貸していた。


女子寮ですけれどという言葉を飲み込んで目を丸くしているメアリーにデュークが青い顔をして静かに言った。


「離れるなと言っただろう。危うく呼吸が出来なくて死ぬところだった……」


息を切らせながら言うデュークの額には汗が滲んでいる。

離れると息が吸えなくなるという事をすっかり忘れていたメアリーは慌てて頭を下げた。


「申し訳ございません」


「それで準備はできたのか」


髪の毛をかき上げながら言うデュークに何事かと様子を見ていた廊下に居た女性達が甘い息を吐いた。

少し弱っているデュークは今までになく色っぽい。

メアリーも思わず胸がドキドキしてしまう。


「持って行くものは着替えぐらいですかね。侍女服も必要ですか?あちらにありますか?」


北の大地など想像もつかないが、城の侍女服を持って行ったところでデザインが違っていたら着られないだろう。

替えの侍女服を数枚手に取るとデュークが首を振った。


「いらない。そもそも、侍女として連れて行くつもりはない」


きっぱりと言うデュークに廊下に居た女性達が悲鳴を上げた。


「一体何があったの?」


「どういうこと?」


集まった女性達が口々に言うのをデュークが睨みつけた。

気迫がある雰囲気に集まった女性達は口を噤んで部屋へ戻っていく。


(やっぱりみんなデューク様の殺気が怖いのね)


怖いと思っていたのは自分だけではなかったのかとほっとしつつ侍女として連れて行かないと言う言葉に首を傾げた。


本当に傍にいるだけだとしたら、そんな生活が耐えられるだろうか。


(あまり考えない様にしよう)


そう心に決めてデュークに向き直った。


顔色もだいぶ良くなったようで、ライオネルから離れてメアリーの傍まで歩いてきた。


「必要なものがあればあちらで買いそろえればいい。俺の都合で来てもらうのだから金の心配はするな」


買うお金も無いしというメアリーの心中を察してかデュークが言った。

その後ろでライオネルも頷いている。


「侍女の時と同じように給料も出したままにしておくからしばらく休暇だと思ってゆっくり過ごせばいいよ。ずっと働いてきたんだから。兄上の魔法が使えなくなる方が国としては厄介だから」


「ありがとうございます」


素直に頭を下げるメアリーにデュークが微かに笑った。


「それに惚れた女に不自由な思いはさせない」


「えぇぇぇっ」


そういえば昨日、デュークは惚れさせるだの惚れていただの言っていたような気がする。

色々なことが起きすぎてすっかり忘れていたメアリーはデュークのあまりにも変わりように驚いて声を出した。


「メアリーは22歳だし何の問題もないだろう」


「いやいや、問題ありまくりですよ。み、身分が……」


自分は伯爵家を追い出された身だ。


(いや?追い出されたけれど私は今どういう状態なのかしら?ソフィー妃の侍女というのは結構な名誉ではあるような。でも侍女は侍女よね?)


訳が分からなくなっているメアリーをデュークはアイスブルーの瞳で見下ろす。


「身分などどうとでもなる」


身分が低ければ高い貴族の家に養子に行くこともあるのはメアリーも知っていた。

それを聞いて確かにと頷きそうになるが、自分を好いているというデュークの様子がおかしいと心配になってライオネルを振り返った。


「デューク様少しおかしくないですか?腕輪がついているストレスでどうにかなったのでは……」


「どうだろう。僕も兄上が惚れた女性を落とすところなど見たことが無いからなぁ。でも、僕が見る限り可笑しな様子はないよ」


(絶対可笑しいですってば!)


次期王様になろうと言う相手に口答えもできずメアリーは歯を食いしばって心の中で叫んだ。


「メアリーの準備ができ次第出発予定だ。荷物はまとまったか?」


デュークに聞かれてメアリーは頷いた。


「はい。たいした荷物もありませんから」


メアリーが頷いたのを見てデュークは満足そうにうなずいた。





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