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メアリーが隣に座るとデュークは少し機嫌が良くなったようで張りつめていた空気が少し和らぐ。

ピリピリした空気感が無くなりメアリーはホッと息を吐いた。


「それで、一体なんなのかしら?」


メアリーに代わってソフィーがデュークに話すように促した。

デュークは諦めたように大きく息を吐くと、話し出す。


「間違いなくその腕輪は対になっている。男と女でつけるようになっていて、お互いが離れると呼吸苦になる呪いがかかっているのだろう。今回初めてわかったことだな」


「私は元気でしたが」


メアリーが静かに言うと、デュークは言いにくそうに眉をひそめる。


「付けている男の方に危害が加わるようになっているのだろうな」


「どうしてですか?」


なぜなのだろうかと純粋に聞くメアリーにデュークはますます言いたくなさそうに顔をしかめた。


「かなり昔に作られた腕輪だろう。今は禁じられている呪詛の様なものがかけられているのは感じる。その呪詛が多分だが……」


また口を噤んでしまうデュークにライオネルとソフィーは身を乗り出した。


「さっさと言ってほしいわ。何をそんなに言いたくないの?」


ソフィーに言われてデュークは口を開いた。


「浮気防止の様なものではないかと思う」


「浮気防止~?」


ソフィーとライオネルが同時に言った。

メアリーも眉をひそめてしまう。

そんなくだらない呪詛があるのだろうかと。


「でも、それだけでデューク様が呼吸困難になるなんてありますか?」


メアリーが言うと、デュークは頷いた。


「この腕輪を作ったのは女性なのだろう。かなりの魔力を持った。だからメアリーには全く支障がなく、俺にだけ異変が生じるのだ。共にいないと、魔法も使えなければ息も吸えないと言うわけだ」


デュークの説明を聞いてメアリーは納得がいかず首を傾げる。


「浮気防止の呪いがかかっているのは100歩譲って理解しますが。なぜ私がつけることができたのでしょうか?キャロル様は付けることができませんでしたよね」


メアリーが言うとデュークは視線を逸らした。


「確かに!そういえば、対であるのならば男女で付ければ問題ないはずよ!メアリーには適正があると言っていたわね!一体何の適正?」


ソフィーが言うと、ライオネルが何か思いついたように手を叩く。


「わかった!きっと、想いあっている男女が付けることができるんじゃないのかな?」


「想いあう?」


眉をひそめて思わずつぶやいたメアリーに視線が集まった。


特にデュークに気があるわけではないが悪いことを言ってしまったような気がするがここはきっぱりと否定をした方がいいだろう。


「えっと、想いあうと言うのは間違いではないですかね……。デューク様も私となんか失礼ですよね」


隣に座るデュークを見ると彼はなぜか額に手を当てて思い悩んでいる様子だ。

様子がおかしいデュークにメアリーは戸惑いながら助けを求めるように前に座る二人を見た。

助けを求められた二人はお互い顔を見合わせて何かを思いついたように頷き合っている。

一体何なのだろうかと不審に思っているとソフィーが咳払いをした。


「デューク様がメアリーを想っているっていう線があるのではないのかしら?」


「えっ?まさか……」


何て失礼なことを言うのかと、メアリーは隣に座るデュークを恐る恐る見るとばつが悪い顔をして顔を背けている。


「いやいやいやいや。ソフィー様そんなバカなことありませんよ。私なんて可愛くもないし、綺麗なお嬢様でもありませんし。デューク様に失礼ですよ」


デュークの気分を損ねてしまったのではないかとヒヤヒヤしながら言うメアリーだったが、ソフィーとライオネルは真顔で首を静かに振った。


「今気づいたのだけれど、メアリーが家を追い出されたのを知らせたのはデューク様だったわよね。メアリーが居る場所すら知っていたわよね……」


「えっ?」


ソフィーのまさかの言葉にメアリーは絶句する。


たしかに、家を追い出されたのは雪がチラつくぐらい寒い日だった。


夕暮れが近づいて泊る場所もなく困っていたところにソフィーが迎えに来たのだ。

偶然とは思っていなかったが、王家の情報は凄いのだなと感心したが違っていたらしい。


恐る恐るデュークを見ると、頭を抱えている。


自信の塊のような人が頭を抱えている姿に驚いてメアリーは口を開けたままソフィー達を見た。

ソフィー達も信じられないものを見るように目を見開いている。


「私をからかっています?」


もしかして、呪いの効果から目を逸らすために嘘をついているのかとメアリーが聞くと、ソフィーは首を振った。


「違うんじゃない?デューク様はメアリーの事が気になっていて思いもがけず呪いの腕輪をしてしまい魔法が使えなくなった。そして困って対になる腕輪を付ける相手が居れば魔法が使えるようになるかとメアリーを訪ねてきたのではないかしら!違う?」


探偵のようにビシッとデュークに指をさしてソフィーは言う。

デュークの反応を窺うと、諦めたように顔を上げて大きくため息をついた。


「あらかた当たっている」


「いやいやいや。ありえないですよね?適正があるってそう言う事ですか?」


驚いて声を上げるメアリーにデュークは居直ったのか平然として頷いた。

それを見て、ライオネルも腕を組んで頷いている。


「なるほど。兄上が城に近づかなかったのはメアリーが居るからか……」


呟くように言われて、メアリーは首を傾げる。


「やっぱり避けるという事は嫌われているんじゃ……」


「違うわよ。傍に居ると手を出してしまいそうになるからじゃない?だって、メアリーはまだ15歳かそこいらだったでしょ?それに加えてデューク様は23歳。普通に幼女趣味というか変態じじぃみたいじゃない」


変態と言われてデュークは言葉に詰まっている。


「あぁ、なるほど……」


ソフィーの解説にライオネルは納得したように頷いた。

デュークも居心地が悪そうに顔を背けている。


「俺だって、まさか15歳の小娘にと思ったが今のメアリーは22歳になった。何の問題もないだろう」


小さく言うデュークにソフィーは冷めた目を向ける。


「そんな人だとは思わなかったわーと言いたいとこだけれど、腕輪がそう語っているのは仕方ないわね。でも、メアリーはデューク様の事がそんなに好きじゃないのよ。ね?」


同意を求められてメアリーは頷いていいものか迷ってしまう。


本当ならば泣いて喜ぶぐらいのお相手なのだが、6年前に人を殴ったところを思い出して暴力的な彼の事が怖いのだ。


「好きとか言う前に、身分が違いますからそんな恐れ多い事を思っても見ませんでした」


当たり障りなく言うメアリーにソフィーは大きく頷いた。


「そうよねぇ。でも、メアリーは言いにくいだろうから私が言うわね。デューク様の暴力的な所が怖いそうよ!そこを直さないと、メアリーの愛は勝ち取れないわよ!」


一人で盛り上がっているソフィーにライオネルとデュークは冷めた目を向ける。

デュークは左腕を持ち上げて腕輪を見せた。


「腕輪がある限り俺達は離れられないから、ゆっくりメアリーに愛してもらうようにしよう」


「あ、愛?」


一体何を言っているんだとメアリーは目が回りそうになる。

デュークはこんなことを言う人なのかとイメージとだいぶ違う言動に戸惑っているとライオネルはなぜか少し嬉しそうだ。


「兄上が女性に興味があることが解って嬉しいな。北の大地では女っけがまるきりなくて縁談も断り続けていたから男性が好きなのだろうかと思っていたところだ」


「実は15歳の少女が気になっていたってわけね。そしてこれはヤバイと北の大地へ行ったけれど、

22歳になったメアリーを見ても心に変化はなかったと……。普通の女性なら喜ぶだろうけれど、メアリーはどうなの?無理だったら無理って言った方がいいわよ」


ソフィーに促されるが、王子相手に無理とも言えず返答に困ってしまう。

口ごもるメアリーに居直ったデュークがにやりと笑った。


「無理などとは言わせない。腕輪がある限り離れられないのだからな。北の大地でゆっくり口説く」

「き、北の大地?」


口説くと言う言葉にも目が回りそうだったが、北の大地に行かないといけない状況に気づいてメアリーは顔を青くした。


「わたし、寒いのは苦手で……」


家を追い出された日を思い出すので出来れば一年中寒いところなど行きたくはない。


(寒いのも嫌だし、乱暴そうなデューク様の傍にいるのも無理)


声には出さず全力で拒否をするメアリーにライオネルは申し訳なさそうな顔をする。


「でも、メアリーが共に行かないと兄上が死んでしまう。北の大地では兄上の魔力が無いと防衛を突破されて獣が村を襲う、そしてゆくゆくは王都にも獣が来て人々の生活を脅かすことになる」


メアリーが犠牲になるしかないのだと言われて目の前が真っ暗になった。

倒れそうになるメアリーをデュークが支えた。


背中を支えられて美しすぎるデュークの顔が傍にあり慌てて椅子から立ち上がる。


「す、すいません。大丈夫です」


ドキドキする胸を押さえつつ謝ると、ソフィーはじっとりとデュークを見つめた。


「愛を育むのは大変そうね」


「ゆっくりやるさ」


珍しく上機嫌なデュークにライオネルは顔をしかめた。


「その腕輪はそう言う事に使ったのだろうな」


「どういうこと?」


ソフィーがライオネルに聞く。


「きっと、はるか昔にその腕輪に呪いをかけた女性は、男性と愛を育むために強制的に離れられなくしたんじゃないかな。しかも、男性側が困るような呪いをかけて」


「最悪な呪いね。それが時代を経て、女性側のメアリーにも被害が出ているわよ。好きでもない男と一緒に居ないといけないとか」


ソフィーの好きでもない男という言葉にデュークは胸が痛むそぶりを見せた。

それを見た兄想いのライオネルがにこやかにメアリーに尋ねる。


「暴力を振るう所を見なければ兄上の事は嫌いじゃないんだよね?」


「嫌いとかそんな失礼なことを思ったことはありません」


(怖い雰囲気が苦手なだけです)


心の中で付け加えるメアリーにデュークは頷いた。


「ありがとう。メアリーの前では紳士的に振る舞おう。決して暴力的な行為はしないと誓おう」


「はぁ」


なんて答えていいのか困惑しているメアリーにライオネルがまた尋ねた。


「兄上はかなり美しい顔をしているけれど、メアリーも嫌いじゃないだろう?」


「美しいと思います」


じっと顔を見ていられないほどの美しさにメアリーが頷くと、デュークは満足したように頷いた。




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