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「……緊張するわ」


メアリーは小さく呟いてデュークの部屋の前でウロウロと落ち着きなく動き回る。

ジェシカが用意してくれたお茶のセットが載ったワゴンをちらりと見た。

早く部屋に入ってお茶を淹れないと冷めてしまう。

しかし恥ずかしくて入れない。


「どうしたらいいの!」


頭を抱えて悩んでいるメアリーを通りすがっていく騎士や侍女達が不審な顔をして通り過ぎていくのを見て意を決した。


(女は度胸!)


心の中で叫んでドアをノックしようと手を上げたところでドアが内側から開いた。


「何をウロウロしているのだ」


手を上げたままの姿で固まっているメアリーを見てデュークはドアを開けたまま微かに笑った。


「お茶をお持ちしました」


昨日あったことを思い出して顔を真っ赤にして言うメアリーにデュークは苦笑をする。


「さっさと中に入ればいいだろう」


「だって……」


恥ずかしいとも言えずモゴモゴしているメアリーが可愛くてデュークは口元に手を当てて声を殺して笑いだした。

たまたま廊下を歩いていた侍女達がありえないものでも見るかのように足を止めて遠目にメアリーとデュークのやり取りを見ている。

笑っているデュークは冷たい雰囲気が無くなりかなり人当たりが良く見える。


(これは、まずいわ)


怖い人だと思われていたのにデュークの人気が今以上に出てしまいメアリーに対する風当たりが強くなったら困る。


メアリーは慌ててワゴンを押して室内へと入った。


「部屋の前をずっとウロウロしていただろう」


見ていたかのように言われてメアリーは真っ赤になりながらデュークを振り返った。


「見ていたのですか?」


「気配で分かる」


(どんな気配よ……)


辟易としながらメアリーはワゴンからテーブルへとカップを置いてお茶の用意を始めた。そうでもしないと間が持たないとお茶を淹れることに集中する。

そんなメアリーをデュークは面白そうに見ながらソファーに座って見ている。

ジロジロ見られて緊張しながらもお茶の準備を終えるとやっぱり耐えられないとメアリーは退出しようと頭を下げた。


「あの、お忙しいようなのでこれで失礼します」


逃げようとするメアリーの腕を掴んでデュークは引き寄せて自分の膝の上に乗せる。


(また逃げられなかった!)


何度目かになるこのやり取りに、メアリーは後悔しながらも力には敵わずに流れるようにデュークに抱え込まれた。


「ひぃぃ、離してください」


昨晩の出来事を思い出してより一層恥ずかしさを増してなんとか逃げようとするが、全く身動きが取れずメアリーはお腹に回されたデュークの腕を叩いた。


「愛しい人が傍にいるのに離せると思うか?」


美しいデュークのアイスブルーの瞳に覗き込まれて息が吸えないほど胸がいっぱいになる。


「そ、その愛しいという思いもまやかしかもしれないですよ。呪いの腕輪のせいでそう思わされているのかもしれないです。私も、デューク様も」


必死に言うメアリーにデュークは嬉しそうに心から微笑んだ。

微笑む顔があまりにも美しくてメアリーは目を逸らした。


「まやかしでも構わない。お前に愛おしいと思われているというこの時が何よりも喜びだ」


そう言って唇を近づけてくる美しい顔をメアリーは必死に避けた。

今流されてしまったら腕輪が外れた時に間違いなく辛い思いをする。

そんなメアリーの心情を察したのかデュークはメアリーの頬に軽く口付けした。


「今はここで我慢しよう」


「こ、ここも無理です」


恥ずかしさの頂点に達しているメアリーが可愛くてデュークはますます抱きしめた。

胸のドキドキのせいか、デュークの力強い腕が強すぎるのかメアリーは息が苦しくなってくる。


「あの、息が苦しいので力を緩めてください」


息も絶え絶えに言うメアリーにデュークは慌てて手を緩めた。


「すまない。ついメアリーが可愛すぎて」


「か、かわいい?やはり、呪いの腕輪の効果で私が可愛く見えるのではないですか?」


「違う。腕輪が着く前からメアリーの事は可愛いと思っていた」


きっぱりと言うデュークだったが、やはり呪いのせいでそう言っているのではないかと疑心暗鬼になってしまう。


「呪いの腕輪の外し方はわかりましたか?」


疑わしい顔をして聞くメアリーにデュークは肩をすくめる。


「いや?」


「……そうですか」


何も進展していない状態にがっかりしているメアリーとは対照的にデュークは上機嫌でメアリーを抱えなおす。

お姫様抱っこの状態にさせられて恥ずかしさのピークに達しているメアリーを愛おしそうに見た。


「呪いといっても俺には最高の腕輪だな。こうしてメアリーの傍にいられるなんて幸せだ。強制的に離れることが出来なくさせているのだから」


「ひぃぃ、だからその思考こそがおかしいと思うんですよ」


また顔を近づけてくるデュークの唇を避けながらメアリーは悲鳴を上げた。

頬にならキスをしていいと認識しているデュークはメアリーのそばかす辺りに音を立ててキスをする。


「ちょっと、やめてください」


「これ以上、メアリーをいじめると嫌われてしまいそうだからやめておこう」


ニヤリと笑って言うデュークは少し意地悪に見える。

やっとやめてくれたと少しホッとしてデュークの膝の上から降りようとするががっちりと固定されていて動けない。


(もう無理!助けて)


恥ずかしさで、今にも泣きだしそうなメアリーを見てまたデュークはにやりと笑う。


「明日、北の領地に帰る。今日は一日こうして過ごすか」


「ひぇぇぇ、本当に勘弁してください」


こんな姿を見られたらなんて噂をされるか分かったものではない。

王都に居ればデュークを狙っているキャロルがやってこないとも分からない。

許可も無く部屋に入ってきて勝手に腕輪を付けたことを思い出して、キャロルの傍若無人さを思い出すと胃が痛くなってくる。


「そういえば、キャロルの姿を見なかったわ……」


小さく呟いたメアリーにデュークは小首を傾げた。


「あの化粧臭い女の事か?」


「はい。絶対に私とデューク様の周りをウロウロするかと思ったのですが全く姿を見ませんでした」


あれだけデュークに執着していたのに姿は見たくないが、これだけ存在を感じないのは逆に恐ろしい。

デュークとの噂を聞いて彼の事を諦めたのかしらと考えてメアリーは首を振った。


(絶対にそれだけは無いわ!)


デュークはメアリーを軽く抱きしめて首元の匂いを嗅ぐように顔を埋めてきた。

くすぐったさと恥ずかしさで逃げ出そうとするがデュークの手が体に回されていて逃げ出せない。

デュークはそんなメアリーの首元に顔を埋めながら言った。


「あの女なら姿を見せずウロウロしているようだったぞ。そう報告を受けている」


「報告……」


「そうだ。可愛いメアリーに危害を加えるかもしれんからな。一応、見張りを付けている」


さすが王子というべきか、キャロルの事を監視していることにメアリーは安心をする。


「そうでしたか。いつ彼女が現れるかと思うと恐ろしかったのです」


「そうだろうな。あの女は頭が可笑しいから」


デュークの口からキャロルは可笑しいと言われてメアリーは彼女の異様さを理解してくれたような気がして嬉しくなった。


安心しているメアリーの頬にデュークはまた口づけをする。


「ま、また……」


呆気にとられて顔を真っ赤にしているメアリーを見てデュークは片眉を上げる。


「あの女がメアリーに近づくことは無いから安心するといい」


「それは、良かったです。安心しました」


雪が降った悲しい日に家を出て行けと告げたキャロルの顔は忘れられない。

夢でうなされるほど嫌な人で、あの日から顔すら見たくないキャロル。

城で姿を見かければメアリーが姿を隠していたが今は違う。

デュークが近づけない様にしてくれているのは安心感があり、メアリーはほっとする。

安心しているメアリーの顔を覗き込んでデュークは薄っすらと微笑んだ。


「早く北の大地へ戻ろう。そうすれば今みたいに煩わしい事も無い」


(たしかに。北の大地は寒いけれど、キャロルのことやデューク様を狙っている女性達が居ないのはゆっくりできていかもしれない)


あれだけ行きたくないと思っていた北の大地だったが今では恋しい気がする。

メアリーも早く北の大地へ戻りたいと思いつつデュークの膝の上でお茶の時間を楽しんだ。




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