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遠くから生演奏の音楽が聞こえてくる。

デュークが蹴り上げた男と騎士達が去った後は人の気配もなく、メアリーはデュークに抱きしめられたまま身動きが出来ずにいた。


「悪かった。お前の前では暴力は振るわないと誓ったのに……」


泣き出しそうな声でデュークがメアリーの耳元で呟く。

デュークの体温を全身に感じながらメアリーが声を出せずにいると、もっと強く抱きしめられた。


「ただあの男だけは許せないのだ」


囁くように言うデュークの体温を感じながらメアリーの心が少し落ち着いてきた。

今まで彼は自分に優しくしてくれたことを思い出して何とか声を出す。


「あの人は一体誰ですか?何があったのですか?」


「……時が来たら話そう。まだ証拠が揃っていない」


「証拠?」


メアリーが聞くがデュークはそれ以上話そうとはしなかった。

話さない代わりに力強く抱きしめてくる。


「俺を嫌いにならないでくれ」


泣き出しそうな声で言うデュークにメアリーは首を振った。

少しの間共に過ごした時間で彼の事が好きになり、暴力的な場面を見ても嫌いになるはずもない。


「デューク様を嫌いになんてなれません」


呟くように言うメアリーにデュークは抱きしめていた腕を緩めて顔を覗き込んできた。

アイスブルーの瞳がメアリーの瞳を見つめてくる。


「俺を……嫌いではないと言ったか?」


今にも泣きだしそうな不安な顔をしているデュークを初めて見た。

彼もこんな不安になることがあるのだと思うとまた心が落ち着いてきた。


「嫌いじゃないです」


「俺の事が好きだと言ってくれ」


懇願するように言われてメアリーは口ごもった。


「頼む。メアリー言ってくれ」


メアリーの頬に両手を置いてデュークは額をくっつけてきた。

吐息がかかるほど近くに彼を感じてクラクラしそうになる。


「きっと……きっと呪いの腕輪のせいで私たちはお互いを好きになっているんだと思うんです」


かき消えるような声で言うメアリーにデュークは首を振る。


「腕輪など関係ない。俺は6年前からメアリーを愛している。愛する強さは全く変わりない。頼むメアリー俺を受け入れてくれ」


心からのデュークの言葉がメアリーの心に響く。


もう限界だとメアリーはオズオズと頷いた。


「でも、呪いの腕輪のせいかもしれません」


「それでもかまわない。メアリー、愛している」


デュークは嬉しそうに微笑んでメアリーを見つめるとそっと口づけをした。

一瞬だけ唇に感じたデュークの熱い体温に驚いて顔を離した。


「い、一体何を」


口をパクパクしているメアリーを愛おし気に見つめてデュークは満面の笑みを浮かべる。



「もう一度するか?」


「ひぃぃぃ、いや、あの。う、腕輪が外れたら。それで気持ちが変わらなければ!お願いします」


自分でも訳の分からないことを言っているとわかっているが、パニックになりながらデュークから離れようとする。

真っ赤になっているメアリーを離してデュークは声を上げて笑いだした。

彼が笑う姿など珍しいと呆気に取られていると、デュークはそのままメアリーの手をぎゅっと握る。


「メアリーがそう望むのなら努力しよう」


上機嫌にそう言うと歩き出した。


「ど、どこへ?」


「もうパーティーには十分参加しただろう。戻ってゆっくり食事をしよう」


二人きりで食事をする光景を思い浮かべて言葉に詰まるメアリーにデュークは苦笑した。


「言っただろう?メアリーが嫌がることはしない。メアリーが許可しない限り口づけはしない」


ホッとしたような残念なような気分になりながら手を引かれ歩く。

それでもどこか幸せなポカポカした気分になって、繋がれたデュークの大きな手を握った。

幸せな気分になりながら薄暗い庭園を歩いているとふと視線を感じてメアリーは後ろを振り返る。


「ただの雑魚だ。気にするな」


「雑魚って……」


どれぐらい前から自分たちを見ている人が居たんだろうかと疑問に思う。


(い、今の見られていないわよね)


もし見られていたら恥ずかしくて城の中を歩けない。

きっと直ぐに噂が広がってしまうだろう。

隠れている相手を確認しようとしているメアリーだったが、デュークに手を引かれてその場を去った。




目が覚めると天蓋付のベッドのカーテンが目に入る。

薄いレースを重ねたカーテンの隙間から太陽が当たっている。


「昨日の出来事は夢?」


舞踏会に出てデュークといい感じになったのは幻だったのかと夢か現実か分からなくなりベッドから飛び起きた。

テーブルの上に無造作に置いたドレスの手袋と宝石が入った箱を見て現実だったと安心をする。

昨日は気持ちがいっぱいになってドレスを脱いで寝てしまったのだ。


疲労が残る体を起してベッドから降りると、ドアがノックされた。


まさか朝早くからデュークがやって来たのかと身構えたが入ってきたのはジェシカだった。

ガラガラと朝食が載ったワゴンを押してニヤニヤしながら部屋に入ってくると部屋の主がメアリーなのをいいことに適当に食事を並べると自分は椅子に座る。


「昨日はラブラブでしたわねぇ。見ていたわよ!」


ニヤリと見られてメアリーは庭園での出来事を見ていたのかと身構える。


「ラブラブ?」


「ダンスを踊っていたじゃない。あれでアンタ、何も進展してないとかよく言えたわねぇ」


昨日の昼までは本当に何も進展していなかったのだから嘘は言っていない。

ダンスの後の庭園でお互い想いを伝えあったことを思い出してメアリーは顔を赤くして悶絶する。


「いやぁぁぁ。なんてことを私はしてしまったのかしら!」


奇声を上げながらバタバタと体を動かしているメアリーを怪訝な目で見つめてジェシカは呆れたように自分に淹れた紅茶を飲んだ。


「そんなダンスを踊ったぐらいで大騒ぎするなんて。確かにアンタは何にも進展していないということはわかったわ」


本当はダンスの事で顔を赤くしているわけではないがメアリーは忘れようと大きく頷いておく。


「そうよ。ダンスなんて、あんな大勢の人の前でダンス踊ったらもう無理なのかもしれない」


もし、呪いの腕輪が外れた時にデュークがメアリーに興味が無いと言われでもしたら城に戻ってきても恥をかくだけだ。

一人で悩んでいるメアリーを見ていたジェシカは慰めるように肩を叩いた。


「悩むのはわかるわ。相手はデューク様だしねぇ。自分は釣り合わないわと思っているんでしょう?」


「どうしてわかるの?」


ハッとして言うメアリーを上から下まで見つめて複雑な顔をして微笑んだ。


「そりゃ……ねぇ?」


「なんですかそのいい方は。どうせ、可愛くないですよ。美しくもないですよ。やっぱり呪いの腕輪のせいだと思うんですよ。どう思います?」


真剣な顔をして迫ってくるメアリーにジェシカはなるほどと納得をする。


「すっかり忘れていたわ。その呪いの腕輪の存在を……。ありえるわ。アンタに異様に固執しているのはその腕輪のせいかもしれないわねぇ」


嫌なものでも見るようにメアリーの手首にはまっている銀の腕輪を見つめる。


「やっぱりそう思いますよね」


落ち込みながら机前の椅子に座るメアリーを見ながらジェシカは頷いた。


「あれだけデューク様を怖いって言っていたメアリーがすっかり好きだって言うのもその呪いの腕輪のせいかもしれないわねぇ。怖いわその呪い」


「……これ外れたらお互い好きでも何でもなくなってしまったら怖いです。私はどうしたらいいですか。城に戻ってくるのは恥ずかしくて無理です」


泣き出しそうなメアリーを見ながらジェシカは頬に手を当てて考えた。


「そうねぇ、“捨てられちゃいました”って軽い感じで戻ってくればいいんじゃない?呪いの腕輪のせいだったってことにすればみんなも大して気にしないわよ」


「そうだと嬉しいですけれど。私、そうなったらどの顔をして城に戻ってくればいいのか」


「アンタが思うよりも皆はそんな気にしていないわよ。きっと、いい縁談を持ってきてくれるわよ。デューク様が変な腕輪を持ってきたせいなんだから、ライオネル様やソフィー様がどうにかしてくれるわよ」


明るく言うジェシカにメアリーは落ち込んだまま机の上に伏せた。


「この私の気持ちも呪いの腕輪のせいだとしたら恐ろしいです」


昨晩感じた、デュークの体温も唇に残った感覚も思い出すとドキドキして心臓が飛び出しそうだ。どんな顔をして彼に会えばいいのだろうか。

この想いも呪いの腕輪が作った幻想なのだろうか。


「まぁ、若いってことでいいじゃない。朝食を食べ終わったら下げるからさっさと食べて頂戴。ちなみに今日のデューク様は隣の部屋で仕事をしているらしいから後でお茶でも差し上げたら?茶菓子は持ってくるわよ」


「……ありがとうございます」




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