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ジェシカが去った後見計らったようにデュークがやって来た。

灰色のドレスを着ているメアリーを見て嬉しそうに近寄ってくる。

基本無表情であるが、雰囲気で機嫌がいいのが解る。


「良く似合っている」


「ありがとうございます。デューク様も今日は豪華な服ですね」


騎士服ベースなのは変わらないが豪華な装飾がついている。

デュークは近づいてくるとメアリーの胸元で輝くネックレスの宝石を指で撫でる。


「メアリーの赤茶色の髪の毛とよく合っている」


赤茶色の髪の毛が好きではないが、デュークに言われるとそんなに悪くないかもしれないと思ってしまう。

これも呪いの効果なのだろうか。


若干不安になっているメアリーにデュークは手を差し出した。


「面倒な行事に参加しに行くか。顔を出す程度で問題ないだろう」


「えっ、それだけでいいのですか?」


最後まで会場に居ないといけないのかと思っていたメアリーは拍子抜けしてしまう。

何時間も居れば女性達のキツイ視線に耐えられる自信がなかったが顔を出す程度だったらなんとか持ちこたえられそうだ。


「俺が出席したという事実があれば問題あるまい」


そういうものなのかとメアリーは仕方なくデュークの手に自分の手を重ねた。



デュークに腰を抱かれるようにして会場へと向かう。


(こんな姿、デューク様を狙っていた女性達が見たらなんて思うのかしら)


殺されはしないだろうが、彼女たちの視線を思うとできれば行きたくない。

遠い目をするメアリーにお構いなしにデュークは機嫌よく会場へと向かった。

会場に近づくにつれて、生演奏の音が聞こえて人々が集まっている様子が窺える。

行きたくないと言いつつもう拒否はできない。


メアリーは覚悟を決めた。


入口に立っていた騎士達がデュークに頭を下げているのを見ながら重い気分で会場へと入った。

デュークが会場に入ると、会場内に居た人の視線が集まった。


女性達は歓喜の声を上げてから隣に居るメアリーに冷たい視線を向けてくる。


(こ、怖い。早く帰りたい)


平然を装いながらも内心はビクビクしながらメアリーはデュークに半ば強制的に歩かせられる。

どこまで行くのかと思ったが、一番奥の壇上に座っているライオネルとソフィーが目に入った。

彼らも優雅に微笑んでいるが、ソフィーが心配そうな顔をしてこちらを見ているのに気づきメアリーは少しホッとする。

壇上へと向かいライオネルとソフィーがデューク達を迎えた。


「出席ありがとう。兄上。メアリーも。ぜひ楽しんでくれ」


にこやかに言うライオネルにデュークは軽く頷く。

メアリーも膝を折って挨拶をする。


「楽しんでね」


ソフィーも優雅に微笑みながら言うと扇子で口元を隠しながらメアリーに囁いてくる。


「キャロルが来ているわ。気を付けて!」


「はい」


キャロルの名前を出され恐怖で隣のデュークの腕を掴んだ。


「あの女か……」


メアリーに引っ付かれたことに喜びを隠せないデュークは呟きながらも薄っすらと微笑んでいる。

その姿を見たソフィーは気味が悪いものでも見たような顔をした。


「デューク様が喜んでいるわ。好きな子が抱き着いてきたから嬉しいなんて気持ち悪いわねぇ」


ソフィーはライオネルに囁いている。


「いや、兄上もちゃんと男だったんだと喜ばしいね」


(これは呪いの腕輪の効果じゃないのかしら……)


呪いの腕輪のおかげでメアリーの事が余計に気になっているのではと疑問に思っているが誰も疑問に思わないのだろうか。

デュークは機嫌がいいままメアリーの腰に手をまわして顔を近づけてくる。


「ならば一曲踊ってから帰るか」


「すぐに帰れるのならば頑張ります」


一曲だけ踊れば帰れると希望が出てきてメアリーは頷いた。

デュークに手を取られてそのまま壇上から降りる。

デュークのエスコートを見ていた女性達が胸を押さえながらじっと見つめているのが見えた。きっとお化粧の濃さから言ってデュークを狙っていた女性達だ。


デュークは女性達に目もくれずメアリーをエスコートしながらダンスフロアーへと行く。

流れるようにメアリーの腰を引き寄せゆっくりと踊り出す。

ダンスなど何年振りか分からないが、ソフィーが練習しているのを見ていたおかげかなんとかデュークについて行くことができた。


力強いデュークの腕にホールドされて抱き合うような恰好になってしまい、隙を見て離れようとするが全く体が動かずにメアリーがデュークの胸に抱きついているように見える。


「あの……少し腕を緩めてください」


小さな声で言うメアリーにデュークは楽しそうにしているだけで決して力を緩めようとはしない。

メアリーの身動きが取れないことを良い事に、デュークは顔を寄せてくる。

美しい顔が目の前に迫ってきてメアリーは顔を背けた。


「ちょっ、なんでこんな注目されているところで!変なことをするのですか!」


キスをしてきそうな勢いのデュークをまともに見ることもできず顔を背けながら訴える。

アイスブルーの瞳に熱を帯びているように見えて、メアリーはますます顔を背けた。


「すべての人に見せつけている」


(見せつけているって!私と踊っているのを見せつけていたら私だけが困る状態じゃないー!)


半ばパニックになりながら女性達の落胆と嫉妬の視線を感じながら何とか一曲を踊り切った。

まだ手を緩めようとしないデュークにメアリーは首を振る。


「曲終わりました。もう、帰りましょう」


「フム、約束だから仕方ない。次回はもっと楽しく踊ろう」


珍しくニヤリと笑うと、デュークはメアリーの髪の毛に口付けを落とした。

悲鳴を上げたかったメアリーに代わって、様子を見守っていた女性達が悲鳴を上げる。

ダンスフロアーからなんとか移動をして、デュークは楽しそうにメアリーの腰を抱きながら歩いて廊下ではなく庭園へと続くテラスへと向かった。

その間も女性達の噂している声がメアリーの耳に届く。


「やっぱりデューク様はあの侍女に夢中って本当だったのね。凄いショックだわ」


「デューク様は幼い少女が好きだったのかもしれないわよ。彼女が15歳の時に見染めたんですって」


口々に噂をする女性達を気にすることなくデュークは庭へと向かった。

薄暗い庭園は花の香が風に乗って漂ってくる。


「少し外の空気を吸ってから帰ろう」


デュークの提案を断れるはずもなくデュークに腰を抱かれるようにして庭園を歩く。

薄暗い庭園の木に隠れるように人が立っているのが見えてデュークは足を止めた。

知り合いだろうかとデュークを見上げると冷めた顔をしてその人物を見つめている。


「知り合いですか?」


影の形からして男性だという事は分かるが、デュークはそれ以上に彼が誰だかわかるようだ。



「あんな男は知らない。消えろ」


後半は陰に隠れている男に言うと、男はゆっくりと出てきてメアリー達に近づいてきた。

目が暗さに慣れたおかげか、男性の顔が判別できるようになりメアリーは声を上げる。


「この人、デューク様が殴っていた人……」


思わず口に出したメアリーの言葉にデュークは冷たい雰囲気のまま男を睨みつけた。


「良く俺の前に顔を出せたな。死にたいのか?」


冷たく言うデュークに男は薄ら笑いを浮かべて頭を下げた。


「ご無沙汰しております。まだ俺は諦めておりません!デューク様こそが王になるべきだと思っております。そのためなら私はなんでもします」


浮かれたようにデュークを見つめながら言う男の顔が現実を見ていないように曇っている。

男の視点が定まっていないような瞳が怖くてメアリーはデュークの後ろに隠れた。

メアリーの存在に初めて気づいた男は懐かしそうに薄っすらと微笑んだ。


「あぁ、懐かしいですなぁ。昔……」


昔何があったのかという前にデュークが素早く足で男の腹を蹴り上げた。

低い悲鳴を上げて男が後ろに飛んでいく。

倒れたままの男の胸をデュークは足でグリグリと踏み続ける。


「それ以上言ってみろ。お前を殺すぞ。余計なことを言うくせに重要なことは言わないその口はどうなっているんだ?」


デュークの周りの空気の温度が下がり、冷たくなる。

ピリピリした雰囲気にデュークの怒りを感じてメアリーは恐ろしくて震えた。

すぐに騒ぎを聞きつけた警護をしていた騎士が数名駆けつけてくる。


「どうしました?」


「この男を牢獄につないでおけ」


「ろ、牢獄ですか?」


一体何の罪を犯したのだと狼狽する騎士達にデュークは口を開こうとしてメアリーをちらりと見て息を吐いた。


「後で詳細を伝える。とにかく連れて行け」


「ハッ」


敬礼をして踏みつけられていた男を拘束するとあっという間に連れて行く。

怖い雰囲気のデュークを目の当たりにしてメアリーは恐ろしくなって震えていると彼が近づいてきた。


(こ、怖い)


手を伸ばしてきたデュークを無意識に避ける。


「メアリー、すまなかった」


謝ってくるデュークにメアリーは首を振るがやはり怖いものは怖い。

一歩、彼から下がろうとすると素早く腕を掴まれた。

悲痛そうな顔をしたデュークにあっという間に抱き込まれメアリーは身動きが出来なくなった。





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