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「デューク様、やはり私は裏方ですのでドレスは不要です」


舞踏会に出席するため王都に戻る馬車の中でメアリーは何度目かの訴えをデュークにする。

自分の膝の上にメアリーを乗せるか乗せないかで言い合いになり、それなら行かないと言ったメアリーが勝利したために前に座っているデュークは渋い顔をしている。


「城へ帰るまでの間メアリーを膝の上に乗せないというのは譲ったのだから、舞踏会には出席してほしい」


「でも、私はソフィー様の侍女ですし。城で働いている身としては楽しむ場ではないのですよ」


長年勤めていた城の催し物ではあくまで裏方で徹してきたメアリーにとって、デュークの横に並ぶのは不相応だと思っている。

ソフィー付の侍女達は全くパーティーに出席しないわけではなく持ち回りで当番を決めて出席していた。

ソフィーはパーティーに出る理由もないためにいつも仕事を選んでいただけの事だが、急にデュークと出るという事になると騒ぐ者も出てくるだろう。


特にキャロルには知られたくない。

呪いの腕輪のおかげでメアリーだけ北の大地で待っているという事は出来ないのが辛いところだ。

お互いの距離を考えると舞踏会の会場の隣の部屋で待機するぐらいだったら問題ないだろうと思うが、デュークは一歩たりとも引かない。

メアリーが知らない間にドレスも作ってあるらしく、断れない雰囲気には持ってきているが断固としてお断りしたい。

拒否を示すメアリーにデュークは腕を組んで少し考えるそぶりを見せる。


「フム、それならばソフィー妃の侍女を辞めさせて、正式に俺の婚約者として書類を作るのがいいということだな」


「そ、それだけはやめてください!」


呪いの腕輪が外れた時に、正気に戻ったデュークがやっぱりメアリーが好きだと言っていたのは気のせいだったと言われたら戻る場所が無くなってしまう。

もし一瞬でもデュークの婚約者の座にでもなればキャロルが嫉妬して何をされるか分かったものじゃない。

下手をしたら殺されてしまう。


「メアリーが傍に居なければ俺は死んでしまうのだが」


同情を誘うように大袈裟に演技臭く言うデュークにメアリーは首を振った。


「会場の隣の部屋に居れば大丈夫ですよ!」


「メアリーの姿が見えないと不安だ。もし、攫われて俺と離れたらどうする?」


「誰が私を攫うのですか!」


お互い一歩も譲らず、言い合いをしながら王都まで馬車は走り続けた。



走り続けた馬車が王都へと着くと、異様な数の侍女達がお迎えに立っていた。


(すっかり忘れていたわ。デューク様が城に滞在している間、侍女達の力の入れようを)


濃い化粧をした女性達が並んで立っているのを見てメアリーは眩暈がしそうになる。

同じ馬車からメアリーがデュークと出てきたら自分はどうなってしまうのだろうか。

恐ろしくなり、メアリーはデュークに両手を向けた。


「あの、城に居る間は私と距離を取って接してくださいね!あくまで私は、デューク様の一時的な侍女です!お願いします!」


念を押すメアリーにデュークは首を傾げた。


「言っている意味が分からないな」


「絶対に分かってますよね!」


理解できない振りをしてデュークはメアリーの腕を掴むとそのまま馬車から降りた。

馬車から引きずり降ろされるような恰好になったが、デュークの後に続いて降りてきたメアリーを見て出迎えていた侍女達が一斉に頬を引きつらせるのが見える。


(に、逃げたい)


顔を背けているメアリーを気にするでもなくデュークは出迎えている侍女達を一瞬たりとも見ずに歩きだした。


「ライオネル王子とソフィー妃がお待ちです」


侍女の一人が進み出てデュークに告げた。


「ちょうど良かった。すぐに会いたいと思っていた」


デュークはそう呟くとメアリーの腕を掴んだまま歩き出す。

侍女達の視線が恐ろしくてメアリーは目を伏せながら彼女たちの前を歩いていく。

6年も侍女として働いていたのだからメアリーのことを知らない人は居ないだろう。


「デューク様、私は後ろを歩きますので手を離してください」


デュークに囁くも聞いていない振りをしてズンズンと城の中を歩いていく。

腕を引っ張られながらライオネルとソフィー妃が待っている部屋にたどり着いた。

無理やりデュークに歩かされているメアリーを見てドアの間に立っていた騎士が不思議な顔をしながらもドアを開けてくれる。

デュークに引っ張られながら部屋に入ると驚いたソフィーが立ち上がった。


「デューク様!メアリーを乱暴に扱っていないかしら?」


怒りに満ちた顔をして言うソフィーにデュークは鼻で笑った。


「乱暴になど扱っていない。丁重に紳士的に接している」


「怪しいわ」


疑わしい顔をしてソフィーはメアリーを見つめる。


ソフィーとライオネルの前に無理やり座らされたメアリーは二人に頭を下げた。


「ご無沙汰しております」


「デューク様に酷い扱いされていない?大丈夫?」


心配そうに聞いてくるソフィーにメアリーは首を振った。


「いえ、酷い扱いはされていません」


むしろ、異様に接触してくるんですと言いたかったがそんな恥ずかしいことは言えないとギュッと口を噤む。

呪いの腕輪がはまる前まではピリピリした恐ろしい人だと思っていたが、共に過ごすようになってから一度も怖い雰囲気を感じたことは無い。

デュークが気を遣ってくれているので怖いという感想は出てこない。

困っているメアリーを見てソフィーは鼻から大きく息を吐いた。


「いいでしょう!デューク様が紳士であろうと努力しているということと、メアリーが納得していることがわかったから」


「それはどうも」


無表情に言うデュークにソフィーはまた大きく頷く。


「仲良くやっているようで良かったよ」


様子を見守っていたライオネルが微笑んで言うとソフィーとデュークはお互い睨み合う。


「はぁ。お陰様で良くしていただいています」


生活は本当に良くしてもらっている。

ただ、膝の上に乗せたがったり、肩の上に乗せて戦闘訓練をするのをやめてほしいだけだ。


「それで、どうするの?舞踏会には一緒に出席でいいのかしら?」


デュークを睨みつけてからソフィーはメアリーを見た。


「いえ、できれば裏方か距離が問題あるならば隣の部屋で待機をするかでお願いしたいのですが」


久しぶりに見るソフィーの眩しいほどの美しさに思わず目を細めてしまう。

ハッキリとした美人のソフィーはピンク色のドレスを着ていてよく似合っている。


(ソフィー様ぐらい美人ならばデューク様の隣に居ても引け目を感じないのに……)


メアリーの言葉に問いかけたソフィーではなくデュークが口を開いた。


「それは却下だ。俺の目が届かないところでメアリーが攫われたり、呪いの腕輪の事を忘れて仕事に没頭をして距離が離れる恐れもあるだろう」


仕事に没頭をしてという部分はありそうな気がしてメアリーは遠くを見つめる。

砦に居る間も何度か距離を忘れて遠くの部屋に行ってしまった時、デュークが危うく死にそうになったのが何回かあった。

呪いの効果が自分に返ってこないのをいいことに、離れるとデュークの息が吸えなくなることを忘れてしまうのだ。


「兄上が苦しんで死んでしまう恐れもあるし、かなりメアリーの話は噂で広がっているから兄上と一緒に行動していたほうがいいかもね」


デュークを出迎えていた侍女たちが微妙な表情をしていたのを思い出してメアリーは嫌な気分がしながらも聞いてみる。


「どういう噂ですか?」


「兄上が、メアリーに惚れこんで無理やり北の大地に連れて行ったって」


楽しそうに言うライオネルに、デュークの機嫌が少しだけよくなった。


「だいたい合っているな」


「しかも数年執着していたらしいわよって言われているわよ。北の大地で人の目がないことをいいことに無茶苦茶しているとまで言われて一部の女性からは気持ちの悪い目で見られているわよ」


「えっ、全て困る噂です。私、ソフィー様の侍女の仕事に戻れますかね」


不安そうに聞いてくるメアリーが可愛くてソフィーは大きく頷いた。


「大丈夫よ。メアリーが希望をすればいくらでも戻ってきてくれて構わないわ!まぁ、今回は事情が事情だけにしかたないけれども」


「ありがとうございます」


ソフィーがそう言ってくれるなら何かあっても戻れるだろう。

ただ、人の噂が恐ろしい。


お姉さま侍女達から意地悪をされないか不安になってしまう。


「とりあえず、舞踏会は二人で出席だね」


ライオネルに言われてメアリーは嫌々頷いた。


「そうだわ。当日は絶対にデューク様から離れない方がいいわよ。あのキャロルが血眼になってメアリーを探しているらしいから」


「はい」


デュークとの噂を聞いたキャロルに殺されるのではないかとメアリーは身震いをする。


「キャロルとはメアリーを追い出した女か」


冷たく言うデュークにソフィーとライオネルは頷く。


「腕輪を勝手につけようとした女だよ」


「あの女が?」


メアリーは不可解な顔をしてデュークを見上げた。


「キャロルをご存じなかったのですか?」


「興味が無いが、名前だけは知っていた。顔と名前が一致しなかっただけだ」


簡潔に言うデュークにメアリーは微かに肩をすくめた。


「あれだけ綺麗なのだから覚えていないことはないでしょう?」


デュークの周りをウロチョロしていたというのに覚えていないなんてあるのだろうか。


「綺麗?あれが?化粧が濃い、香水臭い女だというだけだな」


本気でそう思っているデュークにメアリーは少しだけホッとする。

デュークの言葉が嬉しいと思ってしまうのは彼が好きだからなのか。

彼だけはキャロルの事を気に入ってほしくないとメアリーは思った。




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