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デュークと共に砦に出勤するのも慣れたころ、詰め所を掃除しているメアリーに同じく掃除をしていたピエールがニコニコを微笑んで話しかけてきた。


「もうすぐ舞踏会ですね」


「えっ、もうそんな時期ですか」


雑巾がけをしながらメアリーは窓の外を眺める。

良く晴れているが風は冷たく、夏だという感じがしないがもう舞踏会が開かれる季節なのか。

デュークと共に出勤をするもやることが無く暇つぶしのために始めた掃除だが、手の空いた騎士達が手伝ってくれ意外なコミュニケーションになっている。


「デューク様が出席しないといけない何度かある行事ですね」


「すべてをキャンセルできるわけではないのですね」


殆ど城に戻ってこないイメージがあるが、メアリーが見かけないだけで行事には参加していたような気がする。

メアリーは眉をひそめた。


「私も出席しないといけないのですかね」


「デューク様と離れられないのだからそうでしょうね。共に行動しないと、デューク様が死んでしまいますよ」


「ですよねー」


お互いの離れた距離を認識していないとデュークが呼吸困難になってしまう。

砦の中なら大丈夫だろうと、少し遠くの部屋へ行ったときも危うくデュークは死にそうになったのだ。

それからはデュークが目の届く範囲での行動を心掛けるようになった。

始めは本当にデュークの婚約者のお嬢様だと思っていた騎士達だったが共に過ごすうちに内情が解り、メアリーに気を遣ってくれていた。

ピエールは浮かない顔をしているメアリーに苦笑した。


「何をそんなに拒否をしているのか、僕にはわかりかねるんですよね。あれだけ大切にされて、生活に困らないぐらい有り余る稼ぎをするデューク様なら僕だったら二つ返事で結婚しますけれどね」


そう言われてメアリーは唇を尖らせた。


「だって、きっと呪いの腕輪のせいでちょっとおかしくなっている可能性だってあると思うんですよ。あれだけ異様に私に固執しているのは可笑しくないですか?」


デューク曰く6年前から気になっていたというが、それならその間に何かしらアクションがあってもいいはずだ。

対の腕輪を付けているメアリーに執着しているのは呪いの効果のせいではないかと疑ってしまう。


「その呪いの腕輪は外れないのだし、もしかしたら一生そのままかもしれないですよ。だったらもういっそうのこと受け入れたらいいじゃないですか?楽になりますよ」


「私が、デューク様を受け入れるって……好きかどうかわからないじゃないですか」


メアリーが言うと、ピエールは噴き出して笑い始める。


「他人の目から見てもメアリーさんの心の中は分かりますよ。というか、多分メアリーさんより僕の方が心情をわかっているかもしれませんね。だって、僕だったら気に入らない人だったら傍にいてほしくないですもん」


そう言われると確かにと納得する。

一緒に過ごす時間が長いが嫌だと思ったことは一度もなく、むしろどんどんのめり込んで言っているような気がする。

口を噤んだメアリーにピエールは肩をすくめた。


「まぁ、ゆっくり考えてください。僕からしたら早く受け入れた方が気は楽だと思いますよ」


そう言い残してピエールは雑巾を洗いに去って行った。


残されたメアリーは雑巾を握りながら頬を膨らませる。


「……そう言われても、呪いのせいだったらどうするのよ」


もし腕輪が外れた時に、惚れていたのは気のせいだったと言われたら立ち直れない。

自分の心も、もしかしたら呪いの腕輪のせいなのかもしれないという疑いはある。

腕輪が外れても心変わりをしていないのを確かめてからではないとどうしても信用できない。

うだうだと悩んでいるとデュークが部屋に入って来た。


「どうした?雑巾片手にボーっとして」


書類を机に置くと心配そうにメアリーに近寄って来た。

体調が悪くなったのかと心配しているデュークが手を伸ばしてくるのを慌てて避けて手に持った雑巾を見えるように振った。


「何でもないです!雑巾洗ってきますね!」


早口に言って部屋を飛び出した。




掃除用具を片付けて一息つこうとお茶の準備をしてデュークの部屋へと向かう。

砦の中で広めの部屋の一室がデューク個人の部屋になっており、部下たちが出入りする。

メアリーは掃除をしたり、それでも手が空くので編み物にも最近は手を出し始めた。

そして、デュークにお茶を出すのが日課になっている。


心を落ち着かせてドアをノックして部屋に入った。


先ほどまでピエールと話していた内容を思い出して頬が赤くなりそうになるが耐えて平然とした顔を作った。


ワゴンを押して入って来たメアリーを見てデュークは時計を見る。


「もうそんな時間か」


そう言って上機嫌に立ち上がった。


書類の仕事をしている机から立たなくてもいいのにと思いつつ、いつも通り机の前に置かれているソファーの低い机にお茶の準備をしていく。

ソファーに座ってメアリーがお茶の準備が終わるのをじっと待っているデュークは上機嫌だ。

準備が終わり、さっと離れようとするメアリーの腕を掴んでデュークは引き寄せた。


(また逃げ遅れた!)


後悔しつつ、メアリーはデュークの膝の上に座らされる。

毎日、デュークの膝の上でおやつを食べないといけない状況になっているため毎回今度こそ、さっと逃げて向かい合って座ろうと決意をするが彼の素早さに勝てるはずもない。

そして毎回、デュークがメアリーにお菓子を食べさせるのだ。

いい加減恥ずかしいのでやめてほしいと何度言ってもデュークは知らないふりをする。


「本当に、恥ずかしいので放してほしいです」


膝の上で顔を赤くして言うメアリーにデュークはまた素知らぬ顔をしてクッキーを口に突っ込んだ。


「誰も見ていないのに恥ずかしくもあるまい」


甘いチョコチップ入りのクッキーを飲み込んでメアリーはデュークを見上げた。

美しすぎるデュークの顔が傍にあり、メアリーの心臓が飛び出しそうなぐらい早鐘を打つ。

ドキドキする胸の鼓動を悟られないように平常心を保とうと努力しながらメアリーは尋ねた。


「あの、呪いの腕輪の調査はどうなっていますか?外れそうですか?」


「まだよくは分からないらしいが、外れなくても問題ないだろう?」


平然と言うデュークにメアリーは首を振った。


「問題あります!生活に不自由です」


(それに、デューク様がちょっとおかしいのも問題ですって!)


呪いの腕輪が外れたらきっとお茶の時間に膝に乗せようとなど思わないはずだ。


「こうして俺を癒してくれる存在が傍にいる。呪いの腕輪があることによって、強制的に離れられない状況にむしろ俺は感謝し始めている」


「ちょっとおかしくなっていますって!」


感動的に言って腕輪にキスでもしそうな勢いのデュークにメアリーは首を振った。

呪いにジワジワ犯されているのかもしれないという不安になりメアリーは顔を青くする。


「そういえば、私もデューク様の膝の上のおやつが日常化しているような気がする!」


これはまずいと思わずつぶやいたメアリーにデュークは微笑んだ。


「死ぬまでこうして共にいられるといいな」


「いやいや、絶対おかしいです。これは呪いのせいですよ!」


お互い噛み合わない会話をしていると、ドアがノックされてピエールが入室してくる。

膝の上に乗って馬鹿みたいにお菓子を食べさせられているメアリーを見ても顔色一つ変えずに書類を差しだした。


「お疲れ様です。サインが欲しいのですが……」


デュークは書類を受け取るとさっと目を通してメアリーを膝に置いたまま器用にサインをしてピエールに返す。


「ありがとうございます」


軽く頭を下げて去って行こうとする、ピエールにメアリーは助けを求めるように視線を送った。


「あの、この状況おかしいと思いません?仕事場でこんなことして。デューク様に注意してほしいのですけれど」


助けを求められたピエールはじっとデュークの膝の上に座っているメアリーを見つめて頷く。


「おかしいとは思いますけれど、みんな喜んでいるんですよ」


「喜ぶ?」


女とイチャイチャしやがってという騎士達の不満ではないのかと首を傾げるメアリーにピエールは続けた。


「メアリーさんが砦に来てからデューク様の機嫌がいいので僕らにとっては喜ばしい事です。デューク様いつもイライラしていて怖かったから僕らは感謝していますよ。呪いの腕輪を付けたメアリーさんの事を。常に一緒に居てもらえればデューク様も機嫌がいいですしね」


そう言って去っていくピエール。


(ピリピリした雰囲気が怖いと思っていたのは砦に居る騎士の方たちも同じ気持ちだったのね)


デュークが怖いのは自分だけではないと思って納得しているメアリーの口にまたクッキーをねじ込まれる。

文句を言いたいが、デュークが上機嫌なのでいいかと口の中のクッキーを味わった。





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