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第三話 異形の竜

「なんだ、ありゃ……」


静まり返った部屋にユーゴの声が反響した。


ユーゴの、いや、六人の視線の先には、割れたカプセルと、そこから流れ出たであろう紫の液体が広がっている。

鼻を突く独特の匂いは、その液体が魔族の血であることを示していた。

そして、カプセルの中央に人影が見える。その体躯は、それぞれが収まっていたカプセル相応の大きさである。


「左右の個体は……、竜とヒトのキメラでしょうか。無理矢理ヒトに竜の力を宿そうとしたのでしょうねぇ」


すっかり興が冷めたのか、普段の口調になった灯眞がそう言った。


「ソイツらもなかなかな相手だろうが……、問題は真ん中のヤツだぜ、灯眞」


中央に鎮座する何かを睨みつけながら、ユーゴが言う。


「アイツは………、ドラゴニュートだ」


彼がそう言うと同時、ドラゴニュートが雄叫びをあげる。


ドラゴニュートは、竜の血を受け継ぐ種族だ。同じ源流を持つ『竜人族』が知識や人間との共生を選び、よりヒトに近づく進化をしたのに対し、ドラゴニュートは竜としての力や体躯を進化させ、二足歩行でき、武器を扱う腕を持つ竜として進化した。

ヒトと共に目まぐるしい進化を遂げた竜人族に対し、ドラゴニュートは衰退の一途を辿った。今やほぼ絶滅した種族と言われている。


 だが目の前に、ドラゴニュートは存在している。ユーゴと灯眞を一瞥すると、ドラゴニュートは右手を掲げた。するとそこに、稲妻を象った氷のハルバートが形成され、そのまま振り下ろす。

同時に鋭い氷塊が地面から弾け飛び、ユーゴと灯眞に襲いかかった。しかし、


「おやおや、どうやら頭は弱いようですねぇ」

「その程度の氷じゃ、こっちの焔は止まらねぇぜ?」


氷塊をことごとく融解させ、二人はドラゴニュートを睨みつけた。だが、ドラゴニュートは億す様子が無い。再び雄叫びを上げ、ハルバートを薙ぎ払って来る。

動きは緩慢なため、ユーゴと灯眞は余裕を持って回避したが、万が一当たってしまった場合は相当の威力だろう。


「それで、どうするんですか? ユーゴさん?」

「決まってんだろ。ぶっ飛ばすだけだ!!」


言うや否や、ユーゴはブレイジング・クリスタルを形成しながらドラゴニュートに突っ込んだ。そのまま背中越しに叫ぶ。


「相棒! 妹殿! 左右の竜人モドキは任せたぜ!」

「任せろ相棒。そっちに手ェ出させやしねぇよ」

「まっかされたぜアニキィ! いくらでもぶん殴ってやんよ!」


ユーゴの号令に合わせ、それぞれ目の前の竜人モドキに戦いを挑む。


「やれやれ仕方ありませんね。マテリア、エルスさん。シークさんとグラヴィスさんの援護をしてください」

「承りました。マイマスター」

「本業じゃあないが、やれるだけやってみるさ! 灯眞さん!」


言うと、マテリアとエルスはそれぞれシークとグラヴィスの援護に向かった。


右の竜人モドキを標的にしたのはグラヴィスだ。

伏雷を半ば引きずってはいるが、それでも高速移動と言って差し支えない機動力を持ってして接近し、得物を振り上げる。

大半の相手ならこの一撃でほぼ決着が着くが、今回はそう上手く行かない。竜人モドキはアビスヤードから引っ張り出して来たであろう大型の騎士盾で、グラヴィスの一撃を危なげなく受け止めた。

手が痺れるような反動は無いが、グラヴィスは違和感を感じた。もちろん騎士盾に伏雷がぶつかった感覚はある。


その盾のもう一枚外側に、何かベールのようなものがある。


そんな感覚に近い。そこにエルスが合流してきた。


「大丈夫……そうだな、ラヴィ」

「お! エルスー! いいとこに来てくれた!」


右手にアックスソードを装備した竜人モドキを、重量武器の伏雷で器用に捌きながら、グラヴィスはエルスに声をかけた。

そのまま竜人モドキを弾き飛ばし、グラヴィスは間合いを取りつつエルスの横に着く。


「あのさー、あの竜人モドキなんだけど……」


言いかけたグラヴィスを制し、エルスは相手のスキャンを始めた。それは程なくして完了し、彼は口を開いた。


「あの盾、強力な魔術障壁が付与されてる。生半可な攻撃は通らないぞ」


多少慌てた様子のエルスに対し、グラヴィスの方はと言うと、至って楽しそうな、不敵な笑みを浮かべている。


「アタシがいてエルスがいるなら、なんも問題無いっしょ! アタシ達の攻撃が、いわゆる生半可なワケ無いじゃん!!」


言いながら、グラヴィスは再び竜人モドキに突っ込んで行く。

小細工なぞ一切不要。その破壊力を持ってして、相手をぶん殴りゃどうにでもなる。彼女は常に、その体現者だ。


「あ! おい! ラヴィ! はぁ……。まぁ、でもラヴィの言う通りっちゃ言う通りなんだよなぁ……」


あからさまに肩を落とし、深いため息をつくエルス。だが、このままここで、グラヴィスの戦いを眺め続ける訳にもいかない。

ただ、付け入る隙はあった。先程のスキャンで、魔術障壁が付与されているのは、飽くまでもその騎士盾『のみ』と言うことがわかっている。


「……仕方ない、やって見るか……」


やれやれと言った感じで、エルスは蒼と紫の極彩色、蒼龍と玄武をアビスヤードから取り出した。


「上手くやれば儲けモンだ! 何とかしてみるさ!」


気合いを入れ直し、彼は竜人モドキに向かって行った。

先に殴りに行っているグラヴィスと攻防を繰り広げているため、即座にこちらに反応することは無いだろう。ほんのわずかだが、こちらが優勢だ。

マナの充填が完了する。エルスが蒼龍で床を叩くと、マナが解放され、エルスが跳躍した。

何とか空中で体勢を制御し、竜人モドキの頭上を僅かに跳び越す。

その瞬間、彼は玄武の矛先を竜人モドキに向け……


「たのむぜ『奥の手』! 虚仮威し・紫湧こけおどし・しゆう!!」


叫ぶと同時、玄武の矛先が開き、銃口が現れた。エルスが柄本のトリガーを引くと、玄武に充填されていた水属性のマナが砲弾として放たれる。

流石に身の危険を感じたのか、竜人モドキは即座に盾を構え、エルスの砲撃を防いだ。だが生憎、いくら防御力が高くても盾は一つしかない。


「スッキありぃ!」


防御が外れた隙を着き、グラヴィスが竜人モドキに伏雷を叩き付ける。

鈍い音と確かな手応え。いわゆる直撃だ。ダメージは通っている。だが、竜人モドキに痛がっている様子は無い。


「……立派な鱗の鎧ってワケか。モドキでも一応竜の血は引いてるみたいだねぇ」


グラヴィスがそう言った刹那、竜人モドキは の尻尾が彼女を襲う。

咄嗟の防御は何とか間に合ったが、グラヴィスは結構な勢いで吹き飛ばされてしまった。

それと入れ替わり、エルスが玄武で竜人モドキに殴り掛かる。もちろん騎士盾で防がれるが、彼の狙いはある意味それだった。


「言葉が通じるかどうか知らないが、アンタ、水蒸気爆発って知ってるか!?」


エルスはアビスヤードから、即座に朱雀を取り出し、それを玄武に叩きつけた。

瞬間、水のマナと炎のマナが反応し、激しい水蒸気爆発が引き起こされた。生身の人間が爆心地にいればそのまま爆散しているが、エルスは身体の大半がある種のオートマタになっているため、ある程度なら耐えることが出来る。

対する竜人モドキだが、身体に無数の傷ができる程度には効果があり、騎士盾も半壊している。こうなってしまえば、魔術障壁がコーティングされていようが盾は使い物にならない。

竜人モドキは盾を捨てると、アックスソードを両手持ちして脇に構えた。どうやら防御するつもりはないらしい。攻め切るつもりなのだろう。


「上等ぉー!」


爆発の衝撃で動きにくそうにしているエルスを尻目に、グラヴィスは伏雷を構えた。そのまま柄のトリガーを引き、竜人モドキとの間合いを一気に詰める。勢いそのままに、彼女は捻りを加えながら伏雷を振り下ろした。

竜人モドキは、負けじとアックスソードを振り上げるが、遠心力、自重、グラヴィスの体重が乗りに乗った伏雷を制する事は出来なかったようである。

アックスソードもろともに頭蓋を砕かれ、竜人モドキは動かなくなった。

それを確認し、グラヴィスはいつも通り伏雷に付着した『色々なモノ』を振り落として肩に担いだ。


「いっちょあがりぃ!」

「な、何とかなったな、ラヴィ」


ようやく立ち上がったエルスが、ややおぼつかない足どりでグラヴィスに近づき、そう言う。

それに、なったぜー! と答えながら、グラヴィスがエルスの背中を叩く。多少力が入りすぎていたのか、エルスは思い切り咳き込んでしまった。

グラヴィスは慌てた様子でエルスの介抱を始めるのだった。



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