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幻想浪漫譚 ~マーセナリーズ・オペラ~  作者: GaN_ReD
第一章 群れなす魔物
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第四話 さらに奥へ


 ミノタウロスの戦斧が空を斬る。マテリアがそれを氷の盾で受け止め、エルスが極彩色で殴り掛かった。

しかしその攻撃はミノタウロスの剛腕に受け止められ、エルスの手が反動で痺れてしまう。

ミノタウロスが動きを制限されている内に、灯眞がエルスとは逆方向から攻め込んだ。左脇腹を斬りつけるが、堅牢な筋肉に阻まれ、いまいち決定打とは言い難い。


「あまり効いていないみたいですねぇ。脳筋はこれだから困ります」


やれやれとボヤき、灯眞はスーツの襟元を正した。

程なくして、ミノタウロスの戦斧を押し返したマテリアが、右手をブンブンと振っているエルスと極彩色を回収して戻ってきた。


「どうやら随分と堅固な筋肉を持っている様子。如何なさいますか、マスター」


問われて灯眞は、なにか考えるような仕草を見せた。数秒頭を巡らせ、ひとつ『試してみたいこと』を思いついた。


「エルスさん、あのミノタウロスの分析にどれぐらいかかります?」


そう言われたエルスが、義手を展開しながらが、なにかタブレットの様なものを開いた。

そのタブレットは、いわゆる解析装置で、目標の弱点などを見抜く事が出来る。


「だいたい三分……、いや、二分あれば行ける!」


言いながら、エルスは既に解析を始めていた。彼のその応えに、上出来です。と呟き、灯眞はシン・インフェルノを構える。


「マテリア。二分程度なら凌げますよね?」

「当然です。お任せください、マイマスター」


マテリアの返答を聞くや否や、灯眞が下段に構えたシン・インフェルノを振り上げた。


炎旋迅(えんせんじん)!!』


一回、二回、三回とシン・インフェルノの軌跡に合わせ、碧炎が鋭い弧を描き斬撃となってミノタウロスに襲いかかる。

しかし、ミノタウロスは左腕を使ってその全てを弾き飛ばし、被弾を防いだ。

狙いが逸れた炎旋迅は遺跡の壁や柱にくっきりと斬痕を残している。並の魔物であれば深い裂傷を負うか、最悪腕が斬り飛んでいるはずだ。

ミノタウロスが炎旋迅を弾いた瞬間、灯眞は腕に『なにか陽炎のようなモノ』が揺れたのを捉えていた。そしてさらに。


『襲冰拳・戦日蒼(しゅうひょうけん・せんじつそう)!!』


炎旋迅に隠れて懐に飛び込んでいたマテリアが、両拳に氷の手甲を纏わせた強力な一撃を叩き込んだ。

ミノタウロスは多少怯んだようだが、決定打にはなっていないようだ。

そしてやはり、ミノタウロスが攻撃を受けた箇所に先程よりもはっきりと『陽炎のようなモノ』が揺らめいた。


「来た! 灯眞さん! マテリア! 解析終わったぜ!」


そのタイミングで、エルスの解析が完了した。その内容は……


「攻撃を受けた箇所に、ピンポイントで堅牢な魔術障壁が自動展開されている。ですか……」


報告を受けた灯眞は、顎に手を当てて思案を巡らせた。


たかが魔物でしかない、しかも、魔術の魔の字も知らないような脳筋のミノタウロスが、堅牢な魔術障壁をピンポイントで、さらに自動展開するなどと言った高等技術を扱えるわけがない。という事は、


(このミノタウロス……というよりは、この場所自体に、何者かの息がかかっている。という事ですねぇ……)


胸中で呟き、灯眞はやれやれとため息を着いた。多少手間取りそうな感じがして若干嫌気がさして来たのだ。


「灯眞さん、どうやってアイツを倒すんだ? 攻撃したところに障壁展開されてたんじゃあこっちが不利だぜ?」


エルスがうろたえながら問いかける。こと兵器開発や兵器研究に置いてはダスト・シティ屈指の知識を持つ彼だが、戦術・兵法に関しては一般人とそう大差ない。こうなるのも当たり前である。


「落ち着いてくださいよーエルスさん。攻め手はいくらでもあります。今回はマテリアがいますし、貴方のマテリア用兵器を試すいい機会です」


言って、灯眞は指を弾いた。乾いた音に反応し、今まで前線を支えていたマテリアが灯眞の目の前に後退してくる。

それと同時に、灯眞が口を開いた。


「マテリア。タクティクス・AS。code:PB」

「了解しましたマスター。起動します」


灯眞の台詞にマテリアが答えると、彼は右腕を肩の高さにまで上げた。すると、マナが収束を始め、それはやがて、巨大なパイルバンカーに形成された。よく見ると、アームガードのようなところにブースターが仕込まれている。


「code:PB(パイルバンカー)GUNGNIR(グングニル)。交戦対象、ミノタウロス……!! 穿ち抜きます!」

「お、おぉ!? グングニル!? 普通の人間じゃ扱えないからって廃番にしてたヤツじゃないか!!」


標的に向けてその穂先を輝かせるマテリアの傍らで、エルスが驚愕している。

エルスが言った通り、今マテリアが装備している兵器は、元はエルスが人間が装備する武器として開発した物だが、出力と小型化に手こずり、廃番にしたものだ。

そんなエルスを尻目に、灯眞が笑いながら口を開いた。


「コンセプトが良かったので、勝手にマテリアの兵器として搭載しておきました。まだいくつかあるので、ソレの披露はまた後日と言うことで。

さて、突破口というモノ。お見せしましょう」


そこまで言った灯眞が、再び指を弾いた。同時、待ってましたとばかりに、グングニルのブースターが解放し、マナの粒子が煌めく。


「行きます。貫けぇえええ!!」


粒子が臨界し、煌めきがより激しくなった。刹那後、マテリアは凄まじい加速力・突進力を持ってミノタウロスへ突撃した。

グングニルの穂先が、展開された魔術障壁と激突する。激しいスパークが走り、明滅を繰り返すが、グングニルのブースターは尚も粒子を噴出させ、更に加速していく。

そして。


――ピキっ。


けたたましいスパーク音の中、確かに硝子が軋むような音が聞こえた。堰を切ったように、その音が連鎖していく。


――ピキピキピキピキ……。


見ると、展開された魔術障壁に明らかなヒビが入っている。それはやがて、ミノタウロスを守る障壁全体に広がった。

その瞬間を、灯眞は見逃さない。


「今ですエルス! 思い切り叩き潰してくださいよ!」

「任された! おおおらあああ!!!!」


エルスの振り下ろした極彩色が、ミノタウロスの魔術障壁を叩き割った。

極彩色はそのままミノタウロスの角を叩き折りながら頭部を捉える。更に腹部はマテリアのグングニルが貫き、灯眞のシン・インフェルノが右胸から右肩にかけてを斬り裂いた。


三人の同時攻撃を受けたミノタウロスは、物言わぬ亡骸になった。


「目標沈黙。今の所、周辺に脅威はありません」


バシューッとグングニルを強制冷却させて収納しつつ、マテリアはそう言った。ついでに乱れたネクタイを直したりもしている。


「あでっ! 何とかなったけど、灯眞さんもマテリアも無茶するなぁ。マテリア腕大丈夫か?」


着地に失敗したエルスが、ムクリと起き上がりながらマテリアの腕を気にするが、当のマテリアは、全く問題ありません。と、ケロッとしている。


「さて、と。これで道は開きましたね。先に進みますよ皆さん」


服に着いた埃を払いつつ、灯眞がそう言った。こちらもなんの問題もなく着地していたらしい。


「やれやれこれは、かなり面倒な仕事になりそうですねぇ」


嘆息交じりに独りごち、灯眞は遺跡の奥に歩を進めるのであった。



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