表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

第一話 会合の行先


――アビスヤード。


世界の裏側。常世と幽世の狭間。生と死が混濁する深淵。

形容する言葉は様々だが、一般的なアビスヤードの認識は便利な格納庫に近い。人々はいつからか、この狭間をアビスヤードと呼び、そこに所有物を収納し、取り出す。

本来ならば人が存在できる場所では無いが、ここに居を構える人物がいる。


「お父様、お時間になりました。皆さんも集まっています」


そう声を出したのは、球体関節人形のメイドである。


「そうか。ありがとう、メリー」


答えたのはゾークだ。いつも身につけている黒い着物ではなく、今は白い神父服だ。所々に藍色の宝石をあしらった装飾品が目を引く。

無機質な廊下を進み、扉を開く。そこは円卓が置かれた広間に繋がっており、既に円卓には六人のシスターが着席していた。

彼女らはゾークに気付くと立ち上がり、軽く会釈する。


「我が教団のシスター達よ、気を楽に。さぁ、座りなさい」


言われて彼女達は静かに椅子に腰を下ろした。それを見届けると、ゾークもゆっくりと着席する。


「では、始めよう。我らが『堕天使教』の会合を」


アビスヤードの館で、異教の会合が始まった。


◆◆◆◆◆


晄都ナイトメア。

マナと機械がひしめく眠らない国。マナランプが夜を照らし、高層ビルがそびえるコンクリートジャングルには明るい声が響き渡る。

しかし、大通りから一本逸れると、この国の暗部が見える。

薄明かりしか届かない路地、マフィアの抗争、裏取引、下層に広がるスラム街。そこには暗い喧騒しか響かない。


そんな輝かしい大通りを、灯眞、エルス、マテリアの三人、ニーズヘッグ・バイトは歩いていた。


「相変わらず、辛気臭い街ですねぇ」


 あからさまに。そしてわざとらしく。掌を上に向けて大きくため息をついて、灯眞(とうま)がそう言った。

 煌々と光の輝くこの街に対して辛気臭いとはいかがなものかと思うが、それには彼なりのちゃんとした理由がある。


「マスター、少々お時間が押しています。急ぎましょう」


 マテリアが上質の腕時計を眺めながら言うが、その言葉はエルスの一言で霧散した。


「二人とも待ってくれ! ......異常なマナの反応値? 路地からなんか来るぞ!」


 ほぼ同時に、左右の路地から一見しただけでチンピラ・ゴロツキといった言葉がぴたりとハマるガラの悪い男たちが複数人現れた。

 この手の者たちは基本的に目がイッちゃってるものだが、今回のは特にひどい。ざっと見て六人。もしかしたらもっといるかもしれない。エルスが調査中だ。


「マスター、先ほども言った通り、お時間がありません。手早く片付けましょう」

「だから嫌だったんですよぉ帰ってくるのは。ものすごく面倒ですが......。やっちゃいましょうか」


 灯眞のそのセリフを皮切りに、ナイトメアの日常が始まった。


 獣のような雄たけびを上げながら、各々手に持った得物を振り上げてこちらに向かってくる。エルスは慌てて極彩色を取り出したが、灯眞とマテリアはすでに戦闘体勢に入っていた。


 マテリアに三人の男たちが迫りくる。手にしている得物はナイフやバールのようなもの、あとは鉄パイプか。相変わらず獣のような雄たけびを上げながらがむしゃらに突っ込んでくる。まぁ、マテリアにとっては児戯に過ぎない。

 始めに突っ込んできたナイフ男を足払いでいなし、続くバール男を上体を起こすと同時に放ったアッパーで顎を砕く。最後に突っ込んできた鉄パイプ男は半歩避けて膝を鳩尾、両拳を背中に叩き込んで沈黙させる。再び立ち上がってきたナイフ男は裏拳で完全に黙らせた。

 血で汚れた拳をハンカチで拭き取りながら、マテリアは少々違和感を覚えた。


「手応えが、少々おかしいですね……。人を殴ったというよりは……」


 そこまで呟いて、鈍い衝撃音が路地裏に響き渡る。マテリアがそちらに目を向けると、エルスが少々苦戦しているようだった。


(こ、こう狭いと、極彩色を振り回しづらい……! しかも……!)


「人と戦っているとは思えないほど、重い!!」


 筋力が並みの人よりも高いはずのエルスがそう言うほどの重さ。おそらくクスリの影響で筋力が増加でもしているのだろうか。それを何とか押し返すが、相手は体制を無理矢理立て直し、再び向かってきた。

 受け止めると分が悪いので、エルスはそれをバックステップで間合いを取りながら極彩色を振り上げる。退くを知らない相手は振り上げられた極彩色に自ら突っ込む形となり、そのまま戦闘不能になる。

 そこで同時に襲ってきた連中の分析が終わった。そのデータに目を通したエルスが、訝しげに眉を寄せる。


「……ただのクスリってワケじゃなさそうだな、こりゃ」


 そう言ってエルスは灯眞に視線を移した。二人の大男と対峙しているが、いつものように余裕の構えだ。

大男二人の目に光は無く、完全に我を失っている。闘争本能剥き出しの圧力。それはまるで


(獣……、いえ、どちらかと言えば魔物。ですか)

「時間が押しているので、手早くやらせて頂きますよ。覚悟、出来てますよね?」


言って、灯眞は自らの犬歯で手の甲に傷をつけた。流れ出る血を手に取ると、魔力を流し込んで武器とする。ナイトレイドが扱える、我が血を武器と成す、血器(けっき:スカーレット・アームズ)だ。

灯眞はそれで、二振りのカランビットナイフを生成した。大鎌であるシン・インフェルノを振り回すには、この路地は狭すぎる。

灯眞がカランビットナイフを逆手に構えると同時、男達が踏み込んでくる。とは言っても、例に漏れずがむしゃらに。だが。

持っている得物は2人とも大振りのククリナイフ。ほぼほぼ鉈に近い片手武器だが、威力は高い。

無茶苦茶に振り回されたそれを回避し、灯眞は背後を取って一人目の脇腹を斬り裂く。普通ならこれで戦闘不能なのだが、痛みを感じないのか、大男が振り向き様に裏拳を放って来た。

灯眞は軽く帽子を抑えながら体制を低くして避けると、そのまま足払いで相手を転ばせ、続け様にカカト落としを胸のド真ん中に叩き込む。鉄板が仕込まれた改造シューズのそれは、男を完全に沈黙させた。

残り一人。灯眞が振り向くと、すでに男が目の前に踏み込んで来ていて、さらにククリを振り上げている。


(……速い。回避できないことはありませんが)


 (かわ)した先でククリが振り下ろされ、灯眞の帽子に切れ目が入った。しかし、そのお陰で首筋が露わになった。その隙を彼は見逃さない。両の手に持ったカランビットナイフで首筋を斬り付けて沈黙させる。


「……やれやれ、高かったんですよこの帽子。エルス。この人たちを回収してください」


 エルスの、ええ!? と言う声が聞こえたが、それは聞かないことにしておく。

 灯眞が帽子を弄っていると、その場の空気が変わった。不快極まりない、下水道のように淀み、濁った空気。


(マナからオドへの変換……?)

「エルス! マテリア! まだ終わりでは無さそうですよ!」


 灯眞が珍しく大声を上げる。それに反応して、エルスとマテリアが間合いを取った。

 刹那、倒したチンピラたちから黒い泥のような流動体が流れ出て、それが一所に集まり人型の異形を形成した。


「灯眞さん! アレはオドと魔力の混合物だ! 普通に戦っても効果は薄い!」

「どちらにせよ、殲滅を開始します」

「本当に厄介ですね! この街は!」


 ニーズヘッグ・バイトの三人は、眼前に立ちはだかる異形を見据え、戦闘態勢を取るのだった。


◆◆◆◆◆


 ナイトメア上空。人口光と月明りの丁度境目。夜の闇に溶け込むように、一つの人影が漂っている。


「あらあら……、エンジェル・ティアの第二段階を見れる人間がいるとは思っていなかったわ」


 穏やかな口調で、その人影がそう呟いた。

 その口調と、蠱惑的な身体。そしてそのラインを際立たせるぴったりとしたゴシックロリータ服から、この人影が女性であることがわかる。手には黒い手袋を着け、顔の上半分は仮面で覆われている。それらを含め、身に着けているものはすべて黒色だが、ツインテールにされた長髪はプラチナブロンドで、それだけがやけに目立っていた。


「『あの人』のことだから、多分気づいているとは思うのだけれど……。もう少し、独りじめしちゃおうかしら」


 そう言って、舌なめずりをする。艶めかしい唇が湿り気を帯びて色味を増す。


 笑う、嗤う、哂う。


 ナイトメアの夜空には、人知れず笑い声が木霊した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ