第四話 暗躍者
遥か後方で爆発音が聞こえる。ついでに洞窟自体もグラグラと揺れる。どうやら戦闘が始まっているようだ。そんな状態にも関わらず、黒づくめの男は機能不全に陥った作業用機械獣をいじくりまわしている。
「おやおや。どうやら客人のようだ。この感じだと『邪竜』の方かな……?」
この男、名をゾークと言う。裏側の社会ではそこそこ名の知れた武器商人で、看板商品は『自作の生体兵器』だ。
「さてさて、私の仕掛けた悪戯と『彼』の仕掛けた悪戯……。是非楽しんでもらいたいねぇ」
含み笑いをしつつ、ゾークは奥へと進む。彼が去った後に、機械獣たちは目を覚ます。その双眸には赤黒い紋章が光り輝いていた。それは、ゾークの兵器メーカー『デッドアンジェラス』のものだった。
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坑道というのはとにかく戦いに向かない。いや、彼らの戦い方に向いていない。が正しいか。狭く、岩盤も安定しているとは言えないこの場では、ユーゴ達が得意とする『広範囲殲滅』が難しいのだ。前回の遺跡は魔力によるコーティングや、室内と言えど大型のミノタウロスが暴れるくらいの広さがあったため、まだ戦いやすかった。
「だぁー! 道は狭いし敵は硬ぇ! 何ならブレイジング・クリスタルも振れねぇ! 面倒だなクソ!」
敵を捌きつつ、ユーゴは毒づいた。いつもの大剣で斬り潰す戦いができないため、今は体術に切り替えて戦闘を行っていた。とはいえユーゴの場合、実践的な体術に焔の力を織り交ぜているので、愚痴っているが問題なく戦える。
普段のようにほぼ一撃で殲滅することができないだけだ。
「こんな場所じゃ無闇にぶっ放すことも出来ないしなぁ。ちょっと、面倒だよね!」
などと言ってはいるが、グラヴィスの伏雷はもともと金棒である。とりあえず振ることさえできれば、相手の鉄板ごと中身の精密機械まで叩き潰すことができる。
おそらくファフニールネストで一番戦いにくいのはシークのはずだ。
「とは言っても、元は作業用だ。戦闘用や野良の機械獣どもに比べりゃ、守りが甘ぇよ」
言いながら、さらっと装甲の薄い部分やむき出しになっている間接部などを、スサノヲの一太刀で破壊してみせる。
なんというか、この人たちは本当に戦闘狂なんだなぁ。と、ユウリは物陰から次々に破壊されていく機械獣を眺めながら思っていた。
「さて、とりあえず一段落か?」
周りの機械獣たちが完全に動かなくなって、ユーゴはそう言った。――なぜか些か不完全燃焼気味ではあるが。
グラヴィスも腰を下ろし、懐からマスカットを取り出して一房一息に平らげる。相変わらず豪快な食べっぷりである。
シークはシークで、アビスヤードから高そうなティーセットと上物の紅茶を取り出して淹れていたりする。
――視界の悪い戦場なのになんでこの人達はまったり休憩しているんだろう。
些細な疑問が浮かんだが、ユウリは一旦考えないことにする。とりあえずこの人たちと一緒にいれば安心ではある。こと戦闘の嗅覚に関しては、この三人は異常に優れている。
おそらくではあるが、もう間も無く坑道の最奥に到達するだろう。そこにはユウリの求める純度の高い魔鉱石があるはずだ。
だが、ユーゴはその方向に不穏なマナの流動を感じていた。加えて、奧に向かうに連れて流れ来るオドの胎動。明らかにこのオドの量は通常流れ出る物ではない。
「さて、お仕事再開と行くか。気ィ張れよ。こっからが本番だぜ」
勢いよく立ち上がり、奧を見据えるユーゴ。言葉では警戒を促しているが、その実彼の表情は期待に満ち溢れていた。
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「やれやれ、ようやく辿り着いたか……。まったくこんなところでよく『あの子』は戦ったものだ」
一足先に廃坑の奥に到着していたゾークは、大きく息を吸って呼吸を整えた。そして、アビスヤードから大きな手――アブダクトハンズと呼ばれる、ゾークの補助具のようなものだ――を呼び出し、腰を下ろす。
暗闇に目を凝らすと、そこには巨大なドラゴン型の機械獣と、その前に転がる人間の上半身のような物体が見える。古い記憶がよみがえってきた。
「……懐かしいねぇ。百年前か。少ししたら回収作業を始めるから、もう少しだけ待っていてくれ『ヌル』よ」
言いながら、ゾークはアブダクトハンズハンズから重い腰を上げた。
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「っしゃあ! こいつで終わりぃ!」
モグラ型(多分)の機械獣を機能停止にして、ユーゴはそう叫んだ。相変わらず戦いづらかったが、そこそこ坑道での立ち回りにも慣れてきているせいか、だいぶ楽になっている。この調子なら危なげなく依頼を達成できそうだと言葉を交わすユーゴ達とは裏腹に、ユウリとルーチェの表情は険しかった。
「マスター……」
「ええ。この紋章『デッドアンジェラス』ですね」
「確か、裏の世界を牛耳っている兵器商人だったか」
二人の会話を聞いていたシークが会話に入る。それにユウリが頷いた。デッドアンジェラスの名は、ダスト・シティ内でも知れ渡っている。なるべくなら手を出すな。が通説だ。
(奴が絡んでいるなら、まだ油断はできないか……)
ユウリが胸中で呟く。その心配をよそに、ユーゴ達はすでに最奥に歩を進めていた。慌てて追いかけるユウリとルーチェ。だが、急に足を止めたユーゴに、一同も急ブレーキをかける。
文句の一つでも出てきそうだが、ユーゴの視線の先を見て押し黙る。
「お前は……! ゾーク!」
いつになく声を荒げたユウリ。ルーチェも怯えてはいるものの、その視線は鋭かった。こちらの声に気付き、ゾークが口を開いた。
「おや……。ファフニール・ネストだけが来ていると思ったが、君もいたのかユウリ」
言いながら、彼はアブダクトハンズで扉を開いている。奧に広がる深淵に半身を忍ばせながら、ゾークは続けた。
「久々の再開だが、私の用事は済んでいてね。お土産を置いていくからそれと遊んでいてくれたまえ」
その瞬間、扉が閉まりゾークの姿が虚空に消えた。アブダクトハンズの一つが何か人型のようなものを握っていたように見えたが、詳しくはわからない。
「待て! 貴様!」
ユウリが追いかけようとするが急に腕を掴まれてその先を振り返る。そこには険しい表情で何かを見ているユーゴがいた。
そのユーゴが言う。
「下がってろ義弟。どうやらあの黒づくめ、すんばらしい土産を置いてってくれたみてぇだぜ」
言われて、ユウリはユーゴが睨み付けている先に視線を移した。
ゆっくりと駆動音が響き始める。暗闇に動き始めた『ソレ』は鈍色の装甲を軋ませながら、近づいてきた。
徐々に詳細が分かってくる。坑道には不釣り合いの、あからさまに戦闘用と分かる竜の姿をした機械獣。その胸部には、デッドアンジェラスの紋章が煌々と輝いてきた。
「アニキ―。なぁんかやばそうだぜー」
「だが、今までに比べりゃ楽しめそうだけどな相棒」
グラヴィス、シークの二人に言われ、ユーゴはいつも様に不敵な笑みを浮かべた。
「上等ォ! 思いっきり暴れてやろうじゃねぇか!」
ユーゴのその声を号令に、ファフニール・ネストは眼前の機竜に向かっていった。




