第二話 灼熱の皇国
照りつける太陽が空の中心に差し掛かる頃……。
ユーゴ達四人はイグニスマキナ皇国に到着していた。
この国は、高度に発展した機械技術を擁する『ドゥエルグ』と呼ばれる種族が主に居住する。ずんぐりむっくりとした体形が多い彼らだが、戦士としての胆力と機械技師としての器用さを併せ持っている。
更に、この国の周辺には良質な鉱石を産出する鉱山が多々あり、それを使用した装備・乗り物から、原石自体さえも重要な資金源になっているのだ。
そんな一大技術国家だが、ユーゴは顔パスで入国できてしまう。むしろ門番が頭を深々と下げるく始末。ついでに言えば、彼と同行している面々すらも問題なく入国可能だ。
正門をくぐると、金属と石炭の焼ける匂いが鼻をくすぐり、威勢のいい喧騒が耳に届く。人によってはむせ返るような雰囲気と匂いではあるが、ファフニール・ネストの三人とユウリ、ルーチェの二人はむしろ好ましいと感じている。
街を貫くように敷かれたメインストリートは、そのまままっすぐ中央にそびえたつ工場のような建物につながっている。それが、イグニスマキナを統治する『赤髪皇』の居城だ。
「いやぁ、ひっさびさに来たなぁ。相変わらず変わってねぇ」
街の様子を見まわしつつ、ユーゴはそう独りごちた。このまままっすぐ城へ顔を出しに行ってもよかったのだが、グラヴィスの腹の虫が大きな声で鳴いたので、まずは昼食を摂ることにした。
手近に見つけた食堂に入ると、何やら騒々しい怒鳴り声が店内に響いた。
「酒だぁ! 酒ぇもってこおい!」
「ったく飲まなきゃやってらんねぇぜ!」
どうやら複数人の鉱夫たちが昼間っから酒をかっ食らっているようだ。そういえば、店内も酒の匂いが充満していて、下戸の人間はこの場にいることも出来ないだろう。
幸い、ユーゴ一行はそこまで酒に弱いわけでもないので、まだこの場に留まることはできた。が、気分がいいかと言われたら答えはノーである。
これから美味しい昼食を摂ろうとしているのに、こうもグチグチ騒がれては料理の味が落ちてしまう。ユーゴがシークとグラヴィスに目配せすると、二人とも頷いて見せた。ユウリとルーチェも異存はなさそうである。
ユーゴはニッと笑うと、指と首を鳴らしながら暴れ散らす鉱夫たちに近づき……
――バキィ!!
一番近くにいたガタイのいい鉱夫を思いっきりぶん殴った。持っていた酒を浴びながら吹っ飛ぶ鉱夫。男たちは何が起こったのか理解できず、ただ唖然としていた。
「気持ちよくなってるとこ悪ィんだが……、ちぃとばかし黙ってられねぇか?」
「な、何しやがる!」
ユーゴがそう言って、鉱夫たちはようやく我に返り、こちらに掴みかかろうと立ち上がった。
その瞬間、鉱夫の身体がガクンと引っ張られたかと思うと、大きな音を立てて床に叩きつけられる。目を回している鉱夫の影には、手を払いながらニヤリと笑うグラヴィスがいる。
「だからぁ、黙れって言ってんでしょーよ」
「くそ! どこのどいつかしらねぇが、ただじゃ済まさねぇぞ!」
ここまで戦闘能力の差を見せられても、鉱夫は退こうとしない。相当酒が回っているようだ。さすがにユーゴとグラヴィスはため息をつく。まだやるのかといったところだろう。
その態度が癪に障ったのか、鉱夫は自分が座っていた椅子を掴み、それを振り上げ、ユーゴ達に向かっていく。
「――おい」
ドスの利いた低い声が耳元に届いた瞬間、みぞおちに激しい痛みが走って意識が飛んだ。
力なく倒れる鉱夫を尻目に、シークが納刀状態のスサノヲを腰に納める。どうやら柄頭を相手のみぞおちに叩きつけたらしい。
「退き際すらわからなくなるほど飲んだくれてるんじゃんぇよ」
彼の放ったその一言は、おそらく鉱夫には聞こえていないだろう。完全に目を回している。これで店内が静かになった。ようやく昼食にありつけると思った一行だが、そうとはならなかった。にわかに外が騒がしくなり、武装した兵士らしき集団が中に乗り込んでくる。
「おいマジかよ……」
ユーゴは嘆息交じりにそう呟いた。少しやりすぎたかと思ったが、聞き覚えのある大声が耳に届き、彼の表情は途端に明るくなった。
「ユぅぅぅぅゴぉぉぉぉぉ!!!!」
それは獣の怒号にも似ていて、グラヴィスやシークですらビクッとしたくらいだ。同時に近づいてくるダンダンダン! と言うしっかりと床を踏みしめる足音。その音の主は、まっすぐユーゴに向かい、その剛腕を振り上げた。
それに怯むことなく、いつもと変わらない不敵な笑みを浮かべたユーゴは、相手の拳に合わせて自身の拳を叩きつけた。
激しい激突音と衝撃波が巻き起こり、店内の空気が震える。数秒後それが収まり、剛腕の男が口を開いた。
「紅い髪の男が暴れてるって聞いて来てみたらやっぱりお前さんだったか……。相変わらずいい拳してるじゃねぇかええ?」
筋骨隆々の上半身をさらけ出し、下半身を重厚な足鎧で武装した、鬣のような赤い髪をなびかせる、獅子のような大男。それが彼の印象である。浮かべた朗らかな笑顔から、豪放磊落であることが分かる。
そんな彼に、ユーゴも笑顔を浮かべて答えた。
「そういうお前こそ、ちゃんと鍛錬はしてるみてぇだな! グレイウッド」
その瞬間、大男は馬鹿でかい声で笑い、そのままの声量でカウンターの下に隠れていた店長に話しかけた。
「店長! 店のみんなに旨いメシを食わせてやってくれ! 支払いは俺がする!」
気絶した鉱夫達がしょっ引かれていくのを尻目に、店は再び活気を取り戻した。
赤髪の大男。彼の名は、グレイウッド・ブラックモア。この灼熱の皇国、イグニスマキナ皇国を統治する『赤髪皇』その人である。




