第一話 機械獣遭遇
小鳥の鳴き声が聴こえる。混濁した意識が浮上し、瞼越しに日の光を感じて、ユーゴは目を覚ました。
「ん、ん~~~! ふう。朝か」
「おはようございます、義兄さん」
「おはようございます、ユーゴさん」
伸びをして起き上がると、すでに携帯用マナコンロに火を入れているユウリの姿があった。その奥では、何やら材料を切っているルーチェの姿もある。――まぁ、切り方は割とワイルドだが。
ちょうど朝食を作ってくれているようだ。こうしちゃいられんとユーゴは立ち上がり、自分も二人の作業に参加することにした。そして、とりあえずルーチェの側に行って何を切っているか確認する。
「えーっと、ベーコンとニンジン、玉ねぎ、白菜それに、コンソメか」
ユウリが湯を沸かしているのを見ると、どうやらコンソメスープを作るつもりのようだ。それにしても、剣のように包丁を振り下ろし、短冊切りやらいちょう切りをするルーチェはある意味天才なのかもしれない。
それはとりあえず頭の端に置いておき、ユーゴは手持ちの食材を漁ることにした。
自身のマナバイクに積んである巨大なフリーザーボックスをおもむろに開き、あーでもないこーでもないといいながら物色する。
「お、卵があるじゃあないかえぇ? 食パンも……まだあるんだなぁこれが! ついでにこの、厚切りのハムステーキも使うとしようか」
バタンとフタを閉め、マナコンロに向かう。湯が沸いたのか、コンソメスープの方はコトコト煮込めば完成するだろう。となれば……
「メインの方は俺ちゃんに任せてもらいますかね!」
腕まくりをし、キュッとバンダナを被ったユーゴが、コンロの前に立つ。やる気満々だ。
まずはハムステーキを小さく切る。この時点でボウルに入れ、軽く塩コショウをしておく。
そして次に、大きめのフライパンを火力最大にしたコンロの上に置き、オリーブオイルを少し垂らす。フライパンを回して油をなじませ、そこにバターを数個放り込んだ。
もうこの時点でいい匂いがするワケだが彼はそこに卵を割り入れた。その数六個。全員分プラス一個の換算である。それを菜箸で手早くかき混ぜ、スクランブルエッグ状にすると、そこに細く切った先ほどのハムステーキを投入である。あとは手早くフライパンを回し、玉子とハムステーキをよく混ぜ合わせて火を止めた。そこにマヨネーズとケチャップを入れさらに混ぜる。
「で、あとはこいつを食パンで挟んでやれば……」
ユーゴ特製エッグサンドの出来上がりである。
「この匂いは! おはようアニキ! 朝ご飯できたんでしょ!?」
まさにエッグサンドが出来上がった瞬間、グラヴィスが目を覚まし、そのままテーブルに着席した。両手にはナイフとフォークが握られている。
「俺ちゃんだけが作ったわけじゃねぇよ妹殿。義弟とルーチェがコンソメスープも作ってくれたからスプーンも持ってこい」
笑いながら、ユーゴはそう言った。グラヴィスがスプーンを取りに行ったタイミングでシークも目を覚まし、ゆっくりとコンロに行ってお湯を沸かし出す。
「お、紅茶か相棒」
「ああ。せっかく相棒とユウリが作ってくれたんだ。食後の紅茶は最高級のもんがいいだろ?」
こう見えて、シークは紅茶マイスターの資格を持つほど紅茶通だ。彼が淹れる紅茶は、常に最高の品質で皆に提供される。その上ちょっとしたスコーン程度なら作れてしまうのだからさすがとしか言いようがない。
彼らは今、機械の国と呼ばれる『イグニスマキナ皇国』へ向かっていた。ユウリが先日持ってきた『用事』というのは、イグニスマキナまでの護衛と、現地についてからの資源収集の手伝いだったのだ。
しっかりと腹ごしらえを終え、キャンプを片付けた後で、ユーゴ達はマナバイクに跨った。イグニスマキナまではあと半日といったところか。……何もなければ。ではあるが。
そんなちょっとした不安を頭の片隅によぎらせつつ、五人はマナバイクのアクセルを吹かした。
イグニスマキナへ向かうには、広大な荒野を抜ける必要がある。日中の気温は三十五度を超え、逆に夜は氷点下まで下がることもある。過酷な環境はユーゴ達はもちろん、マナバイクにも負担をかける。おそらく今日も、マナバイクの冷却装置は悲鳴を上げ、それに乗るユーゴ達――ルーチェは除く――は半ば湯だった状態になるのだろう。熱風とはいえ風があるだけマシというものだ。
しかし、その懸念は、別なものによって払拭されることになる。
ユーゴ達のまさに進行方向から、巨大な四足歩行の猪を模した機械が走ってきているのだ。それを確認したユウリが声を荒げる。
「義兄さん! マキナ・ボアです!」
この地方。特に今走っているような荒野によく現れる、マキナタイプと呼ばれる機械獣だ。元は作業用だったのだが、何らかの原因で暴走し、制御を受け付けなくなっている。
イグニスマキナでは、この機械獣たちが人々に害を及ぼすため、討伐対象として傭兵が破壊を行っている。
「おうよ! 俺ちゃんに任しときな!」
「『たち』が抜けてるぜーアーニキ!」
「俺たちも手出しさせてもらうぜ、相棒」
言葉を交わし、ユーゴ、グラヴィス、シークはさらにアクセルを吹かしてマキナ・ボアとの距離を詰めて注意を引く。その隙にユウリとルーチェは多少後退して、安全なところに身を隠した。
「さて、義弟がへばる前に片付けるとしますか!」
言ってユーゴはブレイジング・クリスタルを形成した。そのままマキナ・ボアに急接近し、すれ違いざまに一太刀入れる。火花が散り、装甲を傷つけはするが相手は機械だ。その程度で機能停止になるほどヤワじゃない。なんなら痛覚も存在しないため止まることもしなかった。
だが、標的は完全にユーゴに移ったようだ。その場で急に方向転換し、ユーゴの後を追う。そのスピードたるや、マナバイクに匹敵するほどである。
ユーゴはさらに加速して多少距離を取り、クイックターンでマキナ・ボアに向き直った。そしてマキナ・ボアの奥に、両サイドから攻め込もうとしているグラヴィスとシークの姿を確認した。
それを見て、ユーゴはニヤリと笑った。ユーゴが再びマナバイクを走らせると、まずはグラヴィスが仕掛けた。
マキナ・ボアと並走したかと思うと、金棒状態の伏雷を大きく振りかぶり、せーの! と気合を入れながらマキナ・ボアの頭部目掛けて思いっきり伏雷を振り下ろした。金属のひしゃげる音がして、マキナ・ボアが地面に顔を埋め込ませる。当然走れる状態ではないので、マキナ・ボアの動きはそこで止まった。
マキナ・ボアが顔を上げると、すでにシークが側面に陣取っており、彼は容赦なくスサノヲを一閃した。斬鉄を容易に行える刃は、何の問題もなくマキナ・ボアの装甲版を斬り裂き、さらに内部の駆動機系回路を損傷させる。
これで文字通り、マキナ・ボアは身動きが取れなくなった。そのタイミングでマナバイクが跳躍し、そこからユーゴが飛び降りてきた。眼下にはマキナ・ボアが動けずに立ち尽くしている。彼が狙うのは、マキナ・ボアのコアが納められているその背中である。マキナ・ボアの中で一番の強度を持つ装甲版が装着された箇所だ。並の武器で貫くことは難しい。だが、焔そのものを結晶化したブレイジング・クリスタルであれば、それは可能だ。ブレイジング・クリスタルを赤熱化させ、穿ち抜けばいい。
「貰うぜぇぇぇぇぇ!!」
落下の力を利用し、マキナ・ボアの背中にブレイジング・クリスタルを突き立てる。その刃はコアまで到達し、マキナ・ボアは完全に動かなくなった。
「こいつはオマケだ! とっときな!」
マキナ・ボアの背中ら飛びながら、ユーゴが指を弾く。それに反応したブレイジング・クリスタルが爆発し、マキナ・ボアの身体を粉々に吹き飛ばした。
巻き起こる土煙と爆炎。それが数秒続いて収まると、その先には完全にスクラップと化したマキナ・ボアが横たわっている。もはや動くことは無いだろう。
「いっちょ上がりってか! ま、食後の運動にゃちょうどよかったな!」
朗らかな笑顔を浮かべ、ユーゴは手に燻ぶっていた焔を振り消した。グラヴィスやシークも、己の得物を納めてマナ・バイクに跨る。
物陰から出てきたユウリとルーチェとも合流し、一行はイグニスマキナ皇国への道を再び走り出すのだった。




