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お題シリーズ5

ハッピーバースデー 押し付け

作者: リィズ・ブランディシュカ




――「ハッピーバースデー」って言葉すごい押し付けって感じがするんですよね。


 うちの高校の後輩がそんな事を言ってきた。


 文芸部の部室で、地味な執筆作業をこなしている最中だ。


 ふとした瞬間に、その後輩が誕生日について話してきたのだ。


 私は「いきなりなんだ?」と言葉を返す。


「いえ、ただの雑談なんですけど、ハッピーバースデーって言葉がしゃくにさわるな、と」

「ただの雑談で誕生日を祝う言葉に負の感情をぶつける人間が、そうそういるだろうか」

「こまかい事は気にしないでください」


 後輩は、ちっとも進んでいない原稿を見て、ため息。


 うちの部活にはノルマがある。月に一度、顧問の教師がお題を出すので、それに一つ作品を執筆しなければならない。


 そけれど、いつもすらすら完成させるはずの後輩が珍しく詰まっていた。


「君は、誕生日に何か恨みでもあるのか?」

「別にないですよ、そんなの」


 嘘だな。


 と、直感的に思った。


 クールを気取っているこの後輩は、自分が思っているよりも感情が表に出やすいタイプだった。


 今もイライラしているのを示すように、机の表面に指をとんとんしている。


「恨みがあるというわけじゃなく……」

「要するに、なんでハッピーとバースデーが当たり前の様にセットで扱われているのが、疑問でたまらないと、君はそう言いたいのか?」

「まあ、そんなところです」


 新たな命が生まれてくる瞬間は喜ばしいもの。


 多くの人がそう思うだろう。


 しかし、世界はそんなに単純ではない。そう思わない人間だっているのだろう。


 望まれない命が、生まれた瞬間にどんな扱いを受けるか。


 それは彼女の背中にあるあざに関係しているかもしれないし、そうでないかもしれない。


 プールにさそった時、着替える際に一瞬だけ見たそれを脳裏から払う。


「ならば君は私の誕生日は祝ってくれないつもりか?」

「そんな事はないです。先輩の誕生日なら祝うに決まってるじゃないですか、いつもお世話になっているのだから」

「アンハッピーなバースデーなんて、わざわざ覚える必要のない言葉だ。私は君の誕生日を祝いたいし、祝わせてほしい」


 だから、と私は用意していた新刊をさしだす。


 後輩が欲しがっていたものだ。


 今日がその日だから。


「ハッピーバースデー。これはバースデープレゼントだ。ぜひ私の時も同じように祝ってくれ」

「そういう言い方卑怯ですよ、先輩」


 ほんの少し頬をふくらませた後輩から視線を離す。


 自分の誕生日を祝う気になってくれるなら、自分を祝えと言うくらい恥ずかしい事でもなんでもない。



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