二話
目が覚めるとまばゆい光が僕の眼を眩ませる。俺は横に目をやるとそこは馴染み深い光景が広がっていた。ぼんやりとしていた頭が少しずつ覚醒してきて飛び起きる。俺の最後の記憶は病院のベッドだ。それなのに、今は俺の寝室で寝ていた。
ベッドに座り直して、頭を一旦整理する。補習をみちると一緒に行ってる途中で俺達は事故に遭って、病院に入院していたはずが…今は俺の部屋に居る。一体どういうことだ?俺がおかしくなっているのか…?
その時、ベッドにおいてあるスマホからピコンと着信音が流れた。俺はおもむろにスマホを取り出して画面を開いてみるとみちるから連絡が来ていた。
みちる…?
俺は目をこすって二度見やったがみちるで間違いがなかった。そこで、はっとする。俺は夢を見ていたんだ。スマホの日付を見ていると8月9日だ。補習一日目で間違っていない。俺の身体は今まで緊張していたせいか急に力が抜けてベッドに倒れこんだ。
よくよく考えてみればすぐにわかることだった。とても現実感のある夢を見ていたせいで寝ぼけていたんだ。馬鹿すぎるだろ…。
俺は少し恥ずかしくなりながらもみちるから何の連絡が来ていたか見てみる。そこには「今日の補習一緒に行こう!用意出来たら連絡頂戴!」と、書いてあった。俺は、「わかった。」と返信をして画面を閉じる。
一回伸びをしてからベッドに立ち上がり補習に行くために用意を始めた。
ほんとによかった。とても嫌な夢を見たせいで今も何だか気分が悪かった。だけど、夢なんだ。多分、最近不健康な生活をしていたせいで、悪い夢を見たんだろう。少しだけ、生活リズム見直そうかな…?
俺は、用意を終えみちるに連絡を入れた。すぐに既読がついて、「今すぐ、かけるの家に向かうね!」と返ってきた。
数分すると、チャイムが鳴り玄関を開けるとそこにはいつも通りのみちるがいた。
「かける!早く補習に行こ!」いつも通りの笑顔。俺はどこか懐かしさを感じるみちるの笑顔を見てどことなく安心感をおぼえた。
玄関を出るとむわっとした風が流れ込んできた。今日は、8月に入ったと言う事もあり、とても暑かった。風も生ぬるく外に出るのを諦めたいぐらいだが、そんなことは言ってられない。
外に出て通学路を歩き宇始めると汗がじんわりと額をにじませた。みちるも暑いからか、いつもはしていないハンドファンなんかもって涼んでいた。
「みちる。」
「何?」
「俺にも風わけて。」
「いいよ、少しだけなら。この暑さだし、倒れられても困るからね。」
なんて、言いながら俺にそれを向けてくれた。外の生ぬるい風とは違い、涼しい風が俺の頬をなでていき、ひと時の休息を得る。
「はい、おわりね!」
しかし、涼んだのもつかの間すぐにプロペラを自分の向きにもっていってしまった。もう少しくらい自分に向けてほしいと愚痴をこぼしそうになったが、そんなこと言ったらもう分けてくれなくなるかもしれない…。俺はのどまで出かかったものを飲み込んで「ありがとう」と返した。
「かける今回の期末苦手範囲だったの?」
ある程度歩いたころだった。急にみちるがそんな問いかけをしてきた。いつもだったら、自分の周りのことを延々と話しているというのに、俺のこと聞いてくると思わなかったから思わず聞き返してしまった。
「だから、今回かけるの補習が多かったから期末テストの範囲が苦手な場所だったのかなって思って…」
「あぁ、それ…」
その時、体が勝手に動いてみちるの腕を引っ張った。夢の中と話が似ていたせいか重なってしまったんだと思う。急にみちるを引っ張ったせいで彼女の身体は傾き俺の胸元へと倒れてきた。
ブオォォ!!目の前を勢いよく通り過ぎる音が聞こえる。一瞬のことだった。俺たちの目の前を大型トラックがありえないスピードで通り過ぎていった。
これ…、俺がみちるを引っ張らなかったらもしかして…?
夏の暑さのせいか、今のトラックのせいか汗が勢いよく流れてくる。
みちるもびっくりしたのか俺に寄っかかってフリーズしている。もしかして、これ夢と同じことが起ころうとしてたのか…?予知夢…?
それが何なのかはわからなかったがみちるが助かったのならよかったと思い、声をかける。
「腕急に引っ張って悪かったな。大丈夫だったか?」
「だい…じょうぶ」
彼女は眼を見開いたまま口だけをわずかに動かして答える。それは、怖かったからか震えていて小さかった。
俺は落ちていた空気を上げるためにも「こんなところでずっと立っていても遅刻するだけだ。行くぞ。」と言って、みちるの手をひいて、残りの通学路を進んでいった。