みよたみのりのこのはなだより 2022年4月23日オンエアー
ウサギさんの着ぐるみ、ふわふわもこもこ。でもいざ中に入ってみれば……。
この小説は、作者が「星空文庫」で執筆している『宗教上の理由』シリーズの世界設定を使ったスピンオフです。上記小説を読みたいという方は、星空文庫にて作品名または作者名「儀間ユミヒロ」で検索をお願いします。
もちろん、この小説単体でも話がわかるようにしておりますので、安心してお読み下さい。
山奥にあるという設定の、架空の小さな村、このはな村。この村にあるコミュニティFMを舞台に、小学生DJのおしゃべりを文字でお送りする、ちょっと変わった形の小説です。
架空のラジオ番組の文字起こしという体裁のため、文法や文中記号の使い方が本来のルールとあえて異なった形になっている点をご了承願います。原則として地の文はメインパーソナリティのおしゃべり、カギカッコ内は他の登場人物のおしゃべりです。
また、この小説は言うまでもなくフィクションです。
お、おもい……。あ、あと、あつい……。
みなさんこんにちは、みよたみのりです。今週も、はぁ、スタジオからお出かけして、はぁ、います。先週は、このはな村でうさぎ祭りとよばれ、る、はぁ、はぁ、イースターの前日でした、ので、ふぅ、このはな村でのイース、ター、の
祝い方をお、伝えしま、した。はぁはぁ。今週は、イースターの、後にどうする、か、をお伝えし、はぁ、ます。
それ、で、は、はぁ、ひぃ……、すぅ……、コノハヤサクヤヒメに守られし神の村このはな村からお送りしますみよたみのりのこのはなだより今日も元気にお送りしまーっす!
は、はひぃ、ひぅ、ひぅ、ひゅひぅ〜。
改めまして、みよたみのりのこのはなだより。今週もお外にお出かけです。先程は息が切れちゃって、お聞き苦しくて、申し訳、ありません、でした。このあとも、たまに切れ切れに、なる、かもしれ、ませんが、ご了承、お願いい、たしま、す。
どうして、こんなに、息、キレギレかという、と、あ、その前に、今日、番組を一緒に作って、くれ、るお友達を、しょうか、いします。
「紹介されなくても喋っちゃいまーっす、はいたーい、松山さんご、でーっす!」
「は、はいたい。四月からこのはな村に引っ越して来ました、伊波リサです。よ、よろしくお願いします」
「りーさー、なーに気取っとるばー? わんもやーもウチナーンチュやいびーしが、ヤマトゥぬくとぅばちこうとらんとならんばー?」
は、は、はい? さんごちゃん、今、なんて?
「え? なんてって、ウチナーグチさー。沖縄ぬ言語やーたい。りーさーが内地の言葉無理やり使ってる感じしたから、無理して標準語使うことないよー、て言うたったわけ」
「え、いや、松山さんのキモチは嬉しいけど、うち、ウチナーグチはあんまりしゃべれないから……」
「あきさみよー。那覇んちゅはそうなんだねー。まーでも、同郷のどぅしができるのは嬉しいさー。あ、どっしってのは、友達のことねー」
あのー、ラジオお聴きの皆さま、配信でお聴きの皆さま、ついて来られてますかー? ボクの友達のさんごちゃんはですね、沖縄からこの村にやって来たんですが、今月沖縄からもう一人、リサちゃんという子が引っ越して来て、すぐ友達になっちゃいました。それで、今日の放送は三人でお送りするんですが、なんでかと言うとですね、さっき、ボク、すっごく息切れてたと思うんですけど、
「はーい、お疲れちゃんのみーちゃんに変わって、説明しまーす。先週、みーちゃんは巨大なイースターエッグ風カプセうさぎルの中に閉じ込められて雪に埋められてたウサギさんを助けましたー。そしてそのお礼として、みーちゃんもウサギさんになることが出来たのでーす!」
って、さんごちゃんの説明じゃわかんないよ。改めて説明しますと、このはな村のイースターは別名うさぎ祭りとも呼ばれていまして、イースターエッグと呼ばれる卵とか、卵型のカプセルにお菓子やおもちゃを入れたものをいろいろなところに隠します。それで、雪の中に埋まってるカプセルをボクが見つけて、掘り出してみたら、すーっごくかっわいいウサギさんのぬいぐるみが入ってたんです。そしたらそのウサギさんは神様のお使いのウサギさんなので、それを当てたらご褒美として、そのぬいぐるみのウサギさんが、もらえます。あと、あと、えーっと、その……。
「みーちゃーん、なに恥ずかしがってんのー? はっきり言いなよー、自分もウサギさんになるご褒美もらったってさー」
わー! なんで心の準備できてないうちに言うのー? もぉ、しょーがないなー。えーっと、そういうわけで、ボクは今、ウサギさんの姿になってます。どういうことかと言うと、ウサギさんの、おっきなぬいぐるみを着ています。これがすっごくおっきくて、重くて、暑いんです。だから、今日の放送場所まで来るのも大変で、むっちゃくちゃ疲れちゃって、息切れしちゃったんです。汗もびっしょりです。それに前髪よく見えないので、さんごちゃんとリサちゃんに連れてってもらわないと、歩けませーん。
「礼には及ばんよ。ま、黒糖まんじゅう百個くらい、お気持ちでくれればいいから」
全然お気持ちどころじゃないってばっ! もお、さんごちゃん、そんなにしゃべりたいならこのあとの説明よろしくっ!
「しょうがないなー。では、ウサギの着ぐるみの中で声がこもってお聞き苦しいみよたみのりさんに代わって、わたくし松山さんごがご説明申し上げます」
「いまアタシたちは、このはな村にあります、白兎神社にいます。このはな村では四季のそれぞれに、神様のお使いとしての動物が村を守っていると言われています。お使いの動物は神使様と呼ばれ、春はウサギです。そしてウサギは西洋の行事であるイースターとも関係が深いので、このはな村では白兎神社のお祭りをうさぎ祭りとして、復活祭と一緒にしました。この何年かはお祭りを派手に出来ていませんが、今日はみーちゃんがめでたくウサギさんとして過ごしましたので、このウサギの着ぐるみを返しに来ましたー」
と、いうわけです。さんごちゃんが話してくれたように、このウサギさんの着ぐるみは白兎神社のウサギさんをモデルにしています。表面はもこもこで、さわるととっても気持ちいいです。今日はこの着ぐるみでここまで来たんですが、子どもにあっちこっちで抱きつかれちゃいました。
「気分上等やーたん。みんなからチヤホヤされてねー。モテ期到来って感じ?」
そんなんじゃないもんっ! だって、恥ずかしいし……。このウサギさん、ちょーかわいいんだもん。ボクがそれになっちゃうなんて、あわあわ、照れちゃう……。
わーっ! 鏡はダメってー。恥ずかしいって言ってるのにー。うわリサちゃん、頭ホールドしないでよぉ。もう、ウサギさんのボク、恥ずかしいの……。ウサギさん、かわいい……。
「えー、実況の松山です。現在ウサギに変身したみよたみのりさんは、鏡に写った自分の姿にうっとりしています。デレッデレです。かんっぺき、ナルシストです」
さんごちゃん、やめてよー。ていうか、なかしっこ? って何? さんごちゃん難しい言葉けっこう知ってるから時々分かんないー。
「ナルシスト、だってば。逆になかしっこ、って何かや? ウサギさんの中で、おしっこしちゃってるってこと?」
そ、それは、その、いやいや、してないってば! いーから、早く神社にお参りしようよー! ほらあ、リサちゃんも、案内してよお、ボクどっち向いてるかわかんないんだからあ。
って、ななーっ! 急に歩かせないでってばぁ! す、スタジオさん、曲お願いしまーす!
はぁ、はぁ、神社にお参りを、しました。そして今、ボクたちは、神社の建物の中にいます。普段はこの神社に人はいないんですが、ボクはウサギの着ぐるみを返さなければいけません。なので、神社を管理する宮嵜希和子さんが来てくれました。こんにちはー。
「こんにちはー、宮嵜でーす」
宮嵜さんは、女性の神主さんです。先日出演してくれました、村役場の宮嵜さんとは、スパーズの関係です、あ、スパーズというのは、もともと英語で結婚した相手のことを言うんですが、このはな村では夫婦全体とか色々なときに使います。ではさっそく、ボクはウサギさんをお返ししますので、希和子さ、宮嵜さんの、
「希和子でいいわよー」
あ、すいません。希和子さんのお祈りを受けます。その間、スタジオから曲をお願いします。
はい。儀式が終わりました。ではこれから、このウサギさんを脱ぎます。じゃなくて、脱がせてもらいます。ボク一人では、脱げないんです。
まず、頭を取ってもらいます。あごのところにベルトがあって、それを取ってもらいます。んぐんぐ、ベルトはしっかりしたのが二本、ありま、うぐっ、す。ウサギさんの頭の中にはヘッドギアをあごのとこまで長くしたようなものがあって、ボクの頭はそこに入って、押さえられてます。ベルトが外されました。さんごちゃんとリサちゃんが、頭を外して、くれ、ん、ん、んぐぐっ。
「ガサ、ガサ、バサバサッ」
はぁー。頭が軽いーーー。ボクの頭から、ウサギさんの頭が脱げました。このあと、から、ぐぐぐっ!
「ウサギの頭を取ると急に冷えちゃうでしょ、頭が。今度これかぶって、風邪引かないようにして下さいね」
「あー、そっちもかわいい、いいないいなー」
「みーちゃん、かがみ、鏡」
あ、あ、うん。うわ、かわいっ! あのですね、おっきなウサギさんの頭を脱いだあと、もこもこの、ウサギさんの帽子をかぶってます。これも可愛いですー。
「あ、これ、さんごちゃんとリサちゃんもどうぞ。お手伝いのご褒美ね」
「わー。ありがとーございますー」
次に身体です。胴体も上からかぶるタイプなので、今から二人に脱がせてもらいます、ごそ、がさがさがさっ。
わっ、さむっ! そ、外の空気、こんなに冷たいん?
「そりゃこのはな村だもん、冷たいに決まってるんさ。ほれ」
あ、ありがと。肩にブランケット掛けてもらいました。まだこのはな村は寒くて、みんな長袖だし、ジャケットとか着てるんで、寒いです。ボクは、さっきの動体の下にもいっぱい綿の入ったもこもこスーツを着てて、ハイネックなんですけど、それでも寒くて、
「ジーッ」
あ、チャックが閉められました。この胴体の下に着てるスーツには空気が入ってくるように、見えないところにチャックがあるんですが、そこを閉めてもらいました。で、でも今度は、どんどん暑くなって来ました。蒸れてます。で、でもまたチャック開けると寒そうだし、どうすれば……。
「うん、チャックをすこーしずつ開けてって、今の温度に慣らしていくの。みのりちゃんは、この下ってなに着てるのかな?」
スポーツ用のインナーウェアです。速乾っていうけど、暑いから汗でぐしょぐしょで……。早く脱ぎたいな……。それに着ぐるみさんの中って、汗だけじゃなくて、なんかいろんなにおいがして、まだにおいがする……。
「面下ににおいが付いちゃってるんじゃないかな。あ、ラジオをお聴きの方に説明すると、着ぐるみをかぶる時は、頭から首や肩までを頭巾みたいに覆う面下というものを先に付けてもらってます。これで着ぐるみに、においが付くのを防ぐんです」
あー、はい。でもこの面下って、タイツをちょっと厚くしたくらいだから、着ぐるみさんの頭に汗付いたり、ボクの頭ににおい付いたりしてそう……。
「面下を厚くし過ぎると頭に熱がこもっちゃうから、バランスを考えて生地の厚みを考えてるんですよ。はい、チャックすこーしだけ開けますね」
わーっ! あ、あの、今首のところのチャックを開けてもらったら、スーッと空気入ってきて気持ち良かったんだけど、ボクの汗のにおいに、前の人とかのにおいなのかな、それが混じったにおいが……。これ、いつごろ全部脱げるんですか?
「夕方かなー? あ、お昼は大丈夫、お弁当作ってきたから」
「わーっ、やったー、ありがとー!」
あ、ありがとうございます、って夕方? はあ、なんか大変なことになっちゃいました。なんか番組も終わりの時間みたいだし、えっと、みよたみのりのこのはなだより、また次回もよろしくお願いします〜。
はぁ、涼し……、うわ寒っ、はぁ、うん、それくらい、ちょっと暑いかな、でも、これくらいで、もうちょっと、あったか、ふわもこ……。
先週は復活祭、今週も復活祭。西ヨーロッパを中心とする西方教会とロシア正教などの東方教会では、イースターの日にちが異なるようです。基準となる暦が違うのだとか。
さて、いよいよ希和子さん登場で、もともとこの物語を書く際の作品世界の登場人物でも核心部分に近い人達が登場し始めました。これらの登場人物の詳細については「星空文庫」で儀間ユミヒロ作『宗教上の理由』シリーズで描いていますので興味があればそちらを。もちろん、お時間がなければそちらを読まなくてもここだけで十分楽しめます。
次回はゴールデンウィーク真っ只中。どんなお話が飛び出すでしょうか?