みよたみのりのこのはなだより 2022年4月2日
この小説は、作者が「星空文庫」で執筆している『宗教上の理由』シリーズの世界設定を使ったスピンオフです。上記小説を読みたいという方は、星空文庫にて作品名または作者名「儀間ユミヒロ」で検索をお願いします。
もちろん、この小説単体でも話がわかるようにしておりますので、安心してお読み下さい。
山奥にあるという設定の、架空の小さな村、このはな村。この村にあるコミュニティFMを舞台に、小学生DJのおしゃべりを文字でお送りする、ちょっと変わった形の小説です。
架空のラジオ番組の文字起こしという体裁のため、文法や文中記号の使い方が本来のルールとあえて異なった形になっている点をご了承願います。原則として地の文はメインパーソナリティのおしゃべり、カギカッコ内は他の登場人物のおしゃべりです。
また、この小説は言うまでもなくフィクションです。
みなさんこんにちは、みよたみのりです。今日は先週お約束した通り、スタジオのすぐ外の円形広場、通称ランナバウトからの生放送です。
今日のこのはな村は、だいぶあったかくなってきました。サテライトスタジオの横の壁に下がっている温度計は二度を指していますが、今太陽がでてきているのでもうすこしあったかく感じます。
それでは、コノハヤサクヤヒメに守られし神の村、このはな村からお送りします、みよたみのりのこのはなだより。今日も元気にお送りしまーす。
みよたみのりのこのはなだより。今週はスタジオ前の広場からお送りします。この広場は昔から村の中心で、ここから道が五方向へ分かれています。ランナバウトというのはロータリーのことを村ではそう呼ぶんですが、現在は自動車は原則進入禁止、村営バスだけが停留所を持っています。広場は石畳が敷かれているのですが、今はまだ、ほとんど雪に埋まっています。
今日は、この広場を紹介するために、ゲストをお呼びしました。
「こんにちは。このはな観光協会の、如留寺阿野輪花です。よろしくお願いします」
よろしくお願いします。如留寺阿野さんは、ひいおじいさんがイタリア生まれなんですよね。
「そうです。だからジョルジアーノという苗字を漢字にして使ってます」
外国から移り住んだ人が多い、この村らしいお名前ですね。それで、この広場は、どうして出来たんですか?
「はい。この広場はラウンドアバウト、日本語では環状交差点と呼ばれるもので、普通の交差点と違うのはロータリーのようにぐるっと回って曲がりたい道に入る点です。ヨーロッパなどでは多く見られますが、日本ではあまり多くありません。このはな村の環状交差点は日本で一番古いとも言われていて、村に移り住んだ外国人がこれを取り入れました。そして英語でラウンドアバウトと呼ばれていたものを耳で聞いたまま、ランナバウトと村人は言うようになったそうです」
へー、面白いですね。でも今は車は入らないんですよね?
「そうです。路線バスと緊急車輌以外は原則入れません。もともと、出来た頃からここは村の人々が集まる中心部でした。ところが、戦後車が増えてきたために広場として使うには危ないので、車を入れないようにしたのです。今は完全に広場として使われています。さっそく、見ていきましょう」
はーい。
ボクたちはこれから広場をぐるっと回ります。広場には雪が小山になってます。すごいですよね、これ。
「村の道路で除雪した雪は、ここに貯めてあるんです。このはな村は土地が余るくらいあるので、雪はどこに捨ててもいいんですけど、ここに道路が集中しているので、最後はここに持ってくるというふうにするのが一番効率が良いんです」
それで五月になっても広場には雪が残ってるんですね。
「はい。遅い季節になっても雪が残っていると、観光で来られた方にも喜ばれます。下界では初夏ですが、ここでは雪遊びが出来るんですから」
ですよねー。ボク、この村来て一番驚いたのって、こうやって雪を貯めとくってことなんですよ。ボクが去年まで住んでた所も雪がいっぱい積もるんですけど、ダンプが、何台も行列して河原に雪捨てに行くんですよ。それを知ってて、この雪山見たら、あー、雪を捨てるってもったいないことなんだなーって思ったんですー。
「ですよねー。もちろんそれぞれの地域に事情があるんで、一概には言えないんですが、このはな村ではですね、雪は天からの恵みだという昔からの言い伝えもありますので、保存しておける雪は保存しておこうという考えの人が多いですね」
あーなるほど。でもホント、この村の人って雪が好きっていうか、雪を大事にしますよね。どうしてなんですか?
「そう、ですねえ。私も子どもの頃から普通に雪で遊ぶの好きだったから、あまり考えたことないけど……。でもやっぱり、雪景色って単純にキレイじゃないですか?」
そう、ボクもそれ思います。三角の屋根に雪が積もってるのって、可愛いですね、童話みたいで。
「はい、ヨーロッパの古い街並みがモデルになっているってよく言われますから。でも正しくは、ヨーロッパの人々が設計したからヨーロッパ風になったんですよ。設計したのはドイツの人が中心だったので、ドイツのメルヘン街道という道沿いの街並みに似ていると、よく言われますよ」
へー。あとボクのお姉ちゃんはゲームに出てくるみたいって言ってました。なんてゲームかは忘れたけど。
「うんうん、みのりちゃんのお姉ちゃんは好きだもんね、そういうゲーム。RPGゲームとかは欧米からその原型が入ってきたと言われてるから、ゲームの背景とかもこういう街並みになったみたいです。それに木を組んで作ったり、三角の急な屋根って、日本の昔からの家のつくりと共通しているから、受け入れやすかったんだと言われています」
なるほどー。あと、屋根が平らだと雪が落ちて来ないから雪下ろししなきゃなんなくなるから、この村には合ってますよね。
「そうなんです。出来るだけとんがった屋根にすると雪は自然に落ちてくれるんです。昔の日本の雪国でもそういう風に屋根の傾きを大きくしていたのかもしれませんね。ただ、これからの季節は特に雪が落ちてくるので、それに巻き込まれないことが必要ですね。このはな村では、屋根から落ちた雪が道路に落ちないように条例があります。三角屋根は道路と直角に作ったり、道路から離して作ったり、雪が落ちてくる場所には注意のロープや看板を付けるなどしなければならないんです」
はー、安全にも気をつけて家を建ててるんですねー。
「みのりーん! オンエアしてるん? うちらも出してー!」
は、はいー? えー、雪の山で友達が遊んでて、声かけられました。ですが今は本番中なので、ボクは、ちゃん、と、おしゃ、べりを……。
「みのりちゃん、遊びたいっていう本音が見え見えだよー」
あわわ、見抜かれてしまいました、じゃなくて! しっかり放送しなきゃ、
「いいよー? 行こうよ、雪山のほうに。ここも観光スポットだから」
えっ、いいんですかー?
「本音が出てるー。みのりちゃん、やっぱり遊びたいんだねー」
は、はいー。そうですー。じゃあお言葉に甘えて遊びまーす。
今、雪山を登ってます。だいたい建物の二階か三階くらいの高さです。真っ白で、薄陽が差してきたのでキラキラしてます。この雪の山、とってもキレイですよね。
「このはな村の雪はキレイなんですよ、なーんて。んーと、道路の雪を除雪するときに路面を出さないでわざと雪を残すから、土などが付いて来ないのもありますね」
独特ですよねー、この村の除雪のしかたって。
「路面が出るまで除雪をしてしまうと、そこが凍って、かえって滑りやすくなるんです。タイヤが少し雪に埋まるくらいが、このはな村のサラサラの雪だとグリップがきくって運転する人は言いますね」
だからサラサラの新雪が集まるんですねー、はい、頂上に着きましたー。広場を上から眺められるので景色もいいです。そして、お友達が寄って来ましたー。えーっと、みんな、自己紹介を、
「しなくていいよー! いーからみーちゃんも遊ぼうよー!」
え、え、僕いまラジオでしゃべってて、
「関係なーい! このはなFMはふりーだむー! それではさっそく雪遊びの紹介でーっす!」
……。
マイク取らないのーっ! もお、放送事故なっちゃうよぉ。ねぇ、ディレクターさん?
「……。」
なに両腕で、でっかいマル使ってるんですかー? わー、輪花さん、何してんですか? つーか輪花さんなんでそんなパワーあるの?
「農家の娘さんなめんなー、って話だよーん。えーただ今、私はみよたみのりちゃんを抱き抱えて持ち上げています。この雪山ではソリ遊びや雪だるま作りもできますが、やっぱり一番面白いのは、春になって積み上げられた雪がだいぶ締まってきているので、その中に、あ、準備いいかな?」
「パーペキ! いつでもグリーンシグナル、オッケーだよー!」
あ、あわわ、まだ心の準備が、わーっ! あの、村からのお知らせ読まないと、
「はい、村からのお知らせ、みよたみのりに変わりまして、松山さんごがお送りします」
「このはな村では、本年度も無料PCR検査を引き続き実施します。対象となるのは、県内に在住の方、村内に在住・在学・在勤・および一定期間滞在する方、また、業務・見学等の目的で村内にお越しのすべての方です。
実施会場は木花村役場駐車場などの四ヶ所。検査の結果は同日中に判明し、無料の陰性証明書も即日発行可能です。詳しくはこのはな村ホームページ・村役場保健衛生課までお問合せ下さい。またこのはなFMの他の番組でも情報を発信しております。また、このはな検査パッケージ事業についても引き続き実施いたします。新型ウィルス感染症の拡大防止のため、宿泊を伴う来村の際には、先ほどお知らせしたPCR検査場、もしくは村が指定した範囲内の医療・検査機関が発行した、宿泊当日の陰性証明書が必要となります。また、飲食店や小売店の利用・レジャーなどのサービスにおいては、通勤・通学・業務以外で村外からお越しで、さきの条件に当てはまる陰性証明書の呈示が無い場合、利用をお断り、または提供するサービスを制限することがありますので、ご了承下さい。以上、村からのお知らせでした。みーちゃーん、お知らせ読んであげたから、心置きなく行っちゃってねー」
心置きたいってばー! あーっ、ラジオDJとしての意地をここで見せなきゃ。実況します。今ボクは雪山の頂上にいます。そして、雪解けのためにそこに割れ目が出来てて、ボクのお友達がその割れ目を広げています。こないだ一緒にスキー場に行った、あとさっき村からのお知らせを読んださんごちゃんもいます、そして、ボクはその割れ目の中に、
「ズボボボズボーン」
えーっと、ボクは割れ目の中に埋められました。今首しか出ていません。こないだのスキー場のやつと比べて雪が締まって固くなってます。何とかして脱出したいんですが、雪が固いのでなかなか難しくて、では、みよたみのりのこのはなだより、また来週、うわ、わわわーっ!
「ザザザーッ」
また遅れてしまいました……。これが続くといつのまにか一周遅れとかになってしまうので、是が非でも立て直さなければならないところです。
雪国に住んでいる人からすれば、春は雪解けの季節、いっときも早く目の前から全ての雪が消えて欲しいと思うものなのでしょうが、雪が滅多に降らない地域の人間にしてみれば、ああもったいない、庭の隅っこに積み上げた雪なんて残しておけばいいのに、と思うこともあります。それをわざわざ家の前の道にぶちまけて早く解かそうとしている人もたまに見ますけど、あれは自動車にとっては危険だし、邪魔にならないところであれば、初夏近くまで雪が残っているというのも乙な光景ではないかとも思います。
本当に雪の降らない所に住む人間の戯れ言ですので、どうかご容赦ください。