みよたみのりのこのはなだより 2022年3月19日
この小説は、作者が「星空文庫」で執筆している『宗教上の理由』シリーズの世界設定を使ったスピンオフです。上記小説を読みたいという方は、星空文庫にて作品名または作者名「儀間ユミヒロ」で検索をお願いします。
もちろん、この小説単体でも話がわかるようにしておりますので、安心してお読み下さい。
山奥にあるという設定の、架空の小さな村、このはな村。この村にある架空のコミュニティFMを舞台に、小学生DJのおしゃべりを文字でお送りする、ちょっと変わった形の小説です。
(この小説は言うまでもなくフィクションです)
みなさんこんにちは、みよたみのりです。今日は先週の続きで、このはな村営スキー場での録音放送をお送りします。放送が流れているときにボクは別の場所にいますので、どうかご了承お願いします。
それでは、コノハヤサクヤヒメに守られし神の村、このはな村からお送りします、みよたみのりのこのはなだより。今日も元気にお送りしまーす。
みよたみのりのこのはなだより。先週に引き続き、このはな村営スキー場から、今週は録音でお送りします。
今、ボクたちは二つ目のロープトウに乗るところです。今週もボクと一緒に、お友達の松山さんごちゃんが出演します。
「こーんにーちわー、松山さんご、でぇ〜っす」
うわ、テンションたっか〜い。二週目だからエンジン回転上がってる〜。そのままの勢いで、んじゃ、今週もよろしくお願いしま〜す。
さて、先週に続いてロープトウの説明です。これはリフトに座る代わりにロープにつかまって雪の斜面を登るものです。でもやり方にコツがあって、先週はすってんころりんしちゃったので、今日はやり方を変えます。先週はカッコよくやろうって思ってましたが、乗りやすさ優先ですっ。
まず手でロープを軽くつかんで、するするっと手の中でロープを滑らせます。あ、棒が来た。棒に手がぶつかったら、片手でぐっとロープを握って、もう片方の手で棒を背中に当てます、はい出来た、ロープトウライディング成功でーっす!
先週の生放送の時に、配信のほうにコメントたくさんいただきました。ありがとうございます。生放送のあいだにディレクターさんがまとめてくれましたので、いくつか読みまーす。
「ロープトウ、懐かしい響きです。私のふるさと北海道にも町営のスキー場があって、登るのはロープトウでした。ささやかなスキー場でしたが、何の娯楽も無い雪国の子供にとってはそれでも楽しかったし、なんと言っても無料なのが嬉しかったです。息子が幼稚園に上がる年頃なのでそろそろスキーを教えたいです。流行り病の収束を願っています」
はい、コメントありがとうございます。このはな村ではずっと村民の感染者ゼロ記録を更新中ですが、まだまだ感染者が多い地域もあるようですので、どうかお気をつけ下さい。
お子さんいらっしゃる方も聴いてくださってるのですね。そうですね、このスキー場もタダなんです。なんでタダなん? て聞かれることもあるんですが、雪の無いとこだと冬でも外でスポーツできますよね。グランドとかで。でも雪の降るこの村では、冬にやる外のスポーツといえばスキーとかになるし、公園のとかでランニングするのはタダなんだから、村のスポーツのための施設だし無料でいいでしょ? ってことみたいです。もちろん村民ではなくても利用できますよ。
でも、うちの村は村営スキー場という割にはすっごく大きいそうです。ロープトウが二つあるってのも珍しいらしいです。それにここ、すごい急斜面だし、後ろ見ると、
きゃっ!
「だからー。高いとこ苦手なんだから、わざわざ振り返らなくていいのにー。みーちゃん転ぶとアタシも巻き添えだよー?」
うん、さんごちゃんの言う通り、ごめんなさい。えーっと、こうやって急斜面を一気に登っていきます。
着きましたー! ほぼ山の頂上でーっす。風強くて、マイクがガサガサ言ってるかもしれませんがご了承くださーい。あと先週もですが、声がこもってるってコメントありました。これは、寒いんでフェイスマスクしてるからです。これもご了承くださーい。
この最高地点でも、いちお初級者でも降りていけるコースはありますんで、ボクもスキーそんなにうまくないけど大丈夫です。
「でも今日は、中級や上級のコースにチャレンジしたいと思います」
しません〜。さんごちゃん勝手に決めないでよ〜。
「決めるさー。いつまでも初級者コースでゆんたくしてたら上達しないよー。だから今日はアタシと一緒に別のコース行こうねー」
え〜。
「ほら、みんなダウンヒル行ってるさー。おう、はいた〜い。えー、今日も学校の友だちとかがどんどん登ってきてます。みんなどんどん滑っていきます。このあと、アタシとみーちゃんこと、みよたみのりも上級コースのダウンヒルにチャレンジ」
しないってばー! でもさんごちゃん、沖縄育ちなのにどうしてスキー丈夫なの?
「ウチナーンチュだからスキー出来ないとは限らないよー。やしがー、こっち来てまるまる二年なるもん、もうすぐ。普通にスポーツ出来て、二年のあいだしょっちゅう滑りに来てたら、これくらいにはなるよー」
そっかあー。その違いなのかー。だけど、せっかく一番上まで来たんだから、もう少しここにいたくない?
「えー? なに、やっぱ怖いの?」
いやいや、そうじゃないってばぁー。あのね、こないだの放送でボク、このはな村独特の雪遊びがあるよ、って話したの。ほらあれ。やってかない? 下の方は雪が固くなっちゃってるし、上はまだ雪サラサラだから良い感じだよ。
「あー、あれかー。いいよー? じゃあそれにしょっか」
というわけで、ここはスキー場最上部の避難小屋です。急な吹雪の時とかはここに逃げ込みます。それで、これからボクたちは、先々週の放送でお話しした、このはな村ならではの雪遊びを実際やってみたいと思います。なお、これは危険ですので、絶対真似しないで下さい。このはな村では、安全な方法を確立しているので、これを行っています。
それで、この避難小屋には、雪遊びに使うための道具が入ってます。まずこれ、フルハーネス。岩登りとかする時に使う、落っこちても地面まで落ちなくて済むやつです。えっと、さんごちゃん何色がいい? あ、うん。えー、さんごちゃんはマリンブルーを選びました。今付けるねー。
はい、二人とも付けました。録音だから編集しちゃってあっという間です。ボクはピンクに星がキラキラした模様がついてるフルハーネスです。この子ども用フルハーネスは、このはなブランドという、村の会社とか工場とかでオリジナルのものを作っていこうという事業で出来ました。ちゃんと安全性の試験も通ってるんですよ。
そして、フルハーネスの二か所にそれぞれ吊りベルトを付けます。万が一どっちか切れても大丈夫なようにです。フルハーネスの付けるところも離して付けて、どこか金物とかが壊れたりしてもどっちかがつながってるようにできます。あとヘルメットは、子どもの場合このスキー場では、かぶらないと滑るの禁止なので最初からかぶってます。あとは手袋もしてるし、ブーツはスキーやスノボのやつならしっかりしてるので、大丈夫です。こうやって、色々と安全のための装備をします。
ふたたび、編集してワープしました。避難小屋からちょっとだけ滑ってきたところです。ここに、ゲレンデはここまで、スキースノボでの立入禁止、という注意書きとロープが張ってあるのですが、それを張ってあるポールに、ハーネスのベルトをつなげます。ベルトは二つなので、もう一つは別のポールにつなげます。そして、スキーと、あとさんごちゃんはスノボだけど、しっかり雪に刺して、滑っていかないようにします。そして、
せーのっ!
ざざーっ。
きらきらきら。
はーい、雪埋もれ、大成功でーっす!
先々週の放送で、ボクたちは雪に埋もれて遊ぶんだって言いましたが、これでーす。今、ボクもさんごちゃんも、首まで雪に埋もれちゃって、それで、もがけばもがくほど雪に沈んでいっちゃいます。それくらい雪がサラサラなんです。あと、なんでフルハーネス付けたかは、出る時に必要だからです。ちなみにスキーやスノボでは立入禁止ですが、脱げば怒られませーん。ここはちょうど雪が吹き溜まりになるところで、フワッフワの状態になってるから雪に潜れるんです。
さんごちゃーん、やっぱ気持ちいいねー。
「だっからー。こっち来るまで雪ってこんなにふわっふわでさらっさらだなんて知らなかったさー。あと雪って冷たいと思ってたけど、このはな村の雪はあんまり冷たくないよねー」
ねー。ボクも思ったそれー、さいしょ、なんでかなーって思ってたんだけど、水分が少ないかららしいよー。おとーさん言ってたー。それで服に水が染み込まないしー、スキーウェアだから余計にそーなのかな。それに風吹くと寒いけど、雪の中に入っちゃえば、雪が壁になって風を防いでくれるでしょ? それもあるみたい。
雪の中に入ってから一時間くらい経ちました。そろそろおべんとタイムでーす。お弁当っていっても、雪に埋もれてるからビスケットとか、簡単に食べられるものを食べます。あと水筒に、ボクはあったかい紅茶入れて来ました。さんごちゃんは?
「ホットシークヮーサー。食べ物はクッキー」
へー。シークヮーサーってホットでもいいの?
「ホットのレモンってあるよねー。だったらシークヮーサーだってホットでいいよねー? 飲む? ほらコップ、コップ出して」
はーい、いただきまーす。あ、ありがとー。じゃあ、いただきま、美味しーい。あ、メイプル入ってる? ちょうどいい感じに甘酸っぱくて美味しーい。
「だからー。飲んで飲んでー?」
ありがとー。あ、スタジオから曲入りまーす。
またまたタイムワープでーす。お腹もいっぱいになりました。食べてすぐ運動するのは良くないので、もうちょっとここでおしゃべりしていきます。
えーと、今日のお題ー。今決めたけどー。まず、ねーねーさんごちゃん、ホワイトデー、何かもらった?
「ううん? もらってないよ。ここの村、無いじゃんホワイトデー」
あー、さんごちゃんの家もそうなんだ?
「昔からこの村住んでるウチはみんなそうなんじゃない? 村の伝統っつうか、ほら、バレンタインとホワイトデーは別とか言うさー」
だよね。何だっけ、バレンタインデーは聖なんとかさんのじゅ、じゅじゅ」
「じゅんきょう、の日。古代のローマかギリシャか忘れたけど、戦争があって兵隊は結婚禁止! って王様かなんかが言ったわけ。そしたら、えーっとバレンタインに似た名前、何だったかなー」
あーそれボクもさっき思い出そうとしてたけど、なんかバレンタインに似た響きだよねー、えーっと、バレナンティンとか」
「違う違う、もっと言いにくい名前」
そうそう、でもそれが思い出せなくってー。ラジオお聴きの皆さーん、お分かりの方は教えてくれるとうれしいでーす。
でえ、とにかく、そのバレンタインデーはその神父さんが兵隊さんの結婚式を、やめろと言われたのにやめなくて、死刑になっちゃうんだよね? もーさー、ひどい話だよねー。いまやってる戦争もそうだけど、殺し合いなんて、しちゃダメだよねー。
「当たり前さー。だからバレンタインは愛の日でもあるし、平和の日でもあるってわけ。でも、ホワイトデーにはそういう、なんでその日があるの? みたいなやつ? 由来? が無いし、日本でしかやらないから、外国式のバレンタインが先にさかんになったでしょ、このはな村は。ホワイトデーじゃなくて、男子も女子もその日にプレゼント送っておしまいっことさー」
へー。沖縄もそうなの? アメリカっぽい習慣があるでしゃ? いろいろ。
「沖縄はー、なんか知らないけど、そうならなかったさ。ハロウィンは昔からやってたかもしんない、分かんないけど。イースターも無いかなー。あ、聖羽鳥公祭はやるかも」
へー、そっかー。でもなんか、イースターはやらないのなんか分かるかも。あれじゃない? イースターは春を祝う感じだけど、四月の沖縄ってもう夏なんじゃない?
「夏までいかないけど、シーミーだからねー。お墓参りするの、お彼岸とはまた別に。そっちの方が大事なんじゃないかなー」
そうなんだー。色々な文化があるんだねー。
「だっからー。やしが、これ説明しないと分かんなくない? 羽鳥さんとか」
あっそうか、あの、羽鳥さんというのは、聖パトリックデーのことで、これも、じゅんきょうしたんだよね、パトリックさんって人が。三月じゅうしち日に。緑のものを身につけるんだけど、このはな村はまだ冬だから、常緑の木の枝を切って飾ったりするけど、ナンテンとかが一番手頃だから、お正月がまた来たみたくなるよねー。
「めでたくて良いよー。うちなーは正月二回やっさー。旧暦でもやるからねー」
へえー、うらやましいなー。
えーっと、ランチ終わってから、また一時間くらい経ちました。お日さまが照らしてくれて、とってもあったかいです。雪が積もってるときにお日さまが出ると、あったかく感じるのは、太陽の光が雪に反射してくれるからだと思いまふ。そうすると、ねみゅくなってきます。さんごちゃんはどうれすか?
「ん〜? にぇみゅい〜。ちっとおひるにぇ、しましょーよぉ〜」
らねぇ〜。ひょっと、おやしゅみ、したいよにぇ〜、しょうしにょ〜……。
は!
ま、ま、真っ暗! やっちゃった! さんごちゃん、起きて、起きて! あ、放送が途切れてしまって申し訳ございま、
「らいりょぶ、りょくおんりゃから、とびゃせばいいさ〜」
だー! 録音だから大丈夫とかいう問題じゃなくて! ほら夜になっちゃったんだってば! 早くおうち帰らないと……、さ、寒い!
「みーにゃん、りびゅんでいってらさー。おしょとは、ゆきにょにゃかよりしゃむい、って〜。らって、ひゅびゅきだよ〜? しゃむいし、あびゅないから、じっとしてたひょうぎゃいいよ〜」
そ、そうだけど……、ボクが雪の中の方があったかいって言ったし、吹雪だから下手に動くの危ないかもだけど! でも避難小屋までならなんとか行けるからー、
「みゅり〜。ワイタンしゅるかもりゃから、ちょっとろキョリれもあびゅないかもよ〜。しょりぇに、ひにゃんごやはしゅとーびゅとかにゃいきゃら、しゃむいよ〜」
あのー、さんごちゃんの言ってる事がよく分からないと思うんで、ラジオお聴きの方に説明します。ボクたちは雪に埋もれたまま寝過ごしました。それで雪から脱出して、避難小屋に行ったほうがいいとボクは思います。でも、さんごちゃんはワイタンするかも、あ、ワイタンというのはホワイトアウトのことです。雪で目の前が真っ白になってなーんにも見えなくなるアレです。だから避難小屋まで行くのも危ないって言ってます。百メートルもないところだけど、ここ山の上だし、危ないのは分かるけど。
「だったりゃ、ここにいたひょうがいいにょー。雪ぬにゃかは、しょとより、あったきゃいでひょ〜?」
う、うん。そうだよ、何度も言うけどそうだよ。実際雪から出たらすっごく雪冷たかったよ。
「だかりゃよ〜。アリャシん家とみーひゃん家にSNSできゃえれないって送ったさ〜、あ〜、みょうひぇんじきた」
SNS送ったの? で、返事? なんて? 心配してる?
「たのしんできてね〜、らってしゃ〜」
ええー? さんごちゃん家もボクん家も、お気楽なんだからー。それよりさんごちゃん、大丈夫? まだねむいみたいだけど。
「ねみゅいよ〜。もうひょっと、ねりゅ〜。おやしゅみ〜」
えええー? もう、さんごちゃんってばー、あー、もー寝てるー。ボクもずーっと寝てて、それで寝過ごしたのは悪いけど、でも、それより、えっと、
あの……。
「といりぇ〜? い〜にゃんここりぇ〜。しゅキーウェアりゃから、しょとからは、わかんにゃいよ〜」
そ、そんなこと言わないでよ〜。てゆうかなんでこういう時だけ目が覚め、また寝るう〜。あー、なんか意識したらどんどん……、飲み物飲み過ぎたかも……。
あ。
先週、書きたいのに書き切れなかったことを、録音という形で今週に持ち越しました。
架空のラジオ放送を設定して、それを再現するようなスタイルは楽なようで難しいです。口語として自然な言葉の並びは文章にすると不自然で読みにくい、これは自分から罠にハマったな、と冷や汗たらりです。
幸い、書き方の自分ルールみたいのは出来上がってきました。先週と今週はゲストという形で登場人物が増えていますが、主人公みのりのおしゃべりは地の文、ゲストであるさんごのおしゃべりはカギカッコ付き、という形で区別しています。文章書きのルールには逆らっていますが、みのりの一人称と考えれば何とか辻褄は合うのかな、と。
口語に寄りすぎて読みにくい部分もあるかと思います。最後の方の、さんごが寝ぼけてろれつの回らない状態になっているあたりなどは、特に。これは臨場感をどれだけ残すかの手探りが今後も必要かもしれません。
ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございます。