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2022年8月27日オンエア みよたみのりのこのはなだより

 この小説は、作者が「星空文庫」で執筆している『宗教上の理由』シリーズの世界設定を使ったスピンオフです。上記小説を読みたいという方は、星空文庫にて作品名または作者名「儀間ユミヒロ」で検索をお願いします。

 もちろん、この小説単体でも話がわかるようにしておりますので、安心してお読み下さい。

 山奥にあるという設定の、架空の小さな村、このはな村。この村にあるコミュニティFMを舞台に、小学生DJのおしゃべりを文字でお送りする、ちょっと変わった形の小説です。

 架空のラジオ番組の文字起こしという体裁のため、文法や文中記号の使い方が本来のルールとあえて異なった形になっている点をご了承願います。原則として地の文はメインパーソナリティのおしゃべり、カギカッコ内は他の登場人物のおしゃべりです。

また、この小説は言うまでもなくフィクションです。

 祭りだぁーっ!


 みなさんこんにちは、みよたみのりです。感染症が予想以上に激しい増え方をしたので、三週間ぶりの放送です。

 今日はこのはな村の夏を彩る最大のイベント、天狼神社の夏祭りに来ています。言うまでもなく感染対策は万全の状態で行われてますので、土曜日に重なった今年もそれほど人混みはなく、静かに行われています。今日はこのお祭りのようすをたっぷりお送りします。

 それでは、コノハナサクヤヒメに守られし神の村、このはな村からお送りする、みよたみのりのこのはなだより〜。


 というわけで、天狼神社宮司の宮嵜(みやざき)希和子さんにお話を伺います。こんにちは、今日もよろしくお願いします。

「こんにちは、よろしくお願いします。本当は夫婦別姓で嬬恋希和子と名乗りたい、宮嵜です」

はい、お約束のごあいさつ、ありがとうございます。で、今年も無事お祭りが開催されたのですが、おととしから感染症の流行のため、全国各地でさまざまなお祭りが中止にされていました。その中で天狼神社の夏祭りは毎年ずっと行われてきたそうですが、どうして感染症が流行っている中でも実施できたのですか?

「そうですね、まず、このはな村では新型ウィルスによる感染症が広がり始めた時から、いち早く封じ込めを行っております。徹底した検査体制と、マスクや換気などの効果的な予防対策をしっかり行ってきたことのおかげです。今なお、村民の感染者はゼロ記録を更新中で、これは村民の皆さんと村政とのチームワークが素晴らしいのだと、村民の一人である私も自画自賛しています」

ですよねー、未だに感染者ゼロってすごいことですよね。あと、神社でも何か対策をしていますか?

「村では、少しでも人の集まるところでは検査を行えるようにしていますので、当神社でも検査所を設けています。また事前に希望のある方には抗原検査キットを無料配布しています。さらに、村外からお越しの方につきましては、このいずれかで陰性証明ができない限り境内への入をお断りしていますのでご了承願います。また乳幼児や、病気などのためにマスクを出来ない方以外は、マスクおよびそれに準ずるものの着用が必要で、これは本殿で手を合わせる際でも外さないようお願いしています。さらに密回避のため、なるべくあちらこちらに人が散らばるように休憩スペースを配置しています」

かなり徹底した対策なんですね。あと思ったんですが、お祭りにしては人が少ないですよね。これは、人数制限しているんですか?

「いえ、そうでもないですよ」

あ、そうなんですか?

「はい。もともと、そんなにたくさん人はやって来ないお祭りですから。こんな山奥の小さな神社にわざわざ遠くからやって来る人はそうそういらっしゃいません」


 ごめんなさい、ズコーってなっちゃいましたが、気を取り直して。希和子さん、でも天狼神社は確かにちっちゃいですけど、歴史は長いんですよね?

「はい。少なくとも今から五百年ほど前にはあったと言われています。この土地はいくつもの火山に囲まれているので、火の神様であるコノハナサクヤヒメをお(まつ)りしたのが始まりとされています」

それで、コノハナサクヤヒメに守られし神の村、このはな村というキャッチフレーズがあるんですね。

「その通りです。ですが余りに火山が多いところなのでコノハナサクヤヒメも忙しく、天狼神社の管理は神様の御使いであるオオカミに託されました。神様の御使いは神使と呼ばれて、日本全国の神社や、そこに祀られる神様によってさまざまな動物が選ばれています。有名どころではキツネ・牛・犬などなど。あとヘビもいます。この神社ではニホンオオカミが神使だったのですが、先ほど説明したとおり神使だったオオカミが神様に昇格したので、神使の枠がひとつ空いてしまいました。そのため天狼神社では、神使を人間が務めることになりました。人間が神使を務めるというのはおそらく日本唯一ではないかと思います」

 ほへー。オオカミというと怖いイメージもありますけど、この村では神様なんですね。

「はい。神使の動物を選ぶ理由は色々あると思いますが、オオカミは畑を荒らすシカなどの草食動物を狩ることから、有り難がられたのだとも言われています。他の神社でも例えばキツネや猫は米を食べ荒らすネズミを退治するから、牛は畑を耕すのに役立ったから、といった理由が考えられています。なかにはクモやムカデを神使だとする神社もありますよ」

ええっ!? そ、それちょっと怖いかも……。

「うふふ。でもムカデは商売繁盛や武運長久、つまり勝負に勝つご利益があると言われています。あとムカデやクモも肉食ですから、害虫を捕まえてくれるという理由もあるかもしれません。ヘビもそうですね。ネズミを一飲みするみたいですから。逆にネズミを神使として(あが)める神社もあります。これはしょっちゅう退治されていることへの供養の意味もあるのかなと、私は思っていますけど」

そうなんですかー。でも天狼神社の神使さまは人間で良かったかも……。だってほら、神使って鳥居の下に像があったりするじゃないですか。キツネとか多いですけど。だからここに虫がいたらちょっと怖いかも……。

「うーん、それは私もちょっと怖いかな。でもうちのオオカミさんはほら、可愛らしいでしょ? ニホンオオカミって外国のオオカミより身体が小さくて、見かけが犬っぽいから余計可愛く見えると思いますよ」

ですねー。あ、ボクたちは今、神社の鳥居下にいるオオカミの石像の横にいるんですが、もともと二体いたんですよね、神使のオオカミは。

「はい、神使のキツネが二体一組の決まりなので、それにならったのだと言われています。ですがそのうち一体が神様になったので、鳥居下に二体あるはずのオオカミの石像は、一つだけしかありません。そして、その神様となったオオカミが年に一度地上に降りて来る日が今日のお祭りなんです。そしてオオカミの神様は神使である人間の体に乗り移ると言われています。神様と一体になった神使は、もうすぐお目見えですよ」

はい、楽しみです。ではそれまでのあいだ、スタジオから曲をお送りします。


 マイクは天狼神社に戻ってきました。間もなく天狼神社の神使様が、神様をともなって境内に現れます。ボクも去年ちょっと見たんですけど、結構びっくりすると思いますよ。

「がちゃっ。からんからんからん」

あ、始まりました。本殿の扉が開き、鈴を鳴らしながら、二人の巫女さんが出てきました。希和子さんの双子の娘さんです。かわいい〜。そしてその後ろから、神使様が、


 とぅじょお〜!


 うわー、かわいいー。相変わらず超かわいいです。あ、かわいいって言ってもどんなだか説明しなきゃですね。神使様なんは人間なんだけど、オオカミなんです。えーっと、化身といいますか、なんといいますか、

「オオカミの着ぐるみでいいのよ?」

わっ、希和子さん。あ、着ぐるみって言っちゃっていいんですね。

「問題ない問題ない。天狼神社のお祭りではオオカミの神様が神使である人間の身体に入るんですが、正確には人間の身体にオオカミが入るのは大変なので、神使はオオカミの格好をしてお迎えして、そのオオカミの装束の方に宿っていると考えられています」

 ふえー。去年も見ましたけど、でもホントに思いっきり着ぐるみですよね。全身もっこもこの毛皮で、かわいいんだけど、暑そうですね。ほんとに、もふもふで、ふかふかしてそうで、でも大変そう……。

「我慢しなくてもいいんですよ? しっかり整理券もらってるじゃないですか」

あ、バレた。えーと、神使さまは今、神様と一心同体になっています。これは一年に一回の人間が神様と触れ合うチャンスなので、神様の持つ福を分けてもらうというのが、このお祭りの大イベントなんです。あらかじめ配られた整理券があるので、休憩所とかで順番待ちするのですが、なんと、神使さまと直接触れ合うことができるんです! もうすぐボクの番が回ってくるのですが、それまで希和子さんにもう少しお話を伺います。


 このはな村の夏祭りって、去年も八月二十日だと思ったんですが、曜日じゃなくて、日にちで決まってるんですね。

「そうですね。お祭りの日にちを決めるのって実はなかなか難しいんですよ。日本には旧暦と新暦というのがあって一か月くらい日付がずれていますので、どちらに合わせるかは難しいんです。中には多くの人が参加しやすいように何月の第何日曜日、とかいう風にしているお祭りもありますが、このはな村の場合、日曜日は観光のお仕事の方が休みにくいとかあるので、日にちの方を固定して、今年も忙しい人も来年以降にチャンスがある、という形にしています」

なるほど。で、この時期にやるのは何か理由があるんですか?

「昔の人々は、夏に多くなる伝染病を魔物のような存在だと考えていたようで、それをお祓いしたのが各地の夏祭りの起源のひとつと言われています。そしてこのはな村では、夏の間にたまった魔物的なものや災厄を秋が来る前に浄化することにしました。

 また七月のうちに夏野菜の出荷を終えるところがこのあたりでも多くなったのですが、気候の涼しいこのはな村では八月が出荷のピークです。涼しいぶん出来上がりが遅くなるんですね。その忙しい時期が終わったあたりにお祭りをして楽しみたいとか、あと収穫を神様に感謝して作物を捧げるとか、そういったことが関係しています」

あー。そうすると観光のお客様も減ってくるから、ちょうどいいですね。

「そうですね。学校の夏休みも終わりが近いですしね。このはな村では寒さを考慮して冬休みを長くする分、夏休みは九月になる一週間前で終わりますから、なおさらですね。これより遅くすると学校の準備にぶつかったりしますから。だからこのはな村の子どもは、お祭りまでに宿題終えろ、としつけられるんです」

あ、あはは。そう言えばボクん家でもそれよく言われます。でも、このはな村に来てから、わりとよく宿題できてるかな。

「村に長く住んでる親御さんは夏休みが短いことを知ってるから、子どもの宿題スケジュールも早めに進めなきゃ、って分かってるんですよね。それに神使は子どもが務めるのが原則ですから、そのお友達も宿題終わらせてスッキリしてから神使さまの晴れ姿を見たいというのもありますね。あ、みのりちゃんの番よ」

あ、はーい、行ってきまーす。


 いよいよ、神使さまの前にやって来ました。茶色いモコモコのオオカミの姿ですが、もちろん中には神使さまが入ってます。現在の神使さまは、コノハナノツマ、コ、コココ……。

「あ、マヤヒメでいいわよ。いいわよね? マヤちゃん」

「うん、神使の名前は長いもんね。普通にマヤでいいよ」

よ、呼び捨ては恐れ多いです、マヤヒメ、様。こんにちは。

「こんにちは、みのりちゃん。今は順番待ちの人いないから、お話できるよ。あと、ホントにマヤでいいからね」

あ、ありがとうございます。じゃあ、ま、マヤさん、えっと、あの、その……。

「おーいミー公、ちゃんとインタビュアーの仕事しろよー」

わわ、お姉ちゃん! ってなんでそんなとこにいるのー?

「んー? 見りゃわかるじゃん、神様の股ぐらー」

「股ぐらー」

さんごちゃんまで? もおー、神使さまには、いま神様が宿ってて神聖な存在なんだよー?

「えー? 神様ったって犬じゃんよ犬。だいったい神使っつったって、ウチにしてみりゃ同級の生きた遊び道具だしなー」

「苗ちゃーん、怒るよー?」

「おーっと、神使さまお怒りー! つか、今の状況説明しなきゃダメだんべ? パーソナリティとしてさ」

あ、あわわ。えーっと今、オオカミの姿をした神使のマヤ、さん、の両足の間から、ボクのお姉ちゃんが顔を出してちょっかい出して来てます。苗お姉ちゃんはマヤさんと同級生の友達で、子どもの頃からマヤさんがお祭りで神様をお迎えする時にはお手伝いをして来たんだそうです。で、お姉ちゃんはボクの友達のさんごちゃんと同じでヤンチャでイタズラ好きですから、こうやって罰当たりなこともしちゃうわけです。

「うわー、ディスられてるー。ま、みー子もこれだけ生意気な口叩けるようになったのはええこっちゃ。ほな仕事続けてくれい」


 はあーい。改めて天狼神社の神使さまについて説明します。さっきのお話にもあったとおり、神社の神使と言ったら普通は動物なのですが、神使だったオオカミが神様になった天狼神社では、人間の少女が代わりにそれを務めることになりました。神使となるのは天狼神社を守る家系に産まれた子どもで、マヤさんもその血筋です。普段のマヤさんは、うちのお姉ちゃんとはぜんぜん違って、清楚なお姉さまで、優しくてひと思いで、いつも人々の幸せを祈っている素晴らしい神使さまなんです。

「みー子ー、どさくさ紛れで相対的に俺様ディスるなやー。あとで覚えとけよなー」

「苗ちゃん、妹ちゃんを脅しちゃだめだよー?」

ほらー。マヤさんに叱られたー。でもお姉ちゃんはいろいろ弱点あるらしいから、マヤさんにあとで教わっとくねー。

「あはは。苗ちゃんは幼なじみだからね。それにあたしたちが子どもの頃からお祭りを手伝ってもらってるし。だから苗ちゃんはあたしの身体をよく知ってるんだよ」

「マヤぁー、言い方気をつけろー、言い方ー」

「えっ、あたし今変なこと言った?」

「……ん、あ、いいややっぱ」

あ、マヤさんは少し天然なところがありますが、それも含めていいところだと思います。それでマヤさんにインタビューですが、神使としてこのオオカミ役を始めたのは何歳の頃ですか?

「えーと、だいたい三歳くらいかなー。もの心付いたときには、もうやってた記憶があります。神使のお仕事って他にも色々あるんですけど、この神様をお迎えするお仕事がいちばん最初にやったことです、たぶん。他にもうちの神社はちっちゃくて、今は希和子しか神職がいませんので、巫女さんのお仕事とか、お掃除とか、基本なんでもやります。今あたしは東京に住んでいますが、夏休みとかにはなるべく帰ってきてお手伝いをしています」

「お手伝いはアタシもしてるー」

「あ、そうだねうん。さんごちゃんやみのりちゃんやリサちゃんも、あたしがいない時は手伝ってくれてるもんね、いつもありがとね」

「どういたしましてー!」

「さんぺーは、ご褒美目当てだけどな」

「ご褒美? いやそんなことは……」

「あると思う」

リサちゃん、今までどこに、って何これ、かわいいーっ!

「わ、わわわ。いきなり抱きつかないで、は、恥ずかしい……、あと、暑い……」

あっごめん。えっと、今リサちゃんの声がしたと思うんですが、なんとリサちゃんもオオカミの着ぐるみを着ています。こ、これって、え、どうしたの?

「あ、その子は、あたしが子どもの頃に着てたの。着ぐるみは、ちっちゃい頃から神使の成長に合わせて大きくしてくんだけど、ずっと使わないのももったいないし、着たい子には貸してあげられるようにしてるの」

わー、いいなー。ほんとにもふもふで、毛もふかふかだけど、肌がぷにぷにしてて、ホントの動物みたいー。

「みーちゃん、あんまし触られると、なんか、恥ずかし……」

あーごめん、ごめんね。つい夢中になっちゃって。

「ううん、いい。私が望んで着たんだから。それに、顔とか隠せるから、人見知りにはちょうどいい……」

人見知りという割には、リサちゃんよくしゃべってると思うけど。じゃ、マヤさんのとこに戻るね。

「うん、あたしの体なら触っていいよ、良かったら。それにお祭りの行事の説明もしないとだし」

あ、ありがとうございます。


 なお、マヤさんの声は着ぐるみの中に内蔵したマイクを通じて、スピーカーから出力しています。神使さまがオオカミの姿になっているときの中継は初めてで、画期的なんだそうです。

 それでですね、夏祭りの中でもこの行事が昼間のハイライトなんです。つまり神使さまの着たオオカミの着ぐるみが神様を宿らせているのですから、その神様と直接触れ合えるチャンスってことです。これで神様に幸せを分けてもらえると言われています。

「みーちゃん、その前にアタシたちのファッションも紹介しようよ」

あっ、そうだった。えっと、ボクたちも一応天狼神社のお手伝いをする役目なんですが、巫女装束を着させてもらってます。巫女さんと言っても、このはな村は和洋、せっちう? なんで、宮司の希和子さん以外は洋服の要素が入った、ほかと変わった巫女服になってます。

 まず上着の下はみんなハイネックのインナーを着ています。これはどうしてなんですか? 希和子さん。

「はい、元々このはな村は外国人が多く移り住んできた村ですから、洋服の文化が積極的に取り入れられたことと、あと夏でも朝晩はけっこう冷えたりするんで、胸のところが開いてると寒いんです。だから首まで保温できるようなインナーを取り入れたんですね」

ですよねー。今朝もロンTで寒いくらいでしたから。ということは、履き物が草履じゃないのも防寒のためなんですか?

「もちろんそれもあって、黒の編み上げブーツが定番になっています。これは防水仕様なので、雨で土がぬかるんでも安心ですし、冬は同じ形の防寒ブーツもあります。あと袴の下にレギンスを履くのも冷え防止のためです」

へえー。でも紅白の衣裳に黒のインナーやレギンスって良いアクセントですよねー。あとこのカチューシャもすっごく可愛いです。

「オオカミの耳をあしらっているんです。神事で巫女さんが額に金の飾りを付けますよね。あのイメージなんで、ラメを入れてキラキラな感じにしています」

これ、キレイですよねー。あと帽子になってるのもあるし、あ、境内に手袋してる子もいる。かわいいー。

「ちゃんと肉球も再現してあるんですよ。ほかにもいろいろと境内で販売しているので、あとで見てみて下さいね。うちのお祭りは露店も出ない小規模なものですが、こうやって地元の皆様がちょっとしたものを販売しています。この帽子や手袋は、このはな中学校の有志の皆さんが作ってくれたもので、この他に食べ物や飲み物もあって、売り上げは災害復興や紛争地での医療活動を支援する団体等に寄附します。でもみのりちゃんは宣伝してくれたりお手伝いしてくれてるので無料で差し上げますよ」

ホントですか? あ、ありがとうございます! うわー、肉球の手触り、楽しみー。

「みーちゃん、はい」

ん?


 うわー、ホントに肉球だあー! むにむにしてて、なんかクセになるー!

「みーちゃん、ラジオだと分かんない。説明してあげて」

あっ失礼。今、リサちゃんが着てる着ぐるみの肉球を触らせてもらったら、すっごい柔らかくて、ふにふにしてます。って、わ、わ、わーっ!

「どう? 気持ちいい?」

き、き、気持ちいい〜。こんどはリサちゃんがボクのほっぺたを両手でもみもみしてくれてます。肉球がたまんないんです〜。あーなんか、このままずーっとこうしてたい〜、あっ、あれ?

「みー子ー、本題忘れてるぞー。ちゃんと神使さまにハッピーを分けてもらいたまえー?」


 あわわ、苗お姉ちゃんに引きはがされてしまいました。んで、マヤさんの前に戻りました。ん、マヤさん、なんて?

「あ、うん、あたしの着てるオオカミさんに入ってくれてる神様が、みのりちゃんに幸せを分けてくれるから。はいこっち来て?」

そ、そうでした。整理券までもらって何をしてるかと言えば、神様の幸せをお裾分けしてもらうんでした。

 感染防止のため、ボクたちこのはな村の子どもは普段から目鼻口をしっかり覆ってガードしています。今日のボクはカップ型のマスクとゴーグルなんですが、この上にプロレスラーみたいなマスクをします。どうしてかと言いますと、これから神様と直接触れる事でそのお力とか幸せを受け取れるんですが、他にも順番でたくさんの子が同じことをしているので、ウィルスの接触感染を防ぐためなんです。あ、これも着るんだ。今、頭からかぶる防護服をもらいました。これでバッチリみたいです。今、着ます、あ、マイクが……。

「ではその間、宮嵜がつなぎますね。神様のご利益は、直接触れ合うことで一番確実に伝わると言われています。そのためにこの方法が取られていますが、もちろん神様ともなれば遠くにご利益を飛ばす力を持っているはずですし、特に私たちの神様は出歩くことの出来ない人に念を届けるのが得意みたいです。でもずっとそれをやっていると神様が疲れちゃうので、来られる人はなるべく現地に来る、という感じでやっています。あ、みのりちゃんの方、もう大丈夫ですね」

はい。では再びみよたが話します。いよいよ神様に幸せをもらいたいと思いますので、神様、お願いしま、


 わぁ。


 い、今、ボクは、神様に、ぎゅっとハグされていま、す。神様の身体は、とうっても柔らかくて、本当の動物に抱きしめられてるみたいです。すっごい、気持ちいい……。

「みのりちゃん、じゃあ行くよ。いいかな?」

え、あ、はい。あれ、これ以上何かある、の、か、


 「かぽっ」


 わー! わー、わー! ボ、ボクの頭がオオカミさん、じゃなかった、神様の口の中、えっと、よーするに、


 食べられたー!


 「みのりちゃーん? これは天狼神社の神様による幸せの分け与えと、人間の身についている悪いものを神様が呑み込んでくれる、一種のお祓いなのよー? このはな村では、邪気は子どもの近くに寄ってくると言われてて、でも子どもは基本的に生命力があるからやられないんだけど、一年に一度はこうやって邪気を払うことで、子どもの気分がリフレッシュすると言われてるの。気分はどう?」

き、希和子さ〜ん、なんか、神様の口の中もほんわかあったかです〜。

「そう? それなら良かったわ。三年前まではマヤちゃんの口にマウスピースを付けて、頭を軽くガブリしてたんだけど、今は感染症を警戒して口の中にアクリルの仕切りを付けてるから、物足りないかなって思ってたんだけど、三年やって文句が出ないなら大丈夫なのかしらね。あ、マヤちゃんがうなずいてる。みのりちゃーん、気分はどう?」

は、は〜い。暗闇の中にマヤさんのお顔があるのが分かります。マヤさんの青い目が光ってるように見えます。ボクとマヤさんの間はアクリルで隔てられてるのですが、マヤさんのぬくもりが伝わってくる気がします。

「そっか、それなら良かった。神様の口に頭を入れてる子どもとマヤちゃんの間には空気も流れなくしてあるし、前の子どもが終わったあとに時間をとって中を換気と消毒したうえで次の子の番にしてるから、対策は万全。その代わりマヤちゃんは唯一空気が出入りする口をふさがれてるから大変だと思うけど、あ、手を振ってる。違うって言いたいみたいだけど、ホントかな? マヤちゃんは痩せ我慢しがちだから」

「ホントに大丈夫ですからー。着ぐるみの素材が完全に空気を通さないわけじゃないから窒息とかしないしー」

「マヤちゃん、呼吸は大丈夫かもだけど、暑くないの? 着ぐるみの中で空気が動かない状態で」

「暑いのは前もそうだったから平気だよ。今日もねー、いいダイエットになってるかもー」

ダイエットって? マヤさんもともと超スリムじゃないですかー?

「みのりちゃーん、マヤちゃんが言いたいのはそこじゃなくて、暑くて汗が絞られるように流れてるってことにユーモアを乗せて言ったんだと思うー。だってあの着ぐるみの中全体が、マヤちゃんの体温くらいいってるかもだから……」

う、うん、そうですね。そっか、あったかなのは、マヤさんのぬくもりなんだ……、うっとり……。

「あったかなのは、いいんだけど……」

「ん? オオカミ二号ことりーさー、どしたん?」

「汗、本当にすごいんだろうね。私この着ぐるみ着た時にむわっと来た。なんか、汗とかアブラとかがこびりついて古くなって来た感じの、独特の。これ、マヤさんの匂いなんだね」

「あー、着ぐるみの外にも少し匂ってきてるわー。これ洗えないんだろーね、しょうがないかもよ、ん、ん?」


 「えっへん。みよたみのりのこのはなだより。今日は天狼神社の夏祭りの模様をお送りしましたーっ! あ、今マヤ様に食いかけられててマトモに話せないみーちゃんの代わりに、松山さんごががお送りしてまーっす。なんか、みーちゃんが、しゃがんだオオカミの神様に頭をパクられた状態でホールドされてて、ぱっと見シュールだったりします。希和子さん、ほっといていいんですか?」

「大丈夫よ。他にやりたい子が今いないし、あのまま満足するまでいてもらいましょ?」

「ほーい。ところでりーさー? そのオオカミさんの着ぐるみって、どんな着心地だわけ?」

「うん? 悪くない。暑いし重いし動きにくいし匂いもするけど、もこもこふわふわな感じが着てても気持ちいい」

「着ぐるみの下って何着てるの?」

「私はスポーツインナーの上下に、頭巾を大きくしたみたいな形の面下っていうのを、頭から肩までかぶってる。その上になんだろ、オーバーオールとか釣りのときに履く胴長みたいな形のに、ウレタンがもこもこしてるのを着て、面下の肩のところに通して吊ってる。毛皮はその上。けっこう厚手のオールインワンで、もふもふしてる」

「いーなー。希和子さーん、オオカミさん、まだ居るー?」

「居るわよー。さんごちゃんの身長だと、あっ、あの子ちょうどいいかな。来て来て? 着せてあげるから」

「やったー! あ、ラジオの方はりーさーと、あと、そこでハイボール飲んでサボりまくってる苗ねーねー、よろしくー」

「さぼってねーよー! 特に仕事が無いだけじゃん。成人が休みに酒飲んで何が悪いんじゃい。あとハイボールってもこれはウォッカベースだから高級なんだぜ? ゆっくり飲ませてくれよー」

「えー? 苗ねーねーのハイボールはいつも濃すぎだから少し氷で薄めた方が良くね? ちょうど今仕事出来たから復帰しちくりー! とりあえず番組二人でシメといてくりー! その間にハイボールも薄くなるっしよ。しくよろ〜」

「はいはい、はいよー! それじゃ番組そろそろ終わりらしいけど、マヤ何か言い残すことある?」

「あ、えっと、天狼神社のお祭りは世界中の人々と自然の生き物が平和で幸せに暮らせるようお祈りするお祭りです。あたし達の神様はオオカミさんですが、優しくて平和を愛するオオカミさんです。今も世界は争いごとが絶えません。でも八月に日本の国の多くのお寺や神社でお祭りがあるのは、お盆とかも関係してますけど、戦争で犠牲になった人に祈りを捧げる意味もあると思います。ですからあたし達は、神様に平和を守ることを誓い、そのためにつくられた国の決まりを守っていくことが大事だと思います。皆さんもあたし達と一緒に世界から争いがなくなる事、病気や飢えで苦しんでいる人や、他の人と違っているために苦しんでいる人が救われる世の中になることを祈ってくれるとうれしいです」

「はい、ありがとうございまーす。で、マヤの口の中にいるところの、みー子はどーしてるん? なんかだらんとなっちゃってるけど」

「んー? 寝ちゃって、は、いないかな。さっきからムニャムニャ、気持ちいいーって言って、とっても幸せそうな顔してるよ」

「マヤさんから、みのりちゃんは見えるんですか?」

「見えるよ。私の顔とみのりちゃんの顔がアクリルの透明マスク越しに接近してるから。あれでも、顔赤いけど、平気?」

「赤いって、熱中症じゃ……。マヤさん、みのりちゃんに呼びかけて? 意識ある?」

「それは平気。さっきからこまめに声かけて、返事きてるから。でもこの顔の赤さとか、目がトロンとしてるこの子、なんか初めてみるかも……。みのりちーゃん、大丈夫? 返事できる?」

……ふぁ、ふぁああ〜い。なんらか、しゅごい気持ちよくて、ひあわせ……。からだもふもふ、口の中あったかで、いい香りがひゅる……。

「いい香り? マヤの汗とかアブラとかが発酵したこの世のものとは思えない匂いのこと?それ好きなの相当変わってんべ?」

ううん? にゃんか、柑橘系と、あとツーンとくるけど、かいでるとどんどん気持ちよくにゃる、におひ……。

「え、どゆこと……、あ、マヤの本体と口ってアクリルで区切られてたんだっけ?」

「そうだよー。だからあたしの汗の匂いとかは、みのりちゃんに届いてないはずだよー」

「と、いうことは、マヤが匂いフェチってわけじゃないし、って、あっ。そういや神様の口の中、消毒って、もしかしてこれ、それ用なん?」

「そだよー。ウォッカの度数がちょうどウィルスの消毒にいいからってことでさ、全部ウォッカじゃもったいないから、ナナカマドの果実酒とかで割ったりしてたの。苗ちゃんが飲んでるのは本当は消毒用に買ったんだから。

「あー、防腐剤にするやつかー。それで香りが良かったんだなー。ん、ということは?」

「……そう。希和子さん念入りに口の中消毒してたの。前の子のあとにすぐみのりちゃん入るからって。で、みのりちゃんすっごく長くいるから、もしかして……」

「もしかしなくても、ちょうどいい感じに充満してんべ、みー子の吸う空気に混じりまくりだよ。おーい、みー子、無事かー? 気持ち悪くなってたりしないかー?」

「ら、らいりょぶ……。れも、ちかりゃが抜けて、うごけにゃい……、お……。

「お?」

おトイレ、行きたい……。

「あわわ、みのりちゃん、大変、すぐ行こ、大丈夫? 立てる?」

む、むり。にゃんか、手も足も、オオカミしゃんのふわふわで気持ちいい……。かりゃだも、ふにゃふにゃで、気持ちいい……。

「ダメだ。今引っこ抜くから、リサちょっと手伝ってくれん?」

「うん」

あ、リサひゃん、番組、の、あいしゃつ、しなきゃ……。

「うん任せて。それでは、みよたみのりのこのはなだより、今週はここまでといたします。次回の放送も感染症蔓延の状況により再来週になる可能性もありますので、よろしくお願い申し上げます。はい、終わった。さんご、苗さん、みのりちゃんはどう?」

「完全に力抜けてるんだはずだけど、マヤさんをホールドしたまま固まってるー。しばらくこのままかなー?」

「んー、体調とか悪くなってなけりゃ、そのままで良くね? つかマヤ、日陰に移動すんべ。ウチらも手伝うから、みー子込みで動くよー。それっ」

あわっ、あ、なんかゆっさゆっさで、すっごい気持ちいい……。全身の力が、抜けてく……。

「これ以上どこの力が抜けるばやー?」

ん、お腹、とか……。さっき、おみじゅたくしゃん飲んで……、あっ……。


 おちり、あったかい……。



 みのりは飲んでません! 何を? とかじゃありません! 消毒用アルコールが気化したものを吸い込んだだけです!

 と、コンプライアンス対応をしつつの振り返りです。このはな村は作者の頭の中で造られた理想の村で、その村を守っているのがコノハナサクヤヒメ、そしてその神使(眷属)であるオオカミ、という設定もそれらの理想とつながっています。宮司は女性(今は実際にいるようですが)、そして彼女は夫婦別姓を望み、巫女装束が和洋折衷、参詣者の浄財は世界平和のために、そして平和国家日本を強く求めるという、このはな村らしい神社です。

 その天狼神社の神使であるマヤはオオカミの着ぐるみで頑張っています。このはな村は着ぐるみとか、色んなコスチュームで子どもたちが楽しむ村ですのでこれからもいろいろ出していきたいと思います。

 次回の更新も少々時間がかかります。ご了承願います。

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