2022年7月16日オンエア みよたみのりのこのはなだより
この小説は、作者が「星空文庫」で執筆している『宗教上の理由』シリーズの世界設定を使ったスピンオフです。上記小説を読みたいという方は、星空文庫にて作品名または作者名「儀間ユミヒロ」で検索をお願いします。
もちろん、この小説単体でも話がわかるようにしておりますので、安心してお読み下さい。
山奥にあるという設定の、架空の小さな村、このはな村。この村にあるコミュニティFMを舞台に、小学生DJのおしゃべりを文字でお送りする、ちょっと変わった形の小説です。
架空のラジオ番組の文字起こしという体裁のため、文法や文中記号の使い方が本来のルールとあえて異なった形になっている点をご了承願います。原則として地の文はメインパーソナリティのおしゃべり、カギカッコ内は他の登場人物のおしゃべりです。
また、この小説は言うまでもなくフィクションです。
年間降水量、県内トップ。
カッコ、参考記録。
みなさんこんにちは、みよたみのりです。このはな村ではこのところ毎日、午後になると雷様が大雨を一緒に連れてきます。先週この放送が終わってからも、すぐに雷様と大雨がやってきちゃって、すんごい怖かったです。
このはな村で一年間に降る雨や雪の量は県内トップレベルなんだそうですが、アメダスが無くて村の設置した雨量計だから気象庁の記録には載らないらしいです。夏はこうして連日午後から大雨、冬も毎年の大雪ですからそうなるのも不思議じゃないですけど。
でもこのはな村の野菜が美味しいのは、こういう天気のおかげみたいで、それもどういうことなのか知って行きたいです。
それでは、コノハナサクヤヒメが守りし神の村、このはな村からお送りする、みよたみのりのこのはなだより〜!
みよたみのりのこのはなだより。今日もボクの同級生である、
「みること、七条美留久と」
「伊佐、リサと」
「はぁ〜い、みーんな、おー待たせ〜! 世界遺産琉球の豊かな自然が生み出し、このはな村に遣わされた地上の天使、その名もぉ〜、聞いて驚け見て驚け」
松山さんごちゃん、以上四人でお送りしまーす。
「って、こらー! アタシの自己紹介を途中でさえぎ」
さえぎりまーす。マイクのオンオフはボクの自由ですからね。この番組はおしゃべりや効果音やマイクの操作をDJが行うワンパーソンスタイルでお送りしていまっす。
では早速、先週からこのはな村の農業について、家が古くからこのはな村で農業をしているというボクの友達、七条美留久ちゃんにいくつか質問のコメントが来ていますので、分かる範囲でお返事お願いします。
「はい。よろしくお願いします」
こちらこそ。ではまず、こちらから。
「高原野菜といえばレタスやキャベツのイメージがありますが、このはな村では作っていないのですか?」
そう言えば、あんまし見ないね。周りの町や村ではよく一面のキャベツ畑なんて見るけど。
「はい、お答えします。このはな村はキャベツやレタスを作るのにも合った気候なんですが、今みーちゃんが言ったような、見渡す限り一面に広がった畑の方がいいんです。収穫もパートを雇ってたくさんの人数で一気にやってって感じで。そういうところで他の村と競争が激しいのもあります」
そっかー、じっさいみるちゃん家とか、このあたりの畑って、面積は広いけど縦に長いもんね。
「そうなん。それもあって色々な作物を分けて作ることがしやすいんだけど」。
だねー。区切りやすいもんねー。
もう一つ。
「そんなに厳しい気候だったら、こう、さくほう、き、ち? に、ならないの?」
「あ、耕作放棄地のこと? このはな村は逆に無いよ。だって土の栄養が少ないから目いっぱい土地を使って少しでもたくさんの作物を育てなきゃ、ってなるんさ。でも畑と家とがつながってるし、後継者もちゃんと育ってるし」
で、先週は畑を三つに分けて作物をローテーションするということを教えてもらったんだけど、それ以外にも色々な作物をつくってるんだよね、ここでは。
「作ってるよ。縦長の畑を全部三つに分けるときに余りが出るんさ。江戸時代にどの畑でどの作物を作っているか役人さんが記録するんだけど、昔の面積の単位だと三で割り切れないところが残るから、そこを自分たちの家で食べる分の野菜とかを作ったん」
へー、家庭菜園をおっきくした感じ?
「うん、そんな感じ。だから家から近い所は、そのためのゾーンになってるん。何でもかんでも、好き勝手に育ててるんさ」
そうなんだー。さっそく見せて見せて。
わー。いっぱい色々植えてあるねー。トマトにキュウリにナス、夏野菜もいっぱいあるー。
「いいねー夏野菜。カレーに入れても美味しいさねー」
さんごちゃん、野菜好きだもんねー。沖縄育ちだから、ゴーヤーも食べるの?
「もっちろん! チャンプルーにしてがっつりとねー。でも、りーさーは食えんて言うばーよ。しにまーさん、て言うちょるがによー」
「だって、苦いじゃない。大人になってからでいいと思う。あと、しにまーさん、は通じないと思う。とっても美味しいって意味だから。頭にハテナマーク乗せてるみーちゃん、分かった?」
あわ、わかんなかったー。でもわかるー、ゴーヤーはボクも食べられなかったけど、こっちに住んでおとーさんの料理したの食べたら美味しかったよ。このはな村では育ちにくいみたいだけど。
「んー、やっぱり暑い所の野菜は育ちにくいかな。でも最近はふもとの街あたりでも育つみたいだから。緑のカーテンって、窓の外に竿立ててつるを這わせて葉っぱをカーテンがわりにするんさ。それだけこの村のまわりも暑くなったってことかもしんないけど」
暑いっていえば、そろそろ花豆の花が咲く頃かな? 真っ赤でキレイだよねー。
「もう少し涼しくなってからかな。つるが伸びてきたけど、まだまだ大きくなるよ」
あーホントだ。花豆って背が高くてつる草だから、どんどん伸びるね。うちでもおかーさんが育ててるけど、やっぱ畑でずらーっと並んでるのが咲くのがみてみたいの。キレイだろうなー。楽しみー。
「アタシも楽しみー。花豆って味が小豆に似てるもんね。うちでも甘く煮たりして食べるけど、ぜんざいにも合うんじゃないかな」
「さんご、ちょっと待った。沖縄のぜんざいは、内地で言う
氷金時のことだから。でも、沖縄のぜんざいで小豆の代わりに花豆が合うかもという意見には賛成」
ん? ぜんざいが、かき氷? 小豆を使うとこが同じだからかな? でもなんかさんごちゃん、最近やたら沖縄の言葉使うねー。
「そう? まー、こっちの暮らしに慣れてきたから、かえってうちなーの言葉がすんなり出るようになったさ。この村は四方八方から人がやてぃ来るからに、沖縄口使うてもなんも言われんさーねー」
なるほどねー。ちなみに花豆についてラジオをお聴きの皆さんにご紹介します。花豆は群馬・長野・山梨あたりでよく作られている豆類です。粒が人の親指くらいある大きいものが特徴で、保存も効くので、このはな村でもよく栽培されています。北関東や甲信越あたりを旅行した際に見つけたら食べてみて下さいね。
「花豆は暑いところでは栽培しにくい豆ですが、逆にこのはな村のように、暑い日が少なくて農業をするには厳しい土地でも育ってくれる有難い豆です。このはな村の花豆は特に長い時間をかけて大きな豆に育てますので、興味のある方はお手にとってみて下さい」
でも花豆って、ほんとに寒い所じゃないと見ないよね。作るのに手間がかかるって聞いたことあるけど。
「あー。花豆はさ、育ってくると、葉っぱがこんもり茂るでしょ? 余計な葉っぱをおっ切って中の方まで風と日光が入るようにするのも大変だし、収穫する時には人間より背が高くなってるからそれも大変だがね」
それでなのかな。作ってる農家がだんだん少なくなってるって聞いたことあるけど。
「減ってるみたい。でもこのはな村ではもともと無理がないように、こうやって畑の一列とかで止めてるから続いてるみたいだけど」
あっそうか、気候が厳しいから何種類もの作物を育てて、どれかは生き残るようにって考えてるから、一種類の作物だけ見ると量は少ないんだ?
「そういうこと。それに一種類の作物にばっかり手をかけてたら、それが不作だった時に損害が大きくなるでしょ? だから危険を分散させるんさ」
そっかー、このはな村で農業をするって大変なんだね。
で、今までの話をまとめると、このはな村はもともと農業するには向いていない土地だけど、それでも冬寒くて夏も涼しい気候や、雨が多いけど水をすぐ吸い取ってしまう土に合った作物を選んで、それを広い土地で、なるべく多くの種類を育てて、ひとつの作物に手間をかけないように、バランスよくやってきたんだね。
「そうだね。それに広い畑を家族で管理するのって大変だから、全体的にみても畑の世話にかける手間は少ないと思うん。多少ほっといても育ったり、病気や害虫に強めの作物を選んでるから、肥料や農薬ばっかに頼ることもないし。だからなんつーか、農家って忙しかったり大変だったりするイメージあるけど、このはな村ではかえって無理なく農業出来てるかもしんない」
あ、そうなんだ。ちょっと意外かも。
ところで、さっきの花豆以外にも、独特の作物とか、珍しい植物とかあるんだよね?
「そう、それそれ。良かったー、Qシートにそれ書いといて」
あぅ。それ言わないでー、本番でー。
「あ、でもいいんじゃない? 台本を棒読みしてるわけじゃないってことが分かって」
リサちゃんそれフォローになってないー。でも気を取り直してっ、みるちゃん、その珍しい作物や植物ってどれ?
「はーい。えーまず、お隣の六条さん家の畑との境目に植えてるのが、アサマベリー。浅間ブドウとか、クロマメノキとも言うけど」
ベリー、ってことはイチゴとかブルーベリーとおんなじ感じ?
「そ。これでジャムとか作れるし、そのまま食べてもいいし」
そうなの、ってわぁ、かわいいお花が咲いてるー。なんかスズランに似てるね?
「でしょ? でも作ってる農家は減ってるみたいなんさ、実の量がそんなに取れないし。もともと野生の木だからさ。このはな村ではわりと植えてる農家は多いけどね、取れる実が少ないかわりに、野生のものだし手がかからないから」
「あ、この子、うちにもいる。おジィはベルリって呼んでたけど。あと、フウロもいる」
ベルリとも言うね。外国から移り住んだ人がberryと呼んでたのを耳で聴いて真似したみたい。リサちゃんのおじいちゃん、庭で植物育てるの好きだもんね。あとフウロはアサマフウロだよね。ほらこれ」
あーこれボクん家にもいるー。キレイな花が咲くんだよねー。
「すごく鮮やかなピンクだからね。でもそのために盗掘されたり、あと開発のためとかで、野生では準絶滅危惧種になっとるんよ。花がキレイだけど自然では減ってる植物だと、キキョウとか、あと、このワタスゲかな」
ワタスゲ、ボクも好きー。この綿毛がふわふわなのが良いよねー。日光の戦場ヶ原でも見たことあるけど、あれ、でもワタスゲって土が湿ってるトコに生えるんじゃないの?
「そうだよ。ベルリとかフウロも湿った土の方がいいんだけど、このはな村は土がすぐ乾くかわりに毎日のように雨が降るから、湿原に育つような植物も平気なんさ。でも午前中は晴れることが多いから、乾いた場所と太陽の光を好む植物も育つし、野菜も育つんべ」
そっかー。だからこのはな村の畑も自然も、色々な花や木が見られるんだね。
「だね。でも自然環境は厳しいから、ずくは必要かな。高原に咲く花はどれもキレイだけど、厳しい寒さとか少ない栄養とかでも生きてくだけのエネルギーを持ってるんよ」
ええー? エンディングの曲なんで流れてんの? あーっ! さんごちゃん勝手に機械いじらないでよー!
「いじるさー! アタシが卓操作の係って、みんなで決めたさー!」
決めたけどー! あのー、今日はジングルとかを入れる係をさんごちゃんってことで決めてたんですけど、外でも操作出来るようにアプリ作って入れてるんですよ。で、さんごちゃんがそれを押しちゃったんだけど、さんごちゃん、間違えて押したでしょ。
「てへ」
てへじゃないでしょ! もー、まだお話しするとこあったのにー。
「あ、もう大丈夫、言いたいことほとんど言えたし」
えっ、いいの? まだ残ってるよ? 言うこと。
「だいじょぶだいじょぶ。そのうちまたってことで」
みるちゃんがそう言うならいいけど、でもさんごちゃん、勝手にエンディングにしちゃダメだよー。
「はーい。でもさぁ、みーちゃん、ストップウォッチ何のために持ってんの?」
え? あ、あわわ、ほんとだ、もう終わらないといけない時間だ。ええっと今日はこのはな村の農業についてお送りしました。それではみよたみのりのこのはなだより来週もよろしくお願いします!
このはな村は群馬県と長野県の境目あたりにあるという設定ですので、この地域のことばを小説で使ってみようと思ったのですが、これがなかなかの地雷なんですね。地元の人が違和感ないように台詞を書くのが本当に難しいし、自分で書いてても違和感を感じてきますし、何とか無理のない範囲で取り入れていこうと思います。
そろそろ夏の高原も良い季節になってきました。取材と称した避暑に行きたいものです。




