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2022年6月4日オンエア みよたみのりのこのはなだより

 この小説は、作者が「星空文庫」で執筆している『宗教上の理由』シリーズの世界設定を使ったスピンオフです。上記小説を読みたいという方は、星空文庫にて作品名または作者名「儀間ユミヒロ」で検索をお願いします。

 もちろん、この小説単体でも話がわかるようにしておりますので、安心してお読み下さい。

 山奥にあるという設定の、架空の小さな村、このはな村。この村にあるコミュニティFMを舞台に、小学生DJのおしゃべりを文字でお送りする、ちょっと変わった形の小説です。

 架空のラジオ番組の文字起こしという体裁のため、文法や文中記号の使い方が本来のルールとあえて異なった形になっている点をご了承願います。原則として地の文はメインパーソナリティのおしゃべり、カギカッコ内は他の登場人物のおしゃべりです。

また、この小説は言うまでもなくフィクションです。

 タイムキープ出来ないなんて、しゃべりのプロとして、あるまままりり、あーっ! あ、る、ま、じ、き、こと! もうっ、噛んじゃうのも、ダメなんだってばーっ!


 はあはあ、みなさんこんにちは、みよたみのりです。えーっと、のっけから、うぎゃーってなっちゃいまして大変失礼いたしました。いや、だってだって、先週は健勝堂花苑二号店からお送りしたんですが、時間配分を間違えて最低でも伝えなきゃいけないことを伝えられなかったんで、悔しい〜!

 なので、今日は改めてその続きをリポートします。ホントはこんなこと、しゃべりのプロだったらしちゃいけないと思うんですっ。もちろんボクたちは小学生だし課外活動でラジオをやってるだけだからプロじゃないってご意見もあるとは思いますけど、そこは厳しくプロのつもりでやんなきゃだめだなって思ってるんですっ!

 もちろんこれまでも、おちゃらけてやってた事もありますし、そうやってハプニングを楽しむのもいいんですが、最低ここまでお伝えしましょうって約束したことは守らなきゃダメなんですっ!

 というわけで、気を引き締めて参ります! コノハヤサクヤヒメに守られし神の村、このはな村からお送りする、みよたみのりのこのはなだより。始まりまーっす。


 みよたみのりのこのはなだより、今週も生放送でお送りしています。昨日やおとといとか、全国的には大雨や雷で大変だったところもあるようですが、このはな村は珍しく降りませんでした。でもこれからの季節、このはな村は大雨やひょう・雷などが増えていきますのでお越しになる方はお気をつけて下さい。

 そして今週の番組は、先週に引き続いて健勝堂花苑二号店の王さんと一緒にお送りします。こんにちはー。今週もよろしくお願いします。

「こんにちは。よろしくお願いします」

先週は、伝えなければいけないところまで辿り着けなくて、失礼致しました。今週は、ちゃんとお送りしますので!

「あー、そんなに気にしなくていいですよー。私たちも二週続けて出られるならラッキーですから。とゆーか、みのりちゃんは時間が足りなくなったことより、本当は桜の木が枯れたところで泣いちゃったことの方が恥ずかしいのかなって思ってたんですけど」

わーっ! それ言わないでください〜。あのあと、お友達からすっごくイジられたんですよ〜? 桜の木が枯れて泣くなんて、桜の木の妖精さんか何かなのか? とかって。

「それで、今日はこの格好なのよね?」

うっ、恥ずかしいですよぉ〜。言わないでくださいよお〜、えっ? うん、うん、ええっ?

「あれ、どうしたの? スタジオからなにか連絡かしら?」

あ、はい。今日のボクの格好、ラジオ聴いてる人に分かりやすく説明しろって。それで、あとで番組ブログに写真載せるからって言ったんですけど、しゃべりのプロならまず説明しろって。もお、……。

「それは、説明した方がいいと思いますよ。みのりちゃんの番組も人気が出てるから、どんな服なのか早く知りたい人もいるでしょ?」

うーん、それ言われると弱いなあ……。ファンの方は大事にしなきゃだし。

 えーっとそれでは、今日のボクのファッションを紹介します。このファッションは桜をイメージしています。ピンクのワンピースで、スカートに桜の花びらの形をした大きな透明ビニールの飾りがぐるっと一回りしています。ブーツとか、ひじの上まである手袋も全部桜色のピンクで、あと髪飾りも透明ピンクの桜の花びらでツインテールのちっちゃいのみたいに耳の上で結んでて、それで服とかはキラキラの金属みたいなやつで、あと背中に、妖精さんだからって、羽根が……。こ、これくらいでいいですよね? でも、どうしてこういう服がいきなり出てくるのかなあ、この村。

「村のPRなんかのために、色々なものを作ってますから。それにこの村は神様や仏様のほかにも、聖霊などを信仰する習慣が昔からあったので、子どもが妖精さんになれるような服装はちゃんと用意されているんですよ」

うう〜、PRって言われると弱いです〜、このはなFMの大きな役目の一つが村のPRですから〜。

「そうですよ〜? 私だって、健勝堂だけじゃなくて村の産業全体をPRするつもりで番組に出てますからね。だから私も妖精さんコスチュームをみのりちゃんが着てくれて、グッジョブ! って感じですよ」

はい分かってます、このはな村のPRには王さんだけじゃなくて、色んなお店の人たちが熱心ですから、その期待にこたえられて、嬉しいです。でも、ボクの服の話はもういいから、先週の続き行きましょ? そろそろ。

 「はいはい、恥ずかしいんですね? では先週の話を少しおさらいします。私たちは先祖代々このはな村で和漢の生薬を作ってまいりました。その中でも葛根、つまりクズというつる草の根っこはさまざまなところで使われる自然のお薬ですし、和菓子にもなります。お店の裏で私たちの管理しているこの薬草園にもクズは栽培されています。それどころか日本中のあちらこちらで自生しているのですが、せっかくの薬の材料がほったらかしで、木に大量のつるが巻きついてしまって、中の木が光合成出来なくなったり、枝が締め付けられたりして枯れてしまうこともあるので、多くの場所で害のある植物扱いをされています。ではどうしてこのようになってしまったのか、そしてどのように対策していくのか、という話を今週しようと思います」

はい、よろしくお願いします。

「というわけで、今週はミズバショウの話は無し。残念でしたー」

ぶー、あわいやいや、いいんですいいんですよ別にボクは。うちにもミズバショウあるよって、こないだおかーさんに教わりましたから。自分の家にあるの気づかなかったの? とか言うツッコミいいですから、ささ、続き行きましょ続き。

「んー? そんな事言うってことは、お母さんにツッコまれたんですね、みのりさーん? ま、そのへんは深入りせずに、先週の続きにまいりましょう」


 はーい。それでですね、先週の放送のあと学校で質問があったんです。クズの葉が木を枯らすのなら昔も同じことはあったはずだし、そうするととっくに日本中の森や林は無くなってるはずだ、って。言われてみればそうだなって思ったんですが、どうしてクズの葉っぱがたくさんになっても、森は無くならないんですか?

「はい、いいところに気がつきましたね。そうなんです、大昔からクズという植物は日本に存在していて、千年以上昔の和歌に詠まれたり、また秋の七草の一つでもあるんですよ。実はクズの花はこんな感じで、とても鮮やかな紫色なんです」

わー。今週も王さんのタブレットに収められた写真を見せてもらっているんですが、クズの花は細長い花の茎にたくさんの紫のお花がタワーみたく集まってるんです。きれい〜。木を枯らすような悪いことするようには思えないです。

「あら、みのりちゃん、お花の妖精さんらしく、メルヘンな例えをしますねー」

め、メルヘン、は、はずかし……、いたっ。

「アクリルの感染防止ヘルメットしてるの忘れて顔が赤くなってるの隠そうとして、両手で顔隠そうとしても無理よー? でもみのりちゃんの言う通りで、クズという植物は人の関わり方次第で、好きで害草になったわけではないし、役にも立つし薬にもなるんです」

ですよねー。クズの根っこから、薬とかくず餅の原料が出来たりするんですから。というか、ボクがドジしたこといちいち解説しなくてらいいですからー。

「だってラジオを聴いてる方は、なんでみのりちゃんが『いたっ』なんて言ったか分からないじゃない? ウィルス感染防止のために子どもはみんな透明なヘルメットかぶって宇宙服みたいなカッコですよ、ってその都度説明した方が親切なんだから。それより話の続きしますよ? もともと日本ではさまざまな野生の草花が薬などに使われてきました。クズは茎から布を作ることもできるし、捨てるところのない植物だったんです。だから人々はクズが育ってくると、必要なだけ刈り取ったり、根っこから抜き取ったりして利用していました。ところが今はそういった習慣がなくなったのでクズは放ったらかしとなり、木を枯らしてどんどん増えていってしまったのです」

なるほどー。昔はクズは便利な植物だったから、生えてくるとどんどん収穫してて、そのおかげで数がほどほどになってたんですね。あれ、でも、人がこの世に登場する前とかってどうなんですか?

「随分さかのぼりますねえー。でも大昔の日本って、まずら農業は無かったですよね。クズは日当たりの良いところを好むので、畑の無い森ばかりのところでは生き延びるのが難しかったと考えられます。そこで木が育たないくらい急な斜面などに張り付いて、つるを伸ばして育っていたのです。ですが、やがて農業が日本に伝わると、クズの葉が育つのにちょうど良い日当たりの良い土地も増えましたから、クズも増えたと考えられるのです」

なるほどー。畑は日当たりが良いからクズも増えたけど、昔の人には都合が良かったんですね。

「そういうことですね。クズのつるを根元で切ってもまたすぐ生えてきますから、いくらでも利用できる便利な植物だったと思います。秋の七草として親しまれたのはそういったこともあるかもしれません」


 そうですよねー。こんなキレイな花が咲いて、便利な植物なんだもん。でも今は雑草というか害草になってるんですよね? それを、どうやって利用できるようにしたんですか? 

「はい。まず、クズが繁殖しすぎたために森林が荒れていく問題は全国的に深刻なこととなっています。理由のひとつは、農地が住宅地に変わったり、一部の農家が後継者不足などで畑を放置したりして、人々が畑に面した森林に関心を持たなくなってきた事です。そういった里山と呼ばれる雑木林は、昔はかまどの薪を取ったり畑の肥料にする落ち葉を集めたりするのに必要でした。ですがそういった役割がなくなった上に、農業の後継者も少なくなって、なおさら里山の手入れをする人は減ってきています。そういった里山は、このはな村のまわりでも増えています」


 ふむふむ。でも漢方の薬屋さんとしたら、薬の材料が雑草扱いされるのはなんというか、もったいないというか、残念な話ですよね。

「そうですね。ですから私たちも何とかしたいと思って、県内を中心にクズの繁殖で悩んでいるところがないか、ネット広告などで情報を集めました。すると市町村だったり、地主さんだったり、工場などの敷地を管理している方などから沢山の反応がありました。その方々に話を聞くと、クズのつるが伸びて困っている、定期的に駆除しているがすぐまた伸びるので追いつかないし人手も足りない、農村では若い人がいないので高齢者にとっては大きな負担になる、工場などでは経費削減のため人手を割けない、市町村で草刈りなどの業者に依頼するとこれもかなりの費用負担になる、そして駆除したクズを処分するのも手間がかかって仕方がない、ということなんです」

 「そこで私たちの方から、クズのつるを落としたり根っこから抜く作業を無料で引き受けますし、整理したクズは無料で引き取ります、と申し入れたんですね」

おー、すごいですね。無料だなんて、喜ばれますよね。

「いや、それがそうでもなかったんです」

え? どうしてですか? 大変な仕事を代わりにやってくれるのに?

「実は問題がそこにあるんです。そんなに大変な仕事をタダでやってくれるだなんて、かえって怪しいと思われたようなんですね。最初はみのりちゃんが言っていたように、クズが木々がどんどん枯れていくのを見ているだけというのは忍びない、それに私たちにとってクズは思い入れのある作物でもある、だから私たちにはクズが悪さをしないためのお手伝いが出来るのに、という思いでした」

わかりますー。王さんたちのお店って皆さん優しいし、植物や自然が大好きな方が多いので、木々を守りたいって思いがあるって、ボクはこのお店をよく知ってるから分かります。でも見知らぬ人には怪しまれるんですか。なんかさみしいですよね。

「はい。でもこれであきらめたら終わりですから、改めて違うアプローチをしてみたんです」


 違うアプローチ? うーん、どういうことでしょうか、というか、アプローチという言葉がなんかあんまし……。

「あーごめんなさい、つまり頼み方を変えたんです。まず私たちは自然の植物から薬を作る生薬の専門店ですと改めて自己紹介しました。そして原材料となる植物を自社の農場で作っていますがそれだけでは足りませんので、日本中で増えすぎが問題になっているクズに目を付けました。クズは私たちが受け継いできた技術をもって、薬や食品に生まれ変わります。クズが増えすぎてお困りでしたら私たちに譲ってください。収穫作業は私たちが行いますし、そのための費用なども私たちが負担します。除去したクズについては私たちで引き取りますが、それに見合った価値の代金を支払うこともできますので値段は別途相談しましょう、というふうに、ビジネスなんですよ、ということを前面に押し出したのです」

 あらー。お金の話にしちゃったんですね。でもそうすると、相手の方はどう反応したんですか?

「それがですね、この方針変更が大成功。是非お願いしたいという返事を沢山いただきました。そして現地に行って地元の方々と話し合ったりした結果、現在およそ二十箇所でクズの管理と収穫を行っています。これは反響があったうちの半分に満たないので、まだ増やせる余地があります」

わー、多いのか少ないのかピンと来ないですが、でも善意でやると言うと警戒されて、商売だって言うと話にのってくるって、なんか不思議だけど面白いですね。

「でしょう? でも人間の心理ってそういうものだと思うんですよ。ただより高いものはないとも言いますし」

そうですねー。人間って不思議ですね。


 ところで、この農場でもクズは育ってますけど、その邪魔になってたクズはどれくらいあるんですか? あまりピンと来ないんですが。

「……うーん、そうですねえ。私たちもピンとくる表現って難しいんですけどね、普段なじみのないものですから。でもこの農場だけだとクズって意外と取れないんです。このはな村は気温が低いのであまり大きく育たないですし、数もそんなに増えません。くず粉を作るための根っこも、何年もかけないと商品にはできませんし」

あー、そうかもしれないですね。先週の放送のあと、村でクズの葉っぱを探してみたんですけど、なかなか見つからなかったんです。でも、ということは、ほかのところで育ったクズはとても役に立ちそうですね。

「その通りなんです。実際のところ、現在日本で使われる生薬の材料はかなりの割合で輸入に頼っているんです。ですがウィルス感染症の世界的流行や戦争、円安などの影響で輸入品の価格が全般的に上がってきています。ですが私たちはクズの国内供給を可能にしたため、今年も安定した生産量を保っています。私たちの会社で作っているくず粉は分かりやすく言いますと、店舗でお出ししています季節限定の純国産原材料くず餅が一日限定二十食、それが八月末まで続きますので計およそ千八百食を、すべて国産化しました」

せ、せん、はっぴゃく? すっごい量じゃないですか!

「すごいですよねー? 私たちもびっくりしてるくらいですから。ところてんみたいなくず切りも自社製造のものに切り替えていますから、これからどんどん増えるはずです。でもここまでなるのは大変で、さまざまな障害がありました」

え? そうなんですか? 一度は受け入れてもらえたんですよね?

 「ええ、もちろん最初はどこに行ってもほとんどの方が賛同してくれたんです。でもいざとなると壁にぶつかるんですね。ある所ではクズに覆われて荒れている雑木林があって、周りに住んでいる人たちから『是非とも刈り取って下さい』とお願いされたんですが、その土地の持ち主が分からないんです」

はい? そんなことあるんですか?

「あるんですよ。その場所がそうなった理由はいまだに不明なんですが、他の場所では一人暮らしの高齢の方が亡くなってしまったために、その方の持つ土地を誰も相続していないし家族や親戚がどこにいるのか分からない、なんてこともありました。たとえ誰も使っていない土地でも勝手に草刈りをするわけにはいきませんから、断念したところもあります」

えー? それもなんか不思議ですよね。持ってる人がほったらかしてどっか行ったりしちゃったんなら、余計に誰かお世話しなきゃダメなのにー。

「一応法律がありますから、他人の土地の物はたとえ雑草でも持ち主に無断でとってはいけないんです。ですが周りの住民は林が荒れる事で迷惑になっていたんです。クズの葉は虫がつきやすいし、雑木林の木が枯れるとこれも害虫などの発生源になります。この場合、住民の衛生のために環境を整備するという名目ができますので、市町村がその林の手入れをする事が出来ます。それを聞いたときは私たちも手伝いたいと申し出たのですが、前例がないということで断られました」

はあっ? なんでですか? 健勝堂の皆さんは、クズの収穫はプロなんですよね?

「もちろん私たちも、プロの誇りはあります。ですが市町村はあくまでも害のある植物を駆除するという目的ですから、雑草駆除の専門業者が仕事を請け負うんです。そして駆除されたクズをはじめとする植物は雑草、つまりごみとして一緒くたに捨てられてしまうんです。害のある植物として処分される以上は、その植物を食品や薬品にすることは出来ません」

うーん、なんかもったいないですねー。

「そうですねー。もったいないといえば、駆除から処分までの費用もかなりのものですが、私たちならただですよと言ってもそうは行かないんです。市町村というのは、なんと言いますか、予算が付かないことはしたがらないんですよ。これはまあ、市町村から仕事をもらっている業者への配慮とかいうのもありますけど……、まあ、これ以上はよしておきます」

は、はい。あまり突っ込んだらまずそう、ですね……。

 「ですが、そう言った障害を突破して多くの場所でクズの収穫を行えるようになりました。そしてお陰様で、地域の方々にも感謝していただいています」

良かったですねー。これからもっとこの事業が広がっていくといいですね。

「はい」


 みよたみのりのこのはなだより。今日も健勝堂花苑のお花畑からお送りしました。クズのお話で今週も終わりましたが、地域で邪魔者扱いされていた植物を収穫して活用することで、住民と企業が共に恩恵を受けられる一例を伝えるという、ノルマは達成しましたー! 他のお花についてはこれからまた機会があればリポートしていきまーす。王さん、ありがとうございましたー!

「はーい、こちらこそありがとうございました。雑草とされている植物でも、役立てることが出来るということをお伝えすることが出来たので、私たちも満足です。それでは、みのりちゃんにご褒美でーす」

ご、ほうび? えっ、えっ、やったぁー! くず餅だあーっ!

「そうでーす、ちょうど今ごろの季節にクズの根っこを掘り出すと、いいくず粉ができるんです。何年もかけて根っこは育つので、放置された土地ではよーく育ってるんです。さ、遠慮せずにどうぞ」

あ、ありがとうございます! ではさっそく、いっただきまー、

「ちょっと待って、まだまだウィルス警戒しないとダメだから、これ装着してからですよ」

あっそうでした。ラジオお聴きの皆さんにご説明しますと、外で食べ物を食べるときはこのはな村オリジナルの防護服を着ることが、すいしょー、されています。推奨って漢字、難しいなぁ……。でっ、この防護服は全身を覆う、映画とかニュースとかに出てくるウィルスからの防護服、頭にかぶるやつが筒みたくなってるのです。で、手袋が二、重になってて、食べ物を食べるときは、内側、の手袋で、食べて、それ以外の時、は外の、手袋で、

「服着ながらしゃべると大変でしょう? 私が代わりに解説しますね。この防護服は子どもが安心して外食できるように開発されました。二重の手袋の内側で食べ物を口にすることで、ウィルスが口に入ることを防ぎます。外側の手袋は腕にあるボタンを反対側の腕で押すと開閉出来るので、手洗いしなくても食事ができますし、手袋同士が触れることもありません。また、フェイスシールドもボタンを押しているあいだだけ口のところが開くので、外の空気も最小限しか入ってきませんし、腰回りには以前番組で紹介したソーシャルディスタンスをキープするためのリングも付いています。当店をはじめ、食べ物や飲み物をお出しする村内の店では無料で使えますし、着用したお客様には感染予防ご協力記念として、色々なプレゼントが当たる三角くじを引くことも出来ます。なお、この飲食店専用防護服は村外の飲食店にもお得な価格で販売、または保証金のみでのレンタルをしております。詳しくはこのはな村役場の産業課までお問い合わせ下さい」

王さん、ありがとうございます。おかげでちゃんと防護服を着て、くず餅を食べることができています。う〜ん、とーっても美味しいです〜。シロップときな粉の味以外にも、くずそのものが味がして、ちょっとオトナな感じかなあ、苦みみたいのがちょっとして、それが美味しいんです、って、あっ、番組終わっちゃう、それではみよたみのりのこのはなだよりまた来週さようなら! はあ時間内に収まった、あ、まだ時間ある? えーっと、この防護服はベージュにピンクの花柄で可愛くて、サイズがゆったりでボクが中に着てた服の上から着ることができて、あれそういえばボクの私服は、え、おかーさんが持って帰ったの? なんでどうして? 洗濯したいから? でもなんでここに寄ったの? 買い物の帰り? ボク、バス乗って帰るの? 恥ずかしい〜。


 

 今回も、時間読みの詰めが甘くて最後アタフタしたみのりちゃんでした。でも何とか言いたい事は言えたようです。

 と、彼女のせいにしていますが、本当は作者が自主的に決めた締め切りを破ってる、つまり執筆中の日にちの読みが甘いことが悪いのですが……。土曜に放送している番組という設定なので、土曜に更新するのがあくまで理想なのです。


 クズのようなつる草が雑木林を覆い尽くして木を枯らせてしまう風景は近頃の東京近郊だと多く目にします。里山の木々というのは人の手が入らないとなかなか維持出来ないものですから、かつての循環型農業に組み込まれていた山の手入れを他の業種で請け負うことはとても有意義だと思うのですが、フィクションではありますが作中に示したような障害があるだろうことは容易に想像できます。あとは採算がとれるのかという問題もあるのでしょうが、作中では半ばボランティアで始めた事を王さんが示唆していましたので、結局破格の値段でやっていることでしょう。実効性のある社会貢献をする企業が日本にもっと増えるといいと思います。

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