2022年5月28日オンエア・みよたみのりのこのはなだより
この小説は、作者が「星空文庫」で執筆している『宗教上の理由』シリーズの世界設定を使ったスピンオフです。上記小説を読みたいという方は、星空文庫にて作品名または作者名「儀間ユミヒロ」で検索をお願いします。
もちろん、この小説単体でも話がわかるようにしておりますので、安心してお読み下さい。
山奥にあるという設定の、架空の小さな村、このはな村。この村にあるコミュニティFMを舞台に、小学生DJのおしゃべりを文字でお送りする、ちょっと変わった形の小説です。
架空のラジオ番組の文字起こしという体裁のため、文法や文中記号の使い方が本来のルールとあえて異なった形になっている点をご了承願います。原則として地の文はメインパーソナリティのおしゃべり、カギカッコ内は他の登場人物のおしゃべりです。
また、この小説は言うまでもなくフィクションです。
夏が来れば〜、なーんて歌ったりするけど、まだ気分は春かな〜。
みなさんこんにちは、みよたみよりです。今週はスタジオからお出かけして、お花を見にきましたー。一応この番組は、このはな村の情報をお伝えするための番組なのですが、基本ボクたち小学生が作ってて、ディレクターさんはクラブの監督さんみたいにボクたちのやってることを見て、ボクたちが困ってたり失敗しちゃったりした時に助けてくれるだけなんです。だから今週何かやろうかボクたちで考えてたらなかなか案が出なくて、そういうこともあるんです。で、ディレクターさんに季節に関係すること最近やって無いんじゃない? って言われて、あっそうだ、と思って今日はお外に出てみました。最近隔週でお出かけ放送してますが、こういうのもけっこう楽しいなーって思いまーす。
それでは、コノハヤサクヤヒメに守られし神の村、このはな村からお送りします。みよたみのりのこのはなだより、今日も元気にお送りしまーす。
みよたみのりのこのはなだより、今週も生放送でお送りしてぃす。
このはな村はゴールデンウィークを過ぎてからようやく植物が本格的に育ち始める感じです。で、今ボクは村のメインストリートにいるんですが、足元にミズバショウが咲いています。ちょうど水が湧いてちっちゃな流れになってるところなんです。道路の歩道にミズバショウが咲いてるなんて珍しいと思いますが、このはな村は標高が高いので、山登りをしないと見られないようなお花が簡単に見られます。暦の上では五月って夏なんだそうでミズバショウは夏の花ってことになるみたいなお話も聞いたんですけど、このはな村は五月にようやく春になったって感じです。
というわけで、今日はこのはな村の花どころ、健勝堂薬苑直販二号店の前にいます。こちらの健勝堂花苑は、このはな村で昔から薬草を栽培から製造・卸し・販売を行っており、現在も、わ、和漢のせいや、な、なま、あ、ごめんなさい、生薬の製造販売のほか、生薬の原料となる植物栽培の技術を応用し、花の種や苗、せいか、でいいの? あっいいんだ、今度はしょうか、とか読むんじゃないんだ、の販売も行っています。では二号店店長の、王さんにお話を伺います。こんにちはー。
「こんにちはー。店長をしております、王と申します」
王さんの家は、代々この健勝堂で薬草作りをされて来たんですよね。
「はい、私たちの先祖は昔の中国である明の国から日本に渡ってきたと伝えられています。そして、このはな村で漢方薬などの薬の原料となる植物を育ててきました。さっそく、お店の中へどうぞ……。みのりちゃん?」
あ、あわわごめんなさい。歩道とかお店の前の花壇のお花がキレイでつい見とれちゃいました。す、すぐに行きま、
「うふふ。いいですよー。まずこちらの歩道沿いのお花たちから紹介しましょうか」
「この歩道と、店舗前の花壇はちょうど湧き水があるので、水辺を好む植物が集められています。このミズバショウですとか、同じ形でそっちの黒っぽいのはザゼンソウ。これからカキツバタやサギソウなども育って来ますよ。下界より遅い時期に咲くので楽しみにしていて下さいね」
わあ、楽しみー。でも、ミズバショウがこんな簡単に見られるって珍しいですよね?
「そうですねー。よく、びっくりされるお客様もいらっしゃるんですよ。こんな簡単にミズバショウが見られるものなんですか? 育てるの大変ではないですか? って。でも、私たちもミズバショウのお世話ってしてないんです。自然にミズバショウが育っているところに、あとから道を作って、私たちの店がやって来たんです。ミズバショウと言うと山登りをして見に行くイメージがあると思いますが、このはな村は山登りでいくような山奥に無理やり人が住んだ感じの村ですから、自然はたっぷり残っているんです」
あーそっか、だからなんですか? このはな村の花壇とかって、とっても自然そのままな感じですよね。お花屋さんで売ってるようなお花がほとんど無いし。
「そうなんです。道路に沿って草木を植えているところを植栽と言うんですが、村の道路を作る時に植栽の部分に育っていた草木をそのまま残して、舗装するところに育っていた草木も植栽に移動させたと聞いています」
そうなんですかー、でもそしたら、普通もともと生えてる植物は道を作る時に抜くものなんですか?
「そのようですね。そして植栽用の植物を植えたりするんですが、その土地に合わないものを植えても世話のかかることが多いですし、他の土地から木の苗を取り寄せたりすればそれだけお金もかかるので、その土地にある植物を利用する方が良いでしょうね」
そうですよねー。でも他の町とかは違うんですか?
「やっぱり新しく木を植えるところが多いみたいです。色々と事情はあるんだと思います。ま、それはさておいて、そろそろ店内にどうぞ」
はーい。それでは、お店の中に入ります。薬屋さんですが、入り口のあたりに、いくつも花が置いてあります。王さん、このお花も売ってるんですか?
「はい、売っていますよ。でもこれは、表から見て花屋もやってるとわかるための宣伝や、入り口をきれいに見せるためという方が大きいです。売っているもので一番多いのはやっぱり薬や、薬の材料です。中に入ると、色々な商品がありますよ。さあどうぞ」
お邪魔しまーす。わっ、なんか匂いがする! ってごめんなさい変なこと言っちゃって!
「あ、いいんですいいんです、最初は臭いと思いますよ、薬独特のツーンとした匂いがしますから。今は感染症対策で扉や窓を全部開けていますけど、それでもやっぱり匂いますね」
ですねー。でもこういう匂いがあるってことは、それだけ効き目があるってことなんですね?
「そうなんですよ、それがわかってくれるとうれしいですね。あと見た目びっくりするものもありますけど、自然の薬はこういうところを持つものなんです。こんなのとか」
わー、草とか葉っぱとかもあるけど、おっきな根っことかあって、なんか恐竜とかお化けみたいな形にも見えてきますね。あと、わっ、このキノコすごいおっきい!
「それはサルノコシカケですね。木の幹から生えてきて、それだけ成長するのは珍しいみたいです」
サルノコシカケ? あー、本当にお猿さんが座れそうですね。こういうのも、王さんたちが作ってるんですか?
「さすがにこういう野生のキノコは生えてくるのを待つしかないですけど、草花などはほとんど畑で育てています。早速見に行きましょう」
スタジオから曲を流してもらっている間に、健勝堂の農園へとやって来ました。畑みたいに区画を分けて色々な植物が育てられていますが、まだ季節が早いからあまり花は咲いていません。でも、王さん、お花がまだ咲いてないからかもしれないですけど、お花畑というか、雑草、みたいな……。あつわごめんなさいごめんなさい。
「あー、いいんですいいんですよ。そう、実は雑草と言われているような草木でも、実は薬草だということもよくあるんです。例えばこのつるが生えてきている植物、何という名前かわかりますか?」
名前……、うーん、見たことないかも。分かんない、なあ……。
「じゃあ、答えを言いますよ、この植物の名前は」
名前は?
「クズ」
クズ? ゴミとかいう意味の、クズ、ですか?
「いやいやいや、そうじゃないです。分からないかなあ、甘いもの好きのみのりちゃんなら、ピンとくると思うんですけど」
甘いもの? 食べ物に関係するってこと? うーん、あっ、くず、餅? ですか?
「ご名答。くず餅の原材料は元々、このクズの根っこから作った粉だったんです。またこの根っこは葛根湯といって、風邪などの薬にもなりますよ」
へえー、くず餅のあのぷよぷよした感じ、大好き。ということは、このクズって植物が育ったら、くず餅が作れるんですか?
「作れますよ。当店でも根っこから作ったくず粉を季節限定で販売しています。ただこのはな村は気温が低いのでなかなか育ちにくいんです。山を降りて平野の方に行けば、雑木林や使わなくなった畑などのあちらこちらで見かけますよ。でもだいたい、雑草として扱われてますね」
ええー? もったいない! もっちもちのお餅が作れる植物を雑誌だなんて、失礼ですよー。
「まあ、気持ちは分かりますけどね。でもクズという植物はこの通り、つる草なんです。それで暖かい地方ではどんどん成長して、何本ものつるが樹木を包み込んでしまって、木は日光に当たらずに枯れてしまうこともあるんです。そうだ、その様子の写真が、ほら」
あ、はい。この木に同じ葉っぱの形した植物がいっぱい絡まってて、じゃあこれ全部クズなんですね。で、これが秋の写真、ですか? えーっ? 冬で葉っぱが落ちたんじゃなくてですか? あ、ラジオだから分かりにくいかもしれませんが王さんのタブレットに写真があって、大きな木にクズのつるがいっぱい絡まって、何の木だか分からなくなってるくらいで、次の写真ではクズの葉っぱが枯れてるのと、クズの葉っぱに覆われていた木が枯れちゃってます。でも、枯れた木のまわりには、まだ葉っぱがちゃんと残ってます。こんなふうになっちゃうだなんて、ひどいです……、ぐすっ。
「あーみのりちゃん、泣かないで。こんな感じで枯れちゃった木ですけど、次の年の春には、ほらっ」
くすん……、これ、木が枯れて、切られちゃって、あ、あれ? こ、これ、
「そう、みのりちゃんの指差してる、それは何でしょう?」
切り株から、木の芽が生えてる! すごい、復活したんですね!
「そうなんです。この木は桜の木なんですが、運良くこうやって生き返ることが出来ました。でも中には枯れたままダメになってしまう木もあるんです。ですから、クズのつるが伸びてきたら、こまめに切るか、根っこごと抜くかしないとこうやって森や林の木がどんどん枯れていくことがあるんです」
え、ええっ? じゃあ、森とか林がなくなっちゃう……。
「あ、大丈夫、大丈夫ですよ。このようにならないよう私たちの会社では、クズの枝葉を切ったり根を抜いたりして、それを薬や食べ物として使う活動をしています。お陰様で、クズによる木の立ち枯れを防ごうという方々が、だんだん増えてきています」
あー、ほっとしました。でも、昔からこのクズって草はあったんですよね。で、お餅にしたり、あと、木が枯れるまで育っちゃうことも無かったんですよね? なんで今は、枯れるまでほっとくようになっちゃったんですか?
「はい、それはですね」
あ、王さん、ご、ごめんなさい。
「はい?」
時間が、無くなっちゃいました。
みよたみのりのこのはなだより。今日はこのはな村の薬草についてお届けしようと思ってたのですが、ボクがミズバショウに見とれてしまったために、時間切れになってしまいました。ごめんなさい! 来週、続きをやります!
それではまた来週!
王さん、ほんとごめんなさい。
「いいのいいの、いいんだってば本当に」
いやいやいや、ちゃんとしなきゃです、ボク、ホント……。
なんとかギリギリ入稿でございます。植物は大好きなものですから、書きたいことが絶えず湧き出て来るのはいいのですが、湧出量が多すぎると、なかなかまとまらないんですよ、やっぱり。
とにかく、東日本の高原地帯ではゴールデンウィークを過ぎた頃からミズバショウの見頃を迎えるところが多いです。今年は春の訪れが遅かったのでかなり遅くまで見頃の場所もあるかもしれません。
歩道にミズバショウがすました顔で咲いてる村、とても素敵です。このはな村はミズバショウは普通に庭とかにも咲いていますし、他にも色々な花が咲きます。来週もまた、湧き出てくるプロットを必死に交通整理しながら書いていきます。