みよたみのりのこのはなだより 2022年4月30日オンエア
この小説は、作者が「星空文庫」で執筆している『宗教上の理由』シリーズの世界設定を使ったスピンオフです。上記小説を読みたいという方は、星空文庫にて作品名または作者名「儀間ユミヒロ」で検索をお願いします。
もちろん、この小説単体でも話がわかるようにしておりますので、安心してお読み下さい。
山奥にあるという設定の、架空の小さな村、このはな村。この村にあるコミュニティFMを舞台に、小学生DJのおしゃべりを文字でお送りする、ちょっと変わった形の小説です。
架空のラジオ番組の文字起こしという体裁のため、文法や文中記号の使い方が本来のルールとあえて異なった形になっている点をご了承願います。原則として地の文はメインパーソナリティのおしゃべり、カギカッコ内は他の登場人物のおしゃべりです。
また、この小説は言うまでもなくフィクションです。
ゴールデンウイークは、みんな揃ってこのはな村に……。
来なくていいですからー!!
みなさんこんにちは。みよたみのりです。えーっと、ゴールデンウイークという事で、海に山に街に遊園地にその他もろに、お出かけしようとしている方も多いと思います。それに全国の観光地で遊びに来て下さいと言っているところも多いようです。
そんな中、このはな村も観光は大事な産業のひとつですから、言うべきことは決まっています。もし、全国つつうららんら、じゃなかった、津々浦々でした。えーっとその、津々浦々の観光地に行こうか、あわよくば、このはな村に行こうかな、と迷っているそこのあなた!
どうぞ、よその観光地に行ってください!
このはな村は元々の人口が少ないので、医療体制が弱いんです。お医者さんは一軒しかありませんし、入院もできません。村では住民の方や他の地域からお越しになる方々に無料PCR検査を行なっていますが、義務ではありませんし、陽性者を一人も漏らさず発見できるという保証もありません。さらに、村ではかなり細かな感染対策を行っていますので、観光で楽しむつもりが、かえって疲れることもあり得ます。従いまして、村の施策を理解した上で、それでもお越しになりたいという方は、歓迎いたします。
と、いうわけで! コノハヤサクヤヒメに守られし神の村、このはな村からお送りします、みよたみのりのこのはなだより。今日も元気にお送りしまーす。
みよたみのりのこのはなだより。オープニングはスタジオからお送りしましたが、さっそく外に出てみましたー。今日は晴れてますので気持ちいいですが、けっこう冷えてます。でもそろそろ木々に葉っぱが生えてきたり、雪の解けたあとの花壇から草花の芽が出てきたりしています。スタジオ前の広場については前にも説明しました。村中の道が集まった、ロータリーとかランナバウトとか言われる広場で、村の中心的な場所です。現在は、原則車は入れませんが、路線バスだけは入ることが出来ます。
今ボクが歩いてきたところが、バス停です。このバス停は駅と村をむすぶ大型バスと、村の中を循環するコミュニティバスの乗り換え場所です。普段のゴールデンウィークは観光客の皆さんでいっぱいになるそうですが、今年も観光客の方はあまりいません。村に住んでる人が多いです。
バスは村が運営しています。もし万一、このはな村に来る予定のある方にとっては、村営バスの乗り方や特徴について詳しく知るチャンスですよ。
バス停には、乗り換えを待つ人のために待合室があります。こちらでバスの乗り換えを案内している、屋代杏さんにお話を伺いま、わ、わ、
「こんにちはー。お人形さんみたいな子がだーいすき、屋代杏、でーっす」
こ、こんにちは、あ、あの今日は放送なので、いきなりハグしないでくださ、うぐぐっ。
「離してあーげない! あーもー、みのりちゃんってば、かわいいなあもう!」
く、苦しいですよぉ! 杏さんってば、ボク見つけるとすぐこうやってペットみたいにかわいがるんだからぁ!
「だってぇー、可愛いんだもーん、しょうがないでしょ? それよりもー、番組続けないの? 私の出番終わらないと、ハグハグ状態も終わんないよ?」
うう、なんか納得出来ないけど……、えーっと、杏さんはこのバス停でどんな仕事をしてるんですか?
「はーい。私は、このバス停で乗り換えの案内などをしていまーす。このバス停は、駅から来たこの大きなバスと、うぐあぁっ」
だーっ! もお、杏さんってば、なんでわざわざボクのインカムで話すの? インタビュー用のマイクはこっち!
「えー、ほっぺぴったりくっつけて、一つのインカムでおしゃべりするのが楽しいのにぃ〜、みのりちゃんのイジワルぅ〜」
ダメですー! そーしゃるでぃーすたーんすー、を守らなきゃなんですー!
「ちぇ〜。まいっか、今日のトコはあきらめとこうかな。で、さっき隣町の駅からやって来たバスは大型車なので、広い道しか走れません。そこで、この広場で、小さいバスに乗り換えるんでーす」
ですよねー。このはな村の道って、むっちゃ狭いわけじゃないけど、大きなバスが入るのは厳しそうな道ありますよねー。
「そうなんです。でも、そういう道こそ、住宅や別荘・宿泊施設などが道沿いにあるんですね。ですから、そういった場所に入って行きやすいように、小さめのバスになっています」
他に何か、特徴はありますか?
「はい、駅まで行く大きなバスは愛称が親バス、小さなバスは子バスと呼んでいます。見た目で区別がつくから分かりやすいんです。あと、子バスはぐるっと一回りするようになっていて、右回りと左回りがあります」
はいはい、可愛いですよね、親子のバスって呼び方。でもバスがぐるっと一回りするのって普通じゃないですか?
「えっと、これも呼び方に工夫があるんですよ。よく電車とかでぐるぐる回るのって、内回り・外回りって言うでしょ? これ、パッと聞いて、どっちがどっちって分かるかな? 例えば、電車で池袋から渋谷に行くのって内回り? 外回り? どっちかな?」
えっ、あー、そう言われると分かんないかも……。
「でしょ? でもね、それもそうなんですよ? だって円の内側を電車やバスが走るかって、意外と考えないとピンと来ないものだから。それに乗り物が右側通行か左側通行かによっても変わってくるし。このはな村に移り住んできた外国の人たちに配慮したのかは分かんないけど、右回り左回りと言った方が、イメージしやすいんです。それから他にも便利なところがありまし」
あ、杏さん、時間無くなっちゃいました、そろそろ村からのお知らせ読まなきゃなんです。
「えー? もうそんな時間? もっとみのりちゃんのこと、猫っ可愛がりたいのにー」
いや、杏さんがいきなりボクを抱きしめて延々といちゃいちゃしてくるから、時間無くなったんですけど……。
えー、このはな村からのお知らせです。
村では、現在消費税の納付を免除されている小規模事業者への補助金を準備中です。
たとえば、製造者から卸売り業者や小売り店舗が商品を仕入れる場合、消費税の納付は原則免除されます。しかし今後、税に関する法律の改正により、この免除を受けるには的確証明書というものを製造者などから受け取る事が必要となります。
しかしこの証明書は、売り上げが少ないために消費税を免除されている事業者は発行できません。これがなければ取引先も仕入れ金額から消費税分を免除されなくなりますので、製造者は売り上げが少なくても消費税を納めて証明書を発行しないと、仕入れ先が他の事業者に乗り換える可能性や、仕入れ金額を値切ってくる可能性もあります。
これによって小規模な事業者は経営が苦しくなると予想されます。そのため、このはな村ではその対象となる事業者に補助金を出す予定です。詳細は今後議会等で審議されて決定する予定です。
以上、村からのお知らせでした。
みよたみのりのこのはなだより。今日はこのはな村営バスの魅力についてお送りする予定でしたが、その十分の一も伝えられていない気がします。情報が十分に伝えられなかったことをお詫びしま、わわわっ!
「なんのお詫び? みのりちゃんの魅力が伝わったらそれだけで、じゅーぶんな、お楽しみじゃないの〜?」
いやー! だから、ほっぺたすりすりは、やめてってば〜。本番中なんだからー、し、失礼しましたっ。とにかく、みよたみのりのこのはなだより、今週はここまで。また次回まで、ごきげんよう〜、
「終わった? 終わったよね、じゃあすりすり再開〜。すりすりすり〜」
わーっ! すりすりして良いなんて言ってないのにぃ!
「本番中はダメってさっき言ったでしょ? だからおしゃべり終わるの待ってたのにー。いじわる〜。よーし、今日はすりすり三倍速、いっくぞー!」
ぎゃああああ!
また遅れ気味の投稿になってしまいました。それでも週一ペースは守りますと言ったら守ります。
地方の公共交通機関はいかにあるべきか、なんてことを時々考えます。で、こんな理想的なバスが山の中の駅から離れた観光地に通っててくれたらいいな、という願望を込めて書き始めたのですが、どんどん夢が広がって収拾つかず、いったん止めました。また次話で細かく書いていく予定です。
屋代杏さんは、儀間の小説では何度も出てきている女性です。とにかく可愛い娘を犬や猫のように溺愛する癖があるので、最近はみのりがお気に入りのようです。こんな暴走お姉さんが行うバス停の案内ってどんなんなのか、それも含めて楽しめるかと思います。
また次回も、お読みいただければ幸いです。