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魔人の国の色んな意味でヤバい女秘書  作者: グレファー
最終話 魔人の国の女秘書
74/76

19-2

 ソフィとリズロウの二人は、ストーインに戻るジュリス達特派大使団と共にストーイン国内へ向かっていた。大使団の者達が捕まっている間も、彼らの装備や馬はきちんと保管されていたらしく、全員傷一つなくストーインへの帰路についていた。このあたりを見てもシャザールが本気で戦争をする気がなかったことが伺えた。


 ソフィは前にいるダグの姿を見た。ダグは馬に乗れないため、荷物を載せる馬車に乗っていた。そこには犯罪者として捕えられていたギゾの姿もある。国内に置いておくわけにもいかないため、特派大使団と一緒にストーインに連れて帰ることにしたのだった。


 ダグは特派大使団の人たちと上手くやっているのか、笑顔で談笑している姿をよく見るジュリスを命がけで助けたこと、何よりダグの素直な性格により可愛がられているようだった。


「私はああいう立場にはなれないから、ああいうところはダグの役得かもですね」


 ソフィはリズロウと同じ馬に乗っており、落ちないようにリズロウに抱えてもらっていた。ソフィの呟きにリズロウは容赦なくツッコむ。


「お前は可愛いとかの前に恐怖が先に来るからな」


「恐怖って……女の子に言いますか……」


「黙ってればいいのにそれができないからな……」


「うう……まあそう言われるとそうなのは否定できませんが……」


 ソフィは再びダグを見る。馬車の横には馬に乗ったジュリスがおり、ダグの事を気にかけていた。クーデターの際にもソフィが懸念した通り、どうやらジュリスは完全にダグに好意を持っているようであり、それはソフィだけでなく、リズロウやその他の兵士たちの目にも明らかだった。


 ただソフィは少し安心していた。今まで本当にろくでもない男に引っかかり続け、その度にソフィは尻ぬぐいをし、そもそもソフィが誘拐されるきっかけになったのもジュリスの男の見る目の無さが遠因であったことを考えると、ジュリスの男運にソフィの命運が振り回されていたのだから。


 相手がダグなら少しその年齢差は気になるものの、今までの男たちに比べはるかにマシな資質だったからだ。それにダグの様子を見る限り、ダグもまんざらではなさそうだった。リズロウの過去の結婚が極秘扱いであるため、ダグがもしかすると魔人と人間の結婚のモデルケースになるのではないかとソフィは思っていた。


× × ×


 あのクーデターから2週間、人間の特派大使団の兵たちはアスクラン城下町を出て、オークの里で今まで匿われていた。最初はオークの里に行くことに難色を示した人間達だったが、ジュリスがすでに里で待機していたこともあり、里に行かない選択肢は彼らには無かった。


 ――だがオークの里の発展具合を見て、彼らの中のオーク像はいい意味で壊されたようだった。それにソフィの事前政策で人間に対する好感度はオークの中で上がっており、特に人間の文化に興味を持つオークが大勢いたため、彼らは歓迎されていたようだった。


 中には里にいたオークの女性といい感じの仲になった兵士もいたようであり、ストーインに一度戻るための出立の際には、別れを惜しむ兵士たちが多く見受けられた。――というよりジュリスと同じく癖のある人間が集められたようであり、それも異文化を受け入れる土壌があったのかもしれない。


× × ×


 そしてオークの里を出て5日後、ソフィ達はストーイン王城城下町にたどり着いていた。この5日間の旅でリズロウも特派大使団の人間達と気が合ったのか、気軽に話せる仲になっていた。ソフィは今更ながら思っていたが、明るく振る舞う“キャラ”を作っている自分と、気さくで明るい性格の方が“本心”のリズロウは、似ているようで正反対だと認識していた。


 ストーインの王城にジュリス達特派大使団の人間は一度報告のために帰還することになった。そしてここで、ソフィとリズロウも一度別れることになった。特にソフィはそのまま王城に行ってしまっては大問題になってしまう。城下町の入り口前でソフィ達は一度立ち止まり、別れの挨拶をする。


「これで……またしばらくお別れね」


 ソフィはジュリスと向き合っていた。3か月前に勝手に姿を消した際には、誰にも挨拶をしていなかった。一生戻れないかもしれないと知っていながらも、挨拶のために時間を割いては逃げられないように身柄を捕えられかねないと。結果としてジェラルドがソフィの身柄を狙っていたためその行動を正解だったのだが、そうでなくてもソフィは一人でアスクランに行っていただろう。――”そういう”判断ができてしまう人間だから。


「ソフィ様」


 ジュリスは何も言わずにソフィを抱きしめた。この人を誑かす悪魔のような策士――を演じているだけの子供というのはジュリスにもよくわかっていた。だから下手な言葉はいらなかった。ただ彼女を想っていることを行動で示せばいいと。


 ソフィもジュリスを抱きしめた。こういう時に気の利いた事を言うのはソフィの得意分野であった筈なのだが、何も言葉が出てこなかった。ただ今はジュリスに再会できたこと。今度はこれが今生の別れになるわけではない。また会えばいいのだと、そう考えてもいたがそういった気持ちもただ頭を無造作に駆け巡るだけだった。ソフィはジュリスの体温を感じ、その胸に顔を押し当てていた。そして目から感情があふれ出し始めた。


 リズロウは横にいたダグの肩に手を置いた。


「思えば君とはあまり深く話せなかったな」


「め……滅相もございません魔王様!ぼ……僕はまだ見習いもいいところでしたし……」


 そう、同じ見習いの立場でも、トシンは要所で活躍していたが、自分は足を引っ張ることしかできなかった。そして今、結局途中でソフィの下を離れ、別の道に進むことになってしまっている。そんな自分の力の足りなさにダグは後ろ髪を引かれる思いがあった。リズロウは“大人”としてダグのそういった気持ちを察する。


「そんなことない。それに君はこれから魔人として人間との国際交流の場に立つことになる。多くの試練が君を待っているかもしれないが、君がそれにへこたれる事はないと、ソフィが確信しているのだから」


 ダグはジュリスと抱き合っているソフィを見た。ソフィはジュリスの胸から顔を上げると、目を真っ赤に泣き腫らしていた。そして目を腕でこすり、ダグをまっすぐに見る。


「……グスッ。ええ、あんたなら大丈夫。……それに、私の下にいるよりも難しいかもよ? これからあんたは好機の目と、差別の心と戦わなくちゃいけない。この大使団の人たちのように理解してくれる人が周りにいるとは限らない。……人なんてだいたいの奴がクソでカスでゴミだからね。理屈で理解できる人なんて、そう多いわけじゃない」


 ソフィの抜き身すぎる言葉にダグは絶句していた。そのダグの表情を見ながらソフィは微笑んで言う。


「……でも、理解してくれる人はきっといる。だからダグが乗り越えられるように私が一つプレゼントしてあげる」


「プレゼント……?」


「私の人間哲学よ。……“人は頼れ”ってね。これは我が家の家訓でもなんでもない。”私の言葉”。この言葉は絶対に忘れないこと。いい?」


「……はい!ソフィ秘書官殿!」


 ダグはソフィに敬礼をして返事をする。ソフィもダグの気持ちの良い返事に、自分も敬礼をして返した。


「あんたは私の部下なのは変わりない。部下を助けるのが上司の助けだからね。わかった?」


「はい!わかりました!」


 ソフィはダグの横にいるジュリスに目配せをする。


「……まあジュリスがダグをどうしようが、私はそれが好ましい結果になるなら文句はないけど。……とにかく頼んだわよ」


「どうしようって……どうもしませんよ!?」


 ジュリスの必死の否定に部下の兵士たちが一斉にツッコんだ。


「嘘だ」


「いや……嘘でしょう」


「ダグ坊やを見てる時のジュリス大使長めちゃくちゃエロかったもんな……」


 ジュリスは顔を真っ赤にして黙りこくってしまい、皆でジュリスをからかうように笑っていた。そしてしばらくして、ソフィ達はジュリス達と別れ、別の場所へと向かう事になった。


× × ×


 ソフィ達は城には向かわなかった。ジュリス達、そしてアスクランに残っているケイナンやその他の部下たちにはストーインに挨拶に行くと伝えていたが、本人たちにその気は全くなかった。――ただ時間が欲しかったのだ。二人で誰にも言えない“ある場所”に行くための。


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