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魔人の国の色んな意味でヤバい女秘書  作者: グレファー
第2話 目的がヤバい女秘書
7/76

2-3

 シャザールが主導し、会議が始まった。ソフィはその間ちょっとした雑用を手伝いながら、シャザールの素性について記憶を探っていた。――確か10年前のリズロウの革命の時からの付き合いで、今はアスクラン城の近衛隊長であったはずだ。各大臣が出席する会議で近衛隊長が出ているということは――実質この国の№2であると知らしめるためでもあるということか。


 そして会議が始まっていく中で、ソフィは自分が呼ばれた意味が分かってきた。


「だから言っているだろう!人間の脅威はまだ続いているのだと!」


「ですが!国教防衛の維持費が国庫を圧迫しているのは事実なのです!もう戦争は終わっているのですよ!?いつまで軍事費に予算をかけるというのです!」


「かといって貴様の案では町の下水処理に金が消えていくだけだろう?そうではなく、もっと雇用問題の改善を……」


「そもそも先の戦争でのオークへの報奨金すら支払い切れていない!それはどうする気だ!」


 ――話が全くまとまっていない。どうやらソフィがいることで話の内容を機密性の低い『国境防衛の予算案』についてに変えたらしいが(本当に機密性低いのその情報?と内心思っていたが)、まるでそれぞれの意見が一致していなかった。


 魔人の国のアスクランと人間の国のストーインがある西大陸は、大陸中央の山脈により南北にくっきりその国境が別れており、戦争が終わった現在もこの国境沿いに互いの基地が存在していて、互いに監視を続けていた。その山脈の険しさもあり周囲に街は無く、アスクラン城下町から補給物資及び交代人員を出していたが、これが非常に予算を圧迫していた。


「そもそも大きく問題になっていないだけで国境付近では2日に1回のペースでなにかしらの問題は起こっている!そんな中で予算を減らしてみろ!それこそ貴様らの言う平和は藁のごとく吹き飛ぶぞ!」


 軍務大臣であるオーガ型の魔人であるデレクは机を叩きつけて反論した。その意見に経済大臣のハーピー型の魔人であるアリッサは対抗するように予算の紙を机にたたきつける。


「しかしこの予算は本当に必要なものなのですか!?この防衛費が半分減るだけでどれだけ福祉にお金を回せると思っているのです!?」


 リズロウは大臣たちに見えないよう、口を手で抑えながら深いため息をつく。防衛費の維持派、見直し派、どちらも正論は言っている。――しかしその実、もっと深い問題がある。“俺の懐にどれだけ入るのか”。本当の議題はそれなのだ。これが平和の代償というものか。リズロウは目の前の光景に自ら作り出した平和を感じながら、いい加減に魔王として結論を出さなければいけなかった。


「……ソフィ、貴様ならどうする?」


 いきなりリズロウに話を振られたソフィは驚きの表情を隠さずにリズロウへ言った。


「え、この状況私が何とかするんですか?」


「戦争が終わってからずっとこの始末だ。お前を呼んだのも何かいいカンフル剤になるかと期待してのものだ。……なんでもいい。少し意見を出してみろ」


「……あまり期待はなさらないでくださいよ?」


 紛糾する会議を他所にソフィは机に地図を広げる。そして目をつぶりしばらく考えて、そしてぽつりと口にした。


「……よし、でしたらそうです。“街”を作りましょう」


 そのソフィの言葉に全員が言葉を失って振り向いた。嫌な役だよ、ソフィはそう思いながらも説明を続ける。


「そもそも国境防衛のために予算がかかっているのは主にその国境に辿り着くまでの行軍費用や物資の補給になります。でしたらこれを削減するための答えは至極単純であり、国境付近に街を作れば、そこから補給するだけで予算は半分以上減ると思いますが」


 ソフィの意見にデレクは鼻を鳴らして蔑む様子を隠さずに言う。


「いきなり何を言い出すのだ秘書殿は!?素っ頓狂な意見を出して場をかき乱すのが人間流の話し方なのか!?」


 デレクの言葉にリズロウは可能な限りデレクを見ないように意識して努力をした。まだアスクラン内では人間に対し好意的な者は少ない。だがそれは魔王の秘書を愚弄する理由にはならない。しかしそのことを今持ち出してはまた話が拗れ始めてしまう。そのため今はソフィに任せて、自分は感情を他の者に悟られてはいけない。ソフィも表情を崩さず、デレクの言葉を無視して話を続けた。


「我が家の家訓には“まず当たり前を積み重ねろ”という言葉がございます」


 ソフィは地図に指を立て、アスクラン城から国境までの道をなぞる。


「街を作るにあたってはすでに整備されている街道を利用します。そして……場所は国境から半日程度で歩けば辿り着くこの平地に」


 ソフィは地図上にペンで丸をつける。そこはオークの里がある森が近くにあり、未だ開発がされていない草原だけの平地だった。


「補給基地を作る話なら、軍ですら毎度上がっている!だが街を作るとなればその初期費用はどうなる!?本末転倒ではないか!」


「まず一つに」


 ソフィはデレクの言葉を無理やり遮った。


「ここに街を作る目的として、どなたかが上げていた雇用問題の改善があります」


 ソフィは丸を囲んでいた平地から、国境の山脈に指を動かす。


「まず街を作るだけでそれなりの雇用効果はありますが……それ以上に、この山脈には重要な資源が眠っております。……鉱石です。戦争が終わり、人間との交流が深くなれば必ずこの鉱石は需要が急増します。アスクランの製鉄技術は遅れており、南側の鉱脈がまだ手付かずであることを知れば、間違いなくストーインからその申し出があるでしょう」


 そして今度は山脈から近くの森に指を移動させる。そこはオークの里がある森だった。


「次にその炭鉱夫として、オーク達を優先的かつ高給で雇います。彼らは魔人の中では体躯が優れており、これらの作業員としてうってつけでしょう。……更に“高給”というところを強調し、彼らへの先の戦争による褒賞を兼ねます」


「それがなぜ褒賞になると?」


 アリッサはソフィへと質問する。直接お金を扱う者として、その辺りのバランスには敏感なのだろう。ソフィはそれを気を付けたうえで言葉を選ぶ。


「……ただお金を渡すということは非常に危険な政策です。過去に同様のことをして、あっという間に金を使い果たし行き場を無くしたという帰還兵の話は枚挙にいとまがありません。……彼らには安定した“仕事”を渡すことこそ、褒賞になりうるのです。ま、その辺りの交渉はリズロウ様にお任せしますが……」


「わ……私がか!?」


 いきなり自分の名前を出されたリズロウは反応に困りソフィを見るが、ソフィはその顔を見て少し溜飲が下がる。そして今度は指をストーイン側の方まで伸ばしていく。


「そして最後に、この街を戦争が終結したというシンボルにする……人間との交流の架け橋とする事です。私が実際にこのアスクランに来るのにもそうでしたが、現状ストーインとアスクランのアクセスが非常に悪く、気軽に両国を行き来できないという問題があります」


 そもそも問題になっていた補給問題。それは裏を返せばストーインからアスクランに来ることも困難だということを指していた。――無論、それは半ば意図して行われていたことでもあった。なればこそ今までこの国境付近に街が作られなかったのだから。だが、もう戦争は終わっていた。


「このような宿場町を作っていくことは、今後のストーインとの関係改善に間違いなく必要となるでしょう。このモデルケースが上手くいけば、今回の話はこれだけで終わるものではありません。第2、第3の話が続いていくはずです。……なればこそ、一度ご検討いただけますでしょうか。以上となります」


 ソフィは頭を下げてリズロウの後ろに戻った。場は静まり返っていた。ソフィは小声でリズロウに耳打ちし、質問をする。


「わ……私、やらかしちゃいましたか?」


 だがソフィの心配をよそにリズロウは半ばソフィに引き気味に答えた。


「いや……やりすぎだ……。もっとこう、素人意見出してダメ出しするくらいのことを考えていたんだが……」


 家臣たちはそれぞれ自分の部下たちと話していた。――ソフィの話には説得力がありすぎた。ソフィが話した内容そのものはソフィ自身の言う通り当たり前を積み重ねたものにすぎない。だがそれに人間としての視点を加え、かつ会議で問題上がっていた箇所の解決案をすべて盛り込んだ案に仕上げたのは、ただ事ではなかった。


「まあ……貴様をここに連れてきた私の判断は正しかったということだな」


 リズロウはそういうと、本日の会議を終了させた。――おそらくソフィの案は通るだろう。そのために各大臣に次の会議までに意見をまとめさせることが必要だった。

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