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魔人の国の色んな意味でヤバい女秘書  作者: グレファー
第17話 女秘書の答え合わせ(中編)
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17-4

 第5ラウンド。ジェラルドの親番であり、チップ状況はソフィ32枚、ジェラルドが28枚。だが勝ち点がソフィ4点とジェラルドが2点と、ソフィの残りの上がれる点数が徐々にリミットに近づいていた。


 しかし状況はどちらが有利とも言えず揺蕩っており、それは言い換えればここで抜け駆けができれば目前に迫る“詰み”に大きく近づけることを意味していた。


 ジェラルドはカードを2枚チェンジし、ソフィのチェンジの番になる。ソフィは手役ですでに9のワンペアができていた。――そして決断する。


「……3枚チェンジで」


 ソフィは9を2枚残しカードを3枚チェンジする。ワンペアを残してチェンジを行うということは“勝負”をしに行くという事。――そして。


「来た……! 2ペアが!」


 リズロウはソフィの引いていたカードを見て興奮気味に言った。ソフィが引いてきたカードは5が2枚と12が1枚。――2ペアが完成していた。


「リズロウ様……これは……!」


 ミスティもソフィのハンドを見て鼻息を荒くした。このゲーム2ペアは非常に強い手札である。3点と勝ち点は許容範囲内であり、作りがちなワンペアやブタに対し役の強さで勝ちに行ける。そしてこの後半戦へ差し掛かる第5ラウンド。ソフィの準備は整っていた。


「ほうほう……目に光が入り始めてきましたね。何かいい役が入りましたか?」


 ジェラルドは親のベット前にソフィに伺うように言う。このゲームから参加料が3枚になる。そして勝ち抜け確定のラインが見え始めてくる大事な場面。ジェラルドもここからは勝ちに行くはずだとソフィは目論んでいた。だからこそジェラルドが親という、本来即フォルドを警戒してワンペア残しすら危険であったこの場面で、ソフィは勝負に出た。


「さあね。……でも、結構いい手かもよ?勝負するかどうかはあんたが親なんだから……好きに決めたら?」


 ソフィはこちらの様子を伺うジェラルドに皮肉で返す。なるべくこちらの意図を察せられないように、慎重に、慎重に。だがジェラルドを唇を吊り上げながら言った。


「……恐らく、今のお前の手は“そこそこ”にいい手なのだろう。このラウンドから勝ち抜け、負け抜け共に現実的な“リミット”が見えてくる。大きく勝ってチップ差をつけるのも、最後に大きく上がれるチャンスともとれるラウンドだ。……だからこそ私も乗ろうじゃないか……レイズ、3枚」


 ジェラルドは場に3枚のチップを出した。これで参加料と合わせて6枚になる。ソフィは心臓の音が跳ね上がるのを感じるが、それを一切表情に出さず、自分もチップを掴む。


「そう……そうね。確かにここが勝負の時ね……! 私もレイズ。こちらは2枚レイズする」


 ソフィは参加料3枚とジェラルドのレイズ3枚に加え、自身のレイズ分2枚の合計8枚のチップを場に出した。――だが。


「レイズ! チップ5枚!」


 ジェラルドはソフィのレイズを見た途端、食い気味にレイズを宣言する。合計13枚の場になり、ソフィはここで初めて表情を崩した。


「な……!」


 ――強気すぎる。ここで13枚のチップを賭けてもしジェラルドが負けた場合、ソフィのチップは45枚。まだ勝ちが決まるわけではないが、大勢が決してしまう程の差になる。そこまでジェラルドの手はいいのだろうか? だが今度はどこまで強いかという推理にもなる。仮にストレート以上の場合一気に4点が加算され6点。ソフィの親があと3回あることを考えるとかなりリスクある手にもなる。


 そしてソフィにはまだ考えなければならないことがあった。それはソフィが密かに“仕掛けた”一手。その一手から得られた情報と、残りのゲーム数、そしてジェラルドの性格。ソフィはひたすらに悩み、ある“決断”をする。


「……フォルド」


 ソフィは手札を場に伏せ、フォルドを宣言した。


「なに!?」


「嘘でしょう!?」


 後ろで見ていたリズロウとミスティはソフィの決断に叫びながら驚いた。だがソフィはその言葉にも一切動揺せず、ジェラルドを睨みつけながら言う。


「さあ、私はフォルドを宣言したわ。……あんたの手札を見せなさいよ」


 ジェラルドもソフィのフォルドは予想外であったのか、口元をひくつかせながら、少し苛立つように手札を場に公開する。ジェラルドの手札は3と13のツーペア。13がある分ソフィのツーペアよりも強い――つまりソフィは手役で負けていたのだった。


 そのジェラルドの手役を見て、リズロウ達は上がった体温が一気に下がる。最初は2ペアで引いたソフィを咎めていたが、もしあのまま突っ張っていたら――さらに泥沼に引きずりこまれていたかもしれないと考えると、ソフィのあのフォルドは大英断であった。


「見事ですね……! あそこまで行きながらフォルドを宣言するとは」


 ジェラルドの誉め言葉にソフィは素っ気なく返す。


「ポーカーはフォルドが重要だって言ったのはあんたでしょう? ……私はただ当たり前をやっただけ。勝つための当たり前を、ね」


 これ以上行けば致命傷になっていたかもしれない出費を8枚に抑え、ジェラルドの勝ち点を5までもっていった。――しかしチップ状況は24対36。先ほどまで参加料1つで覆せていた差が開き始めていた。



 第6ラウンド。今度はソフィの親番であり、チェンジを一通り済ませソフィは10のハイカードが手役になっていた。そして参加料の3枚を掴み、場に出す。


「まずは参加料をベットするわ……そして」


 ソフィはチップを1枚掴んで場に出した。


「レイズ、1枚」


 ソフィは1枚のみチップをレイズした。向こうの勝ち点が上回っている親の即フォルドが有効な状況下ではあったが、このラウンドでこのチップ差で負けていることを考えると、勝負にいかざるを得なかった。だがジェラルドは自信満々にチップを掴み、ソフィのレイズに乗る。


「ではその1枚乗りましょう。……そして」


ジェラルドはチップを2枚掴みながら言い放った。


「レイズ、2枚」


「な……あ……!」


 合計6枚出されたチップにソフィはまたも表情を失う。仮にここでジェラルドが負けてもチップは30枚同士の引き分けになるだけであり、確かにこのレイズに不自然なところはない。だがソフィはこのレイズには何かの意図があるようにしか思えなかった。


「く……くそ……!」


 ――実はソフィはその意図を若干掴みかけている。ただし“若干”であり、“確信”できるほどの証拠も論拠もなかった。だがもうソフィにはこのレイズに対し、勝負できる根拠を無くしていた。


「く……ぐ……フォ……フォルド……!」


 ソフィはフォルドを宣言し、このラウンドから降りた。これでチップ状況は20対40となってしまう。


「フフフ……相変わらずフォルドがお上手なことで」


 ソフィがフォルドしたことでジェラルドは手札を公開する。ジェラルドの手役はAのハイカード。――つまりまたしてもソフィにギリギリで勝っていた。


(やばい……! これで20枚差……!)


 トシンはソフィとジェラルドの点数差を確認し、目前に迫った絶望的な状況に気づく。この20枚差は最後の参加料5枚の9ラウンド目と10ラウンド目の参加料だけで勝敗が付いた時の差。つまり次ソフィが負ければ、ジェラルドがあと全てのゲームをフォルドしても引き分けが確定。言い換えればソフィの勝ちはほぼ無くなるのだった。無論、ソフィはそこまで計算したうえでレイズをしたし、ジェラルドのレイズにもフォルドをした。



 ソフィは一度深呼吸を入れる。ここから先は本当にミスが許されない大事な場面である。だがそんなソフィの緊張状態を見て、ジェラルドは悪意のある笑みを浮かべた。


「どうやら余裕がなくなってきたようだな」


「……なんのまだまだ。私はここまで何もミスをしていない。……ミスをしていないなら、負ける道理はない。我が家の家訓にもあるでしょう?」


「フン……それを言い出すと、私もミスをしていないのだから、負ける道理はないはずだが?」


 ――違う、あんたは一つ大きな“ミス”を犯している。ソフィは心の中でジェラルドに毒づいた。しかしそのミスに漬け込む方法が今のソフィには思いつけなかった。あと何かが足りない。そこまではわかっているのに、その“何か”がわからない。



 ――第7ラウンド。ここから参加料が4枚になる。互いのカードチェンジが終わり、親のジェラルドのベットから始まる番だった。そしてジェラルドは笑みを顔に張り付かせたまま、手元のチップを全て場に出した。


「オールイン」


 この場にいる全員の顔が凍り付いた。それは対面にいるソフィも同様だった。


 ソフィは――フォルドを宣言するしかなかった。ソフィは4のワンペアができていたが、ジェラルドは9のワンペアができていた。これで勝ち点状況はソフィが4、ジェラルドが8。そしてチップ枚数はソフィが16、ジェラルドが44。残りゲームの参加料が14枚であり、レイズが全く絡まなかった場合ソフィが全て勝っても引き分けが確定する。そしてソフィが残る親番で全部フォルドをしても、ジェラルドが全てブタなら勝ち点を超えることも無い。


 ――つまりこの時点でソフィの勝ちの目はまず無くなったのだった。

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