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魔人の国の色んな意味でヤバい女秘書  作者: グレファー
第17話 女秘書の答え合わせ(中編)
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17-1

 話はソフィがストーインにおける隠れ家で城からの手紙をもらったころまで遡る。ストーイン城で魔人との戦争継続派のクーデターが起こり、そして鎮圧された。首謀者はストーイン王の正妻であるマリアンヌと、その男系の子供である2人。彼らは王家の体面を考え継承権までははく奪されなかったものの、国外追放処分となり、クーデターには全く関係なかったソフィも巻き添えをくらって学校を中退することになった。


 だがジェラルドはその時もう次の策を練っていた。そのためにはソフィの身柄が必要だったため、偽の手紙を出してソフィを誘い出すつもりでいた。しかしソフィは彼女が個人的に出資していた飛行船の工廠のツテを使い、勝手に国外に脱出しており、気づいた時には空の上にいた。


 ジェラルドはそのため策を練り、ソフィが魔人の国で行き場を無くすよう、手配を行い面接が失敗するようにグライスを魔法で洗脳させ、ソフィを襲わせた。だがソフィはここでも予想外の活躍をし、逆にリズロウの信用を得てしまう。


× × ×


「私がアスクラン……というよりシャザール殿と繋がっていたのはもっと前ですがね。いずれリズロウ殿と本気で戦える機会を提供してあげる代わりに、ギブアンドテイクの関係を得ようと。まあ……ここまでリズロウ殿に忠誠心を抱いているのは想定外でしたが」


 ジェラルドは近くの柱でに寄りかかるように座っているシャザールを見ながら言った。横にはリズロウもおり、互いの怪我の応急手当を行っていた。どちらも深手であり、ジェラルドを無抵抗で取り押さえるほどの力は残っていなかった。


「というわけでシャザール殿が自分のくだらない忠誠心に殉じているところを、私が利用させてもらったわけですよ」


 ソフィはジェラルドの敵意とは別に、その策には舌を巻かざるを得なかった。自分の姿は最後まで現さず、そして一番の目的であったこの状況を作り出すために関係者全員を巧妙に動かしていた。


「むかつくぐらい手際がいいじゃないの……」


 ソフィはこれまで感じていた数々の疑問の答え合わせがされていくことに、言いようのないむかつきを感じていた。自分の手で答えを得た訳でなく、それがバラされていくこと。そしてそれはもうバラしている側が、利益を得る準備ができているということを。


「アンナ……あなた色々と言葉遣いや態度が変わったようですね。王家の姫として、そのような振る舞いは相応しくないと思いますが」


 ジェラルドの指摘にソフィは鼻を鳴らしながら答える。


「ハッ、もう私はアンソフィアじゃないからね。私はソフィ。だいたいもう殆ど王家の人間じゃなにのはあなたも一緒じゃない」


 ソフィの挑発にジェラルドは表情は変えずにいたものの、血管を額に浮かべながらソフィに言った。


「……違います。私はストーイン王家の嫡男として、必ず王城に復帰してみせる。そのためにはまずあなたの身柄を確保するのが第一でね」


「私の身柄を確保してどうするつもりよ」


「ふっ……。王族の女性が王家のために役に立つ場合なんて、限られているでしょう。……結婚ですよ。あなたが負けて私の下に来た際には、私の知り合いと結婚していただきます」


 その言葉を聞いてソフィは少し目をつぶり考える。そして頭に手をあてて、ゆっくりを回答した。


「……フラーリアか」


 ソフィの回答にジェラルドは唇を歪めながら答えた。


「ご名答」


「もうこっから先はあんたに優位を取らせはしない。私自身の力で答えを出してやる。……にしてもフラーリアか、お兄様も立派な国賊なことで」


 フラーリアは北大陸一番の栄えている国であり、近年その勢力を西大陸まで伸ばそうと、ストーインに対し牽制を続けていた。ストーインがアスクランとの戦争を止めた一番の理由が、フラーリアとの緊張状態のためにアスクランに兵力を出していられないということであり、リズロウもフラーリアの状況を警戒していた。ソフィが秘書として入ってくる際の試験でも、フラーリアへの記述を求めたほどだった。


「恐らく、ストーインで失脚する前からフラーリアと繋がっていたのでしょうけどね。で、失脚したから自身の立場を確立するために、生贄として私にフラーリアの有力者と結婚させ、繋がりを強くしようと。あわよくば私経由でストーイン王家にダメージを与えることまで計画して」


「フフフ……その通りです。本来、お前の身柄なんて使う理由はありませんでしたが、ちょっと状況が変わりましてね。女が家のために身を尽くすなんて当然のことでしょう?」


「……あんたの都合だけで“当然”を決めるな」


 ソフィは怒りをにじませた態度を全く隠しはしなかった。昔からソフィは兄妹仲――というより家族仲が非常に悪かった。父は国の事しか考えず、母は王家継承の可能性が高い兄たちしか見てこなかった。そして兄二人はソフィが女であるということから見下しており、仲がいい兄は異母兄妹であるエリオットだけだった。


 3年前にソフィがジェラルドが率いるドラッグマフィアを壊滅させた時も、ジェラルドが今後悪さができないように徹底的に潰したつもりだった。だが実際にはその逆境を糧に再起を図り、こうして周りに悪意をまき散らしながら目の前にいる。――もう今度は容赦をしない。


「そろそろゲームのルールを説明してもらえるかしら」


「ええ。もちろん。トシンでしたか? 彼が来るまであと30分ほどでしょうから。じっくりとルールを説明していきましょう」


 ジェラルドは懐から折りたたんだ紙を取り出し、それを机に広げる。そこにはポーカーの各種役と“点数”が書かれていた。


「もちろんポーカーの役は知っていますね?」


「ええ。当然」


 ジェラルドの質問にソフィはそっけなく答えた。


「この“リミットポーカー”は10ラウンドに渡って行われるポーカーです。チップも別途用意して最終的な勝敗はこのチップの多寡で勝負をつけます。……ですが1つ大きなルールの違いがあります。それが“点数”です」


 ソフィは机に広げられた役の点数表を見た。ブタが1点、ワンペアが2点、ツーペア・3カードが3点、ストレート・フラッシュが4点、フルハウスが5点、4カードが6点、ストレートフラッシュが7点だった。


「ロイヤルフラッシュはストレートフラッシュと同様に扱います。……いずれにせよこのように各役に点数が決められており、10ラウンド行う中で、上がれる点数は“10点”までとします」


「上がれる……点数?」


「ええ、ようは上がれる役に“制限リミット”がつけられる訳です。それがこのリミットポーカー」


 ソフィはそれぞれの役に目を通し、役ごとの点数を記憶した。そして疑問に思ったことをジェラルドに尋ねる。


「……もし点数を超えてしまったら?」


 ポーカーは最終的に手元に来る役は運次第である。ゲームを続ける中で、手持ちの点数が8点なのにチェンジをしても3カードが来てしまう可能性は充分にある。ソフィの疑問はもっともだった。ジェラルドは笑みを顔に張り付かせたまま答える。


「11点以上になった場合、“ドボン”で問答無用で負けになります。これはチップ数よりも優先して判定され、仮に最終ゲームでドボンをした場合でも、チップ数関係なくドボンした側の負けです」


「なるほど……あと、点数は負けても加えられるわけ?」


 ソフィの質問にジェラルドは首を横に振った。


「いいえ。負けた側には点数は加えられません。しかし相手がフォルドをしても、勝った側はその時点の手札の点数が加算されます。一応公平を期すためにフォルドをしても手札は公開するように」


 ジェラルドはその他のルールを説明した。“親”と“子”の概念はあるが、1対1ということもあり、単純にチェンジとベットの順番の違いしかないこと。チェンジは最初の1回だけであり、そこではまだベットはしないこと。手札が確定後に親からコール・チェック・レイズ・フォルドを決めていくこと。


「あともう一つ。チップは互いに30枚。参加料は初回は1枚ですが、2ゲームごとに+1枚としていきます。つまり1~2ゲームは1枚からですが、3ゲーム目は2枚。9ゲーム目は5枚となるわけです」


 ソフィはそのルールに異論は無かった。そうしなければ序盤で圧倒的になった場合、逃げ切りが可能になってしまう。極論1回ストレートフラッシュで圧倒的に勝ってしまいそのまま逃げ切ってしまうのでは、リミットを掛けている意味が全くなくなるからだ。


「だいたいは普通のポーカーと変わりません。単純に役に点数をつけただけです。……ですがこの点数が非常に読み合いの妙を出しておりましてね。私もトランプ遊びは好きなのですが、よくこのルールで友人と遊んでおりましたよ」


「友人、ね」


 ソフィは吐き捨てるように言った。3年前のドラッグマフィアとの抗争で、こいつが何をしていたのかはよく知っている。大方借金で首が回らなくなった債務者にゲームをさせ、このポーカーでその絶望を楽しみつつ、ケツの毛まで毟っていたのだろう。――ソフィの学生時代の級友も同様の被害にあっていたことを思い出した。


「……いずれにせよ、私の土俵で戦うとか言いつつも、結局はあんたの土俵だったわけだ」


「ええ、そんなの当然じゃないですか。今は私がこの場の優位を握っているのですから。……さて、そろそろ誓いに移りましょうか」


 ジェラルドは懐からナイフを取り出すと、それを机に置いた。


「血判をするためにナイフで傷を入れてください。……ああ、指はだめですよ。トランプに血が付いてしまいますから」


「わかってるわよ……」


 ソフィは袖をめくると、ナイフで腕に切り込みを入れた。そして滲みでてきた血に親指を当て、血をつける。


「はい。次はそちらの番」


「ああ、私は結構です」


 ジェラルドは別のナイフを取り出すと、同じように腕を切って親指に血をつけた。ソフィは何となく腹が立つが、潔癖症ぎみなのは自分もあまり変わらないため、文句を飲み込んで不満を表すようにナイフをその辺に投げつけた。


「これで誓いの準備はできた」


 ジェラルドは指を伸ばしソフィに向ける。ソフィは敵意を込めた目でジェラルドを見ながら指を重ねる。


「絶対に私が勝つ」


「おお奇遇ではないですか。ちょうど私も同じ事を思っていました。兄妹で意見が合うのはこれが初めてですかね」


 ソフィは相手を殺すという意思を込め、万力を込めて親指を押し付けていた。だがジェラルドも同様なのか、互いに顔を赤くしながら指に力を込め合っていた。そしてほどなくして指を離し、互いにさっさと指を拭く。そのタイミングでトシンが謁見の魔の扉を開けて、部屋に入ってきた。


「戻りましたー!」


 トシンは行くときには無かったはずのバッグを両手に背負っており、背中にもリュックが背負われていた。そしてバッグとリュックをひっくり返すと、トランプが大量に出てきた。


「とりあえず5個くらい店を回って、それぞれの店で買えるだけ買ってきました。メーカーもそれぞれ別で、箱の封が切られていないことを証明するシールが貼ってあるものだけを選んでいます。これくらいあれば充分ですかね」


 息を切らしながら報告するトシンにソフィは笑みを浮かべて応えた。


「ああ、完璧な配慮だ。ありがとう、トシン」


 ソフィの柔らかい表情を見て、ジェラルドはからかいながらソフィに言った。


「ほう……あなたのこちら側での信頼する部下というわけですか。……お二人は付き合っているのですかね」


 トシンは顔を赤くしながらジェラルドに振り向く。


「い……いや“まだ”! そういう関係では……!」


 トシンの反応にジェラルドは笑いながら応えた。


「アッハッハ。いや冗談ですよ。……それに付き合ってなくてよかった。何せこれからアンナは別の男と結婚することになりますからね」


「えっ!?」


 トシンは慌ててソフィを見るが、ソフィは呆れながら言う。


「んなわけないでしょうが。そんな未来1000パーセント来ないわよ。私が絶対に勝つと言ったら勝つ。ここまで勝ってやると思うのは久々だからね」


「またあなた自分の貞操を賭けにしてるんですか……」


 トシンの指摘にソフィは緊張が挫かれてしまい、ガクッと肩を落とした。


「もう! いいから! ……って考えるとディーラーはトシンでいい? ほかにできる人いなさそうだし」


 ジェラルドは頷いて答えた。


「ええ、問題ありません」


「了解。……じゃあそろそろ始めましょうかね。リミットポーカー……!」


 いきなり話が進行して困惑しているトシンのために、ソフィは簡単にルールを説明する。そして一言だけ小声でトシンに言った。


「……あんたは何も配慮しないで普通にディーラーをやって」


「……え、でもせっかく僕が……」


 カードに触れているんだからイカサマができなくないか?と言おうとしたが、ソフィはトシンの頬をつねりながら言った。


「トランプド素人のあんたがやったところでただバレるだけよ……! いい? あなたは公正にディーラーをやってちょうだい。あいつは……私がこの手で倒す」


 ――そして第一ラウンドが始まった。


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