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魔人の国の色んな意味でヤバい女秘書  作者: グレファー
第16話 女秘書の答え合わせ(前編)
63/76

16-3

 傷口を焼くことで一旦の動きの自由を確保したリズロウは、左手をシャザールに向けると、火炎魔法を左手から放った。シャザールはそれをなんなく避けるものの、火から生み出される熱風によりバランスが崩られる。


「そこだ!」


 リズロウが火炎魔法を放った理由はそれだった。その体勢が崩れた機会を見逃さず、シャザールに攻撃を加えようとするが、シャザールはすぐに体勢を立て直し、リズロウの攻撃を避けて今度は背中に一太刀を入れる。


「ぐあっ!?」


 背中に重度の裂傷を負ったリズロウは膝から崩れ落ちる。


「今度はもう手も届かない背中を切らせていただきました! これで血も止められないでしょう!そして……!」


 シャザールは背中に先ほど以上の魔力を集中させ、前傾姿勢を取る。集中されている魔力量からこれでトドメを刺そうとしているのがリズロウもよくわかった。


「これで私の勝ちだああああ!!!」


 シャザールが貯めた魔力が解き放たれた瞬間、爆発したかのような衝撃波が発生し、シャザールの姿消える。音速を越えたスピードでシャザールがリズロウに突貫していった。――だがリズロウの狙っていたものはそれだった。


 リズロウは自身に突き立てられている音速以上のスピードで突撃してくるシャザールの剣を、渾身の力を込めて自身の剣を振り、叩き折る。そしてその勢いのまま、シャザールの背中に剣の柄で打撃を加え、地面に叩き落した。――そしてようやく音が追いつき、シャザールが地面に叩きつけられた瞬間に、爆音が鳴り響いた。


「がはっ!?」


 今まで自分の速さに反応できなかったはずのリズロウが急に反応し、シャザールは腹から地面に叩きつけられ、胃の内容物が荒れ狂っている中、困惑しながらも立ち上がろうとした。しかし、今の攻撃で肋骨にあばら骨にと身体の前面の骨が複数本折れ、身体に一切に力が籠められなくなっていた。そしてリズロウはトドメとばかりにシャザールの背中の翼を炎で焼く。


「ぐああああっっっ!!!」


 シャザールは苦痛で呻くが、身体を起こすことが一切適わない。シャザールが動けなくなるまでに翼を焼いたことを確認したリズロウは、地面に臥せているシャザールと話すため、自分もその場に座り込んだ。


「……満足か?」


 リズロウはシャザールに疲れた声で言った。シャザールはなおも納得できないという気持ちでリズロウに言う。


「な……なぜあの攻撃に反応できたのですか……」


 シャザールの質問に、リズロウは少し間を空けて答えた。


「……そりゃ真っすぐ突っ込んできたからな。お前の目的からして、最大の技で俺にトドメを刺したいだろうよ。俺が“お前のスピードに反応できている”という事に気づかないままな」


 リズロウはシャザールから目を反らした。


「お前に“決定的な敗北感”を味合わせるためには、お前の最大の攻撃を誘う必要があった。わざと切られた……というのは強がりすぎるな。確かに予想しづらいあの飛行術に苦しめられはしたが、そのくらいだ。それなりに攻撃をくらい、こちらがそれなりに抵抗すれば、最後の攻撃は全力で来るだろうと考えた。……俺の頭じゃ、考えてこれくらいだ」


「そう……ですか」


 シャザールは自分の人生全てを賭けた行動が、全て水泡に帰したことを全身の痛みでもって実感していた。結局、この10年努力してきたことも、この人の圧倒的な才能と力に敵わなかったということだ。


「……リズロウ様」


 シャザールはリズロウの名前を懇願するように呼んだ。リズロウもその意図はわかっていたつもりだった。だがどうしても聞かなければならなかった。


「どうしてだ……どうしてこんなことを……!」


 リズロウはシャザールの行動を理解しかけてはいた。全ては自分と戦いたい、そして自分がシャザールに対して本気を出さざるを得ない状況を作り出すために行ったことだと。


「それは……」


 憑き物が落ちたシャザールは素直にリズロウの質問に答えた。


「私が蹶起を起こしたのは……あなたと戦いたいから……ですが、それ以外にこの国の膿を排除しようと考えていました。人間との戦争を継続しようと考えている一派、近年収益が30倍以上になりながらも運営状況が改善されず破綻寸前になっているアスクラン競馬場、そして確保はしたものの処分に困り、いずれ明かされた場合リズロウ様の退任は避けられえない裏金庫……その他にもあった問題をなんとかしようと思っておりました」


 リズロウは胸の奥が痛むのを感じた。それらの問題は確かに何とかしようと思っていたが中々手を付けられず困っていた問題。――そしてミスティに裏金の調査を行わせている中で、何故か徐々に解決していった問題だった。


「“悪者を倒せば物事を解決できるなんて物語の中”。これは私の知り合いの言葉でした。ですが“物語”は問題を解決するための言い訳として充分以上に効果を発揮すると」


「それで……お前が“悪者”になったのか」


 シャザールは微笑みながら答えた。


「ええ……。所詮私は戦いの中でしか意味を見出せない“魔人”そのものです。……有翼人種は、人間との相違があまり見られない種族であり、昔から他の魔人に嘲笑されてきました。……私も幼いころはそれでイジメられてきました。だからこそ、私は平和には馴染めなかった……魔人であることが私のアイデンティティなのですから……」


 それはシャザールからのメッセージでもあった。“戦争が終わっても平和に馴染めない者はいる”と。これは実際にアスクランで尾を引く問題になるのだが――少し先の未来で、リズロウはこの問題に対し誠実に対応した王として歴史に刻まれることになる。リズロウはシャザールからのメッセージを受け取り、そしてそれを心に刻んだ。


「……一つ、気になることがある」


 だがその中でリズロウは引っかかる部分があった。これは“最近よく聞く”ような言葉だったからだった。


「さっき言っていた“知り合いからの言葉”。……この知り合いは一体誰だ?」


 この部分に感じた強烈な違和感。どうにもシャザールの意思ではなく、他人の意思がそこから入り込んでいるような気がしてならなかった。そしてどうも聞いたことがあるフレーズなのも気になった。


 リズロウの質問にシャザールは答えようとした。だがその言葉を出そうとした直後、パンパンパンと手を叩く音が謁見の間に鳴り響いていた。そしてその拍手と共に、他人を見下すことを隠さないような、男の声が聞こえてくる。


「アッハッハッハ。いやお見事、流石魔王様……いや、まだ元魔王様かな?リズロウ・アスクラン様」


「誰だ……!」


 リズロウはその声の方向に振り向くと、フードを被った男が魔王の座の前に立っていた。


「いやいやいや。いいものを見させていただきましたよ。あのような余興は、ストーインどころか人間側の闘技場でもそうそう見れるものではないでしょう。むしろ今後見るそういった試合が、陳腐に思えてきそうですね」


「誰だと言っているんだ!」


 リズロウは魔王としての態度を、その侵入者に向けながら言った。その男は何かに気づいたように手を叩く。


「ああ、すみません。最近このフードを被ったままのものでしたから。国の最高指導者様に向けて、大変失礼な事をしておりました」


 その男がフードを取ると、リズロウはその顔を見て驚愕した。


「き……貴様……!」


「久しぶりですね。リズロウ殿。もう10年近いですかね。最後に直接会ったのは……あなたが“ロウズリー”だったころでしょうか」


 フードを取った男の容姿は金髪の美青年と言えるものだったが、その顔の造形には歪んだ意思が含まれているのを隠しきれていなかった。リズロウは少なくともそう感じていた。それは見た目の印象だけでなく、自分がこの男に持っている嫌悪感もあるのかもしれない。


「貴様は……ジェラルド……!」


「覚えていただいており光栄ですよ。リズロウ殿。……そしてどうやら揃ったようだ」


 リズロウは背後の扉が開かれたことを感じ、後ろを見る。そこにはトシンと――顔を怒りで歪ませているソフィがいた。


「やっぱり……! あなたがここにいたのね……ジェラルド“お兄様”……!」


「久しぶりだな、アンナ。全く……お前のせいでこんな大ごとになってしまった」


 男の名はジェラルド・ブラン・ストーイン。ストーイン王位継承権第3位であり、現ストーイン王とその正妻の間の長男。――そしてソフィの直系の兄であり、半年前ストーインで戦争継続派をまとめ、クーデターを起こしていた。――そしてクーデターに敗れ、失脚していたはずの男だった。


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