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魔人の国の色んな意味でヤバい女秘書  作者: グレファー
第16話 女秘書の答え合わせ(前編)
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16-2

 ソフィは正門から外に出ると、そこにいるはずのケイナンやトシン達がいないことに気づき、何かトラブルがあったと考え、町中を走っていった。計画で襲う詰所については飛行船に乗るために別れる際に聞いており、そこからの直線を繋いだ間にトシン達が居ると考え、捜索を始める。そしてほどなくしてトシン達を見つけることができた。トシン達の方も戦闘を終わらした直後であり、怪我を負ったそれぞれの応急処置を行っていた。


「……私は会った事なかったけど、この男が、ケイナンの実家の兵士だった訳ね」


 ソフィは連れてきた兵士たちに治療を受けているギゾを見ながらケイナンに言った。ケイナンも撃たれた左足を今一度ちゃんとした治療を受けていた。弾は貫通しており、骨も異常は無いものの、大事な血管をいくつか傷つけており、無理をすると大量出血は免れない状態になっていた。


「ああ。彼の名前はギゾ。ストーインの軍隊で精鋭部隊の一員だったけど、半年前のストーインにおけるクーデターの際に反体制派についてしまい、反体制派が敗れると軍に戻ることもできずにいたらしい。そっから先は俺もアスクランに来る準備をしてたりしたから知らないけど……」


「でも、この人はソフィ様が飛行船に乗っていたことを知っていたみたいですよ」


 同じく横で座って休んでいたトシンはギゾを指さしながら言った。トシンの言葉にソフィは顎に手を当てて考えを始める。


「う~ん……。という事は、私はガッチリ監視されていたってことか……。となると、グライス殿のあの指摘も……」


「どうかしたんです?」


 トシンはソフィに質問をするものの、すぐ横にいたグライスはできるだけ顔を合わせないようにしていた。グライスも同様でトシンとは顔を合わせづらいようだった。互いに恨みも何も抱いているわけではないが、過去の1件からどうしても苦手意識があった。――トシンはそれだけでなく、グライスに思うところがあったが。特に今のソフィとの距離感を。


「いや……とりあえず私たちもリズロウ様に合流しよう。グライス殿と、ジュリスの部下の人たちは、町で待機していてくれ。特にケイナンは医者に連れて行ってやって」


「な……姉さん……!」


 ケイナンは立ち上がろうとするが、足の痛みのためそれもできず、ケイナンを治療していた兵士に怒られていた。――ケイナンがやんごとなき生まれって知ったらこの兵士もビビるんだろうなとソフィは心の中で思っていたが。


「あんたは大人しくしてなさい。それに彼らだって、今更城に戻すわけにはいかないでしょうよ。私とトシンだけで城に戻ればそれで充分だから。わかった?」


 ケイナンは不満そうな顔を浮かべるが、渋々頷いて同意を示した。ケイナンの返事を確認して、ソフィはグライスの胸を叩いて言う。


「こちらの策で、まだ町中にクーデター派の兵士たちがたくさんいると思う。グライス殿が頼りだからその辺は頼んだわよ」


 ソフィからの依頼にグライスは微笑みながら答えた。


「了解。……しっかし私がミスティ様からあなたを守る依頼を受けてなかったら、一体どうするつもりだったんで?」


 グライスは自分の存在が前提にされた作戦に、疑問というよりも興味を持ってソフィに尋ねた。ソフィはやれやれと肩をすくめながらグライスに言う。


「こちらとしてはケイナンが重傷を負ってることが想定外な訳でね。……前にも別の誰かに言ったことがあるけど、私だってなんでも見通せるわけじゃない。こういう時に大切なのはその場その場で対応できる判断力だって、そう思わない?」


 ソフィはグライスの意図を汲み、彼が聞きたがっていたと思われる回答を返した。


「りょーかいです。ソフィ“様”」


 グライスは自身の性格を表すような気の抜けた敬礼をすると、ケイナンを背負い人間達を連れて町中に向かっていった。ケイナンは最後に一度、残ったソフィとトシン達を見るために振り向き、トシンは手を振って応える。ソフィも強い眼差しをケイナンに向け、その表情は闘志に燃えていた。その顔を確認して安心したケイナンは、名残惜しそうにしながらも前を向きなおし、そして町の中に姿を消していった。



 残ったソフィとトシンは共に並んでアスクラン城を見る。


「さて……第二回戦と行きますか」


 ソフィは両手を合わせて気合を入れなおす。なぜこの殆どクーデターが終わっているこの状況で、ソフィが気合を入れなおしているのか。トシンはおぼろげながらその理由が掴みかけてきていた。


「……いいんですか?」


 トシンは慮るようにソフィに言う。


「逆に、あなたはいいの?今なら向こうについていけば安全だし、私も何も言うつもりは無いわ」


「冗談言わないでください。僕はあなたが行くところならどこまででも付いていきますよ」


「…………ありがとう」


 ソフィは素直な気持ちをトシンに言った。ここまでソフィが思い詰めているのにはある理由があった。この戦いの前にソフィが自分の過去を話している際に、“ある可能性”を挙げていた。それは確かに可能性ではなかったが、グライスとの問答や、ケイナンの家族に就いていた元兵士の存在が、その可能性を確実なものに変えてしまっていた。ソフィは意を新たに、城の最上階を睨む。


「まずはリズロウ様の下へ向かうわよ。計画通りなら、今頃シャザール様との戦闘中のはず」


「ええ。わかりました」


 トシンは頷き、そしてソフィと共に城へ駆け出して行った。ソフィとトシンの懸念。それはこの事件の背後にいる“本当の黒幕”の存在を。


× × ×


 リズロウは剣を振りかぶり、シャザールへと切りかかっていく。人の姿に竜の身体能力を乗せた、他の魔人でも適わない“魔物”としての全力の力を使った攻撃。シャザールは翼を広げ、そのリズロウの速度についていけるよう、風魔法を放って自身の翼に乗せ、目にもとまらぬ速さで動く。10年前にリズロウ戦いで見せた移動術より、遥かに洗練された動きだった。自身の攻撃をスかされ、かつ目でも追うことが難しいそのシャザールのスピードにリズロウは賞賛の声を上げる。


「やるじゃねえかシャザール! もうちょっとそれ人間との戦争の時に見せてもらいたかったなあ!」


 今まで見たこともない動きにリズロウは若干の皮肉を混ぜて文句を言った。これがシャザールの奥の手なのだろう。今までどんなに苦境に立たされた時も、この動きを見せたことは無かった。逆に言えばそれほどまでリズロウとの戦いを意識していたとも言えた。


「はあああ!!!」


 シャザールは加速をかけ、リズロウへと突撃していく。リズロウはその魔力の動きを読んで、リズロウの突撃方向を先読みし、カウンターを仕掛けようとする。だがその直後、シャザールの周りに風が吹き、直角に進行方向を変え、リズロウのカウンターを避けただけでなく、リズロウの右腕に裂傷を負わせながら安全圏へと逃れていった。


「がっ……!」


 リズロウは逆にシャザールからのカウンターをもらい、切られた右腕に握られていた剣を落としてしまう。そしてシャザールは再度突撃していく。リズロウはまたも先読みするが、リズロウの動きに対処してシャザールはまたも方向を急転換させ、今度はリズロウの左ふくらはぎに一太刀入れていった。


「くそっ……!」


 足をやられたリズロウは膝を折って座り込む。今の攻防でもらった右腕と左ふくらはぎ。どちらも重傷だった。去り際にちょっと切っていったなんてものではない。重度の裂傷がそれぞれの傷に刻まれていた。


「どうです? これが対リズロウ様用の私の最終決戦奥義です。名付けて“風の奔流”。私自身が風と同化することで、誰にも触れえないスピードと動きをもって戦うことができる。もうあなたに攻撃も防御もさせはしない! ずっと私だけが優勢に戦うことができる! これこそが戦闘の神髄だ!」


 リズロウは手と足につけられた傷を見た。どちらの深い傷も酷い出血となっており、かつ利き腕とその対角線上の足をやられたことで、攻撃手段、移動手段共に限られることになった。


「くっ……ここまでやるとは……!」


 リズロウはこれまでも訓練程度でシャザールと手合わせすることはこれまでもあったが、それで彼の実力を判断しているフシがあった。確かにこの国の№2といって差し支えないが、それでも自分にはまだ及ばないと。だがこの10年で確かにこの男は牙を研いでいた。自分以外に余裕で通用するその牙をさび付かせず、ただ自分だけに向けるために。


「……わかった」


 リズロウがその言葉を発した瞬間、一気に周囲の空気が変わった。シャザールは急に温度が10度以上は下がったかのような寒気を感じた。リズロウは左手で右腕の傷口を触ると、その傷の箇所から煙が上がり血が止まる。次いで左ふくらはぎの傷の箇所も触り、煙を上げて血が止まった。シャザールは鼻に何か肉が焦げた臭いが入ってきて、リズロウが何をしたのかを把握した。


「傷口を……焼いた……?」


 確かに止血にはなる。だが血を止めるだけで、傷が治ったりそこに力を込められるようになるわけではない。むしろ後で傷の治療がしづらくなり、かつ火傷の痛みが加わるようなものであった。だがリズロウはそれを一切気にせずに言った。


「これでいい。これから本気でお前を倒すのに、出血を気にしなくてもよくなっただけで充分だ。見せてやるよ……魔王の本気の戦いってやつを!!!」

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