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魔人の国の色んな意味でヤバい女秘書  作者: グレファー
第14話 女秘書の逆クーデター作戦(前編)
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14-4

 ソフィ達が王城に降下する同時刻。町中では1台の馬車が城に向かって走っていた。その御者はフードを被っており、馬車の中にはフードを被った人型のシルエットが2つあった。シャザールが臨時の魔王になってから、城へと向かう馬車が通れる大通り沿いの兵士の詰所ごとに検問が引かれており、城下町の外から城につくまでに計4回は検問をうけることになる。そしてこの検問は外側から数えて3つ目の場所であった。


「その馬車、止まってもらおうか」


 馬車が検問を通ろうとすると、犬獣人型の魔人の兵士が馬車の前に立って止める。馬車は素直に止まり、御者の男は兵士に文句を言った。


「一体なんだって言うんです?つい先日までこんなに詰め寄られることもなかったでしょう?」


「すまないな。リズロウ様が人間に討たれたという話もあり、城への工作を懸念しているんだ。許可証等を発行しているわけではないが、中身を検めさせてももらえないか」


 御者の男は少し悩み、そして答えた。


「ええ、いいですよ。そんな後ろめたいものを運んでいるわけではないですから」


 御者の男は兵士たちに見せるるように馬車の天幕を開ける。兵士たちは中にいいたフードを被った者たちを見ると、彼らに質問をした。


「あ~この馬車は君たちを運んでいるのか?少し顔を見せてもらえないか?」


 兵士の男は気さくに言いながらも、ある合図を詰所のやぐらの上にいる兵士に送っていた。『警戒態勢を取れと』。


「兵士さんすみません。この二人は少しメンタルをやっておりまして……。あまり人に触れ合えないんですよ。私もこの二人を病院に運ぶために馬車を出してるわけで」


「フードをどけるだけだ」


 兵士は馬車の中に入っていき、二人のフードに手を取ろうとする。だが右手はいつでも剣を抜けるように準備していた。


「すまないな。少し顔を拝見させてもらったらすぐに出ていくから……」


「いや、その必要はないよ」


 御者の男の急に口調が変わった声を聞き、兵士は剣を抜いて背後を見る。だが次の瞬間、アゴに強烈な衝撃が入り、意識が闇に吸い込まれていった。


「ね、その必要は無かった」


 業者の男――トシンはフードを取って、急いで兵士の服をはぎ取っていく。


「しっかしミスティさん、ソフィ様のように薬だったり、魔法を使うのかと思いきや、素手でワンパンとは……」


「薬なんか使ったら、君も巻き込みかねないし、魔法も魔力に反応する者が詰所にいるかもしれないだろう。それは“今潜入してるケイナン”が困るだろう?」


 ミスティもフードを取り、兵士の服をはぎ取るのを手伝い始める。もう一人のフードを被っているエルフ型の女性の魔人は目の前の光景に怯えていたが、ミスティは優しく声をかける。


「すまないな。荒っぽいバイトになってしまって。どうしても“人間”に似たシルエットの身代わりが必要だったんだ。もうここから離れて大丈夫だから離れなさい」


 ミスティに言われ、そのエルフの女性は急いで走っていく。トシンが心配して一緒に外を出ると、すぐ近くから兵士の悲鳴が聞こえてきた。


「ぎゃあああああ!!!」


 トシンがその方向を見ると、兵士が詰所の上階から落とされており、トシンの目の前でノビていた。そして兵士が落ちてきたと思われる上階を見ると、ケイナンがそこに立っており、ピースサインをトシンに出す。トシンもそれに対しピースサインで答えた。


「よし、作戦成功」


× × ×


 ソフィが空から落ちてくる作戦を提案し、ストーイン領まで戻り、飛行船を出すまでの間、トシン達は陽動作戦を行うことになった。リズロウが城に降りて制圧するまでの間、町の警戒に当たっている兵士たちを城に戻させないための行動だった。


 作戦の立案はミスティの推薦でトシンが行うことになった。まさかミスティが勧めてくるとは思わず、最初は拒否したトシンだったが、ミスティは数日前のトシンの行動を強く評価していた。複数台の馬車を素早く手配し、更にそれらが囮として機能する作戦を立て、そしてミスティを利用するという胆力を発揮しているのをミスティは知っていた。


 トシンとしては“ソフィの真似事”をしているだけという認識だったが、その話を聞いたケイナンは目を丸くしてトシンの背中を叩き、ケイナンもトシンに作戦の立案を任せることにした。


 そしてトシンが立てた作戦とは、リズロウが城に強襲する直後のタイミングで、伝令網を混乱させることだった。そのためにこの詰所を選び、そして実行に移した。


× × ×


 兵士の恰好をしたトシンは、各詰所に設置されている緊急通信用の発光筒を持ち出すと、最上階まで向かい、その筒を空に打ち出す。すると空にかんしゃく玉が打ち出され、空で大きな音を出して激しく発行する。


 昼間にいきなり打ち出された花火に、町の人たちは不思議がるも、さして混乱が起こったわけではなかった。しかしその緊急通信を見た兵士たちにとっては非常に重大な意味を持つ。各兵士が近くの詰所へ向かい、緊急信号を出した詰所からの通信に注目した。


 トシンは旗を掲げると、近くの詰所全てに通信を送る『町の外から敵が来る』と。そして急いで下に行くと、次は詰所の一室で兵士を尋問しているミスティの下へ向かう。そこではケイナンに言い含めて意図的に軽傷で抑えていたラミア型の男の兵士に、ミスティが屈んでナイフを向けながら、脅しをかけていた。


「……よくわかったか?お前がすべきことはこれからこの詰所に詰めかけてくる兵士たちに、“敵は外から来る”“他の兵士たちは一部はやられたが既に外に向かった”“城の方にはすでに何人か向かってるから、お前たちは外を頼む”と言う事だ。もし失敗したら……お前の親類に確実によくない“不幸”が訪れるだろうな」


 ミスティに脅迫されている兵士は涙目でコクコクと頷いた。トシンは恐怖で顔面を硬直させるが、よく見ると横にいるケイナンも同様の表情になっていた。トシンが来たことに気づいたミスティはナイフをしまうと、手をはたきながら立ち上がった。


「通信は終わった?じゃあ今度は私たちが城に向かう番だな」


 今の脅迫行為を何とも思っていないミスティに、トシンはソフィとは別方面の畏れを抱いた。そしてケイナンと目を合わせて互いに頷く。――この人には逆らえんと。


× × ×


 トシンがこの詰所を選んだのはランダムという訳ではない。まず外から3つめということもあり、まず検問を2つは通ってるはずだからと、兵士の気が緩みがちな位置であること。実際はトシンが以前に借りた馬車を町内から動かしているので、検問を受けるのは初めてではあった。


 そして城付近の兵士たちから状況を掴みにくいこと。4つ目の検問でこの騒動を起こしてしまうと、付近の兵士は城の方が近いため、素直に城に戻ってしまう危険性があった。正確な情報が伝わるのをできるだけ遅らせるため、色々な考えからこの詰所を選んだのだった。



 そして次の作戦は、一番隠密行動が得意なミスティが各詰所を回って、混乱を引き起こし続けること、トシンとケイナンの二人は城に向かい、外側から敵の注意を引き付けることで、中のリズロウ達の動きをサポートする作戦だった。


「だけど僕たちが二人でできることなんて限られている! せいぜい騒ぎたてて、城の外側から敵が来ると思わせるくらいしかできない!」


 トシンはケイナンと城下町の通りを走りながら、ケイナンに言った。ケイナンは頷いてトシンに言う。


「ああ! そこら辺は俺に任せておけ! 俺もこの国でどのくらいの実力か、自惚れじゃなく把握しているつもりだからな!」


 ケイナンはこちらに来てからの一か月で、いくつかの魔人の兵士たちと手合わせを行っていた。最初は人間ということで見くびっていた魔人たちだったが、ケイナンはそのほぼ全てを武器も持たずに瞬殺で片付けていた。隊長レベルになってくると少しは苦戦することはあったものの、それでも負けるといったことはなく、“手合わせ”じゃすまなくなってくる、上位者たちとの闘いは避けたものの、自分の実力はアスクランで上の下はあると判断していた。つまり、だいたいのヤツには勝てると。


「魔王様が城を制圧するまで30分くらいだと予想して、1時間は時間を稼ぐように動くんだ! “協力者”は城内にも用意してあるけど、あまり無茶はしないように!」


「了解!」


 ケイナンはトシンの指示に素直に従った。やはりわかってはいたが、自分よりもトシンの方が機転が利くというのはケイナンも自覚していた。今はまだ戦えば瞬殺できるだろうが、もう少し実力をつけて――いや、今も本気で戦うとなったら頭脳面で対応されたら難しいかもしれないと思っていた。流石ソフィが見込んだだけはあると。


「…………そういえばケイナン」


「なんだ?」


「君、丁寧語で話すのをやめたんだな」


 トシンの質問に、ケイナンは微笑みながら答えた。


「ああ、俺はもう”ケーン”じゃない。”ケイナン”だからな。魔王様にはそりゃあ敬語で話すけども、お前にはそうする必要はないだろ?」


 トシンも頷いて答える。


「うん。それがいいよ。今までの君はなんというか話しかけづらかったからさ。……その方が友達として、話しやすいよ」


「友達……」


 ケイナンはトシンからの不意の言葉に、リアクションを忘れてしまった。その生まれと育ちでろくな交友経験が無かったのはソフィだけではない。ケイナンも同じだった、特にソフィが攫われてから、ひたすらに大人に混じって鍛錬を続け、ソフィに近づく悪い虫を排除し続けていたこともあり、ケイナンにとっては今までソフィが全てだった。ソフィもケイナンの交友関係が少ないと揶揄していた通り、ケイナン自身も今まで孤独な人生を歩んできていた。


 だからこそ、トシンの“友達”という言葉は不意打ちであった。――そしてその不意打ちはケイナンの周囲への警戒を乱してしまった。


 ――ダーン! と金属の破裂するような音が響きわたる。トシンは急に聞こえたその音に足を止める。――いや、この音は何か聞いたことがある。


「ケイナン! 周囲を警戒……!」


 トシンはケイナンを見ると、ケイナンは蹲っていた。――そしてその足元には赤い液体が散っていた。


「が……!やられた……!」


 ケイナンは苦痛で呻きながら立ち上がろうとするが、それがかなわずに動けなくなってしまう。トシンはケイナンを抱えあげると、近くの建物のドアを開け、その中に隠れた。そしてケイナンを降ろし、怪我の様子を確認する。


「大丈夫か! ケイナン!」


 トシンがケイナンの様子を見ると、ケイナンの左足から血が噴き出していた。そしてその傷跡は丸い穴が開いている。その傷跡はトシンにも見覚えがあった。


「これは……銃創……!」


 トシンはその敵を示す言葉を知らない。なぜならアスクランにその兵科は存在しなかったからだ。――“狙撃兵”という敵の存在を。

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