表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔人の国の色んな意味でヤバい女秘書  作者: グレファー
第14話 女秘書の逆クーデター作戦(前編)
55/76

14-3

 ソフィが考えた被害者0で城を取り戻す作戦。それは城に行くまでに戦闘が起こった場合に被害が発生するのなら、直接乗り込めばいいというものだった。空を飛べる魔人でも高度1000メートルほどまでしか飛ぶことができない。そのさらに上を飛べる飛行船でアスクラン王城の直上まで行き、そこから飛び降りることで町の被害なく城に着地するというものだった。


「なんでお前はこんな飛行船を殆どアポなしで使えるんだよ」


 飛行船の乗組員室でリズロウは同じく待機しているソフィに話しかける。


「だって、この飛行船を運用している会社の出資者は私ですから」


「はぁ!?」


 ソフィは操縦席にいる初老の男と、その横で計器を確認している中年の男を指さす。


「あそこにいるのが私の中等学校時代の同級生の父親とその祖父で、同級生の家族が経営している飛行船の工廠が経営破綻しかけた際に、私が色々手助けしたんですよ」


 ソフィの話を横で聞いていた操縦している初老の男性は景気のいい声でリズロウに言う。


「いやぁ! 孫がアンナ様の友人で本当に助かりましたよ! おかげでアンナ様に工廠の経営状態を見直してもらって、何とか黒字経営まで戻せたんだから!」


「私が事務仕事慣れてたのはそういった経験があったからですね。で、最初にアスクランに来るときも飛行船を出資者の役得で使わせてもらいました」


 リズロウはソフィの説明を聞いて、若干引き気味に答える。


「どういう学生だったんだお前は……。というか前々から思っていたが、面倒ごとによく巻き込まれるな……」


 ソフィは苦い顔をしてリズロウに言った。


「別に巻き込まれたくて巻き込まれてる訳じゃないですからね!?」


 二人の会話が終わったところで、操縦席の男が二人に向かって叫んだ。


「よし! そろそろ目的座標だ! 二人とも、落下準備を始めてくれ!」


 計器担当の中年の男性が立ち上がると、リズロウとソフィの二人分の落下用具を渡す。リズロウは素直に受け取って言われた手順通りに装着していくが、ソフィは着けるのを躊躇していた。


「どうした?」


 リズロウはソフィに尋ねるものの、ソフィは不安そうな顔をしながら答える。


「やっぱり私も行かなきゃダメなんですか……」


「……あのなぁ」


 リズロウは不満げには言うものの、ソフィの言わんとすることもわかってはいた。最前線のど真ん中に、戦闘能力のないただの女性がいたところで、とてつもなく危険なだけだからだ。だがリズロウはソフィは絶対に必要なピースだとも確信していた。リズロウはソフィの不安を取り除くように、両肩に手を置き、屈んで顔を合わせる。


「俺にはお前が必要なんだ。力押しだけなら俺だけでも充分かもしれないが、お前のその奇想天外な発想は、俺にはできない」


「……褒めている、と受け取っていいんですかね」


「褒めるどころじゃない。必要不可欠だと訴えてるんだ。お前がいなきゃ、この作戦は完遂できない」


 リズロウの必死の説得にソフィは諦めるように鼻から息を吐いた。


「フー……。しょうがないですね。でしたらお願いします。“命令”してください。それなら諦めがつきますから」


「嫌だ」


 ソフィは思ってなかった返事に言葉を失い、リズロウは畳みかけるようにソフィに言う。


「俺とお前は確かに主従関係だが、今この時はそれだけじゃない、背中を預ける相棒だ。お前が自分の意思で俺に付いてきてくれ」


「………”たらし”ってやつですね。いやジゴロか」


 ソフィはリズロウに背を向け、聞こえないように小さな声で言った。誰にも見えないように表情を隠していたが、その顔は明らかに紅潮していた。


「どうした?」


 リズロウは何の気もなしにソフィに声をかけるが、ソフィは笑みを浮かべながら振り向いた。


「なんでもないです! わかりましたよ。私がリズロウ様の背中を守りますから!」


 ソフィの返事を聞いたリズロウはソフィと同じく笑みを浮かべ手を差し出した。


「ああ、頼む」


 ソフィも差し出された手を握り、二人は固く握手しあう。その様子を見ていた操縦席の男性は、はやし立てるように言った。


「いいねえ青春! お二人は、結構いい仲なんかい!?」


 その言葉にソフィは呆れながら返した。


「おじいちゃん……。この人、バツイチな上に娘さんはは私より5個上なくらいには結構いってるから……。そんなことより降下準備、そろそろ開始して!」


「あいよ!」


 飛行船はゆっくりと速度を落とすと、城を中心に旋回をし始めた。そしてソフィたちは部屋の扉を開け、外にあるデッキへと出ていく。ソフィは降下用のゴーグルをつけると、周りの風にかき消されないよう、リズロウの耳元で叫ぶように言った。


「一度飛び降り始めたら、このように言葉を交わすことも、ハンドサインによる合図もできません! つまりリズロウ様と私で個人個人で判断して行動することになります! ですから私が何か予定外の事をした時は、リズロウ様もその事を念頭に行動してください!」


「ああ! わかったよ!お前が予定通り行動したことなんてないからな! 俺も必死に考えてやるさ!」


 計器を見ていた男性は、ソフィたちが飛び降りるタイミングを図るために、デッキに出て旗を振り始めた。残り5秒前の合図が出される。


「私は私の予定通りには行動してますからね! ……さあ! 行きましょう!」


 残り2秒前。リズロウはソフィを背負い、落下体勢を取る。


「ああ、行くぞ!」


 旗が大きく振られ、飛び降りる合図が出された。ソフィとリズロウは共に青空へと飛び出していった。


× × ×


 アスクラン王城。城の周りでは30人もの飛行能力を持つ魔人たちが周囲を見回っていた。シャザールが臨時の魔王になってから5日目。ここまでリズロウの動きが全くなかったこと、体裁としては“人間”やそれらに協力する魔人の監視という名目もあったために、あまり力を入れていない警戒態勢ではあった。そのため仮に“敵”が飛んできても、“目線”が上よりも行くことはないだろうと、さして上を見ることはなかった。


 最初に気づいたのはむしろ地面にいる仕事中の城の者たちだった。空に飛んでいる警備兵の様子を見るために上を見上げていたものがおり、その際にその異変に気付いた。


「……なんだあれは?」


 ゴブリン型の魔人の兵士が、城のやぐらから空を指さす。3000メートル上のそれは白い点でしか見えなかったが、明らかに雲ではないそれを見て、警戒心を強める。望遠鏡を持っていた兵士がその白い点を覗くと、その点から何かが飛び降りてきた。


「……何か落ちてくる?」


 望遠鏡を覗いていたリザードマン型の兵士は、疑問を口にしながらその点を注視していると、それは落ちてくるにつれ人型であることが分かり、そして身体の特徴までわかるくらいに近づいてくると、それは急に光りだした。


「ま……まさか!!!???」


 望遠鏡を覗いていた兵士は望遠鏡を投げ捨てると、拡声器を手に持ち大きな声で叫んだ。


「て……敵襲――――!!!!」


 高度1500メートル付近まで時速200km以上のスピードで落ちてきたリズロウは、そのまま空中で変身をする。変身の際の急な肉体の膨張にソフィを巻き込まぬよう、最新の注意を払いながら体勢を整え、そして竜の姿に変身し、ソフィを背に乗せた。


 リズロウの襲撃に気づいた竜人型の兵士が立ち向かうが、リズロウは炎の息を吐き、彼らを無力化し墜落させる。これで地面に落ちても“城”の敷地内に落ちるだろう。町の住民を巻き込まないようにする作戦は成功だった。


 リズロウは次にブレーキをかけるために翼を少しずつ広げ、旋回を始める。このスピードで全力でブレーキをかけてしまうと、自分の翼が風圧に耐え切れずに傷ついてしまう可能性があるため、リズロウは大きく旋回をかけようとする。


 だがその中でソフィは空に飛んでいる兵士たちの手に、何か見慣れないものが握られているのを見た。


「……あれは……何……!?」


 そして兵士の一人がそれをこちらに構えたところで、ソフィは全身から冷や汗が飛び出る。――しまった!


「リズロウ様! 離れて!」


 ソフィは聞こえないことを承知で叫び、リズロウの背を蹴り飛ばし、自分はリズロウから離れる。背中の感触がなくなったリズロウは振り向くと、ソフィが精いっぱいのハンドサインで、“向こうを見ろ”と伝えようとしていた。その意図を汲んだリズロウがソフィの示した方向を見ると、兵士の何人かが自分に何かを向けている。


「くそっ! 何かわからんがヤバイことは確かだ!」


 リズロウは旋回することをやめ、逆に翼を閉じて加速の体勢を取る。そして次の瞬間、鐘が鳴るような音が響きわたり、兵士たちが持っている何かから黒い煙が飛び出す。


「“銃”!!! か!!!!」


 リズロウは加速をかけたおかげで兵士たちの狙いが外れ、全弾避けきることができた。そしてその勢いのまま城の庭園へと着地をし、その衝撃で土埃が舞った。ソフィはリズロウの着地を確認すると、パラシュートを開く。全員の目が着地したリズロウに向いている間に、自分はなるべく安全な着地をしなければならない。――そしてその考えはリズロウも共有していた。


「グオオオオオッッッッ!!!」


 リズロウは大きく咆哮をすると、土埃を尻尾で払い、その竜の姿を見せつけるように地団太を踏む。そして空を再び飛ぶと、空を飛んでいる“銃”を持った兵士たちの数を数えようとする――が、そんな意味もないことに気づく。


「“全員”……持っているわけか」


 魔人たちの間でも空中戦は長年議論され続けていた。武器を持った攻撃は、自分が反作用に耐えるようにしなければならず、剣は当たり所が悪いと弾き返されて自分が体勢を崩して落下し、槍は使い捨てにしなければ間違いなく槍に身体が持ってかれてつんのめる。弓は飛びながら射るのに熟練の技術が必要で命中率は最悪。と、結局己の身体で何とかするか、魔法を利用するというのが一般的だった。その魔法すら、習得には弓以上の特別な訓練が必要であった。


 だが“銃”は話が変わってくる。風の影響で命中率は下がるかもしれないが、それでも弓に比べればマシであり、かつ弓ほどに特別な技術の習得が必要がない。だがアスクランでは銃の技術はまだ未発達であり、大砲すらストーインにくらべ数十年単位で遅れている。


 しかし彼らがストーインの最新式のモデルのライフル銃を持っているということは、ソフィの言っていた人間側の協力者が、彼らに多大な支援を送っており――そして強大な力を持っていることを意味する。


 それは皮肉にも、互いに戦争を望むもの同士のはずが、互いに手を取り合うという魔人と人間の協力の象徴となっていた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ