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魔人の国の色んな意味でヤバい女秘書  作者: グレファー
第13話 ヤバい状況の女秘書(後編)
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13-2

 食事が終わりソフィはトシン達と別れると、里を見て回ろうと寄り道をすることにした。以前来た時もそうだったが、全体的に商売が繁盛しているためか活気があり、オークだけでなく他の種族の魔人の姿を見ることも多かった。時間も19時過ぎであり、夜もこれからという時間帯な為か、以前昼間に歩いた時よりも人の数が多くみられた。――無論、これだけの発展があればその裏には付いていけない者達が落伍した姿や、福祉では救いきれない闇に隠れてしまった存在もある。だがソフィはそれを見ながらも受け入れてしまう事が“できてしまっていた”。


「ったく……こういう時自分が嫌になってくる」


 ソフィが先ほどのリズロウとの会話を思い出していた。10年ぶりに会ったロウズリーさん――それがまさか魔王だったなんて思ってもみなかった。


× × ×


「ロ……ロウズリーさん!?」


 リズロウの告白を聞いたソフィは思わずリズロウに詰め寄った。リズロウは顔を背けながらソフィに言う。


「アンナ……なんでお前がここにいるんだ! お前が戻れるように手配はきちんとしてあったはずだ! ……まさか、あの面接でのくだらない理由で、本当にこっちに来たのか!?」


「それは……」


 ソフィはリズロウに言っていなかった、自分のこれまでの経緯、そしてこの国に来た理由を話す。ソフィから話を聞き終わったリズロウは自分の失敗を咎めるように顔をしかめ、そして後悔するように言った。


「くそっ……! こんなんになるなら王族の一人や二人暗殺しておくんだった……! そうすればお前を投げ出すようなんてマネは……!」


「いや……そこまではいいです」


 考えが暴走しかけているリズロウをなだめるようにソフィは言う。ソフィは改めてリズロウの全身を見るが、やはり違和感があった。もう10年前になるとはいえ、ロウズリー夫妻――クラン一家と鍛冶屋で過ごした半年は、ソフィとって光り輝く思い出であり、夫妻の子供である“姉妹”とは、今でも年1で連絡を取り合っていた。だからこそ、目の前のリズロウと、ロウズリーが全く一致しなかった。


「でもなぜ……どう見ても姿が違います」


 ソフィはロウズリーの姿を思い出していた。赤い髪で中背中肉くらいの体格で、眼鏡をかけて優しい顔つきな一家の父親という見た目。だがリズロウは青い髪に、筋骨隆々の体格に高身長、そして薄い褐色肌に竜の魔人としての意匠が身体に散りばめられていた。


「そりゃあこんな目立つ姿で身分を隠すなんて不可能だからな。……お前がさっき言っていた擬態魔法、あれは俺も使えるんだ」


 リズロウは指を鳴らすと、身体の周りの空間が歪み、瞬きする間に姿が変わった。ソフィはその姿を見て目を見開いた。目の前に記憶通りのロウズリーがいたからだ。


「あ……ああ……!」


 ソフィはロウズリーの姿を見て胸が熱くなり、感情のままにその胸に飛び込んだ。ロウズリーもソフィをどけるでもなく、そのまま抱きしめてやっていた。


「どうして……! どうして何も言わずにいなくなったのよ……!」


 ソフィは、“アンナ”でも、“魔王秘書官”でもない、ソフィそのものとしてロウズリーの胸で泣いていた。


「ごめん……でも、何も伝えるわけにはいかなかったんだ……」


× × ×


 ――10年前。


 薄暗い馬車の中、まだ8歳の少女であるアンナは蹲って耳をふさいで泣いていた。この状況になった理由として、彼女が聡明すぎたのがあったとはいえ、死の恐怖が目前に迫っていることに耐えられるような女の子ではなかった。


 馬車の外ではリズロウがソフィを襲った盗賊3人を全員殺していた。証拠が残らないように全員消し炭になっている。竜の姿になり掘った地面に彼らを投げ捨てると、その土を埋めて何もなかったかのように彼らの痕跡は消えた。


「さて……どうしたもんかな」


 リズロウがこのアンナを助けたのは偶然――ではなかった。王位継承権第4位であるエリオット王子とリズロウは知り合いであり、アンナを排除する動きがあるとして情報を送られていたのだった。エリオットはアンナとは血は繋がっておらず、むしろアンナの兄である王位継承権第3位のジェラルド王子と仲が悪い面があるが、まだ8歳の少女を見殺しにするのは良心が咎めたらしい。そこがあいつらしいなとリズロウは思いながら、その依頼を受けたのだった。


 リズロウは馬車の中に入り、蹲って泣いているアンナに手を伸ばす。


「大丈夫、もう大丈夫だよ」


 その言葉を聞いたアンナは顔を上げるが、リズロウの顔を見て恐怖で顔を引きつらせながら後ずさった。


「い……いや! 近寄らないで! いやぁあああああ!!!」


 アンナは呼吸も忘れて叫びすぎてしまい、泡を吹いて気絶してしまう。リズロウはすぐにアンナを抱え起こすと、吐しゃ物で喉が詰まらないように、気道を確保しながら抱きかかえた。


「怖かったんだな……。すぐにこの子を返してやろうと思ったけど、どうやらそんな簡単な話というわけにはいかなくなったようだ……」


 リズロウはアンナを抱きかかえたまま外に出て、馬車から少し離れる。そして目を閉じて精神を集中させると身体が光り、アンナを抱えたまま竜の姿に変身した。


 リズロウがエリオット王子の依頼を受けたのにはいくつか理由がある。1つはエリオットとの個人的な友諠があること。そして2つめにリズロウがこのストーインで暮らすにあたり、エリオットの援助があってのことであること。ストーインで暮らし始めて15年近く経ち、妻も子供もいるが彼らに自分が魔人であることを一切明かしていない。ストーインで魔人が人間のふりをして暮らしていることを知っているのはエリオットとほかの極少数の人間だけだった。


 そういったこともあり、リズロウは時々エリオットの依頼を受けることで、この借りを返すことにしている。エリオットも半ばリズロウという大陸最強レベルの私兵を抱えられるというメリットからリズロウを助けてやっているかもしれないが――それはお互い様だとして、受け入れられるくらいにはリズロウはもう大人になっていた。


 リズロウはアンナを抱えて空を飛び、ここから1時間ほどの距離である自分の家を目指す。アンナは気絶してしまっていることもあり、騒ぐわけでもなくぐったりとしていた。リズロウはこんな空中で暴れられてはたまらなかったため、ありがたく目的地で急ぐことにした。


 家から1kmほどのところまでついたリズロウは森に降りると、変身して人間体であるロウズリーの姿へと戻る。竜の姿はともかくリズロウとしての姿も家族に見せるわけにはいかなかったからだ。この子にはあとで、あのリズロウの姿の魔人は友人のナントカとかいう魔人だと適当に嘘をついて誤魔化すことにしよう。


 しばらく歩いて家の前までたどりつき、リズロウが家族にアンナの事をなんて説明しようか考えていると、家から一人の少女が飛び出してきて、リズロウに抱き着いた。


「パパー!お帰りー!」


 アンナと同じくらいの年齢の女の子は、リズロウに抱き着くとリズロウはその子を片手で抱きかかえてやった。


「ああ、ただいまリン。……ママやハイネは中にいるのかな?」


「うん! ママたちもパパの帰りまってたよ!……その子は誰?」


 リズロウの2番目の娘のリンは、リズロウが背負っている女の子を見て尋ねた。まだきちんとした言い訳を考えていなかったリズロウは困りながらリンに言う。


「う~ん……ちょっと預かった子でね……。ママと話をしたいから、先に戻ってママ呼んどいてくれるか?」


「は~い!」


 リンは父親の言葉を素直に信じ、父親から離れると走って家まで戻っていく。


「さて……どういう経緯で預かった子だって話すかね……」


 リズロウは背負っているアンナの位置がずれてきていたため、戻すために一度ゆする。そして背負われていたアンナはボソッと呟いた。


「……“預かった”じゃなくて、“行き倒れてた”、とかの方が説明しやすかったのに……」


 その言葉を聞いたリズロウはぎょっとして背後を見る。


「目……覚めてたのか?」


「……今、目を覚ましましたわ。あなたのお名前は?」


「……俺の名前はロウズリーって言うんだ。目の前の家で鍛冶屋をやっている。君の名前は何かな?」


「ワタクシの名前は……アンナと申します。ストーイン王家継承権第6位の王女。……確かケーンのお屋敷に遊びに行くところで……うう、そこから先が上手く思い出せませんわ……」


 リズロウはホッとしていた。もしロウズリーとリズロウがこの子の中でつながってしまったら、どうしようもなくなっていたからだ。これなら後でつじつまを合わせるように嘘 をつけば誤魔化しきれると。


 そう考えていると家の扉が開き、30代くらいの黒髪の女性が姿を現した。


「あなた、お帰りなさい……って後ろのその子!? いったいどうしたんですか!?」


「ただいまトモエ……まあこの子はその……行き倒れててな」


 出てきた女性は妻であるトモエだった。この鍛冶屋はもともとトモエの父が興したもので、リズロウは入り婿としてクラン一家にはいっていた。トモエの両親もすでに亡くなっており、今はリズロウが家長となっていた。


「まあ! でしたらまずお風呂に入れてあげないと! お風呂沸かしておきますから、あなたはその子をベッドに寝かしてあげてください!」


 トモエは風呂の準備をするために忙しなく駆けていく。トモエが離れていくと、アンナはリズロウに声をかけた。


「……結局行き倒れたって説明に変えたのですね」


「……そっちが変えろって言ったんだろ。リンとの説明の食い違いはこっちで何とかしておくよ。……それより」


 リズロウはアンナを背負って家の中を歩きながら言った。


「俺は“友人”から君を預かった。……君がストーインで微妙な立場であることもよく知っている。だから、この家では一旦君が姫様であることを忘れよう」


 嘘は言ってない。確かに友人から預かったのは事実なのだから。リズロウは嘘はあまり得意ではなかったが、部分的に真実を混ぜるなら、多分誤魔化せるだろうと最大限に頭を回転させていた。


「君は“アンソフィア”ではなく、ただの“アンナ”だ。君が望むならいつまでもここに居ていい。それこそ一か月でも、1年でも。どうだい?」


 アンナはどう答えればいいか困っていた。リズロウはむしろ困ることに感心していた。聞いた話だとまだ8歳の女の子のはず。リズロウ自身今の言葉は間違ったかと思ってしまっていたが、アンナはきちんとそれを考える力を持っていた。しばらく考えて、アンナは頷きながら答えた。


「……ええ。わかりましたわ。よろしくお願いいたします……ロウズリー様」


「ああ……わかった」


 リズロウは返事をしながらも、逆にこうも思っていた。いくら例外的に頭がいいとはいえ、8歳の女の子にこんな決断をさせるストーイン王家は一体どうなっているんだ、と。


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