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魔人の国の色んな意味でヤバい女秘書  作者: グレファー
第12話 ヤバい状況の女秘書(前編)
45/76

12-1

 5人のオークたちの内、3人はケイナンに立ち向かい、2人は逃げていくソフィたちに向かっていった。ケイナンはその2人も止めたかったが、その余裕は無いと判断した。まずは目の前の3人をなんとかしなければならない。


 ソフィたちの中で魔人相手に戦える戦闘能力を持っている者は皆無だった。トシンとダグは未だ訓練中の身であり、ジュリスも基本訓練程度しかしておらず、そもそも戦闘が本職の役割ではなかった。ソフィは言わずもがな完全な足手まといだった。だからこそ今は逃げるしかない。それがケイナンの懸念を僅かでも取り去りつつ、敵を誘い出す“策”だった。


「だーっ! ソフィ様の悪い予想が当たったかー!」


 トシンは走って逃げながら文句を口にした。


「だいたいあの状況では追っ手だろうが、そうでなかろうが身を隠す一択だろう! アンナ様のおかげで私たちが動揺せずに逃げるという手段を取れていると思え!」


 トシンの文句にジュリスは叱責を入れる。オークたちがソフィたちを視界に入れる直前、ソフィは嫌な予感がすると言い隠れることを提案していた。ただジュリスの言う事は半分は間違えている。もしあのオークたちが無関係の者達だった場合、身を隠していたらそれは彼らに不審な印象を与え、そして来るであろう追っ手に情報を流されてしまうことも考えられたからだ。その二者択一でソフィは前者を選択しそれは当たった。


「でも……!」


 ソフィは自分の予想が当たったことを嬉しくもなんとも思っていなかった。それは追っ手に追われることになっていることではない。――ほかの4人には言えなかった、なぜ敵だとわかったのかその理由、それこそがソフィにとって一番現実となってほしくないことだったからだ。


「だめだ! ソフィ様! ここは僕とダグで何とかする! 二人は先に逃げて!」


 追ってくるオークたちの方が足が速く、もう追いつかれ始めていた。このままではソフィたちが巻き込まれてしまうことを考えたトシンとダグは足を止め、それぞれ剣を抜く。


「何やってんの! あんたたちじゃ無理だって!」


 ソフィは振り向いて足を止めるが、トシンはソフィに叫ぶように言った。


「行ってください! 体力ないんだから、疲れる前にできるだけ距離を稼いで!」


「でも!」


 トシンの言葉に従わず行こうとしないソフィの腕をジュリスが掴んだ。


「アンナ様! あなたが行ったところで何もできないでしょう!」


 ジュリスに引っ張られるソフィだが、ギリギリまでトシンとダグの方を見続け、そして意を決して顔をそむけた。


「絶対にそいつらをやっつけて!」


「了解!」


 トシンはグーサインを出してソフィに言い、ソフィもグーサインでトシンに返した。走って離れていくソフィを見つつ、ダグはトシンに言う。


「ねえトシン。君、本当にソフィ様の事好きなの?」


 ダグの指摘にトシンは頭の先から尻尾まで毛を逆立てた。


「いっ!? な……なんで君まで僕のそんな情報知ってるかね……」


「いや……誰がどう見てもトシンはソフィ様が好きだとしか見えないけど」


 呆れるダグにトシンは恥ずかしがり目線を背けた。そして目の前にいた追っ手である二人のオークを見る。


「まあ……まずそんなことどうこう言う前に、こいつら何とかしないとな……真正面から勝てる相手ではないから、ね」


「でもソフィ様も、ケイナンもこう言うだろうね。……“真正面”から戦う必要はないって」



 ケイナンはオーク3人の槍の攻撃をかわしながら、後ろで行われそうになっているトシンとダグの戦いを気にしていた。ケイナンが二人に剣を教えてまだ1月足らず。ここまでついてきている根性は認めるが、まだ戦って勝てるような実力を持っているとは言い難かった。


「あと一人減れば……!」


 ケイナンは敵の攻撃を捌きながらも、徐々に追い詰められてきていた。ここまで立ち回ってわかったのは敵は精鋭と言えるほど強いわけではないが、きちんとした訓練を積まれているということ。だからこそ多対1でも何とか立ち回ることができ、そして反撃の機会が中々訪れなかった。


 ケイナンは手に持っている木の棒を敵に投げつける。突然の飛来物にケイナンの正面にいたオークは槍を落とし、剣を抜いて棒を弾き飛ばす。ケイナンはそれを狙い、地面に落ちた槍を拾おうとするが、他のオークたちがそれをけん制し近づくことはできなかった。


 ケイナンは慌てて下がり、オークたちはそれを追撃しようとするが、オークたちの動きが止まる。――何か異様な感覚がオークたちの背中に流れていた。


「……言い訳がましいようですが、一つだけ言わせてください。……お前たちが悪いんだからな」


 ケイナンは腰から自分の剣を抜く。今よりも多人数に囲まれている時も、そしてこの状況ですら抜こうとしなかった剣を。



 トシンとダグは確かに敵二人に対峙していたが――完全にへっぴり腰であり、まともに戦おうという姿勢ではなかった。かといってまともに受ければ初撃で殺されるだけなのは目に見えている。今はソフィたちの逃げる方向から――そらすことが重要だった。


 そして敵である二人のオークはトシン達の素人丸出しの動きを見てほくそ笑む。そして一人が仲間に首を振ると、もう一人のオークはソフィたちの方へ走って向かっていった。


「あっ、あーっ!」


 トシンはソフィたちの方へ向かっていった敵を指さす。――そしてその完全に隙丸出しの行動を敵が逃すはずもなかった。


「トシン! 危ない!」


 ダグの叫び声を聞いて、トシンは敵の方を見る。槍でトシンを突き刺そうと突撃してきていた。槍が迫りトシンは怯えた表情を見せ、敵のオークは攻撃が当たることを確信する。――そこまでトシンが計画していたことを知らずに。


「ダグ、予定通りだ。きちんと“それて行って”くれた」


 トシンは自身に突き立てられた槍の正面に剣を置くと、その軌道を僅かにずらし、槍の攻撃を防御する。そしてその防御に一番驚いたのは敵のオークだった。


「僕たちが“ド素人”のガキだって油断してただろう?だからわざわざ二人で時間かける必要もないって、ソフィ様達を見失わないようにわざわざ一人になってくれた。そして僕には単に槍で突けば一撃で殺せると判断してくれて、“見習い”くらいの僕でも受けれる簡単な攻撃をしてくれた。――これで“2対1”だ」


 オークは背後を見るとダグが剣を構えで向かってきていた。オークはすぐに槍を捨て、ダグの剣を受けるために剣を抜く。どうせガキの攻撃だ、少し流してそのまま反撃して終わりだと、そう思っていた。


「形の綺麗さ……! 形の綺麗さ……!」


 ダグは自分に言い聞かせるようにブツブツと同じ言葉を繰り返す。そしてダグが振った剣はキレイな流線を描き、遠心力を最大効率で乗せたうえでオークの防ぐために構えた剣を弾き飛ばした。


「なっ!?」


 オークは自分の剣が弾き飛ばされた理由が全く分からなかった。というよりも目の前のガキのオークが剣を振る時だけ、全く”別のもの”に変わっていた。それまでの立ち回り、構え、そして身体能力。どれを取ってみても素人以下なのは明らかなのに。


「だから言ったろ? 真正面からは戦わないって」


 トシンは敵の足に剣を突き刺し、うめき声をあげて倒れた敵の腕を突き刺した。



「なっ……!? あれはストーイン王家の剣技……!?」


 逃げながらダグの剣筋を見ていたジュリスは、ダグの技を見て目を見開いた。


「あー……ケーンのやつ、あの子たちの訓練をしてやってたけど、まさか王家の剣技を教えてたか……」


 ソフィもジュリスと同じように驚きそして呆れていた。本来王家のみに伝授される門外不出の剣なのだが、ケイナンは全く気にせずに教えていたらしい。


「あ……あんな魔人たちに……」


 ジュリスはショックを受けて足の動きが遅くなってしまっていた。そしてトシン達が戦っている間に追いかけてきていたもう一人のオークが、ジュリスに追いついてしまう。


「しまった……!」


 ジュリスは剣を構えようとするが、剣に手を伸ばした瞬間に剣がオークの槍ではじかれてしまう。その衝撃でジュリスは右手を痛めてしまい、またここまで走り続けていたことで息を切らしてうずくまってしまった。


「く……くそ……!」


 オークに槍を向けられたジュリスは、その姿を見て恐怖で顔が引きつる。10年前に当時の恋人がオークに殺されてから、何度も夢に出てきた光景だった。


「い……いや……やめて……」


 普段のキツめの態度が嘘のように、ジュリスはオークに対して命乞いの言葉を漏らした。恐怖で身体が全く動かない。だがオークはジュリスの命乞いに全く耳を貸さず、確実に殺すために槍を引き、ジュリスを突き刺そうとする。


「ジュリス!」


 ソフィはジュリスが追いつかれたことにようやく気づき、振り返るが止めようがなかった。自分が近づいたところで一緒に殺されるのが関の山でしかない。


「あ……あああ……!!!」


 ジュリスは抵抗のために動くことすらできず、恐怖で目を瞑った。――そして槍で肉体が貫かれる音が聞こえた――。

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