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魔人の国の色んな意味でヤバい女秘書  作者: グレファー
第11話 素性がヤバい女秘書(後編)
43/76

11-3

 事件のあと、ソフィは身の安全を確保するという名目で王家が管理する牧場に幽閉されることになった。ソフィとしてはこの時の生活は悪くなかったと思っていた。事件以来馬がトラウマになってしまい乗ることはできなかったが、世話をするのは問題なく、ケイナンとジュリスも共に牧場で暮らしていたこともあり、寂しさを感じることはなかったからだ。


 そしてソフィたちが10歳になると、ストーインの貴族たちが通う中等学校に入学することが決まった。全寮制の学校であり、とにかくソフィは王家から切り離された生活を送ることを強いられていた。


 王家としてはここでソフィが大人しくなってくれればという思いだったかもしれない。しかしソフィはここでもその期待を裏切ることになる。――とにかく厄介ごとに巻き込まれる性質がソフィにはあった。そして泣き寝入りするようなタチではないこともあり、それを解決してしまう力も。


 結局この学校にいた8年の間はソフィは常に学校の注目の的だった。――だが卒業を控えた18歳の時、ある事件がストーインで起きることになる。


× × ×


 ソフィの話をトシンとダグは黙って聞いていた。この場にいた全員で焚火を囲んでおり、焚火には夕食のシチューが火にかけられている。ソフィの話が一旦落ち着いたのを見計らって、ダグは5人分の器を取ってそれぞれのシチューを入れようとする。ソフィたちは黙って受け取ったが、ジュリスはそれを受け取ることを断固拒否した。


「……ジュリス大使長様。せめて食事は取らないと」


 ダグはジュリスを心配するように声をかけるが、ジュリスは不満そうに鼻を鳴らすと、ダグが触れていない器を取り、自分で勝手にシチューをよそった。


 そのやりとりをソフィは見て見ぬふりをしていた。一番最初にジュリスの紹介をしたときはすっとぼけていたが、そもそもジュリスの魔人嫌いの原因を作ったのは他ならぬ自分だったからだった。


 シチューを手渡された各々は、自分のタイミングで勝手に食べ始める。ソフィの過去話も一時中断していたが、それを急かす者はいなかった。――とにかく疲れていた。今が切羽詰まった状況でなければ、ソフィの過去話もまた明日にして今すぐ寝たいほどに。だがそういう訳にもいかず、ソフィはシチューを流し込むと器を横に置き、話を続けた。


× × ×


 ソフィが18歳になったときにおこったストーインでの大きな事件。それはストーイン王家におけるクーデターだった。魔人との戦争の終結のメドが立ってきており、魔人との戦争継続派だったタカ派の王族たちが、ハト派である現ストーイン王へクーデターを起こしたのだった。その中タカ派の中にはケイナンの家族である分家も含まれていた――。


× × ×


「まぁ結果としてクーデターは失敗。クーデターに関わった王族たちは全員ストーインから追放ってわけ」


 ソフィは呆れるように言っていたが、トシンには引っかかることがあった。


「……ソフィ様、そのクーデターに参加してたんです?」


 トシンの指摘に、ソフィはありえないという風に大げさに手を広げながら答える。


「んなわけないでしょう!? ……と言いたいところだけど、すっごい厄介な事になってね」


 ソフィはストーイン王と正妻の間に3人目に産まれた子供だった。つまりソフィの上に二人王位継承権を持つ王子がおり、彼らもすでに王族として王城の政治に関わる立場だった――タカ派として。


「……という訳で私の兄二人、そしてお母様もクーデターに関わっててね。私もケイナンもクーデターには一切加わってなくて、学校に通ってただけなのに一瞬にして逆賊扱いよ」


「あー……だからそういう……」


 トシンは何故ソフィがこの過去話を今しなければならなかったのか、ようやくわかってきていた。確かにソフィの過去に触れるタイミングだった、ということもあったかもしれない。ただこの話には大問題があることがわかっていた。


「……ジュリス大使長様をストーインに送らなきゃいけないのに、僕たちはうかつにストーインに入れないわけですね」


 ソフィは頷いて肯定した。


「そう。私もケイナンもストーインから追い出された身。うっかり戻ろうものなら何されるかわかったもんじゃない」


 ソフィはそう言いながら横にいたジュリスを見る。


「私としてはむしろジュリス、あなた随分出世してるじゃない。私の教育係なんて過去があったら閑職に飛ばされてもおかしくなかったと思うけど」


「アンナ様……口調が乱暴ですよ……」


 ジュリスはソフィの“ソフィ”として話す口調に注意を入れる。だがソフィはやれやれと首を振って答える。


「……私はもう“アンナ”じゃない。アスクランの魔王付秘書官、ソフィ・ガーランドよ。で、私の質問に答えてくれる?」


 ソフィの回答にジュリスは何か言いたげにしていたが、諦めてソフィの質問に答えた。


「単純に私がクーデターに参加していなかったから……ではなく、むしろハト派についていた為です。……アンナ様やケーン様とのお付き合いがありましたが、私は彼らタカ派についていくことができませんでした」


 ジュリスの言葉を聞いたケイナンは身を乗り出すが、しまったと自覚してすぐに体勢を戻す。だがケイナンの動きを察したジュリスは弁明するように言った。


「ですが私個人としては、アンナ様やケーン様の安全を確保する目的もありました。実際、クーデターが終わってからは王にもアンナ様達を保護していただくように進言しております」


「初めて聞きましたよ……それは……!」


 ケイナンは驚きながら呟くが、ジュリスは首を横に振った。


「……どうやらお二人に話が行っていなかったということは、王は私の進言を握りつぶしたんですね。……そしてお二人は行き場所を無くしてここまで来た訳ですね」


 ケイナンはジュリスの言葉に頷こうとしたが、ふと横にいるソフィを見た。――なぜかソフィの顔に大量の脂汗が流れているのをケイナンは見逃さなかった。


「……姉上?」


 ケイナンに呼ばれたソフィはドキッとして硬い動きでケイナンに振り向く。


「な……なにかなケイナン……」


 ソフィのあからさまに挙動不審な態度に、ケイナンは嫌な予想が頭の中にめぐっていた。


「…………まさか、その、私の想像通りだとすると、えーと」


 その様子を見てトシンも察する。


「ケイナン……僕はこの人と会って、少し思ったことがあるんだ」


「な……なんでしょうかトシン」


「……この人、しょーもないところでマヌケな大ポカするよね」


「…………はい。そうですね……」


 ケイナンとトシンの会話を聞いて、ジュリスもようやく何があったかを察した。そしてソフィの肩を思いっきり掴む。


「ちょ……ちょっと待ってください!?まさか……まさか……クーデターに関わってないという弁明の機会を“すっぽかした”なんて言いませんよね!?」


 ジュリスの問いにソフィは目を合わせず、しどろもどろになりながら答えた。


「あ~……その……あははは……。実は私がアスクランに来る直前、城からの通達が来て……中を見ないで私の追放案件の話だと思って……そのまま飛び出しちゃった……」


「はいぃ!?」


「だ……だって!もし私の身柄を確保されたりとかしたら、そのまま拘束されて東大陸とか別の大陸に連れてかれると思っちゃったんだもん!だから……そうされるくらいなら、さっさと抜け出して前から計画してたアスクランに行こうって思って……!」


 ソフィの言い訳にジュリスは口をあんぐりと開けて固まっていた。ジュリス自身もクーデターの際に、自身の後ろ盾であるソフィの母や、ケイナンの家族を裏切る選択を取ったのは命がけと言っていいものだった。その覚悟をもって何とかソフィたちを救えるようにしたというのに、それが一切無駄になっていたことに、ジュリスは放心してしまっていた。


「ま……まぁ巡り巡ってジュリスを助けられたんだし、結果オーライということでアハハハ……」


「姉上……正直笑い事じゃありません……。というかだから書置き一つで出ていったんですね……」


 いくつかの話をまとめ、トシンはこのクーデタが始まってからのソフィの動きの速さについて思うことがあった。ダグから聞いた一番最初のオーガと人間との喧嘩は“オーガ側があらかじめ追っていた腕を人間のせいにした”ということ。そして間髪入れずに魔王様が人間に討たれたという報告があったこと、そしてジュリス大使長の身柄を確保しようと兵士がすぐに向かい、それよりも早くソフィがジュリスを助けに向かっていたこと。


「……ソフィ様、僕少し気になることがあるんですが」


「何?」


「ソフィ様がオーガとの喧嘩の件から自作自演の臭いを嗅ぎ取って、すぐさま行動を移したおかげでジュリス様をこうして連れ出すことができました。……ですけど、ソフィ様がいくら機転きくとはいっても、少し早すぎませんか?」


 トシンの疑問に対し、ソフィは何を言いたいのかわからずにトシンに尋ねた。


「別にすぐ気づいてもおかしくない気がするけど……」


「いえ、僕の思い過ごしだったらそれで構わないんですが、先ほどのソフィ様の過去話も聞いて引っかかることができて」


「どういうこと?」


「……今回のクーデターの手口、ストーインで起きたクーデターとやり口一緒だったりしません?」


「…………あっ!?」


 トシンの指摘に、ソフィだけでなくケイナンやジュリスも思い当たる節があった。


「どうして……!? ストーインで起きたクーデターの詳細は何も言ってないはずなのに……!」


 ソフィがトシンに尋ねるが、トシンは自信なさげに答えた。


「いえ……あくまでこれは僕の考えでしかないんですが……。ソフィ様がすぐに気づけたのも、そういった過去があったからだと思ったんです。だけどもう一つ、それを前提にすると気になる問題が出てくるんです」


「どういう……こと?」


「…………今回のこの事件、人間が関わってませんか?」


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