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魔人の国の色んな意味でヤバい女秘書  作者: グレファー
第9話 気持ちがヤバい女秘書(後編)
33/76

9-1

 ケイナンの下宿先であるスライム型魔人のカニヨン夫婦が経営する宿屋『軟体亭』にて、リズロウ達は夕食を取ることになった。ケイナンは以前カニヨン夫婦の子供であるアレクを助けた縁もあり、カニヨン一家と家族ぐるみで仲良くしており、よく軟体亭の仕事も手伝うことがあった。そのこともあってかケイナンが姉や友人を連れてきた――しかも魔王まで一緒にとなると、出される料理やサービスにも気合が入っていた。


 まずお通しとしてチキンサラダがとフライドポテトがテーブルに置かれる。どれも出来立てであり、カニヨン夫婦渾身の出来栄えだった。料理を持ってきた女将であるアナベル夫人は満面の笑みを浮かべながら言った。


「ケイナンさんのご友人さんや、お姉さん、そして魔王様が相手なら、この軟体亭、全身全霊をかけて料理を提供させていただきますよ!」


「う……うむ……」


 余計なプレッシャーをかけさせてしまったと、リズロウは少し気まずい気分になりながらも返事をした。ただそういった気遣いはいらない、とは言わなかった。それを言ってしまえば、魔王として国民に下手に出る印象を与えてしまうとの懸念だった。こういった席の場でそこまで考える必要はないかもしれないが、リズロウは公人として最低限の一線は守るつもりでいた。



 ケイナンは両親とともに料理の提供をしているアレクを捕まえて、主人であるスコット氏に対して声をかける。


「スコットさん。そちらの忙しさが落ち着いたら、アレクさんも俺たちの席につかせていいかな?」


 ケイナンの申し出にスコットは笑顔でうなずいて答えた。


「ええ、いいですよ。アレクもせっかく友人たちが来ていただいたんだ。少し片付いたらあとは私たちで済ませるから、お前も加わっていきなさい」


 スコットの許可にアレクは嬉しそうに父に言った。


「ありがとうお父さん! じゃあケイナンさん! 私も片付け終わったらそっちに向かうね!」


 アレクはケイナンの手を握り、ケイナンは恥ずかしがりながら答えた。


「う……うん。待ってるよ」


 アレクが手を振って仕事に戻ると、ケイナンは喜んでスキップしながらテーブルに戻っていく。


「いや~……やっぱかわいいなアレクさんは……」


「……いつか魔人の女の子に手を出すと思ってたけど、案外早かったわね……」


 ソフィは嬉しさで惚けているケイナンに言った。――その言葉に若干ケイナンを非難するような意思が込められていたのを横で聞いていたミスティは感じた。


「弟が別の女の子と仲良くしてるのが気に食わないのか?」


 ミスティはソフィに尋ねるが、ソフィはギクリとして言葉を濁す。


「い……いやそんな訳じゃないんですよ……。ただちょっとねちょっと……」


「あんたの弟はリズロウ様と手をつないで歩いているのを見て怒り狂っていたが……」


 ミスティの言葉にケイナンが動揺して反論する。


「い……怒り狂ってるわけじゃないですよ!」


「いや、怒り狂ってたな」


 トシンは言った。


「うん、見てて恥ずかしいくらいに」


 ダグもトシンに続けて言う。


「シスコンというやつだな……重度の」


 リズロウも同意するように言った。


「うう……姉さん何とか言ってくれ……」


 ケイナンはソフィに助けを求めるが、ソフィは呆れて突っ返した。


「色々と言いづらいから私に助けを求めないでよ……」


× × ×


 そうこうしているうちに次に飲み物が提供された。リズロウはワインを頼んでおり、それ以外の者たちには全員オレンジジュースが配られる――リズロウ以外“全員”にだった。そしてそのことに“全員”驚くことになった。


「えっ!? ソフィお前未成年なの!?」


 まず驚いたのはリズロウだった。


「……ってリズロウ様!? いや、あなた私の履歴書見てるでしょ!?」


「いや……年齢の箇所全く目を通してなかった……。てっきり25くらいなのかと……」


「はああぁぁっっ!!!??? 私まだ18歳ですけどおおお!!!」


「うえええっっっ!? 僕と同い年!?」


 今度はトシンが驚く番だった。


「いや絶対嘘でしょう!? 絶対僕より5か10個は上の動きして……!」


「人を勝手にアラサーにするなあ!!!」


 ソフィはキレてリズロウとトシンに怒鳴り散らす。その様子をケイナンとダグとミスティは“見”に回っていた。


「……実際どうなの?」


 ダグはポテトをつまみながらケイナンに尋ねる。ケイナンも小声でダグの質問に答えた。


「あ~……まあ姉さんの言う通り18歳だよ。あと俺も18歳ね」


「本当なんだ……ん? 同い年?」


 ダグは指を折って数えるが、何をどうしても計算が合わなかった。ケイナンもダグの反応は当然と考えていたのか、説明を諦めてダグに言う。


「世の中には“そういう事情”があるわけよ……」


 ダグはケイナンの言ってることがよく理解できず、クエスチョンマークが頭の上に浮かんでいた。ケイナンは話を変えるようにダグに話す。


「それよりも俺は……」


 ケイナンはちらりとミスティの方を見る。ケイナンの視線を感じたミスティはケイナンを睨みながらその視線に応えた。


「何。何か言いたいことがあるなら言いなさいよ」


 ミスティの手にもオレンジジュースが握られており、ケイナンはそれが気になって仕方なかった。


「まさか……ミスティさんも未成年なんです……?」


「……私は19歳よ」


「……マジです?」


 ケイナンがそう思うのも無理はなかった。話によれば10年前のリズロウの魔王襲名時からの付き合いのはずだから、9歳のころからリズロウに付き従っていることになる。見た目の年齢がどうというより、そちらの方がケイナンには信じられなかった。


「はぁ……本当よ。ちなみにリズロウ様は45歳」


 ケイナンとダグが今度は驚きながらリズロウを見た。


「うそぉ!?」


 ケイナンとダグは驚きの声を上げる。逆にこっちは見た目が若すぎる。せいぜい30代くらいだと思っていたケイナン達は面食らうことになった。ソフィに絡まれていたリズロウも自分の年齢の話になったことを察し、大きく咳をする。


「オッホン! ……ミスティの言っていることは本当だ。……逆にミスティの年齢もな」


 落ち着いたソフィはリズロウの年齢を聞いて、信じられないといった態度をとっていた。


「45って……見た目もそうですけど色々と若々しすぎません……? お子さんの年齢はおいくつで……?」


「あー……23と17だが……あっ」


「あ」


 リズロウとソフィは自分たちがうっかり出してしまった言葉に気づき、汗が噴き出した。――そして案の定リズロウたちの言葉を聞いた他の者たちも全身からネバついた汗が吹き出し始める。


「え? リズロウ様子供いたの……?」


 ミスティもリズロウが過去に結婚していたことを知らなかったのか、現実が信じられないようだった。


「これって超A級の国家機密じゃないのか……」


 ケイナンもいつもの態度を忘れてテンションが素に戻ってしまっていた。


「……僕たちこれ聞いてよかったやつです?」


 トシンは恐る恐るリズロウに質問する。停止した時の中でリズロウはソフィに目配せをし、心の中で強く念じてソフィに伝えた。ソフィもテレパシーが使えるわけではなかったが、何を言わんとするかは嫌でも理解できた。ジュースが入ったジョッキを掲げ立ち上がって大声で叫ぶ。


「か……かんぱーい!」


「…………かんぱーい!」


 リズロウもソフィに乗っかってワイングラスを掲げる。そして周りの者たちもそれに続いて飲み物を掲げた。


「か……かんぱーい!」


 全員で乾杯をすると、無言で全員飲み物を飲み干す。そして誰も言葉を発することができず、その状況でトシンはぽつりと言った。


「……やっぱソフィ様、話変えるの下手すぎますって……」


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