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魔人の国の色んな意味でヤバい女秘書  作者: グレファー
第4話 策略がヤバい女秘書
13/76

4-1

 オークの里の長であるザボーの屋敷お応接室にて、ソフィとトシンは席に腰かけ、使用人であるハーピーが持ってきたお茶を受け取った。


「ん」


 道中で疲れ切って喉が渇いていたソフィは受け取って一礼するとお茶を一口啜る。そして口に入れてすぐに目を見開いてザボーを見た。ソフィからの視線に気が付くとザボーは満足気に笑みを浮かべる。


「流石秘書官殿。わかりましたか」


「な……何が何なんです?」


 ソフィが驚いているのを見てトシンもお茶を啜るが“美味しい”以外さっぱりわからない。困惑するトシンにソフィが説明するように言ってやった。


「これはね、紅茶の有名な産地であるリンプトって所のお茶なの。北大陸産のお茶で……その中でも最高級品の物ね。下手するとグラム単位で宝石と同じ価値になるわ」


 ソフィの言葉を聞き、トシンはカップを持った手を震わせてもう一口啜る。


「こ……こんなお茶がそんな高いんですか……。僕は鼻いい方ですけど全くわからない……」


「まあトシンはそんなお茶の飲み比べととかしたことないだろうからね。にしても、こんな上物よく……」


 感心するソフィにザボーもお茶を啜りながら答える。


「魔王様の側近のお方が直接来られるとなれば、こちらの最大の誠意をもって答えるのが作法と思いまして。……にしても驚きましたな。見た目は随分若そうに見えるのに、お茶の味の違いがわかるとは」


 ソフィはぎくりとしながらお茶のカップを置く。


「え……ええ。秘書として最低限の技能ですから」


 本当かよと思いながらトシンは横にいたハーピーの使用人を見る。トシンに見られた使用人は慌ててふるふると首を横に振った。そうした中、ソフィは周囲を見渡し部屋の装飾物および机に置かれている書類の纏め方などを見る。――随分文化的だ。城下町および城の中のそんじょそこらの奴よりよっぽどしっかりしている。


「……私はオークと話すのは実は初めてなんだけど、口調は案外普通なのね。ストーインに出回っている情報だと、語尾にオクとかつけるとか聞いていたから、身構えてしまっていたわ」


 ソフィの言葉にトシンは呆れてツッコむ。


「そんなこと言ったらソフィ様も語尾に~にんげんとかつけないでしょう」


「さもありなん」


 ソフィは苦笑して答える。そして場の雰囲気が慣れてきたところで本題を切り出した。


「さて……ザボー殿。本題に入りましょうか。……いえ、“本題に入ろうか“」


 ソフィの身の回りに流れる雰囲気が一気に引き締まったモノに変わりトシンは息を飲んだ。この人の不思議な面がこれだ。何歳かはわからないがそう歳はいってないはずなのに、年齢相応の雰囲気の時と、明らかに魔王であるリズロウ様よりも偉そうに見える時がある。


「この前より条件面については少し優遇箇所を増やしている。もし必要であるならばここで交渉することもできるし、私は魔王様より交渉に際し全権を委任していただいている」


 ソフィは机に持ってきた書類を広げた。現状オークに出している優遇案および、今回の交渉に持ってきた新規の優遇案および交渉の余地がある箇所をまとめたものだった。


「ふむ……これは……」


 ザボーは目にかけたルーペを使い文章を確認する。その様子をソフィは注意深く観察する。目の動き、手のしぐさ、口元の動きなど全ての動きを。



 オークは先の人間との戦争で多大な活躍をした種族であるが、その要因の一つに彼らが戦いを尊ぶ文化を持っていたことがあげられる。つまり武勲を上げ、略奪することが彼らの華であり、他種族にもその認識を持たれていた。


 だがリズロウが魔王になってからは大規模な戦闘が行われることは少なくなった。戦争が終結したのは4か月前ではあるが、その前から戦争自体は小康状態になっており、オーク達も戦場に出る機会が少なくなっていた。そしてリズロウの掲げた和平政策。それらは確実にオーク達の生活様式を変えていた。



「……確認させていただきました」


 ザボーはソフィから渡された資料を閉じると机の上に置いてソフィに返す。


「誠に申し訳ございませんが、できれば1日時間をいただけますでしょうか。私の方から里の者たちを説得する時間が欲しいのです」


 ザボーの申し出にソフィは頷いて答える。


「承知した。……という事はザボー殿は私たちが出した案には賛成ということだろうか」


「それは……申し上げることができません。まずは話し合わなければ」


 ――回答を曖昧にすることによる責任回避か。全く嫌になる。


「……わかった。では宿を手配してくれないか? ……できればすぐにでも泊まらせていただきたい。風呂が付いていると尚更いいのだが」


「承知いたしました。すぐに宿を手配させます」


 ザボーは使用人に命令すると、使用人は窓から出ていき飛んで行った。そして10分もしないうちに屋敷へと戻ってくる。


「ザボー様、宿の手配が完了いたしました」


「よろしい。……では秘書官殿、ご案内いたします」


× × ×


 ザボーは屋敷に残り、宿への案内は使用人が行うことになった。道中歩きながら説明を聞くと、風呂は部屋についているが、1部屋しか空いておらずトシンと同部屋になるとのことだった。そのことを聞いたトシンは顔を真っ赤にして反論する。


「いやいやいや!ちょっと待ってくださいよ!ソフィ様と同室って……!」


 トシンのあまりの慌てようにむしろソフィ側が呆れた表情になっていた。


「君……そんなに私と泊まりたくないわけ?」


「い……いやいやいや! そういう訳じゃ! でも……」


「間違いを起こすとかふざけた事言わないでしょうね……。魔王の秘書を襲う一兵卒とか、度胸の塊とかそんなレベルじゃないわよ……」


「があーーー!だからそういうのじゃ……!」


 しょうもないことを言い合う二人に辟易し、使用人のハーピーの女性はぽつりと呟いた。


「……部屋は借りれなくとも、どこか別のスペース借りられるか聞いてみますね」


「す……すみません」


 トシンはなおも顔を赤くしたまま使用人に謝った。トシン自身ソフィ絡みになるとこんなに感情的になってしまうことがよく理解できていなかった。ソフィの言う通り、そもそも手を出すなんてことが自分にできるはずもないと、ちょっと理屈を考えればわかるはずなのに。


× × ×


 着いた宿は他種族が止まることを想定しているのか、種族ごと用の部屋がいくつか用意してあった。それもあるためか中型サイズの魔人が泊まる部屋が少ない事情もあって、部屋がもう空いてないとのことだった。宿の女将であるオークの女性はソフィたちに平謝りしていたが、ソフィは別に問題ないといった感じで返す。


「いや、急に泊まるといったのは私たちの方だから。大丈夫、こいつは床で寝かしても特に問題ないから、毛布だけ用意してその辺のスペース確保してやってくれる?」


「ええ~……」


 トシンは落ち着き払っているソフィに不満げな顔を向けた。


「朝の荷物持ちしかり、人使い大分荒くないです……?」


「文句言わない!無理にスペース空けてもらうんだから、せめて宿の手伝いでもしてなさいよ。私はまずお風呂入るから。空いたら次は君も入っていいから」


「は~い……」


 トシンは諦めたように肩をすくめながら言った。だが最後に言った言葉に数刻遅れようやく反応する。


「……ん?風呂?」


× × ×


 ソフィは自分の部屋につくと早速備え付けの風呂に入るために準備をする。すぐに風呂に入りたいと言ってあったのでお湯はすでに張ってあり、服を脱ぐだけで入れるのはありがたかった。服を脱ぎ、しわにならないようハンガーにかけると、ソフィは慌てずにまず身体から洗い始めた。


 ソフィが部屋に行った後、トシンはソフィの部屋に荷物を置くために追って部屋に入る。風呂がある流しの方から水音が聞こえてきたため、トシンはタオルや着替えをそこに置いてやった。


「ソフィ様、荷物持ってきましたよ。着替えなどもここに置いておきますね」


「ありがと~」


 身体を洗い終わったソフィは上機嫌に湯船に浸かっていた。


「いや~……2泊3日で歩きっぱなしだったから辛いのなんの。手水で身体を拭くくらいはしてたけど、汗でベットベトだったからお風呂が気持ちいい~」


「はぁ……。そういえば少し疑問だったんですか」


「ん? どうかしたの?」


 トシンは少し迷ってから口にした。


「そもそもこの街を作るって計画、どうやって思いついたんですか? 秘書の仕事から大分脱線してるような気はしますが」


「え? そんなん何も考えてなかったに決まってるでしょ」


「い!?」


 ソフィはあっけらかんと言い放った。


「魔王様が何か意見出せって命じられたから、適当にぶち上げただけで何にも細かいこと考えてなかったからね、あの時は。……おかげでこんな目に合う羽目になって大失敗だったけど」


「ま……マジすか……」


 トシンが驚きの言葉をつい口にしてしまうと、ソフィは笑いながらその言葉にツッコンだ。


「また君からのマジすかって言葉を聞いた気がするよ。……私だってそんなもんよ。何も全部が全部千里眼じみた予知ができるわけじゃない。……実際に君との出会いは間違いなく想定外の事だったからね」


「そう……ですか」


「そうよ、そんなもん。でも君とは会えてよかったと思ってるわよ。君のおかげで大分救われてる」


 ソフィは湯船から出るとタオルで身体を拭く。


「とりあえず今日はもう休んで、明日の朝に備えましょうか。私ももう上がるから、次は君がお風呂入っちゃって」


 ソフィが上がったのを音で察すると、トシンは慌てて部屋を出る準備をする。


「ちょ……ちょっと上がるなら一声かけてください!」


「べっつに裸の一つや二つ構わないけどね私は……」


「僕が気にするんで!」


 トシンは急いで部屋から出た。そしてソフィが着替え終わるのを待っている間、部屋の前で待っていたがその間心臓が早鐘のように鳴っていた。――本当にどうしちまったんだ僕は。

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