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第3話 ボイストレーニング(前編)――1人目の先生――

   

 ボイストレーニング。

 読んで字の如く、声を鍛えることだ。合唱の世界においては、美しい歌声を作リ上げる、くらいのイメージで良いだろうか。


 大学の合唱サークルにしろ、一般の合唱団にしろ。

 おそらく『合唱団』と名のつく団体であれば、最低でも一人はボイストレーニングの先生がいるのが普通だろう。

 僕が入った合唱サークルでも、合唱団専属の先生がおられたのだが……。

 そもそも「なんでも学生主体でがんばる!」という方針のサークルであり、ボイストレーニングの先生が来るのも、数ヶ月の一回程度。さすがに演奏会が近づいたら、少しは頻度も上がった気がするが、それでも年間で数回に満たなかったと思う。

 回数が少ないのも問題だが、その先生の『専門』にも難があった。男声の低声だったのだ。


 合唱団によって細かい名称は異なるだろうが、混声合唱ならばソプラノ、アルト、テナー、ベースというように、だいたい4つの声部(パート)に分かれているはず。

 発声の基礎は共通と考えれば、男声でも女性でも、高声でも低声でも一緒なのかもしれないが……。パートごとに発声法が異なる部分もあるだろうし、可能であれば、ソプラノにはソプラノのボイストレーナー、アルトにはアルト、テナーにはテナー、ベースにはベースというように、それぞれ別々の先生を用意してもらいたいものだ。


 僕はテノールであり、男声の低声――つまりベース――の先生の指導を受けても、あまり「役に立った!」感はなかった。

 そもそも、サークルで用意されたボイストレーニングの時間は短く、個別指導なんてほとんど出来ない。家庭教師とは違うのだ。

 先ほどの「パートが合わない」というのもあって、僕が入った合唱サークルでは、大学のサークルの練習とは別に、それぞれ各自でボイストレーニングに通うのが普通だった。それなりにお金と時間を費やすことになるから必須ではないが、まあ普通に「上手くなりたい」と思う者たちは皆、ボイストレーニングに通うわけで……。

 僕も同じパートの先輩の紹介で、毎週一回、ボイストレーニングに通うようになった。


 紹介された先生は、若いテノール。もちろん大学で専門に声楽を学んだ(かた)だが、まだ当時は、声楽家として活躍なさっている(かた)ではなかった。失礼ながら「レッスンプロ?」という言葉が頭に浮かんでしまったくらいだ。ちょうど僕が(かよ)っている間に、声楽家として活躍し始めたようだが……。

 とにかく、それくらい若い先生だった。

 若い分、初心者の気持ちにも理解のある先生であり、例えば最初に僕が教わったのは、ボイストレーニング以前の、音楽としての基礎の基礎。

「まずは、どんな声なのか聞かせてもらおう」

 ということで、簡単なフレーズを歌わされて、その結果。

「君、強拍と弱拍という言葉、知ってる?」

 と言われたのを、今でも覚えている。よほど僕の歌い方は一本調子だったらしい。


 それくらい、何も出来ていない初心者だったので、当然のように腹式呼吸に関しても注意された。

 とりあえず、お腹から声を出さないといけない。合唱団では、腹筋運動もやらされた。そう思って、腹筋を意識して歌うと……。

「違う、違う! お腹に力を入れてはダメだ。必要なのは、お腹の緊張感だよ!」

 そんな言葉を、何度も浴びせられた。


 正直、ますます混乱した。

 今にして思えば、間違った腹筋運動の話と同じで「(りき)んでいはいけない」という意味だったのだろう。

 だが当時の僕は、(りき)むのが問題なのは「下半身以外に力が入るから」という理由であり、下半身だけには力を入れるべき、と考えてしまっていた。だから「お腹に力を入れてはダメ」というのは、それまでのやり方を否定されたようで、困ってしまったのだ。


 いったい腹式呼吸とは何なのか。

 どうしたら、お腹から声を出せるのか。


 この点は解決しないものの、例えば先ほどの「強拍・弱拍」のように、僕としては大変ありがたい部分もあったので、しばらく(かよ)い続けたのだが……。

   

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